

1751年創業の繊維商社、タキヒヨー株式会社は、名古屋を拠点に繊維製品の企画・卸・ODM業を中心とした事業を展開。「Create Future with Passion」を掲げ、固定概念にとらわれない自由な発想でもの作りを続けています。
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そんな同社の事業の一翼を担うのが、トップメゾン向けにテキスタイルの企画・営業を行うグローバルブランドグループ。今回はその一員であり、テキスタイルの企画開発に携わる村上さんに、テキスタイル開発の奥深さや繊維商社で働く魅力を伺いました。
トレンドの源流となるテキスタイルはどのように生まれるのか。そして、その仕事に込める思いとは——。もの作りの現場に迫ります。

プロフィール:村上稔彦(むらかみ・としひこ)タキヒヨー株式会社 グローバルブランドグループ サステナブルセクション プロダクションチーム。2009年に新卒で入社し、当時のテキスタイル営業部・貿易部に配属。その後、2024年から企画に特化したポジションで活躍。好きなテキスタイルは表面に立体感がある生地や、肌で触れて気持ち良い生地。
〈目次〉
トップブランドに採用されるテキスタイルとは
ーー繊維商社との出会いはいつだったのですか?
タキヒヨーに最初に出会ったのは、大学内で開かれた説明会に出席した時でした。タキヒヨーでは営業と企画が分かれておらず、企画からプレゼンテーションまでを一人で担当できると知り、魅力を感じました。ファッション自体が特別好きだったわけではありませんが、生地というミクロな世界で、クリエイティビティを自由に発揮しながらもの作りができる点に惹かれ、入社を決めました。
ーー入社後から現在までのキャリアは?
入社から約15年間、ヨーロッパや北米のハイブランド向けに、テキスタイルの企画営業を担当してきました。商品企画やBtoB向けのプレゼンテーションなど、海外出張を含む販売活動を行い、後半の4年間はマネジメントや育成にも携わりました。
現在は、これまでの経験を活かし、特定のマーケットに絞ってテキスタイルの企画・開発を行っています。
ーー御社の場合、海外向けの企画営業の仕事は、国内向けの営業とどう違うのでしょうか?
海外ブランド向けの営業チームは、ハイブランドに向けた個性的なテキスタイルの企画・営業を一手に担っています。
一方、国内の営業チームは主にアパレル製品の営業を担当しており、いわゆるアパレルODMの役割が中心です。企画と営業は別々に進行しており、デザイナーが企画した内容が営業担当に受け渡され、それをもとに商談が進められていきます。
ーー海外向けのテキスタイル企画のプロセスはどのように進んでいくのですか?
次のシーズンに向けたテキスタイルの開発は、プレゼンテーションの4〜5ヶ⽉前からスタートします。まずは、売り上げ実績をもとに何を作るかを考え、サンプリングや提案内容を検討します。
その後、お客様とのメールの内容を踏まえたブランドリサーチや、古着屋でのヴィンテージアイテムのリサーチなど、さまざまアイデアを組み合わせながら企画に肉付けしていきます。
サンプルなどを準備した後、最終的なプレゼンテーションは、海外の展示会やショールームで発表することもあれば、現地のエージェントに依頼することもあります。約1〜5ヶ月かけて発表され、その間に次のシーズンの企画開発がスタートするというサイクルで進行していきます。

