「古着屋になろうとしなくていい」 札幌で2店舗を構えるオーナーの独立ストーリー

小見 光(おみ・ひかる)1994年生まれ。大学卒業後、新卒で北海道発のアウトドアブランドに入社。2023年より、SYNE inc.代表。札幌で古着屋兼セレクトショップの「globule mag.」と「RUNO」を運営している。

小見 光(おみ・ひかる)1994年生まれ。大学卒業後、新卒で北海道発のアウトドアブランドに入社。2023年より、SYNE inc.代表。札幌で古着屋兼セレクトショップの「globule mag.」と「RUNO」を運営している。
「古着屋になろうとしなくていい」 札幌で2店舗を構えるオーナーの独立ストーリー

小見 光(おみ・ひかる)1994年生まれ。大学卒業後、新卒で北海道発のアウトドアブランドに入社。2023年より、SYNE inc.代表。札幌で古着屋兼セレクトショップの「globule mag.」と「RUNO」を運営している。

学生時代のアルバイトで販売員としての楽しさを実感し、「28歳で独立する」と決めた小見光さん。その言葉通り、国内ブランドでの経験を経て、札幌に古着とセレクトを掛け合わせた「globule mag.」と「RUNO」をオープンしました。
数字よりも「人とのつながり」を大切にしながら、好きなことを形にしてきた小見さんに、独立までの道のりと店舗運営のカギについてお話を伺いました。
<目次>
学生アルバイトで洋服を売る楽しさを実感。10年後の独立を決めてアパレル業界へ
──ファッション業界に興味を持ったきっかけは?
服飾の学校出身だった母の影響で、幼い頃からミシンや生地に触れる機会が多く、自然とファッションやアパレルに興味を持つようになりました。小学校教諭を目指して大学に進学したのですが、大学1年生の秋頃から、札幌駅のファッションビルに入っている大手アパレルブランドでアルバイトを始めたんです。
親不孝な話ですが、接客や洋服に触れることが楽しく、アルバイトをしているうちに「教員より洋服屋が天職だ」と思ってしまって。そこから、10年後の28歳で自分の店を持とうと決めました。
──早い決断でしたね。独立を見据えた背景はなんだったんですか?
当時、フルタイムの社員の売り上げを越えたいという気持ちで働いていました。ただアルバイトだと、どうしても責任を持てる範囲が限られていて、できることも少なくなってしまう。だからこそ、VMDやバイイングなども含めて自分で管理した店舗を運営してみたいと思ったんです。
──学生アルバイトでトップセールスを目指して。
お金を稼ぐために働いてるというより、好きなことをしていたらそれが仕事になっていて、お金は後から自然についてくる感覚でした。本当に、毎日楽しかったんです。
当初はアルバイトをしていたブランドにそのまま新卒で就職するつもりでした。ところが、ある日突然、雑誌のスナップ撮影によく呼んでいただいていたアウトドアブランドから声をかけていただいて。
──そんな経緯があったんですね。
声をかけていただいたブランドはもともと新卒採用を行っていなかったのですが、販売職として働かせていただくことになりました。実はアルバイト先のブランドの上司にも「いつかそのブランドで働きたい」と話していたので、まさかこんなに早く実現するとは思っていませんでしたね。
──新卒で入社したブランドではどんな業務を経験されたんですか?
28歳まで6年間勤め、最後の1年はストアマネージャーを務めながらEC業務も行っていました。当時のストアマネージャーは40歳前後の方が多く、28歳でその役職をいただけたことは信じられませんでした。展示会や店長会に行くと周りがベテランの方々ばかりで不思議な光景だったのを覚えています(笑)。

──10年後に独立を見据えて働かれてる中で意識して取り組んでいたことはあったんですか?
ブランド内で一番の実績を残すつもりで取り組んでいました。他店舗に売れ行きが負けていると悔しくて、「自分の店舗を一番にしたい」という目標は常に持っていましたね。
実務面では、ストアマネージャーとして店舗管理の基礎を吸収することを意識していました。あとは、店舗の雰囲気や洋服のディスプレイが特殊な店舗だったので、世界観の作り方を重点的に学びました。
──世界観の作り方。
スタッフ自身もブランドの世界観に溶け込むような着こなしや雰囲気作り、キャラクター作りが重要だったので、先輩から日々学んでいたことが印象に残っています。
自分のキャラ作りは誰かに教えてもらうものではないですし、姿かたちは変えられない。だからこそ、色の組み合わせやサイズ感といったスタイリングでどう雰囲気を出すか、自分なりに研究していました。
──当時発見した、自分のキャラクターが出るスタイルは?
もともと少し変わったスタイルが好きで、例えばカモフラージュに別のカモフラージュを合わせたり、柄に柄を合わせるスタイルが多かったです。
尖りたかったわけではなく、一般的にはNGとされているスタイリングを、バランスや配色を工夫することで「これもアリだよね」と正解にしていく作業が好きだったんだと思います。
古着屋になろうとしなくていい
──アパレルで働き始めてから10年、ついに独立されたんですね。
28歳で独立すると決めていたことを、ただ実行したかったのが大きかったです。納得のいくテナントがなかなか見つからなかったので、最初はオンラインのみでスタートし、半年後に1店舗目となる「グロビュール マグ(globule mag.)」をオープンしました。

