ADVERTISING

トレンドに依存しない価値、「アートブックフェア」の変革と現在

TABF2024記録写真 Photo : Hajime Kato

TABF2024記録写真 Photo : Hajime Kato

TABF2024記録写真 Photo : Hajime Kato

 「TOKYO ART BOOK FAIR(以下、TABF)」が今年も開幕する。近年、アートやカルチャーに関心のある層を中心に大きな盛り上がりを見せる「アートブックフェア」。その人気は日本国内のみならず、台湾や韓国といったアジア圏にも広がりを見せる。2009年に誕生した日本におけるアートブックフェアの草分け的存在として知られるTABFは、今年15回目を迎え、週末ごとに約280組が入れ替わり、合計約560組が出展する初の“2週末開催”を採用。その人気の拡大と勢いを感じさせるTABFの軌跡と現在地について、同ブックフェアを運営する一般社団法人 東京アートブックフェアの中心メンバーである編集者の黒木晃に聞いた。

ADVERTISING

TABFの歩み

 「アートブックフェア」とは、アートブックやZINEに特化した展示販売イベントで、国内外の出版社やギャラリー、アーティストなどが出展し、来場者と直接コミュニケーションをとることができる空気感も人気が高い。今年で15回目となったTABFが誕生するきっかけとなったのは、ニューヨークで開催された「NY ART BOOK FAIR」に、書店「ユトレヒト(UTRECHT)」の当時のオーナーであった江口宏志と雑誌「PAPERBACK」のメンバーである東直子らが参加したこと。両者に加え、2006年に開催された第1回「NY ART BOOK FAIR」も訪れた現代美術家のミヤギフトシなどが立ち上げメンバーとなり、「でもインディペンデント出版の受け皿となるアートブックフェアを開催しよう」という考えから第1回の開催に至った。

 立ち上げ当初は「ZINE’S MATE」という組織名で、ユトレヒトやペーパーバックのメンバーが中心となり運営。その後、2015年に江口から書店「POST」の中島佑介へとディレクターを交代し、twelvebooksの濱中敦史の運営メンバー加入を経て、2017年に「一般社団法人 東京アートブックフェア」を設立し、現在の運営体制となった。

 同法人は、フェア開催のほか、出版事業や海外フェアとの共同事業を展開。2024年には出版事業として「Publishing Publishing Manifestos」「Die Hefte ステファン・マルクス アーティストブック大全」を刊行した。韓国・ソウルのアートブックフェア「UNLIMITED EDITION」との協働企画をはじめ、海外のアートブックフェアとの連動企画も積極的に開催。今年はシンガポールのインディペンデントリサーチラボ「Atelier HOKO」による展示「BOOK?」の日本巡回展をTABFとして主催している。

東京都現代美術館での開催が契機に

 2009年の初回開催から、出展者80組に対し来場者は4000人が来場。「初開催の頃から、会場を埋め尽くすほどの来場者数と熱気があり、回を重ねるごとに、出展者と会場の規模拡大と比例して、来場者数も増えていった」と黒木は振り返る。特に10周年の節目として東京都現代美術館に会場を移した2019年には、来場者数が3万5000人を超えるなど、大きな飛躍を遂げた。美術館での開催を機に、アートブックに関連した企画展、国際的なアーティストらとのコラボレーションをより積極的に実施することで、国内外のアートシーンとの結びつきを強化したことは国内外のアートシーンでも認知を一層広げる契機になったという。コロナ禍を経て一度落ち込むも、2024年開催時には2万人以上が足を運ぶなど、その人気は定着している。

TABF2024記録写真 Photo : Hajime Kato

TABF2024記録写真 Photo : Hajime Kato

 主な客層は、アートやカルチャーに対して関心が高い20〜30代。アジア圏を中心に海外からの来場者も多いという。また、最近ではTABF立ち上げ当初に20〜30代だった来場者や出展者が子育て世代となり、子どもを連れて来場・参加する姿が多く見られるようになったことから、近年では子どもと一緒に楽しめるアートブックの企画展示や、託児所サービスも展開している。

ブックフェアは「コミュニティ」へ

 現在、さまざまなアートブックフェアが世界各都市で新たに立ち上げられ、その数は年々増加傾向にある。古くから続く歴史のあるフェアは、TABFと同様に美術館やアートギャラリーなどに会場を移して規模を拡大しているケースも多い。開催を続けることで、販売や流通という役割を超え、ローカルなコミュニティの形成や、国内外の出版社、アーティストらとの交流、ネットワークの場としても重要な役割を担う存在として、その立場は変化しつつあるという。

