日本の多くの自治体が取組む企業誘致。なかでも注目されているのが、約270万の人口を抱える広島県のオフィス誘致施策である。なんと1社最大1億円という助成制度を2016年から設け、累計180社以上がオフィスを移転・拡充しているのだ。この地の「応援文化」は今、ビジネスパーソンを引き付ける土壌となっている。
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八巻淳さん/広島県 商工労働局 県内投資促進課 主査
広島県出身。進学のため上京後、(株)ジェイ・キャストに入社。編集者として企業広報誌の制作やWebメディアの立ち上げ・運営に携わる。2015年、双子の出産を機に子育て環境を求めて広島県にUターン移住。専業主婦やフリーライター等を経て、2018年に広島県に入庁。以降現在に至るまでオフィス誘致を担当する。
多彩な産業をアップデートしていく広島県の投資促進
ー 八巻さんは広島県のご出身で、進学を機に上京された後、9年前に戻って来られたと伺いました。まずは現在のお仕事内容について教えていただけますか。
広島県に入庁後、現在までずっと県内投資促進課に勤めています。担当は、デジタル系企業を主な対象としたオフィス誘致です。県として、デジタル系企業やプレイヤーの方をどんどん増やしていきたいという背景があります。何かあったときにまず声をかけてもらえる法人向け相談窓口のような存在です。
ー なぜデジタル産業を対象にしておられるのでしょうか。
広島県の産業はとても多彩です。自動車メーカーのマツダや、家具メーカーのマルニ木工、オリンピックやワールドカップの公式球も製造するモルテンやミカサ、100円ショップのダイソーなど世界的に有名な企業が数多くあります。半導体のマイクロンも日本本社を広島県に移転しました。ファッションに関連する業種では、青山商事、カイハラといった企業をご存じの方も多いでしょう。デニム、針、ビーズ、筆の生産はどれも日本一です。ファッションショーでは熊野の化粧筆が大活躍すると聞いています。平成26年のデータでは、広島県の事業所数は約13万社です。
面白いことに製造品出荷額について、全国と広島県の比率はよく似ています。それだけバラエティーに富んだ産業構造なのですが、唯一デジタル産業の割合がすごく少ないのです。デジタルは世界的にも成長産業ですし、地場の企業と結びつくことで新しいアイデアやテクノロジーの流入も期待できます。また地場企業にとっても、アップデートが起きる可能性があるでしょう。デジタル産業に注力しているのはそのためでもあります。広島県は、もともと地元にある企業への支援も積極的で、オフィス誘致はそれと両輪で考えられています。
最大の魅力は、ほど良い距離感とオープンマインドな土壌
ー 県として、デジタル産業の領域を盛り上げたい意図があるのですね。とはいえ、同様に考える自治体は全国にたくさんあると思います。なぜ今、広島県が注目されているのでしょうか。
「1社につき最大1億円」という思い切った助成制度を打ち出しています。コロナ禍の2020年には、一時期最大2億円としたところ、SNSで話題になり、1か月で約600件のお問い合わせがありました。その後もコンスタントにさまざまな企業からお声掛けをいただきます。助成制度利用の有無に関わらず、わたしたちは現在までに180社を超える企業の進出をサポートしています。
ー 最大1億円の助成は、かなりインパクトがあります。どのような条件があるのですか。
情報通信サービス業やインターネット付随サービス業等を対象業種としており、小売業や飲食業などは残念ながら対象外です。会社の規模については、なるべくハードルを下げ、雇用保険に加入する従業員数が4人以上の会社を対象にしています。他には、経営者の方もしくは従業員の方に移住いただくなどの条件があります。移住する人数に応じて、助成額が変動するのですが、ご家族の人数も対象にしている、というのも珍しいポイントです。
ー その条件であればさまざまな企業がチャレンジできそうです。助成制度以外にも広島県で事業を行うことに魅力はあるのでしょうか。
広島県は中国地方で一番人口が多い県で、国の機関や企業、大学、高専など、ビジネスインフラが充実しています。また、地図を広げて、西日本だけに注目すると分かりやすいのですが、広島県は中国地方だけではなく、九州、近畿、四国へのアクセスの要、西日本の中心的な位置にあります。東京から距離があることも逆に、もしも何か起きた際にバックアップできるというBCP(事業継続計画)の観点で選ばれるポイントになっています。
