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品番管理の手間は3倍、それでも「左右別サイズのシューズ」を販売するDIFF.の挑戦

品番管理の手間は3倍、それでも「左右別サイズのシューズ」を販売するDIFF.の挑戦

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左右別サイズのシューズを販売している「株式会社DIFF」。ミズノ株式会社で主にスポーツ用品の開発に携わっていた清水雄一さんが、会社に所属しながら起業する出向起業で設立した会社だ。清水さん自身、左右で足のサイズが異なり、合わないサッカーシューズを履くことで片方の足によく内出血を起こしていた経験に基づいている。左右の足でサイズが5mm以上異なる人は人口の5%ほど存在し、いわば足のマイノリティに向けてDIFF.はサービス提供をしている。清水さんにDIFF.のビジネスモデルやサービスの便益がある人々、ビジネスにおける障壁について伺った。

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清水 雄一さん/株式会社DIFF. 代表取締役社長

三重県伊賀市生まれ。鈴鹿工業高等専門学校卒業。神戸大学・同大学院で、計4年間にわたってスポーツ科学を学ぶ。2012 年、ミズノ株式会社へ入社。研究開発部等でサッカーシューズをはじめとしたスポーツ用品の開発担当を経て、2022年までグローバル研究開発部に所属。新規事業プログラムの企画運営を担当。2022年10月、株式会社DIFF.を設立。

ミズノに所属しながら出向起業でDIFF.を立ち上げ

ーまずは清水さんがDIFF.を立ち上げるまでのキャリアについて教えていただけますか。

私は学生時代にサッカー部に所属し、その頃から「サッカーシューズを作りたい」と言い続けていました。ものづくりを高専で学び、スポーツ科学を大学と大学院で研究しました。2012年にミズノ株式会社に入社後は、長年の夢だったサッカーシューズを含めたスポーツ用品の開発に10年ほど携わりました。

その後、社内での新規事業プログラムの事務局側として関わり、新規事業の面白さに気づき、自らの事業案を作るようになりました。そのなかで生まれたのが現在の事業案の基となる左右別サイズのシューズ販売です。

ー出向起業について教えていただけますか。

出向起業は、従業員が企業を辞めずに個人資産や外部資金調達により起業し、立ち上げたスタートアップ企業に自ら出向して事業を行う事業形態です。経済産業省が推進していて、特定の条件の基で補助金を受け取ることができます。私の場合はミズノの社員でありながらDIFF.に出向し、現在は新規事業にフルコミットしています。

出向起業のスタートアップ側のメリットは、自由度が高い点です。新規事業の立ち上げではトライアンドエラーを繰り返しながら作り上げていく必要があります。企業内で新規事業を立ち上げると、決裁権がプロジェクトの外にある場合があり、求めているスピードや自由度で進めていくことが難しいです。一方で出向起業のスタートアップ企業は決裁権を持っているので、自由度高く実践と検証を繰り返せるのが特徴的です。

また、リスクを抑えて起業できるというメリットもあります。一般的な起業は会社を辞める必要がありますが、私の場合はミズノの社員という立場を保ち会社から給与をいただきながら、新規事業に挑戦できています。

左右違うサイズのシューズを買える世の中に

ーDIFF.とはどんな会社なのでしょうか。

端的に言えば、DIFF.では「左右違うサイズのシューズが買える世の中をつくる」ことを目指しています。世の中には足の大きさが左右で5mm以上違う人が約5%存在します。約20人に1人は、片足のサイズが合っていないシューズを履いているのです。

例えばトップアスリートの左右の足のサイズが違う場合、メーカーが選手にマッチしたシューズを作ることで解決します。一方でそれ以外の人々の場合は、市場で販売されている中から選んで買う必要があります。市場では両足同じサイズのセットが流通しているので、5%のマイノリティが我慢を強いられているわけです。DIFF.は左右別サイズのシューズ販売を通して、この状況を変えていこうと挑戦しています。

ーその考えに至った背景や理由を教えていただけますか。

一番のきっかけは、私自身も足の大きさが違い、サッカー部に所属していた時に片足が合わないシューズを履き続け、内出血を繰り返していたことです。ミズノの社員としてシューズと足のミスマッチについて調査していた時に、私と同じように左右で足の大きさが違っている人が結構な数いると判明しました。

当事者のなかには、違うサイズのシューズを2セット購入し、片方を捨てるという方もいらっしゃいました。自分に合った靴が欲しいという需要があるのに、それを許していない市場の構造に疑問を抱くようになったのです。左右別サイズのシューズを履くことが当たり前にできるように、誰かが変えていかなければいけないと思い、DIFF.を立ち上げました。

ーDIFF.のサービスは、どんな方に需要がありますか?

