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パンデミックのピークに匹敵、アメリカ小売業界を襲う大量閉店の波とその背景

パンデミックのピークに匹敵、アメリカ小売業界を襲う大量閉店の波とその背景

在米28年のアメリカン流通コンサルタント
激しくウォルマートなアメリカ小売業ブログ

はじめに:かつてない規模の閉鎖ラッシュ

■2025年、アメリカの小売業界は極めて深刻な局面を迎えている。コアサイト・リサーチの統計によれば、年内に約15,000店が閉鎖される可能性があると予測されており、2024年の7,325件をはるかに上回る数字である。

この閉鎖数は、2020年のパンデミック期のピークに匹敵し、あるいはそれを超える勢いである。

実際、2025年上半期には5,800店余りが閉鎖しており、同期間中の出店数(3,960店)を大きく上回っている。

このような「閉鎖が開店を上回る」流れは、単なる一時的な調整ではなく、構造的な変化の兆候と見るべきである。

REI、クレアーズ、JCペニー、ウォルグリーン、CVS など有名ブランドから、地域密着型の専門店まで幅広い企業が閉鎖に踏み切っており、「閉店ドミノ」は加速している。

もはや一部の業態や立地の問題ではなく、小売業全体の構造的な変化を映し出しているといえる。

背景にある経済環境と消費者行動の変化

今回の大量閉鎖の背景には、インフレや高金利といったマクロ経済の圧力がある。仕入れコストや人件費、店舗維持費が上昇し、利幅の薄い業態では耐えきれなくなっている。特に賃料の高い都市部や郊外モールの店舗は収益悪化が顕著だ。

さらに消費者行動のシフトも大きい。

Z世代を中心に、低価格かつ配送の速いECサイトやアプリが利用され、実店舗の「利便性の優位性」が揺らいでいる。

オンラインで価格比較し、必要なものを即座に購入できる時代に、実店舗が生き残るためには「体験」や「付加価値」が求められるようになった。

また、投資ファンドの姿勢変化も見逃せない。従来は小売チェーンの再建に積極的に資金を投入していたが、いまや不採算事業には投資を控える傾向が強まり、結果として「再建か、完全撤退か」の二者択一を迫られる企業が増えている。

百貨店・大手チェーンの動き

百貨店や大規模チェーンでは、不採算店舗を整理し、成長可能性のある拠点に投資を集中させる「選択と集中」が進んでいる。

メーシーズは2026年度末までに150店舗を閉鎖する計画を進めており、2025年だけでも66店舗を整理する予定だ。ニューヨークやフィラデルフィアといった大都市圏の店舗も対象となり、象徴的な撤退として注目を集めている。

JCペニーも破産からの再建途上にあるが、2025年に8店舗を閉鎖した。収益改善が見込めない立地を大胆に整理し、残る店舗の強化に注力している。

またニーマンマーカスは、再開発に伴ってテキサス州プラノの大型店を閉鎖することを決めた。コールズも27店舗の閉鎖と物流拠点の縮小を進め、持続可能な事業モデルへの再構築を急いでいる。

専門店・ニッチ業態の苦境

ニッチな市場を狙ってきた専門小売も、淘汰の波から逃れられない。

生地・工芸品チェーンのジョアンは、約800店舗を一斉に閉鎖し、80年の歴史に幕を下ろした。買収先も見つからず、知的財産やブランドは他社に譲渡される形となった。

クレアーズも再度の破産に踏み切り、北米で数百店舗の閉鎖を予定している。モールに依存した業態は集客力低下の影響を大きく受け、再建の見通しは不透明だ。

ファストファッションのフォーエバー21は、米国内の全店舗を閉鎖し、完全にオンライン専業へと転換する戦略に舵を切った。物理的な拠点を持たずにブランドを維持する流れは、今後さらに広がる可能性がある。

スーパーマーケットの再編:身近な“食”も閉鎖の波に

大量閉店の波は百貨店や専門店だけではなく、日常ライフラインであるスーパーマーケットにも広がっている。中でも、米国最大級の食品小売チェーンであるクローガーが象徴的な動きを見せており、2025年以降、二桁店舗の閉鎖を打ち出している。

クローガーは2025年6月に、今後18か月以内に約60店舗を閉鎖する計画を発表した。既に少なくとも39店舗が閉鎖対象に上がっており、そのうち少なくとも18店舗が既に営業を終えている。

