
Image by: ASICS Walking

Image by: ASICS Walking
1983年の誕生以来、その優れた歩きやすさで多くのビジネスマンを支えてきた「アシックスウォーキング(ASICS Walking)」。アシックスが誇るスポーツテクノロジーを注ぎ込んだレザーシューズは、高い実用性を支持されてきた一方、ファッションの文脈で語られる機会は決して多くはなかった。
しかし今、そのイメージが大きな変革を遂げようとしている。きっかけは、今年1月にイタリア・フィレンツェで開催された世界最大級のメンズファッション見本市「ピッティ・イマージネ・ウオモ(Pitti Immagine Uomo)」への初出展だ。そこで提示されたのは、シューズの内部構造を解体してその機能性を可視化する展示手法と、現代のストリートやモードにも共鳴する洗練されたヴィジュアル。世界のバイヤーやメディアが注目したのは、ウェルビーイングへの意識が高まる現代における、クラシックなレザーシューズに代わる「合理的で適切な新しい選択肢」としての姿だった。
40年以上の歴史をもつアシックスウォーキングは、なぜ今新たなアプローチへと歩を進めたのか。アシックス商事の鈴木徹氏と三浦裕司氏に、挑戦の背景と手応え、描く未来像を訊ねた。

(左から)鈴木徹、三浦裕司
Image by: FASHIONSNAP(Masaki Kiyokawa)
■鈴木徹(すずき とおる)
アシックス商事株式会社 国内事業統括部 事業戦略本部 ブランド戦略部 ブランド戦略チーム アシスタントマネージャー。「アシックスウォーキング」のマーケティングやプロモーションなどを担当。
■三浦裕司(みうら ゆうじ)
アシックス商事株式会社 国内事業統括部 事業戦略本部 ブランド戦略部 プロダクト戦略チームに所属。「アシックスウォーキング」の商品開発を担当。
目次
40年目の再定義、なぜ今「ファッション」観点でアプローチするのか?
── アシックスウォーキングは40年以上の歴史がありますが、このタイミングでファッション観点からの発信を強化している理由を教えてください。
鈴木徹(以下、鈴木):私たちは約40年、実用的なシーンを中心にお客様に評価をいただいてきました。一方で、ファッションという文脈で見ると、まだご存知ない方も多い。これからのアシックスウォーキングの成長を考えたとき、今まで接点のなかった方々に知っていただくことが不可欠だと考えたのが発端です。
2025年からは、3月にGINZA SIXで開催したブランドの理念を伝える特別展示「ASICS WALKING RUNWALK GALLERY」や、7月に行った「ランウォーク(RUNWALK)」シリーズの最新モデル「ランウォーク セブン(RUNWALK 7)」のメディア向け発表会を通じて、ファッション感度の高い層へ向けた発信を進めてきました。「変革」というより、「より多くの方に知っていただきたい」というシンプルな思いに基づいています。

Image by: FASHIONSNAP(Masaki Kiyokawa)
── 「デザインの変化」もあったとお聞きしましたが、具体的にどのようなものでしょうか。
鈴木:特にメンズでは、スーツからセットアップへ、あるいはリモートワークの普及などにより、ビジネススタイルのカジュアル化が進みました。それに合わせ、靴も変わらなければならないと考えました。
ドレスシューズの「ランウォーク」シリーズは1994年にスタートし、3~4年おきに進化をしてきたのですが、実は先代の「ランウォーク シックス(RUNWALK 6)」から昨年7月に発売した「ランウォーク セブン」まで、11年間も開発期間が空いているんです。ランウォーク シックスはマスターピースとして自信を持っていましたが、11年も経つとスーツのシルエットは細身からボリュームのあるものへ、丈感も変化します。そういった中で、今の服装に合うシルエットへ見直す必要がありました。

「ランウォーク セブン(RUNWALK 7)」シリーズ
Image by: FASHIONSNAP(Masaki Kiyokawa)
加えて、この11年でスポーツテクノロジーも格段に進化しました。デジタル面の発達もあって素材の配合や技術が広がり、例えば衝撃緩衝材「ゲル(GEL)」も、以前はジェル状だったものが、今はスポンジと混ぜて発泡させた、軽量でありながらクッション性を維持した素材へと進化しています。そうした技術の進化を踏まえ「今の時代に適切なアシックスウォーキングのドレスシューズ」を突き詰めた結果が、今のデザインに反映されているんです。また、ドレスシューズ以外にも、オフィスカジュアルスタイルに合わせて履けるようなつま先にボリュームのあるデザインやスニーカーデザインが増えたことも、変化のひとつですね。