そして新しいチャレンジを後押しする仕組みがあります。広島県では、9月に「ひろしまAI宣言」をしました。AIを利活用する先進地域になるぞという意気込みで、ラボを開設したり、実証開発支援を行うことがすでに決まっています。広島県内の高校生は誰でも「ひろしまAI部」に入れます。これまでも、実証事業を支援する「ひろしまサンドボックス」や、10年で10社のユニコーン企業を輩出する「ユニコーン10」プロジェクトなど、さまざまな取組みを継続してきました。新しいことをやってみるには、規模感もあり、支援もうけやすい地域です。
ー 八巻さん自身もUターン移住をされています。広島県のどのようなところに魅力を感じておられますか。
地元を一度離れたからこそなのか、特徴的だと感じるのは、新しいもの好きで、オープンマインドな人たちが多いところです。ご存じのように広島はスポーツが盛んです。試合で得点が入れば観客席では知らない人同士でも自然にハイタッチをしています。何かに打ち込んでいる人の周りに集まって応援するカルチャーが、こういうところから根づいているのではないかと、私なりに理解しています。
広島県に進出した企業の方からは、よく「共創しやすい」という声をいただきます。「ちょっとあの企業を紹介してよ」といったニーズに、ひろしまCampsという県の施設がハブ・スポットとして機能します。県内各地にいるコワーキング施設のマネージャーさんや観光事業者のみなさんは、積極的に動き回っていて、競合のはずが送客し合っていることも。これは地域の資産だと思います。
ー 海外ではよくあることですが、日本でその雰囲気はなかなかないですよね。
自然との付き合い方も魅力です。広島県庁から徒歩10分ほどの川辺、つまり結構な街中なのですが、道と川を分ける柵がありません。川に入れるんですよ。先日も、SUPやカヤックを楽しむ仲間たちが自主的に河原の草刈りをしていました。一部を除き、河原や公園でたき火やBBQもできます。他の地域ではよく見かける「ゴミを捨て禁止」の看板は少ないです。住民に自由と責任がしっかり根付いている、これって世界的に見てもかっこいいんじゃないかなと思います。こういった場所からビジネスの話が盛り上がることもあります。
直接「広島の人」に会って話すイベントが開催
この度、10月10日(木)~12日(土)の3日間で「Hi! HIROSHIMA Business Days 2024 」を開催します。広島のことをよりよく知ってもらうためのビジネスパーソン向けのイベントで、広島県内の各地で行われる予定です。広島の人や場所の魅力をしっかり味わってほしいです。
ー どのようなイベントがあるのでしょうか。
目玉となるのは10月12日、広島大学のキャンパスで行う「人材戦略の現在地」と題したスぺシャルセッションです。SmartHRの宮下竜蔵さん、ビズリーチの山際翔太朗さんなどにご登壇いただきます。また、広島県が進出をサポートした第1号企業であるドリーム・アーツの山本孝昭さんには、進出にまつわる試行錯誤や広島での人材採用などについてもお話いただきます。
広島県知事の湯﨑も登壇します。湯﨑は県庁の組織マネジメントはもちろんですが、実は過去にベンチャーを立ち上げて上場させたという経営者としての経験も持っています。行政と民間、両側の視点に立って組織マネジメントについて話すことができる行政リーダーは珍しく、参加者の方に新しい発見を提供できればいいなと考えています。
ー 豪華なメンバーですね。東京で行われるイベントとは違ったお話が聞けそうです。
そうですね。東京でも揃わない豪華メンバーが実現しましたが、広島大学のキャンパスで開催することで、見える景色や具体的な紹介事例が違ってくるでしょう。スペシャルセッションのほかにも、世界最大級のVC/アクセラレーターPLUG and PLAYによるプログラムや、森や島を案内するツアー、それから、せっかく広島にお越しいただくのですから、広島ならではの楽しみも味わっていただきたいと、全国有数の酒まつりや路面電車での交流会も企画しています。外国のスタートアップも複数参加予定です。
ー 聞いているだけでワクワクしてきます。またそのような形で知り合った方とは、ビジネスを始める際もハードルが低く、スムーズに進められそうです。
「Hi! HIROSHIMA Business Days 2024」は、私たちだけではなく、市や町、商工会議所、大学、コワーキングスペース、その他企業で活躍するキーパーソンに協力してもらっています。皆さんにお声掛けをしたところ、立場を超えて「うちはあれをやる」「これもやってみたい」とたくさんの企画が立ち上がりました。3日間で30ものイベントを行うことになり、まさに広島の共創や応援の文化を感じています。ぜひ多くの方に直接「広島の人」に会っていただき、地域課題やビジネスの可能性を探っていただきたいです。
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