同社が運営する2,700店超の店舗網の中で、「収益を上げにくい店舗を整理し、成長可能性の高い拠点に注力する」という戦略転換を示している。

この動きの背景には、小売チェーン全体に共通する “仕入れコストの上昇・賃料の高騰・物流・人件費の圧力” に加え、食品・日用品の購買でもオンライン・アプリ経由の注文や宅配利用が増加しており、従来型の大型スーパーマーケット立地が相対的に競争力を失いつつあるという構造変化がある。

さらに、クローガーは閉鎖だけでなく、「出店も並行して進める」姿勢を示している。2025年中に少なくとも30店舗の新規出店プロジェクトを完了させる計画があり、閉鎖と新規出店を併せた「店舗ポートフォリオの最適化」に動いている。

これは、すべてを縮小するというわけではなく、より効率の良い店舗に再配置をかけるという戦略的な対応である。

このように、食品スーパーという「日常の消費」に直結する分野にも、閉鎖・再編の波が確実に及んでいることは見逃せない。小売の縮小・再構築は、高級百貨店やファッション専門店だけの話ではなく、食を扱うスーパーマーケットにも深く浸透しているのである。

ドラッグストア・ディスカウントの再編

医薬品やディスカウント業態でも、大幅な店舗網の見直しが進んでいる。

ウォルグリーンは今後3年で1,200店舗を閉鎖予定で、そのうち500店舗は2025年度中に閉じる計画だ。CVSもすでに数百店舗を整理し、重複立地の削減を進めている。

さらに、ライトエイドは再度の破産申請を行い、一部店舗は競合他社に売却される見込みだ。医薬品小売は再編の真っただ中にあり、地域医療の基盤にも影響が及んでいる。

ディスカウントでは、地域チェーンのバーゲンハント(Bargain Hunt)が全店閉鎖を決断。中堅規模のチェーンが耐えられず、短期間で市場から消える事例が増えている。

見えてきた潮流:再建か、完全撤退か

こうした事例が示しているのは、小売業界がいま「部分的に修復して立て直す」か、「市場から全面撤退する」かという極端な選択を迫られているという現実だ。

利益の出ない立地を残し続ける余裕はなく、ブランド力や知的財産を活かす形でオンライン専業に切り替える動きも増えている。逆に、残存店舗にはデジタル投資や体験価値の強化を行い、「勝てる拠点」に集中する企業もある。

つまり、もはや「とりあえず維持する」という中途半端な選択肢は消えつつあり、事業戦略は再建か、完全撤退かに二分されつつある。

結論:淘汰の時代と再構築の行方

2025年の大量閉鎖は、小売業の衰退ではなく、大規模な再構築のプロセスである。弱い立地や業態は淘汰される一方で、デジタルとリアルを融合した新しいモデルに挑む企業も現れている。

市場全体では純減傾向が続くだろうが、それは逆に「残った企業がどこに強みを持ち、どんな体験を提供するか」がより鮮明になることを意味する。閉鎖の嵐は、未来の小売の地図を書き換えるための痛みを伴う過程なのだ。

トップ画像:今年の大量閉店を象徴するチェーン店として最も目立つのは、フォーエバー21だ。米国のファストファッション業界を長年牽引してきたブランドでありながら、2025年3月には米国内のすべての実店舗を閉鎖し、オンライン専業へと転換することを発表している。この「実店舗から撤退して知財・ブランド運営に切り替える」という劇的な構造変化は、まさに「実店舗が生き残れない時代」の象徴的な一例と言えるのだ。

⇒こんにちは!アメリカン流通コンサルタントの後藤文俊です。

2025年のアメリカ小売業界は、かつてない規模の店舗閉鎖ラッシュに見舞われています。

調査会社コアサイト・リサーチの推計では、年内に閉鎖される店舗数はおよそ15,000店に達する見込みで、2024年の7,325店を大きく上回ります。

メーシーズやJCペニーをはじめジョアンやクレアーズといった専門店、さらにはパーティシティやアットホーム(At Home)、ウォルグリーンやCVSなどのドラッグストアまで、多様な業態で閉鎖の動きが相次いでいます。

背景には、継続するインフレや高金利といったマクロ経済要因に加え、シーインやテムに代表されるオンライン勢の急成長、モール空洞化による立地価値の低下など、構造的な要因が複雑に絡み合っています。

一方で、単なる撤退ではなく、残存店舗への投資集中や全面的なオンライン転換など、新しい生き残り戦略を模索する企業も増えてきました。淘汰と再編の波はこれからも続きますが、その中で未来の小売の姿が形づくられていくのは間違いありません。

あまりに閉店ニュースが多いので、フォローしきれていないかもしれません。もう一度、強調しますね、”アメリカは今年、未曾有の閉店ラッシュだ”ということを。

最終更新日:

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