2024年11月から、フリーランス(個人事業主)として働く人々をサポートする新たな法律「フリーランス法」(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が施行される。この新法の立役者となったのが、一般社団法人プロフェッショナル・パラレルキャリア・フリーランス協会(以下、フリーランス協会)代表理事の平田麻莉さんだ。持ち前の好奇心旺盛さと行動力でいくつもの仕事を掛け持ちする平田さん。これまでのキャリア、フリーランス協会の立ち上げから新法設立への働きかけ、今後の目標について伺った。
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平田 麻莉(ひらた・まり)さん/一般社団法人プロフェッショナル・パラレルキャリア・フリーランス協会 代表理事
慶應SFC在学中からPR業務に携わる。ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院への交換留学を経て、慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。フリーランスとして、国内外50社以上の広報・PR業務を行ってきたエキスパート。2017年1月、一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会を設立。複数の個人事業も継続しつつ、フリーランスが安心して働き、成長できる環境整備のために尽力している。パワーママプロジェクト「ワーママ・オブ・ザ・イヤー2015」、日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2020」受賞。
やりたい気持ちに忠実に従い、仕事を掛け持ち
― まずは平田さんのキャリアヒストリーを教えていただけますか。
大学卒業後はベンチャー系のPR会社に入り、国内外のさまざまな企業の広報関連の仕事をしていました。広報は意外と経営面とも密接に関わる仕事なので、経営学にも興味が出てきて大学院に進みました。なかでも私が学びたかったのは、広報活動が世論に与える影響です。大学院に進むことで研究者になりたいとも考えていました。修士時代にはイベントを立ち上げてメディアに出たり、大学院の先生から依頼されて教材作成の仕事をしたり、書籍の翻訳・執筆をしたり……同時進行でいろいろな仕事をしていましたね。
途中、出産を機に大学院を中退。そのうち戻ろうと思っていましたが、今に至るまでバタバタしているうちに戻るタイミングを逃し続けています。その後もさまざまな仕事に携わり、現在に至ります。
― ご出産を経て、育児をしながら掛け持ちで仕事。客観的にみると、とても大変そうですが。
私はもともと「掛け持ち癖」があるんです。高校のときも2つの部活に入っていましたし、大学のゼミも2つ、サークルは4つ、掛け持ちしていました。
やりたいことがいくつかあったとき、ひとつに絞れない性格なんでしょうね。好奇心が強いので、気持ちを突き動かされることが複数同時に発生しちゃうんです(笑)。あとは一緒に何かをしたいと思える人や、一緒にやりたいと言ってくださる人とのご縁もありますね。
仕事をするときは周囲を巻き込む力=「巻き込み力」が重要だとよく言われますが、私は「巻き込まれ力」が高めなのかもしれない。だからちょっと相談されたり、手伝ってって言われると、すぐ当事者モードになって、気づいたら一緒にやっているということが多いですね。
人に自信を持って勧められないモヤモヤがきっかけ
― 2017年にフリーランス協会を立ち上げていらっしゃいます。きっかけは何だったのでしょう。
私はPRの仕事を中心に、さまざまな仕事をずっとフリーランスという立場でやってきて、この働き方をとても気に入っています。出産・子育て中でも両立しやすいことを実感していましたしね。そんななか、2015年に「ワーママ・オブ・ザ・イヤー2015」という賞をいただいた頃から、フリーランスとして働きたいというママさんたちから相談を受けるようになったんです。
ただ、よく考えるとフリーランスって、セーフティネットという意味では補償も後ろ盾もないんです。だから、相談はされても自信を持って背中を押してあげられない自分がいました。自分には合う働き方だと思っているけれど、他の人には安易に勧められないというか、奥歯に物がはさまったような勧め方しかできなくて、モヤモヤしていたんです。
ちょうどその頃、人生100年時代という言葉を生み出した「LIFE SHIFT」という本がベストセラーになり、働き方が多様化していく兆しを感じ取った政府が、フリーランスや副業など「雇われない働き方」に関する検討会を立ち上げたことをニュースで見ました。