実はDIFF.を立ち上げ、初めて購入してくれたのは、脳卒中の後遺症で片方の足に麻痺を抱えられているお客様でした。その方は麻痺のある方の足に装具をつけているので、もう片方の足のサイズと異なります。装具のある足にサイズを合わせてシューズを買い、もう片方の靴がブカブカになるのが当たり前になっているようでした。

また介護シューズは機能面が優先され、デザイン面はいまひとつであることが多い。患者さんの中には、今まで履いてきたような靴が履けなくなり、唯一履けるのが介護シューズで、ショックを受けたり、悲しい思いをされたりする方がいるようです。脳卒中や糖尿病、リンパ浮腫などさまざまな病気で両足のサイズが異なる方がいるので、そのような方の一助になれたら、と考えています。

また、アンプティサッカー(片方の足の切断障がいを持った人々により行われるサッカー)の選手にとっても有益なサービスになるのではと思っています。選手たちは片方の足だけのシューズを求めているので、DIFF.が最適かと考えています。

DIFF.が提供する靴を試し履きできるイベントや、足形計測&試着会を定期的に行っている。

小売店・医療従事者とも協働し、前進したい

ー持病や障がいを持つ人々にも恩恵がありそうなサービスですね。事業を拡大する上での障壁はあるのでしょうか。

人々の心理面での障壁があります。両足同じサイズのシューズを購入するのが当たり前になりすぎていて、片足ずつ異なるサイズを買うことが想像できないのではないかと思っています。“自分の足に合わせて異なるサイズのシューズを買うのが当たり前”という風土を作らなければいけません。私たちだけでは達成できないので、メディアやSNSを通して広げていきたいと考えています。

ーマーケットを作る以前に、まだ人々の課題認識に至っていない状況ということですね。

そうですね。さらに、市場の構造に関する障壁もあります。メーカーで左右別サイズのシューズ販売を行うとなると、品番管理の手間が3倍になります。品番管理ができたとしても、それで訴求できるのは人口の5%のみ。メーカーにとっては少数派よりも、95%の人に満足していただいた方が販売や管理の効率性が高いわけです。さらに、小売店単独で左右別サイズのシューズ販売を行うとなると、両足で仕入れなくてはいけないので、片方が売れたらもう片方のシューズの扱いに困ります。

市場の構造に関する障壁に対しては、左右別サイズを取り扱うプラットフォームを作ることで解決できるのではと考えています。プラットフォームはDIFF.のECサイトとしても機能し、小売店は店頭でサービスを拡充するために活用可能です。例えば店頭での片足販売の結果、余っている、もしくは足りないサイズがあれば、DIFF.が補充もしくは買い取るなど流通に流すのを承るなど多様な関わり方を検討したいと考えています。まずは、エンドユーザーさん含めた皆さんが価値を享受できるビジネスモデル構築を一緒にトライしてくれる小売店を探しています。

ー業界の常識を覆すことに挑戦されているのですね。今後の構想について教えていただけますか。

昨年からランニングシューズ1モデルを左右別サイズでオンライン販売していたのですが、最近商品数の拡張化を含めたリニューアルを行いました。

また、現在は新たな販売カテゴリーとしてサッカーシューズの取り扱いを開始しました。サッカーはスポーツのなかで唯一、足でボールを扱うため、シューズに対して強いこだわりをお持ちの方が多いようです。足に合ったシューズを履くことでパフォーマンスの向上や怪我の予防につながるので、価値提供していけたらと考えています。

ー今後、どのような人々や組織とのコラボレーション(共創)を望みますか。

柔道整復師や理学療法士などの医療従事者とタッグを組めたらと思います。身体のメカニズムについて熟知し、合わない靴が身体へ与える悪影響をよく理解しているからです。先ほどの繰り返しになりますが、左右別サイズの靴を履く風土を作るには、まず合わない靴を履くことで引き起こされる身体への悪影響を世間に認知してもらう必要があります。医療従事者にDIFF.のサービスを説明すると、深く共感してくれるので、一緒に新しい価値をつくっていきたいです。

世の中に新しい価値を発信するためには、ブランディングやマーケティング、メディアの力を借りる必要があります。DIFF.の思いに共感してくれるパートナーと、新しい価値を発信していきたいです。

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