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【インタビュー】“振付”するように服を描く アラン・ポールが追求する身体起点の服づくり

「アランポール」デザイナー アラン・ポール

Image by: 左からFASHIONSNAP、FASHIONSNAP(Koji Hirano)

「アランポール」デザイナー アラン・ポール

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「アランポール」デザイナー アラン・ポール

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 現代バレエ仕込みの身体感覚で、服を“振り付ける”。2023年にブランドを始動した新進デザイナー アラン・ポール(Alain Paul)は、3シーズン目の2025年春夏コレクションからパリファッションウィーク公式スケジュールに参加。2025年にはANDAM Fashion Award特別賞の受賞やLVMH Young Fashion Designers Prizeのファイナリストに名を連ねるなど、一気に注目株へと躍り出た。動きの中で生まれる一瞬のフォルムや、身体にかかる緊張や制約までもをデザインへと昇華するその手法は、ダンサー出身の同氏ならでは。まるで舞台の振付のように衣服を構想するクリエイションは、ファッション業界に新たな風を吹き込んでいる。

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 FASHIONSNAPは今回、Rakuten Fashion Week TOKYO 2026 A/Wで日本で初のランウェイショーを発表した直後のアランにインタビューを敢行。18歳でバレエの道を離れた転機から、身体を起点にした創作プロセス、そして時代と記憶が交差する最新コレクションまで。今注目を浴びるデザイナーの思考と実践を紐解く。

◾️アラン・ポール(Alain Paul)
1989年に香港で生まれ、1997年にフランスへ移住。1998年からマルセイユ国立高等ダンス学校に入学し、バレエ漬けの日々を送る。18歳のときにファッションを学ぶためパリへ移り服飾学校へ入学。卒業後はデムナ(Demna)の「ヴェトモン(Vetements)」、さらにヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)率いる「ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)」で経験を重ね、2023年に自身のブランド「アランポール(ALAINPAUL)」を立ち上げる。2025年には「ANDAM Fashion Award」で特別賞を受賞したほか、「LVMH Young Fashion Designers Prize 2025」のファイナリストに選出された

Image by: FASHIONSNAP(Ippei Saito)

Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)

現代バレエからファッションへ 身体表現が導いた転身の軌跡

──まずは東コレお疲れ様でした。初の日本でのショーはいかがでしたか?

 非常に意義深い経験となりました。実はアランポールのオンラインストアにおいて、日本は売上の大きな割合を占める重要なマーケットの一つなんです。実際に東京でコレクションを発表したことで、単なる数値としてではなく、どのような人々に届いているのかを具体的に実感することができました。

 日本の市場には確かなポテンシャルがあるだけでなく、ブランドの価値観や背景まで丁寧に受け取ってくれるコミュニティが存在していると感じています。また、品質やスタイルを重視し、長く着られるものを選ぶ日本の方々の姿勢は、私たちのクリエイションとも高い親和性があるはず。今後に向けても非常に重要なステップになりました。

──日本のファッションシーンを見て気づきはありましたか?

 日本、特に東京では、ファッション感度の高い方々が“日常着”として私たちの服を選んでくださっていると感じています。エキセントリックなデザインでありながら、着心地の良さにも徹底的にこだわっているブランドとして、これは非常に嬉しい反応です。例えばパリでは、旅行で訪れた方が記念として購入されるケースも多く、どちらかというと“特別な一着”としての意味合いが強い印象があります。一方日本では、そうしたデザイン性のある服を日常的に取り入れていただけている。この点は、ブランドにとって大きな手応えであり、日本市場で受け入れられていること自体が、一つの成功の証だと考えています。

 フランスをはじめとするヨーロッパの人々と比べると、日本の方々はファッションに対してより柔軟で、挑戦的な選択を楽しむ傾向があるように感じます。ヨーロッパではよりコンサバティブな選択が好まれることもあるため、その違いが日本でのポジティブな反応につながっているのかもしれません。

──そもそもアランさんはバレエダンサーとして伝統的な舞踏学校で学ばれていました。なぜファッションデザイナーに転身したのでしょうか。

 ファッションに興味を持ち始めたのは14歳の頃。バレエの振付を考える中で、動きに合わせてダンサーたちをさまざまな色やシルエットの衣装でスタイリングすることに楽しさを見出したのがきっかけでした。当時は、ピナ・バウシュ(Pina Bausch)やイリ・キリアン(iri Kylian)といった振付家の作品に強く惹かれ、将来は振付師になりたいと考えていたため、ファッションデザイナーになることはまったく想像していなかった。しかし次第にファッションへの関心が高まり、自分は振付家として表現したいのか、それともデザイナーとして形にしたいのかを自問するようになって。数年にわたりバレエとファッションの間で思考を重ねる中で、ファッションの世界に身を置く自分の姿の方が、より自然に思い描けるようになっていったのです。そこで18歳のときマルセイユ国立高等バレエ学校を離れ、パリでファッションデザインを学ぶ道を選びました。

──ファッション業界のどこに魅力を感じたのでしょうか?

