アフリカ・ガーナに自社の縫製工場を構え、現地の支援に力を入れているアフリカンファッションブランド「CLOUDY」。2024年7月現在、640名(男女比:1:9)にも及ぶ現地の雇用を生み出し、今年4月に新たにオープンした「CLOUDY」ハラカド店では、アフリカンテキスタイルに魅了された人達が商品を手に取る姿も多く見られた。売り上げを現地の雇用や教育、健康維持に充てる独自の循環型ビジネスは、SDGsの実現が叫ばれる昨今の日本社会においても注目の的だ。「CLOUDY」を展開する株式会社DOYA代表取締役の銅冶勇人さんに、ソーシャルビジネスを成功に導く次世代のビジネススキームの在り方について伺った。
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銅冶 勇人(どうや ゆうと)さん/株式会社DOYA代表取締役
慶應義塾大学経済学部卒業。2008年にゴールドマン・サックス証券株式会社(以下、GS)へ新卒入社。金融法人営業部にて7年間、債券の売買取引を担当。2010年にはGSに勤務する傍らNPO法人「CLOUDY」を設立し、ケニアのスラム街で支援を始める。2015年に独立し、株式会社DOYAを設立。「曇りの日をきちんと楽しんで生きる」をテーマに掲げたアフリカンファッションブランド「CLOUDY」をリリース。以降、アパレル事業とNPO活動による循環型ビジネスで、ガーナへの継続的な教育支援や雇用創出、健康維持活動を行っている。
アフリカ最大級のスラムを訪れたことが、すべての始まり
ー 「CLOUDY」を立ち上げるきっかけとなった出来事を教えてください。
大学の卒業旅行で訪れたケニアのスラム街、キベラスラムでの経験が大きく影響しています。アフリカで2番目に大きいと言われるキベラスラムには約200万人が住んでいるのですが、200世帯に1つの割合でしかトイレが設置されていないため、街は排泄物で溢れた劣悪な環境。自分の人生を振り返った時に当たり前に得てきたもの、触れてきたものが無いという状況にカルチャーショックを受けました。同時に日本で見聞きしたアフリカを支援するソーシャルアクションがどれほど本質を捉えていなかったか、痛烈な違和感を抱いた瞬間でもありました。
現地に住む人々は何を必要としているのか。本質を捉えた問題解決のアクションとはどのようなものか。そして彼ら彼女らのために、自分は何が出来るのか。現地を訪れて感じ取ったものが、「CLOUDY」を設立するきっかけとなりました。
ー 帰国して間もなく、「CLOUDY」設立のために動き出したのですか。
いえ。帰国して2週間後にはGSへ新卒入社することが決まっていたので、すぐに動き出せる状況ではありませんでした。入社後は金融法人営業部という部署で、メガバンクなどの金融機関をお客様とした債券の売買取引を行っていました。TOEIC300点、金融・経済に興味なし、数字にも弱かったのですが、優秀な同期・先輩に助けられつつ、がむしゃらに働き続けました。
そして、仕事にも慣れてきた入社3年目の2010年10月にNPO法人「CLOUDY」を設立。本業と両立させて、キベラスラムへの支援をスタートさせました。学校給食を作るためのキッチン新設をはじめ、サッカーボールや本をプレゼントするプロジェクトの発足、縫製工場の新設や学校の新校舎建設など支援の形は多岐に渡りました。
ー 新卒入社した会社で過ごした7年間は、銅冶さんにとって、どのようなものでしたか?