「ランウォーク」シリーズのアーカイヴ(左から「RUNWALK ZERO <WA1303>」、「RUNWALK I <WA1524>」、「RUNWALK II <WAH607>」、「RUNWALK III <WAP607>」)
Image by: FASHIONSNAP(Masaki Kiyokawa)
100年変わらなかった革靴の世界に、“デジタル”のような進化を
── プロダクトがもつポテンシャルと、世の中のイメージの間に「ズレ」を感じていたのでしょうか?
三浦裕司(以下、三浦):感じているのは、ズレではなく世の中の変化です。健康や機能性への関心が高まる中で、アシックスウォーキングに対する期待値が私たちの想像以上に上がっていると感じています。
鈴木:私たち自身もポテンシャルを再認識しています。コロナ禍を経て多くの人の足がスニーカーの着用に慣れてきた中で、スニーカーと変わらない感覚で履けて、かつファッションとして成立するプロダクトを作れることが私たちの強みだと考えています。ランニングシューズをはじめ、アシックスグループ全体でブランド価値やプレゼンスを高めてきた勢いも背景に、私たちの強みが社会のニーズとうまくマッチしてきているのだと思います。

Image by: ASICS Walking

Image by: ASICS Walking
── 三浦さんは過去にヨーロッパで靴のデザインをされていたそうですが、その視点から見て、アシックスウォーキングの強みはどこにあると感じますか。
三浦:紳士靴の世界では、1870年代後半に開発されたグッドイヤー・ウェルテッド製法が、今なお伝統を象徴する存在として高く評価されています。つまり、構造の基本は100年以上大きく変わっていないとも言えます。私たちは、製法の優劣ではなく、そこに新たな機能価値をどう加えられるかを考えてきました。ランウォークでは、ソールやヒール、インナーソールにアシックスのスポーツシューズで培ったテクノロジーを取り入れ、革靴にこれまでとは異なる履き心地と機能性を提案しています。
それはちょうど、フィルムカメラの世界にデジタルカメラが登場したことに似ているかもしれません。デジタルという新しい機能がカメラを次のステージへ引き上げたように、私たちも革靴の世界にスポーツテクノロジーという別のベクトルから、「機能性の向上」という新しい価値を加えようとしています。
似たようなコンセプトのブランドは他にも存在しますが、アシックスウォーキングの靴は履き心地のレベルが違うと感じています。それは、アシックススポーツ工学研究所(通称:ISS)で研究・開発された機能や素材が、他社・他ブランドの類似製品とは根本的に異なるからです。だからこそ、一度履いていただくとリピート率が高いのだと思います。

Image by: FASHIONSNAP(Masaki Kiyokawa)
鈴木:もうひとつの強みは、アシックスグループの中でも、日本のシューズブランドの中でも珍しい、「歩く」ことに特化しているという点です。走ることと歩くことの運動強度の違いや、足への負荷のかかり方の違いなどを研究し、ランニング由来のテクノロジーを「歩く」ことに応用させている。これは私たちにしかできないユニークな点であり、強みです。
「想像を上回る好反応」 メンズファッションの聖地・ピッティ初挑戦で得た手応え
── 今年1月、ピッティ・イマージネ・ウオモに初出展されました。この挑戦の狙いを教えてください。
鈴木:理由はシンプルで、海外を起点としたメンズファッションの文脈で情報発信をしようと考えた際、注目が集まるのがピッティだったからです。ピッティがシーズン毎に設定するテーマやメンズファッションの潮流に合わせて、ドレスシューズからカジュアルなレザースニーカー、アクティブなシーンに向けたスポーツウォーキングシューズまで、アシックスウォーキングのデザインラインナップを全方位で見せると同時に、強みであるテクノロジーを前面に打ち出すべく「分解パーツ」を用いた展示を行いました。



ピッティでの出展ブース
Image by: ASICS Walking
カタログをはじめとしたクリエイティブも、これまでは日本国内向けに作られたものしかなかったので、ピッティに合わせてモデルや制作スタッフも変え、海外に発信していくための世界観を作り直しました。
三浦:健康や機能性への関心が高まる時代において、私たちが表現したいことと市場ニーズが一致する場所でした。