 数々の天才的なデザイナーたちの仕事に魅了され、彼らのような仕事をしたいと願いました。フランスでは、ファッションデザイナーという職業はファッションとは関係のない一般の家庭においても身近なものなんです。記憶の中にあるテレビで最初に見たデザイナーはジャン=ポール・ゴルチエ(Jean Paul Gaultier)。幼い頃画面越しに観た彼のシアトリカル(演劇的)な作品作りのプロセスは、私にとってのデザイナー像そのものとして深く刻まれています。

 ファッションを学ぶようになってからは、他のデザイナーたち、特に90年代のデザイナーたちに魅了されるようになりました。ヘルムート・ラング(Helmut Lang)やマルタン・マルジェラ(Martin Margiela)、山本耀司、川久保玲。彼らは、現代的なファッションの歴史を築き、新しい世代への道を切り開いてきた。彼らの再構築なデザイン手法に衝撃を受けて、学校ではテーラリングを学ぶことを決めました。テーラリングは規則の上に成り立っていますが、それはダンスにも通じるものがあります。まずクラシックのルールを身につけ、そのうえでそれを解体していく。ファッションも同様に、構築を理解したうえで再構築へと進むものです。実践に入る前段階として、知識をしっかりと身につけることは不可欠だと考えていましたし、自身のブランドを立ち上げた今、その選択は間違っていなかったと感じています。

 ここ数年、大手メゾンを中心にデザイナー交代が目まぐるしく行われていますが、これはまた新たなファッションの歴史が築かれていく瞬間を目撃しているようでワクワクします。ファッションは私にとって仕事であると同時に、これからも関心の尽きない領域であり続けると思います。

──パリのファッションスクールを卒業後、2014年まで「ヴェトモン(Vetements)」に在籍。どのような経緯で?

 デムナ(Demna)とは、友人経由で学生時代から知り合いでした。ちょうど彼がブランドを始めるときに手助けをしてくれる人を探していて、卒業後の進路に迷う私に声をかけてくれたんです。

 当時のヴェトモンは、物語性を前面に出すのではなく、服の中にある身体そのものにフォーカスしていました。ヴィンテージの服をベースに、理想的なアーキタイプ(原型)を見出し、それらを組み合わせていく。非常にノームコア的で、過剰なデザインを排したアプローチだったと思います。「Vetements」はフランス語で“服”を意味しますが、その名の通り、本質的な衣服のあり方を追求していた。私はこの潔い初期構想がとても気に入ったんです。なので2つ返事でチームに加わることを承諾しました。ヴェトモンには2017年まで、3年間在籍しました。

──2018年にヴァージルが率いる「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」に移籍します。

 ヴェトモンがスイスへ拠点を移すことになり、チームを離れざるを得なくなったことがきっかけです。私と夫の生活基盤はすべてパリにあったため、彼らについていくことができませんでした。その状況をデムナに相談したところ、ルイ・ヴィトンのチームを紹介してくれたのです。

──ヴァージルと共に仕事をするのはどのような経験でしたか?

 彼は私にとってメンターのような存在でした。彼が率いたメゾンの大きな特徴は、多様な分野の才能と積極的にコラボレーションしていた点にあったと思います。アーティストやデザイナーに対して非常にオープンで、例えばトランスジェンダーのDJであるハニー・ディジョン(Honey Dijon)をはじめ、建築家やグラフィックデザイナー、コンポーザーなど、幅広いバックグラウンドを持つ人々と協働していました。こうした取り組みは、当時のラグジュアリーブランドにおいてはまだ珍しいものだったと感じています。

 彼のもとで学んだのは、強い信念を持つことが他者とのコラボレーションを可能にするということです。他者との協業は自分自身の美学と向き合うことにもつながり、結果として自分を強くしてくれるものでもあります。自身のブランドを持った今もこの姿勢を大切に、開けたブランドであり続けたいと考えています。