──オープンするにあたって不安はありませんでしたか?
商品の打ち出し方や物撮りなどは前職で経験していたので、作業面での不安は特にありませんでした。でも、ちゃんと売れるのか、お客様にお店のことを知ってもらえるのかは、率直に不安でしたね。
とはいえ、挑戦するにあたって不安はつきもの。それ以上に「やりたいことがある」というワクワク感が原動力でした。
──これまで経験されてきたのは、新品を扱うブランド。どうして古着屋だったんですか?
セレクトショップやブランドを経て、もともと好きだった古着に新たに挑戦してみようと思ったんです。
ただ、古着に関してはノウハウがゼロ。試行錯誤の毎日でしたね。最初は自分の力で道を切り開いてみたかったので、特にバイイングには苦労しました。
最初はネットで「古着 卸 倉庫」と検索し、一般的なやり方でスタートしてみたのですが、そうするとどうしても周りと同じようなものしか集まらないんですよね。そこで、倉庫からさらに別の倉庫を紹介してもらったりと、つながりを頼りに開拓していきました。
──買い付けも初めての経験ですよね。
そうなんです。倉庫に入ると信じられないくらい古着があるんですよ。今まで展示会に行ってもワンシーズン規模のアイテム数だったので、その数百倍もあるバイイングは体力的にも精神的にも大変でしたね。
例えば、Tシャツひとつを選ぶにしても、膨大な数の中から一点一点きちんと吟味しなければいけません。新品を扱ってきた経験があるからこそ、商品のクオリティには特にこだわりを持ってピックしていました。
──ブランドから独立し、「古着屋」を運営してみてどうでしたか?
自分のキャラクター作りに慣れていた反動で、「古着屋の店員になるにはどうすればいいんだろう」「古着好きのお客様にはどう響くんだろう」とゼロから考え出したら迷子になっちゃったんですよね。
そんな時に原点に立ち返ってみると、結局自分が今までやってきたことや得意なことは、ファッションを売る、スタイルを提案することだと思い出して。その時に「古着屋になろうとしなくてもいいんだ」と気づいたんです。
この感覚を取り戻してからは、考え方や動き方も柔軟になって、解放された感じがしました。新品と古着を分けなくていいし、オリジナルアイテムを出したっていい、一つの考え方に固執する必要はないんだと。
──セレクトショップ兼古着屋として、バイイングの基準はあるのでしょうか?
流行っているからという理由でピックしてしまうと、他のお店との差別化が難しくなってしまいます。最短ルートで「いい店」を作るには、自分らしさを打ち出すことが不可欠。そのためにも、自分が本当に好きだと思えるアイテムや、面白い服を積極的にピックするようにしています。
あとは、手に入らないものは自社で作ってしまおうと思い、オリジナルアイテムにも着手しました。最初はスウェットやロンTを中心にアイテムを展開し、今はキャップや靴下、ファニーパックもいちから自社で開発しています。


──今年7月には2店舗目の「ルーノ(RUNO)」もオープンされました。
店の近くに倉庫兼スタジオとして使える場所を探していた時、たまたま理想的な物件と出会って、「ここを店にしたい」と直感的に思ってしまったんです。
マンションの奥にある裏路地の路面店で、北海道では珍しい立地でした。その倉庫の一角に小さいながらも売り場を作ることにしました。グロビュールマグはヴィンテージショップのような空気感を演出しているのに対し、ルーノはアットホームな落ち着いた雰囲気がありますが、ホテルのロビーのような上質さも感じられる空間にデザインしました。


オンラインより実店舗から始めるべき理由
──独立後、すぐに売り上げが安定するわけではないと思いますが、マネタイズ視点で意識してたことは?
そうですね、安定するまでは1年くらいはかかったと思います。
お店を最短で成長させるためには、東京で流行ったものが北海道でも後から流行ることを踏まえ、まずは本州でグロビュールマグの知名度を広げた方がいいと考えていました。そのため、オンラインはもちろん、東京でのイベント出展、SNS運用など、知名度を上げるための投資は欠かせませんでした。
その結果、東京のショップからイベントに呼んでいただいたり、YouTubeに取り上げていただいたりと、少しずつチャンスが広がっていったんです。逆算して戦略的に動いた結果、本州のお客様と比例して札幌のお客様も増えて、本当にありがたいなと思っています。