GSで働いた7年間はとても有意義なものでした。有事の際に、他者や環境のせいにするのではなく、自分にも落ち度があったと認められる人間性を育めたのは、あの会社に在籍できたからこそだと思っています。また、チームメンバーと比べて能力が高い訳ではなかったので、周囲のサポートを受けられる、サポートをしたいと思われる人になるにはどうすればいいのか模索できる環境であったことも恵まれていたと感じています。
相手が何を求めているのか、どのような言葉を欲しているのか、常に考えて言動することを意識しました。その結果、私にはサポートしてくれる人が社内の誰よりも多くいたと思います。仲間を作る、巻き込むことができるというのは自分が大切にしたい持ち味のひとつとなっています。
営利と非営利の両輪で途上国支援を行う独自のスキーム
ー「CLOUDY」における現在の事業領域について全体像を教えてください。
「CLOUDY」は営利事業(アパレル)の売り上げの一部をNPO(非営利)の活動費用に充て、お客さまとともに自社工場のあるアフリカ・ガーナでソーシャルアクションを生み出す「循環型ビジネス」を行っています。
正直にお話しすると、アパレル事業を展開する以前はNPOのみで活動を継続していきたいと考えていました。しかし、運営していた学校を卒業した子どもたちの中には、働き先が見つからず娼婦として生きていかざるを得ない人たちがいたんです。ジェンダー格差が著しいアフリカで、女性が自立して生きていくのはハードルが高いということを身に染みて理解しました。それ以来、教育以上に雇用を生み出すことに重点を置きたいという考えに至り、営利事業としてアパレルブランド「CLOUDY」を立ち上げたのです。
ー 数ある事業の中で、アパレルを選んだ理由はありますか。
より多くの人に身近に、そして簡潔にソーシャルアクションに携わるきっかけを提供するためには、最適な業界であると判断したからです。自分が良いと思った商品を購入することが支援に繋がるというのが、押し付けがましくないというか。誰もが買い物を通じて、誰かのためになれる場所を生み出したかったんです。
それに、国内でNPOを継続して運営していくのは、本当に大変なんですよ。主な活動費用は寄付金となるため、途中で資金繰りが上手く行かなくなって、たたまざるを得ないケースに陥ることも珍しくありません。だからこそ私たちは、営利と非営利の両輪で運営していくことを選びました。支援を途中で辞めることになったら現地の人を不幸にしてしまいますし、継続できないことにはサスティナブルな事業とは言えないですよね。
ー 雇用創出というのがキーワードになっていると思うのですが、具体的な規模を教えていただけますか。
2024年7月現在、ガーナにて自社の縫製工場を5つ設立・運営しています。一極集中にならないよう、地域を分散させることで自らに適した場所で働ける環境を作り出しています。また、学校は7校を設立・運営しており、今年の年末には8校目を開校する予定となっています。教育現場においても先生や給食調理員、学校運営という雇用を生み出し、すべて合わせると640名ほど雇用しています。
店舗で途上国支援を全面的に押し出さない理由
ー アフリカのファッションやデザインについて、銅冶さんご自身はどのように評価しているのか気になります。
表現という観点からアフリカの歴史を振り返ると、奴隷制度により何一つ表現することを許されなかった時代がある。そういった過去を経て、歌や踊り、テキスタイルなどあらゆる形で自分の個性や民族を表現するようになったからこそ、彼ら彼女らの魂が強く反映されたものが生み出されると思っていて。私はその力強さにとても惹かれています。
だからこそ、アフリカンテキスタイルをより明確に表現するために2022年、「CLOUDY CREATIVE ACADEMY」というデザイナー育成を目的とした学校を設立しました。現在在籍しているデザイナー6名はその学校の卒業生です。ガーナの人にとって「デザイナーは憧れの職業であるもののお金にはならない」という常識を覆したかった。何よりデザイナーたちの才能溢れるデザインを世界中の人に知ってもらいたかったんです。「CLOUDY」での功績が世界へ羽ばたくステップとなるよう、ECサイトでもデザイナー別で商品を探せる仕様にしています。
ー 「CLOUDY」ハラカド店におけるコンセプトやこだわりを教えてください。
アフリカで富を表す色でもあり、ブランドカラーでもあるイエローで統一したことです。ポジティブなメッセージを持つ一方、ブランド名の「CLOUDY」というどっちつかずな天候を信号機の黄色に重ねた、2つの意味を含んでいます。また、支援先であるアフリカの人々の写真は、ビジネス戦略の観点からディスプレイすることはしません。なぜなら、貧困や社会課題を全面的にプッシュするお店には、約80%の人々が入らないというデータがあるためです。
理由としては、買わないといけないプレッシャーを感じる、低クオリティなものが置いてあるイメージが先行するといったものが挙がっています。私たちはアフリカを拠点としたビジネスのロールモデルになるという使命があります。ソーシャルビジネスでも売り上げを作れるということを実証するための選択です。
ソーシャルビジネスが当たり前に成功する世の中へ
ー 今後、ご自身で描かれるアフリカの社会やご自身の事業の未来像についてお聞かせください。
2024年は、現地のゴミ問題にフォーカスした取り組みを加速させたいと思っています。ガーナ・アクラという都市にあるスラムには住人20万人の生活ゴミ、政府が政治資金調達のために先進国から受け入れたゴミで溢れています。その量は、東京ドームおよそ35個分。燃やされるゴミから排出される有毒ガスの影響で、平均寿命は30代と言われています。そんな街を変えていくために、2年前から日本企業とタッグを組み、リサイクル工場を現地に新設する計画をしていたのですが、今秋からようやく大きな一歩を踏み出します。そして、年末にはそのエリアに学校も新設します。
先進国に生きる人々は、ゴミ問題の最終的なシワ寄せは途上国に及んでいるという事実を認識すべきだと考えています。そのためには「CLOUDY」がより大きくなっていくことも大切なことですが、我々のビジネススキームを日本中、そして世界中で参考にしてもらって、ソーシャルビジネスが盛んに行われる世の中へ移り変わっていくことを願っています。
文:芳賀たかし
撮影:Takuma Funaba
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