振りを作るようにデザインを アランポールの揺るぎない美学

──2023年に自身の名を冠したブランドをスタート。なぜこのタイミングだったのでしょうか。

 さまざまな要因がありますが、自分の美学を確立できたと感じたことが大きいです。ファッションを学び始めた当初は、先ほど挙げたようなデザイナーや、これまで共に仕事をしてきたクリエイターたちから多くの影響を受けてきました。技術を習得する過程において、憧れの存在から学ぶことは重要なステップでもありますから。そうした経験を積み重ねる中で、2023年頃には服に関する知識や技術を自分のものとして消化できたという実感が出てきたのと同時に、自分が表現したい世界観や美学が明確になってきた。だからこそ、それらをコレクションやショーというかたちで主体的に発信していきたいと考え、ブランドを立ち上げました。

セールスディレクターは夫ルイス・フィリップ(左)が担当する

──ダンサーの経験、ファッションスクールでの学び、そして2つのデザインチームでの経験を通して研ぎ澄ましたアランポールの美学とはどのようなものですか?

 一言で表すのは難しいのですが、アランポールの美学の核にあるのは「バレエ」です。バレエはブランドのDNAであり、その感覚はすべてのクリエイションの根底に流れています。シーズンごとに色や空間といったテーマは変化しますが、ダンサーとして生きてきた中で見てきた衣服や、バレエスタジオに漂っていた空気感は一貫して影響を与え続けています。

 製作において重要な要素となっているのは「動き」です。デザイン画を描く際には、振付の中で生まれる身体の動きや、日常の所作とファブリックがどのように呼応するかを想像しながら、服へと落とし込んでいきます。プロセスはさまざまですが、例えば誰かが走っている姿を撮影し、服が空中に広がる瞬間を捉え、その静止した動きをデザインへと転換する手法が一番イメージしやすいかもしれません。ほかにも、身体に関する書籍や映画、写真、自分が観た舞台のスクリーンショットなど、あらゆる視覚的体験がインスピレーション源になっています。2026年秋冬コレクションでは、ターンの途中で腕がブロックされたように見えるディテールや、動きによってドレープが生まれる服、前後の動きによってシルエットが変化するスカートなどが、動きを起点としたデザインです。振付を組み立てるようにデザインしていくプロセスそのものが、ブランドのユニークさにつながっていると考えています。

ターンの途中の動作を切り取ったルック

Image by: ©Launchmetrics Spotlight

左右非対称な襟元は回転により乱れた衣服をイメージ

Image by: ©Launchmetrics Spotlight

──製作にはダンサーに協力してもらうことも多いですか?

 そうですね。私とルイスの周囲には、パリ・オペラ座に所属するダンサーからフリーランスで活動する友人まで、多様なコミュニティに属する表現者がいます。デザインの資料として踊っている姿を撮影させてもらうこともありますが、実際には彼らの日常的な動きからインスピレーションを得ることのほうが多いかもしれません。

 例えば、クラシックバレエのダンサーの動きは日常的に非常に構築的で、座り方ひとつをとっても身体の緊張感が感じられます。一方で、コンテンポラリーダンスのダンサーはよりリラックスしていて、のびやかな印象です。そうしたコミュニティごとの身体性の差異から得た視点が、デザインを考えるうえでの重要なヒントになっています。

──アランポールのデザインは常にジェンダーレスなアプローチが特徴的ですが、それもバレエのバックグラウンドが関係しているのでしょうか。

 関係はしていますが、より影響を受けているのはバレエそのものというより、そこから派生したコンテンポラリーダンスの世界です。クラシックバレエでは男女の役割が明確に分かれた非常に構造的な形式が主流ですが、1970年代のフランスでは、そうした枠組みを解体する動きが起こり、ジェンダーに依存しない表現としてコンテンポラリーダンスが生まれました。当初は批判的に受け止められることも多かったものの、現在では世界的に広く受け入れられています。こういった歴史的背景を持つコンテンポラリーダンスでは、身体は性別を帯びた存在というよりも、むしろニュートラルな“道具”として扱うんです。この身体観は、性別ではなく身体を起点にデザインするアランポールのアプローチとも通じています。