 黒木は、世界的なアートブックフェアの人気の理由を「誰もが手に取りやすい『本』のイベントであるという気軽さと、『アート』イベントとしての独創的なイメージや期待値が、幅広い層の集客に繋がっているのでは」と分析する。このほか、都市や地域の名前を冠するアートブックフェアでは、その地域や国の独自性、ローカリティを出展者、来場者、会場全体の雰囲気から感じることができる観光的な体験も魅力の一つとして指摘する。

日本と同様にアートブック人気が高い台湾では、観光名所「台北101」内の台湾文化セレクトショップ「Parade Taiwan」に、台湾のインディペンデントなアートブックフェア「草率季(Taipei Art Book Fair)」の常設ショップ「NMHW(No More High Words)」が誕生。台湾では本やアートが好きな若者を指す「文化青年」ブームが起こっているという。

Image by: FASHIONSNAP

「本来の価値はトレンドとかけ離れた部分にある」

 TABFは国内最大のアートブックフェアへと成長する一方で、運営チームは「出展者の固定化」や「応募数の増加による新規参加障壁の高まり」など、規模の拡大を原因とした課題も抱えていたという。そうした中で、2023年からTABFに協賛している芝パークホテルからの申し出を受けたことや、運営チームの世代交代も見据えた考えから、同ホテルを会場に今年5月に新たなブックフェア「TOKIO ART BOOK FAIR」を開催。TABFのZINE’S MATEエリアのディレクターを担当していた黒木と、昨年度のTABFでドイツの現代アートブックシーンを紐解く展示「Doitsu Art Buchmarkt」を担当した角田芽央子が中心メンバーとなった。

TOKIO ART BOOK FAIR 2025記録写真 Photo : Naoto Date

 TOKIO ART BOOK FAIRでは、出版社同士のネットワークを重視し、運営チームが選出した18組のホスト出展者が、交流のある友人や、おすすめの出版社らをゲスト出展者として推薦する招待制にするなど、従来のTABFとは異なる仕組みを採用。また招待出展者の中で最低1組はこれまでTABFに参加したことがないことを条件とすることで、新たな参加者への広がりも目指したという。出展者数は約54組と、約300組が出展するTABFの1/5程度だが、出展者同士の交流を強めるネットワークの場という役割を重視した取り組みとなった。

TOKIO ART BOOK FAIR 2025記録写真 Photo : Naoto Date

 黒木氏は「アートブックフェアの盛り上がりは世界的に見てもある種の過渡期にあるのでは。アートブックの本来の価値は、人気やトレンドとかけ離れた部分にある。アートブック、ZINEなどを一過性のトレンドとして捉えるのではなく、その背景にある文化的意義を継続して伝えていくことで、今後の出版文化の有意義な変化につながれば」と展望を語る。個人の趣向が細分化され、SNS上ではアルゴリズムの最適化によって「新しいもの」と出会いにくくなっている現在。アートブックに限らず文学作品の展示即売会「文学フリマ」も1日あたりの来場者数が1万人を超えるほど盛況を見せ、大手書店にも個人出版の書籍を取り扱う棚が用意されるなど、個人が制作した「本」を取り巻く熱狂は拡大している。現代人が知的好奇心を満たすための行動は、手触りや対話、自らの足によって予期せぬ出会いを探し出す、アナログな方向に再びシフトしつつあるのかもしれない。

最終更新日:

◾️TOKYO ART BOOK FAIR 2025
日時:2025年12月11日(木)〜12月14日(日) 、12月19日(金)〜12月21日(日)※1週目と2週目で出展者が異なる
営業時間:11:00〜18:00(最終入場時間 17:30)※各週初日のみ12:00〜19:00(最終入場時間18:30)
会場:東京都現代美術館 企画展示室地下2階、エントランスホール ほか
所在地:東京都江東区三好4-1-1
入場料:日時指定オンラインチケット 一般1000円+発行手数料165円、小学生以下無料、当日券 1200円(販売は各日16時まで、予定枚数に達した時点で終了)※一部のイベントには別途参加費が必要
公式サイト
チケット予約サイト
◾️TOKYO ART BOOK FAIR:公式インスタグラム
◾️ZINE’S MATE:公式インスタグラム
◾️TOKIO ART BOOK FAIR:公式インスタグラム

FASHIONSNAP 編集記者

橋本知佳子

Chikako Hashimoto

東京都出身。映画「下妻物語」、雑誌「装苑」「Zipper」の影響でファッションやものづくりに関心を持ち、美術大学でテキスタイルを専攻。大手印刷会社の企画職を経て、2023年に株式会社レコオーランドに入社。ファッション雑貨、アクセサリー、繊維企業を中心に取材。

ADVERTISING

現在の人気記事

NEWS LETTERニュースレター

人気のお買いモノ記事

公式SNSアカウント