──店舗運営において大切にしているマインドは?
人を大切にすることが仕事を続ける上での一番の核になっていると思います。
もちろん、ビジネスとして成功している人へのリスペクトはありますが、数字だけを追う仕事はしたくないんです。独立したのも、お金を稼ぐためだけじゃなく、自分らしいスタイルでお客様に認めてほしかったから。お客様の関係だけでなく、イベントなど、友人からのオファーも損得関係なく積極的に出店しています。
──アルバイト時代の実績など、数字でも結果を出されていた印象があるので、少し意外でした。
数字に関してはあまり考えていなくて。ブランドで働いていた時は、とにかくお客様が会いに来てくれることがうれしかった。その結果として、売り上げがついてきただけだったんです。「もう少し入荷を待ってください」と正直に伝える時もあるくらいで、売らない接客をよくしていたと思います。
経営する立場になってからも、もちろん最低限の売り上げは必要ですが、そのスタンスは一貫していると思います。スタッフに対しても「売り上げを取ってください」という指示ではなく、「お客様の心を掴んでください」と伝えています。
──それもまた難しいですね(笑)。
それができる土壌を作るのは私の仕事だと思っています。スタッフにはただ売る販売員には育ってほしくないですね。
現在は、私も含めて4人体制。最年少は21歳で、将来独立を考えている子なのですが、昔の自分を見ているようです(笑)。
──将来ブランドや店舗を持ちたいと考えている若い世代も増えています。成功する人とそうではない人の違いはどういったところにあると思いますか?
夢を実現したいという信念の強さだと思います。覚悟を決めてやる人間は、リスクを背負ってでも楽しみながら進み続ける。その信念の強さや覚悟の大きさが、最終的に結果につながると思います。
経営をしていれば、調子の波は必ずあります。でも、本気で取り組んでいれば調子が良い時も悪い時もどちらもワクワクできると思うんです。
店舗運営にノウハウも必要ですが、結局は、人と人の仕事。心の仕事です。自分が楽しんでいないとお客様も楽しめないと思いますし、自分の心が強くないとお客さんもついてきてくれないと思っています。
──もし今、ゼロから店舗運営を始めるとしたら絶対にやらないことはありますか?
私の考えとしては、オンラインストアからスタートしません。スモールビジネスから始めることや固定費を下げるために大切なことだとは思いますが、最初に実店舗を構えた方がいいと思っています。
私自身、起業して半年間ほどはオンラインだけで運営していましたが、常にどこか物足りなさや焦りがありました。ブランド時代から、お客様とのつながりが好きだったのもあると思いますが、店舗に来てもらえれば直接お客様の心を掴めると思っていました。
現場での経験値が周りと差をつける
──今後、東京にも店舗オープンを見据えているとか。
現在の2店舗はコンセプトが異なるので、いつになるか分かりませんが将来的にはそれぞれの要素をミックスした店舗を東京に出したいと思っています。普段オンラインストアで購入いただいているお客様ともお会いしてみたいですし、店舗数が多い中でどこまで戦えるのか、勝負してみたいですね。
──今後の展望を教えてください。
店舗展開としては、スタッフ一人ひとりに1店舗ずつ任せられるような体制を作りたいと思っています。
スタッフに服屋の楽しさをより実感してもらえますし、そういった仕組みを作ればアパレルを目指す若者が増えたり、街全体も盛り上がるんじゃないかと思うんです。今後は、好きなことで社会や地域に貢献できたらなとも考えています。
──店舗に立つことを大切にされている印象を受けたのですが、店舗に立つ価値はなんだと思いますか?
どんな仕事にも言えますが、現場のリアルを知ることが大切です。お客様に喜ばれる接客や売れるものづくり、それに伴う実績などをリアルタイムで体験できるのが店舗です。現場で接客経験があるからこそ、裏方の仕事も成り立つと思っています。
そして、これから独立する方にはアパレルの未来は明るいと伝えたいです。好きなことを見つけられただけでも大きな収穫。その気持ち自体が宝だと思うんです。
自分が頑張った分だけ返ってくるのが、アパレルの楽しさです。将来、独立したいという方は、ぜひ自分の思う「好き」を貫き、がむしゃらに突き進んでほしいですね。
最終更新日:
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