 ファッションの領域でも、1980から90年代にかけてアンドロジナスなスタイルが広がるなど、ジェンダーの枠組みを超えた表現が顕著になりました。既存の構造の揺らぎを経て、現在はデニムやTシャツのように性別を超えて誰もがニュートラルに着用している衣服が数多くあり、もはや「女性だけ」「男性だけ」の服という区分は絶対的なものではなくなっています。私自身、スカートのようなフェミニンとされるアイテムにも、スポーツウェアやボンバージャケットのようなマスキュリンな要素にも同じように魅力を感じます。私たちの身体は一人ひとり異なるものですし、性別はそれほど重要な要素ではないですよね。「誰もがどんな服にも恋をすることができる」。その考えのもとで、アランポールはジェンダーを問わず、すべての人のための服を提案しています。

Image by: FASHIONSNAP(Ippei Saito)

Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)

──ここ数年で「バレエコア」がトレンドになっていますが、バレエをバックグラウンドに持つデザイナーとして、どのように感じていますか?

 ブランドのコンセプトを構想していた当初は、いわゆる「バレエコア」はまったく意識していませんでした。ただ、このトレンドをきっかけにアランポールに興味を持っていただけるのであれば、それはポジティブなことだと思います。ただし、このトレンドそのものに対しては、あまり好意的ではありません。現在さまざまなブランドから発表されているバレエコアの多くは、身体や動きから切り離された表層的な「記号」としてのバレエを扱っているように見えるからです。トゥシューズやチュールといった視覚的に分かりやすい要素が抽出され、装飾として再配置されている。しかし本来、それらのアイテムはすべて身体の制御や負荷、重力との関係性の中で機能しているものです。バレエは単なる美しいイメージではなく、「制約の中で身体をいかに成立させるか」という極めてフィジカルで構造的な実践です。例えばトゥシューズひとつとっても、優雅さの象徴であると同時に、足先に強い圧力をかけながら身体全体のバランスを成立させるための道具でもある。そこを理解しないままなんとなくでデザインしているアイテムには、私は惹かれません。

ダンサーが練習のときに使用するダンスソックに着想を得たシューズ

──アランポールでもバレエシューズに着想した靴を発表していました。単なる引用にとどまらないために、どのようなアプローチでバレエをデザインへと落とし込んでいるのでしょうか?

 アランポールでは過去数回にわたってバレエシューズと名付けたアイテムを発表していますが、参照したのは造形ではなく構造でした。バレエシューズが、足にどのような制約を与えるのか、その制約が身体のラインや重心をどう変化させるのかといった、力学的な関係性を出発点に再構築しています。見た目を似せているのではなく、「身体に何が起こるか」を設計している、という感覚に近いかもしれません。バレエコアがしばしば「可愛らしい」という消費しやすいイメージへと収束しやすいのに対し、私たちが向き合っているのは、むしろ身体に刻まれる緊張や反復、ある種の暴力性すら孕んだバレエのリアリティなんです。

 そのうえで今一度強調しておきたいのは、アランポールは「バレエコア」というスタイルを提示しているわけではない、ということです。トレンドと並置されること自体は避けられないと思いますが、表層的な引用としてバレエを扱うのか、身体と構造の問題として捉えるのかという点で、安易にバレエコアのトレンドに乗っかっている他のブランドとは見ている世界が明確に異なると考えています。

取材日にルイスが履いていたアランポールのバレエシューズ

現代衣服もいつかは保存対象に デザインを通して覗いた過去と未来

──パリ装飾美術館及び「Rakuten Fashion Week TOKYO 2026 A/W」で発表した最新コレクションではバレエとファッションをどのように結びつけましたか?

 今シーズンのテーマは「レパートリー(REPERTOIRE)」です。バレエにおいては、クラシックからコンテンポラリーまでの作品群を横断的に捉える概念ですが、そこから着想を得て、過去の要素が保存されながら文脈を更新し、現在へと再接続されていく時間のレイヤーに着目しました。

 多くのアイテムは、ダンサーがスタジオで日常的に身につける衣服から着想を得ています。たとえば、可動域を確保するためにパンツのウエストを折り返す所作や、シューズを固定するためのエラスティックといった、身体の機能に根ざしたディテール。これらをテーラードパンツやデニム、シューズに取り入れ、単なる引用にとどめるのではなく、動きと連動する構造として再設計しました。

ウエスト部分がゴムになったデニム

エラスティックをあしらったシューズ

Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)

──製作にあたりパリ装飾芸術美術館のアーカイヴを参照されたそうですね。そこでの発見はどのような部分に反映されていますか?