ーーテキスタイルのトレンドは、日々どのようにキャッチしているのですか?
トレンドの源となる海外のラグジュアリーブランドをメインに提案しているため、正直に言うと、表層的なトレンド自体はあまり意識していません。ただ、どのブランドにも、その時の気分はあるはず。なので、話題になっているものや日本の人気ブランドの発想、または日本の古着屋のセレクトセンスなど、さまざまな要素を分析し、企画に落とし込んでいます。
ーートップブランドに採用されるテキスタイルを考案するために必要なことは?
売上実績やお客さんとの日々のやり取りから分かる客観的な事実と、自分なりにいいと思える主観的な判断、それに加えて、どんな工場や原料を活用できるのかといった製造背景を組み合わせて考えることです。
ーートレンドを追うのではなく、より複雑で多層的なアプローチで商品企画が行われているんですね。
そうですね。特にイノベーティブなトップブランドは、世間に流されるのではなく、自ら発信する姿勢が強いため、商品企画をする上でとても参考になります。
こうしたブランドの動向を研究したり、往年のヴィンテージの名作や伝説的ブランドのアイコン商品などを参考にしたりして、過去の価値を現在にどう落とし込むかを考えることも大切です。
独自性と合理性の掛け算の法則
ーー繊維商社では、企画と営業を兼任しているビジネスモデルは珍しいのでしょうか?
会社の背景やマーケットポジションによって、ビジネスモデルは異なります。お客さんと並走して進める企業では、企画と営業を兼任することが多いです。一方、ベーシックな品番を中心に販売する企業では営業重視となり、企画の色が薄くなります。
営業と企画を兼務することで、⾃由度の⾼い仕事ができますし、⾃分が作ったものが売れるとダイレクトに喜びを感じられます。
ただ、兼任は面白さもありながら難しさも伴います。業務量が多く、責任感が強い人ほど完璧を目指してしまうため、時には力の入れ方を考えることも大切です。最初は兼任が必須だと思いますが、キャリアアップしたらどちらかの道を極めるなど、自分に合ったバリューの出し方を追求するのも一つの方法かもしれません。
ーー繊維商社で企画営業として働くのには、どんな⾯⽩さがありますか?
⾃分の軸で商品構成を組み⽴てられる点が面白いと思います。メーカーの場合、会社やブランドごとに作る商品が決まっていることが多いですが、商社では、産地の組み合わせやプレゼンテーション方法など、より自由度が高く、柔軟に仕事ができます。こうした自由なアプローチは、特にクリエイティブな人にとっては魅力を感じてもらえるのではないでしょうか。
ーー過去に提案した生地やデザインの中で特に印象に残っている経験はありますか?
あるイタリアのブランドとのやりとりで、強く印象に残っているエピソードがあります。通常、そのブランドでは日本の商社からウール生地を購入することはほとんどなく、カシミアを仕入れることも滅多にありませんでした。そもそもイタリアでは、カシミアでツイード生地を作る発想がなく、太番手のカシミアは需要が低いため、市場に出回ることも少ないのが現状です。
そんな中、たまたま日本のメーカーが太番手のカシミアを扱っており、それを使ってツイード生地を織ったんです。するとそのシーズン、カシミアのツイード生地が、珍しく売れるという出来事が起こりました。
当時は、なぜ売れたのか正直不思議でした。ただ後から振り返ってみると、ゼロイチの発想という独自性と、日本にしかない原料背景という合理性が掛け合わさった結果だったのだと気づいたんです。
市場にまだないユニークな素材が、ちゃんとした理由と背景を持つことで評価される。そんな掛け算の考え方を学びました。今後の商品企画を考える上での礎になった経験ですね。
魂の入ったブランド作り
ーー仕事をしている中で難しいなと感じることはありますか?
独⾃性のある⾼品質なテキスタイルを提供したいと思っていても、どうしても価格を最優先に求められることがあり、こちら側が提供したい価値とお客さんのニーズがずれてしまうと、もどかしさを感じますね。
ーーそんな時は、どのように折り合いをつけていますか?
「本当はこの商品を提案したくないな……」と思いながら仕事をするのではなく、自分が納得して勧められる商品を追求し、提案したかった商品と同じレベルの気持ちを込めて提案するよう心がけています。自分の気持ちをしっかり相手に渡すことが大切なのではないでしょうか。
ーーお互いが納得感を得ながら仕事をするイメージですね。
そうすることで、自分の気持ちが相手にも伝わるので、喧嘩別れしそうな場面でも逆に良い関係を築けるんです。
私も以前は何度も失敗しましたが、後輩にもこういった対応の仕方を学んでほしいなと思います。機会があれば、しっかり伝えていきたいですね。

