
Image by: FASHIONSNAP
メンズブランド「アモク(amok)」の2026年春夏コレクションのインスタレーションが、東京・代々木のTEN10 STUDIOで公開された。今季のテーマは「シフト(Shift)」。本コレクションでは、2つのアイテムをドッキングさせた構造の服が中心となり、それぞれに着方を変えることでシルエットが大きく変化する仕掛けが施されていた。
たとえば、ニットベストとカーディガンが縫い合わされたアイテムでは、ニットベスト側を着れば背面に袖付きTシャツを背負っているような形になり、逆にカーディガンを着るとニットベストが前面にくっついているアイテムに変化する。そのユニークな造形が視覚的な違和感を生み出しており、「着方を変える(=視点を変える)」という行為が、今季のテーマ「シフト」を体現しているように思えた。
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筆者はこの構造から、強いコンセプト性を感じ取ったが、大嶋デザイナーは「単純に様々な着方を楽しんでほしい」と語る。前回の10周年記念ショーの重厚な印象とは対照的に、会場に足を踏み入れるとカラフルなテープ状のカーテンや遊具を思わせるオブジェが並び、まるで子どもの遊び場のような空間が広がっていた。その軽やかで自由な空気は、ブランド自身が雰囲気を「シフト」させようとしているかのようにも見えたが、同時に、「ファッションを楽しむ」という大嶋デザイナーの精神こそが、ブランドの根幹にあることを強く感じさせた。


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そして今回、筆者が注目したのはアモクが「社会との関わり方」を表現していた点である。
インスタレーションの中核である大量のテープで作ったカーテンでは、身近なグローバル企業のロゴをブランドロゴにオマージュしていた。一目で元ネタを連想できる色やフォントをアモクロゴとして再構成することで「親しみやすさ」と「不穏さ」が同時に現れるような空間を演出していた。
大嶋デザイナーは「みんなが知っているブランドロゴを調べていくと、親しみやすい巧妙なデザインだと感心した。だからこそ“遊び”として取り入れたかった」と語る。その言葉が示す通り、この試みはポップアートの文脈と強く重なる。


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1960年代にアメリカで隆盛したポップアートは、広告、テレビ、日用品など、当時の大衆文化を芸術のモチーフに昇華した運動だ。中でもアンディ・ウォーホル(Andy Warhol)は、スープ缶や洗剤、有名人の肖像を大量に複製することで、消費社会と芸術の境界を崩し、「価値とは何か?」「アイデンティティとは何か?」という問いを浮かび上がらせた。アモクが今季行ったのは、まさにその現代のリアルである。企業ロゴという誰もがその価値を信頼し、無意識に消費している記号をブランドロゴとして再構成することで「私たちは本当の意味で自ら選択しているのか?」という疑問を、服を通じて静かに突きつけているように受け取った。
また、今季のルック撮影では、1990年代のストリート誌『TUNE』を思わせる編集スタイルが採用された。『TUNE』は当時の原宿カルチャーをリアルに記録した雑誌であり、ブランド名や流行とは距離を置き、個人の感性に根ざしたファッションを肯定していた媒体だ。アモクはポップアートと対照的な『TUNE』の文脈を引用することで、生活のほとんどがアルゴリズムやマーケティングに支配されつつある現代人に、原宿ストリートがかつて持っていた“自由な視点”を与えようとしているのかもしれない。

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「シフト」というテーマは、服の構造のみに適用されるわけではない。消費の仕方、ロゴという情報への付き合い方。すべてを一度、見直すタイミングなのではないか。ポップでユーモラスに見えるアイテムの裏には、社会構造や価値観の変化を捉えようとする誠実な問いが隠れていた。
アモクの2026年春夏コレクションは、楽しさと批評性、日常性と芸術性をゆるやかに横断しながら、「ファッションを通じて現代社会に抵抗する」というパンク精神をポップに提示しているのだろうと解釈した。柔らかくポップなデザインの中に強いメッセージを込めることで、多様な人が受け入れやすく表現することが「現代的パンク」の形なのではないだろうか。

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coconogaccoでファッションデザインを学ぶ。2013年よりテキスタイルプリンタや刺繍ミシン、レーザーカッターといった機材のオペレーションや現場での運営に携わる。
2017年にジャーナリストとしてフリーランスでBRUTUS、WWDJAPANなどに執筆や企画提供。またDJとして2020東京パラリンピックの開会式に出演。
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