ある日、フリーランス仲間たちとランチをしているときに、その検討会の話題で、「当事者不在で何を話すんだろうね。私たちのニーズや課題を本当に分かってもらえるのかな」という話になって。ある友人が「フリーランスの当事者にアクセスしようにも、取りまとめる窓口がないから仕方ないのかも」と。
― たしかに個人単位で動いているから、どこにいるかも分からないですもんね。
モヤモヤしたまま、その日は家に帰っていつも通りに子どもを寝かしつけていたんです。そのときふと「じゃあ窓口を作ればいいのでは」と思いついて、そっとベッドを抜け出し、その夜のうちにパワポ5枚くらいの設立趣旨書を作りました。その後、ランチに参加していたフリーランス仲間や賛同してくださる企業にも協力してもらって、2カ月後にフリーランス協会を立ち上げました。
― すごい行動力とスピードですね。
せっかちなんですよね。立ち上げ時は、ご協賛いただいた企業様と一緒に記者会見を行いました。他の仕事もいろいろあるし、とりあえずスモールスタートで、と思っていたんです。ところが、一応、専門が広報なもので、ちょっと気合を入れて記者会見をやったら、ものすごい反響があって。まだ何のサービスも用意がなく、実現したい世界や取組みたいことの風呂敷を広げただけでしたが、今後サービスが整ったらご案内しようと突貫で用意したメアド取得用のGoogleフォームに、3日間で1,500人ものフリーランスの方々が登録してくださったんです。
しかも備考欄には困っていることや、私たちへの期待がびっしりと書かれていました。これはスモールスタートなんて言っている場合じゃないと思い、急いで法人化。報道を見て連絡をくださった複数の企業様の助けを借りながら、フリーランス向けの福利厚生制度を整えていきました。
その後も、フリーランスの会員の皆さんからのご意見をもとに、福利厚生制度を追加したり、実態調査に基づく国への働きかけなどを行っています。2024年11月から始まる「フリーランス新法」も、皆さんの意見をもとにできあがった法律なんですよ。
― フリーランス協会の立ち上げから数年が経過していますが、どんな方がご加入されているのでしょう。
会員総数は約11万5,000人で、うち1万8,000人が有料会員(年間会費1万円)です。一番多いのは、デザイナー、イラストレーター、フォトグラファー、動画制作などのクリエイター職。次に多いのがIT系エンジニア、編集・ライター。私のような広報・マーケティング・コンサルティングの方もいます。ほかには、翻訳、通訳、ベビーシッター、家事代行、占い師、フードデリバリーの方などあらゆる職種の方々が登録されています。
仕事に対しての意味づけが「キャリア自律」に繋がる
― フリーランスの方々が働きやすい制度が整いつつあります。今後の課題について教えていただけますか。
フリーランスの実態が可視化されたことで、フリーランスの社会的立場も少しずつ認められるようになってきました。しかし社会保障などはまだまだです。国としては2040年までには働き方に中立な社会保障の仕組みを作りたいと言っていますが、もっと早く実現できるよう、もっと多くの、もっと多様なフリーランスの声を集める努力をしながら、政府への働きかけを続けていきたいです。
― NESTBOWLの読者は組織に属している方が多いですが、多様な働き方が当たり前になってきた今、個々のキャリアをどのように考え、可能性を広げていけばよいでしょう。
組織に属しているか否かに関係なく、「キャリア自律」が大切ではないでしょうか。たとえば、コピーを取ることを雑用と考える人と、綺麗に早くするにはどうしたらいいかと考え工夫する人とでは、仕事から得られるやりがいや成長が異なると思います。
「この仕事を通して自分が何を得られるのか」と常に意味づけして行動していくことが、「やらされ仕事」に人生の貴重な時間を奪われない、キャリア自律につながると思うんです。ささいなことでも自分のクレジットを積み重ね、信用を高めていけば、どんな環境においてもやりたい仕事を選択できる自分に近づいていけるのではないでしょうか。
―平田さんご自身は、この先どんな仕事がしたいと思っていらっしゃいますか。
いま現在、フリーランス協会を含む4つの組織で仕事をしています。一言で何をしている人かと聞かれたら、やはりベースにあるのはPRパーソンかなと思っています。ただ、単なるPRパーソンではなくて、“ロックなPRパーソン”。従来の仕組みや既成概念にとらわれず、それらに問いを立てて不毛な縛りや謎ルールを壊したり、新しいライフスタイルや考え方を拡げていくようなことにやりがいを感じるので、これからも枠にとらわれず、いろいろな仕事や活動をしていきたいです。
文:伊藤郁世
撮影:船場拓真
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