ーーこれまでの経験から学んだことはありますか?
コロナ禍で、ちょうどサステナビリティという言葉が出てきた頃、「サステナビリティ×ラグジュアリー」というテーマでオリジナルの生地ブランドを立ち上げようとしたのですが、お客さんからの共感を得るには至らなかったことがありました。
短期的な利益を求めざるを得ない状況だったので、急いで形を作り、それなりに格好はつけましたが、魂が足りなかった。
ーー魂とは、具体的にどんな気持ちや考え方が足りなかったと分析していますか?
ブランドを立ち上げるには、「こういう世界を実現したい」「商品を通じてこんな価値を届けたい」といった思いが本気でなければ、伝わらないと感じたんです。
手前味噌ですが、うちの営業チームは販売意欲が高く、品質や価格についてのプレゼン能力も抜群です。とは言え、その営業力を活かして、「うちじゃなきゃダメだ」と思わせる本質的な要素を作って支えていく必要がある。品質の良さや価格競争に頼っている限り、比較され続ける存在でしかありません。
もちろん営業が考える企画は重要ですが、組織全体として「自分たちは生地の開発を通じてこういうメッセージを届けたい」といった、軸のあるブランド構築を進めていくことが必要だと感じました。
ーーそのことをきっかけに、ブランディングを専門的に考える人が必要だと感じ、企画営業からポジションチェンジをされたんですね。
大きな出来事でしたが、今につながる転機でした。タキヒヨーは、「夢のあるおもしろい企業を創り、心の豊かな社会をめざします」という経営理念を掲げています。営業部にいながら同じ仕事をしていても、問題は解決されません。「夢のあるおもしろい企業を創る」という理念を本気で追求する人こそが、価値のある会社を築き、人の心をつかむのではないでしょうか。
幸いにも、弊社は魅力的なお客様に恵まれています。今は、彼らに向けてもの作りを通じたメッセージを伝えていくことにフォーカスしています。
ーーチーム内でも、その思いは共有されていますか?
営業チームにも「提案する商品について、自分の言葉で語れるようにしておくといい」と伝えています。お客さんに喜んでもらえる人は、その生地のストーリーや、なぜこの作り方を選んだのかを筋道を立て、納得感のある説明ができる人です。お客さん自身も、常に驚きや発見を求めていて、こちらから生地の魅力や面白さを伝えてほしいという期待感を抱いてくださっていると感じます。
実際、そうした背景を理解した上で提案できると、プレゼンテーションでも言葉に厚みが出て、「面白いね」と評価される機会が多くなります。生地そのものの魅力だけでなく、なぜそれを作ったのか、何を伝えたかったのかという思いまで共有できることが、今の時代、より一層求められていると実感しています。
着るものを通じて人を幸せにする

グローバルトレードセクションとサステナブルセクションの部署が集う北参道ショールーム。
ーー今、村上さん自身が感じているファッション・アパレル業界に対する課題感や違和感はありますか?
僕が言える立場ではありませんが、あくまでいち個人の意見として、今の業界は利益を追求しすぎているのではないかと感じています。企業がクリエイティビティを捨てて、目先の利益優先の姿勢になっていくと、品質を下げて誤魔化しながらやっていくしかなくなる。
そうなると、オリジナリティを追求するのが無駄に思えてしまい、誰かの成功例をなぞって短絡的な利益を得ようとする風潮が強まっていくと思うんです。でも、これって特にファッション業界では、すごく悲しいことなんじゃないでしょうか。
売れている市場に過度に集中することで、みんなが二番煎じになり、結果として価格競争に巻き込まれ、品質もどんどん下がっていく。この流れには、強い危機感を覚えます。
ーーもはやファッション業界を超える問題です。
そうですね。ただ、そのような状況の中でも、ファッションや繊維業界に関わる者として、やはり「いいものを作りたい」という気持ちは変わりません。
人の気持ちに寄り添いながら、常にイノベーティブな存在であり続けること。そして、着るものを通じて人を幸せにするという思いを失わずにいたいと思っています。付加価値を生み出し、そこにフォーカスできる存在でありたいです。
ーー最後に、今後の目標について教えてください。
キャリアの目標としては、自分自身のディレクションスキルをさらに高めていくと同時に、同じ理念や価値観を持つ人材の育成にも力を入れていきたいと考えています。
また、天然繊維でありながら高い耐久性を持つテキスタイルや、合成繊維並みの機能性を備えた素材など、他の人が考えないような、自分らしい付加価値を持つテキスタイルを開発し、いずれは世界的なアイコンとなるようなテキスタイルブランドを築いていきたいですね。
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