海外からのインバウンドの客足が戻り、ますます拡大することが予想される、ブランドのトラベルリテールビジネス。エーバルーンコンサルティングでキャリアコンサルタントを務める五十野氏が、空港のラグジュアリーブランドのトラベルリテール(※)店舗に勤務するF氏に、その魅力や実態についてインタビューを行いました。
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※トラベルリテール:旅行客に特化したすべての小売活動に加え、DFSのような免税店で商品を販売すること
<インタビュアー> 五十野 正人さん/エーバルーンコンサルティング 株式会社 Senior Vice President
外資系ラグジュアリーブランドにてマネジメント職を経験。2011年にエーバルーンコンサルティング入社。大阪オフィスに在籍し、自らのネットワークを活かし、全国のショップ系求人を担当する。
HP:https://www.aballoon.co.jp/
LinkedIn:Masato Isono
<お話を伺った方>Fさん
外資系ラグジュアリーブランドの販売員として20年以上従事。2年ほど前に自社ブランドのトラベルリテール店舗が新規オープンして以降、その店舗のストアマネージャーとして勤務している。
ラグジュアリーブランドの販売職、いま選びたいのはトラベルリテール勤務
― プロパー店舗(※)からトラベルリテールへはどのような理由で移られたのでしょうか?
ここ10年の時勢を見てきた中で、タックスフリーのセールスに大きな可能性を感じていました。プロパー店舗ではほぼひと通り経験したと考えていた折に、自社のトラベルリテール店舗がオープンし、チャンスが巡ってきたので挑戦することに決めました。
※プロパー店舗:定価販売をしている店舗の呼称(路面店や百貨店内の店舗などが該当する)
― プロパーとトラベルリテールの販売ではどういった違いがありますか?
トラベルリテールの場合、フライトの時間が決まっていることから、お客様がお買い物に費やせる時間が限られています。プロパー販売を行う路面店のお客様は、目的があらかじめ決まっていたり、百貨店のお客様はいろいろと見てまわるという買い物の仕方をされることがほとんどですが、トラベルリテールの場合、お店はあくまでも通過ポイントであって、買い物を目的にしているわけではありません。ですが、実際にはそこで非常に多くの方々がブランドアイテムをご購入されています。
また、プロパー店舗と違い、お客様にお店に入って頂くためのアプローチを行うことはほとんどありません。かと言って、販売スキルが薄くても英語ができればトラベルリテールのラグジュアリーブランドでの勤務が可能かというとそれは違います。トラベルリテールにも、プロとしてのホスピタリティマインドがしっかりと求められます。
― サービスを提供する上で重要な心構えはありますか?
その場でお客様が欲しいものを提供できるかどうかにかかっているため、常に在庫を確保しておくことが重要です。お取り置きをしてまた取りに来て頂く、ということができない環境ですから、売り逃しのないよう在庫確保などの徹底したケアが必要です。
― 免税店ならではの特殊なエピソードがあったら教えてください。
営業時間が通常とはだいぶ異なります。オープンは朝の7時頃、クローズは繁忙期だと22時を回ることも。これはお店の方針や、空港・ターミナルによっても営業時間が異なるようです。
また、トラベルリテールでの就業が決まったら、税関にあらかじめ申請して通過する必要があります。その際、犯罪歴などが見つかれば当然申請は通りません。申請が通ったあとも、場所の通勤時には毎回通関を通る必要があります。お弁当は持ち込めますが、ペットボトルは不可。もちろん危険物も持ち込めません。空港会社によってルールはさまざまです。
― 従業員は免税価格で買い物ができるのでしょうか?
それはできません。「出国する人はその国に税を納めなくてよい」というのが免税店の在り方ですので、出国しない免税店の従業員が免税品を買ってしまうと、犯罪になってしまいます。通関に入る免許もはく奪されます。例外として、食べ物などの「その場で消費するもの」ならば買うことができますが、大缶のクッキーなどになってくるとNGになります。
加速するトラベルリテールビジネス。求められるのはホスピタリティマインドと、異なる文化への理解
― 免税店で働く魅力はどんなところにありますか?
魅力は、一期一会ということ。基本的にお店にいらっしゃるお客様は、これから旅に出るということもあるのか表情も明るく、こちらも嬉しい気持ちになります。フライトまでの時間が決まっていることから購入までの決断力が早く、プロパー店舗に比べ売上を伸ばしやすいと言えます。
― 逆に大変なことは?
危険物の保管に非常に気を遣うことでしょうか。梱包を解いたりするためにハサミやカッター、工具など、国土交通省が機内持ち込みを禁止しているものが必要になった場合、数週間前に危険物持ち込み申請書を通関に提出する必要があります。一度持ち込んだ危険物を紛失しようものなら、その空港のフライトが全部止まってしまうという事態に発展してしまうため、店舗では持ち込んだ危険物については厳重に管理しています。
― トラベルリテールでの販売職を検討されている方にアドバイスをお願いします。
いまは円安という状況下ですし、トラベルリテールでは価格が抑えられることから、売上は勢いよく伸び続けています。そのため、空港運営会社経由ではない、ブランドの直営によるトラベルリテールも増えています。旅行の規制がなくなったことで、中国からのインバウンドも増えており、今後もトラベルリテールビジネスは拡大していくことが予想されます。
ブランドのトラベルリテール店舗での販売職を目指すなら、基本のホスピタリティマインドを身に付けた上で、コミュニケーションをスムーズに行うことができるレベルの英語力が求められます。「こういうものが欲しい」というお客様のニーズに対し、どのアイテムがどういう理由でおすすめなのかなどの説明ができることで、売上に繋がります。
マネジメント職で入りたい方は、安全面の規制が厳密なので、スタッフに対し危機管理を徹底するというタスクがあることを知っておく必要があります。いろんな人種のお客様、そしてネイティブスピーカーのスタッフもいることから、異なる文化への理解やコミュニケーション能力も必要ですが、やりがいのある環境であることは間違いありません。
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