 アーカイヴルームでは、18世紀から現在に至るまでのファッションの歴史を形作ってきたアーカイヴを研究しました。コレクションで象徴的なのは、サイドにパニエをあしらったドレス、コルセットの原型であるコラベリーヌに着想したトップスや、ドレーピングの中にボーニング(骨組み)構造を取り入れたドレスなどでしょうか。いずれもアーカイヴを引用しながら、現代的にデザインに落とし込みました。

コラベリーヌに着想したトップス

Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)

両脇に骨組みがあしらわれたドレス

Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)

 またペプラムトップスやデニムジャケットには3Dプリントを用い、花のモチーフが生地から立ち上がるような造形を取り入れています。古い建築の壁やカーペット、18世紀のタペストリーに着想を得たもので、時間が衣服の上で増殖していくかのようなイメージを重ねました。静的な装飾にとどまらず、落下や成長といった動きを内包する、有機的な表現を目指しています。また、長期間の圧縮によって生じた皺を持つアーカイヴピースに着想を得て、時間の痕跡そのものを素材に定着させるべく、恒久的なプリーツを備えたテクスチャーも開発しました。

3Dプリントであしらわれた落ちていく花のモチーフ

Image by: FASHIONSNAP(Ippei Saito)

長年保存される中で生まれた皺を再現したスカート

Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)

──衣服をオーガンジーで覆ったルックも印象的でした。

 アーカイヴを調べる中で、すべての作品がタイベック素材の袋やガーメントバッグに収められ、丁寧に保護されている点に強く惹かれました。この「生きた保存(リビング・コンサベーション)」という発想を、透けるオーガンジーのドレスやスカートの下に皺のついた別の衣服を重ねることでルックに昇華することを試みました。

 もう一つアーカイヴ研究で印象的だったのは、装飾的なドレスの背面やジャケットで隠れる部分が非常に簡素な布で仕立てられていた点です。おそらく1960年代のものですが、外から見える部分の精緻さと、着用時に隠れる部分の簡潔さとのコントラストに強く惹かれて。この構造をスカートやジャケットのデザインとして再解釈し、「見える・見えない」の関係性を一着の中で表現しました。

 これらのアプローチは、今季のテーマである「レパートリー」と呼応しています。過去の衣服がアーカイヴとして保存される一方で、現在私たちが日常的に着ている白いタンクトップやブルージーンズも、いずれは誰かにとってのアーカイヴになりうる。都市に生きる現代の衣服をそのまま保存対象として提示することで、衣服が持つ時間性や価値の連続性を可視化しています。

Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)

Image by: FASHIONSNAP(Ippei Saito)

──ブランドスタートから3年目にも関わらず世界から注目を集めています。そんな中で現在ブランドが抱える課題は?

 大きな予算がない中で、ファッション業界外の一般の人々に自分たちの存在を伝えていくことです。ありがたいことに、賞をいただいたりファイナリストに選出していただいたりと、業界内での知名度は徐々に高まってきました。しかし、それはあくまでファッションの動向を常に追っている人々の間での話に過ぎません。実際に消費者の方々には、まだ十分に認知されていないのが現状です。

 規模が大きいブランドは毎月のようにコレクションやキャンペーンを発表しますが、それに対抗するのは簡単ではありません。だからこそ、これまでの仕事で得た評価を大切にしながら、自分たちのメッセージを誰に、どのように伝えるかを慎重に考え必要があると感じています。キャンペーンヴィジュアルやショーの演出を通して、僕たちの世界観を正確に発信していくことが、直近の目標です。

──ブランドの未来をどのように見据えていますか?

 私たちは、自分たちのクリエイションを続けながら、世界に広がっていくことを常に望んでいます。東京、ソウル、香港、上海、ニューヨーク......。目指すべき場所は多くあります。ですが、ブランドのコントロールを失いたくないので大企業の一部になるつもりはありません。あくまで、オーガニックな成長を目指しています。

 今回、東京でコレクションを発表したことで、これまで直接アイテムを紹介できていなかった方々にもアプローチする機会を得ることができました。この経験が、今後の販路拡大につながっていくことを期待しています。

最終更新日:

FASHIONSNAP 編集記者

菅原まい

Mai Sugawara

2002年、東京都生まれ。青山学院大学総合文化政策学部卒業後、2025年に新卒でレコオーランドに入社。中学生の頃から編集者を志し、大学生時代は複数の編集部でインターンとして経験を積む。特技は空手。趣味は世界中の美味しそうなお店をGoogleマップに保存すること。圧倒的猫派で、狸サイズの茶トラと茶白を飼っている。

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