アシックスウォーキングの理念を表現したヴィジュアル
Image by: ASICS Walking
── 現地での反応はいかがでしたか?
三浦:正直、とても反応が良かったです(笑)。
鈴木:本当に想像以上でした。欧州でアシックスのランニングシューズとスニーカーの認知度や支持が既に高く、アシックスブランドへの期待がとても高まっていたんです。ブースのアシックスのロゴマークを見て多くのメディアやバイヤーの方たちが足を止めてくれたのですが、そこにレザーシューズがあるのを見て「これは何だ?」と驚く。「初めて見たけど、アシックスだから履き心地は良いはずだ」と、こちらが説明する前から好意的な印象を持っていただけたのはありがたかったですね。
今回のピッティが、アシックスウォーキングのコンセプトやプロダクトを改めて知り、理解していただける良い機会になりました。

ピッティでの出展の様子
Image by: ASICS Walking
── 大反響だったんですね。今回評価されたポイントは、どこにあると考えていますか?
三浦:アシックスウォーキングの核を整理し、可視化できたことが評価につながったのだと思います。「歩く」という基本機能を支える構造や素材を分解パーツで示し、設計思想を明確にしたことで、私たちが説明する前にその機能構造や本質を理解していただけました。
さらに、スポーティからドレスまでのラインナップを提示することで、幅広いライフスタイルへの対応力を表現できたことや、展示やヴィジュアルを統一感のある洗練されたトーンで構成し、世界観を総合的に伝えられたことも大きかったと考えています。
鈴木:加えて評価が高かったのが、ドレスシューズ「ランウォーク セブン」の靴底の構造ですね。私たちのドレスシューズには、外観の品格を保つための「薄さ」と、歩行時の「衝撃緩衝性・強度」を両立させるために、陸上競技用に開発されたクッション材「フューズゲル(fuzeGEL)」や「エーハー(AHAR)ラバー」を採用しています。パーツを可視化したことで、「アシックスのテクノロジーを応用し、歩きやすさと美しいシルエットを追求している」というコンセプトを一目で伝えることができました。

ピッティでの分解パーツによる展示の様子
Image by: ASICS Walking
── 展示していた中で、特に評判が良かったモデルはどれですか?
三浦:他に類を見ないという点で、ドレスシューズのラインは全般的に評価が高かったです。また、アシックスの中でも「ロングウォーク」に特化した機能をもつスポーツウォーキングシューズの「GEL-RIDEWALK 2 GTX」も、歩く際に自然に前に足が出るように設計されている、といった独自の機能や特徴を説明すると、皆さんとても感銘を受けていました。




ドレスシューズ「RUNWALK」シリーズの「RUNWALK 7」
Image by: FASHIONSNAP(Masaki Kiyokawa)
デザイン面では、トレンドのローファーやダブルモンクなどは人気でしたし、ゲルビズ(GEL-BIZ)シリーズのような、カジュアルな見た目でありながらソール内部全体にスポーツテクノロジーを搭載したデザインも評価が高かったです。
また、飾り穴やキルト飾りといったクラシックな革靴のディテールを取り入れながら、ブランドを象徴するアシックスストライプを配したスニーカーは、これまでにない新しい提案として好反応を得ました。スニーカーブームに続く流れとしてレザーシューズへの回帰が進む中で、アシックスならではのスポーツテクノロジーと伝統的な意匠を掛け合わせたこのアプローチに、大きな可能性を感じています。

「RUNWALK TRAD SNEAKER LUX」(WINEとWHITE)
Image by: FASHIONSNAP(Masaki Kiyokawa)
年代や性別を超えて「歩く」時間をサポートする存在へ
── ピッティでの成功を受け、今後の海外展開の予定は?
鈴木:パリやロンドンの主要百貨店、さらにドバイや韓国、ブラジルのセレクトショップなど多方面から熱烈なオファーをいただきました。最近は国内でもインバウンドのお客様の売上比率が上がっており、今回の取り組みは、今後の海外展開を具体化する上で有意義な機会となりました。

Image by: ASICS Walking
── 最後に、今後の展望を教えてください。
鈴木:世代を超えて、より多くの方々に「履きたい」と思ってもらえるブランドにしていきたいですね。そのために、インスタグラムやウェブでアシックスウォーキングを知っていただいた方の期待に応えられるような商品作りやプロモーション施策を強化していく予定です。そして次なるステップは、ウィメンズの強化。メンズの良い流れを波及させ、ウォーキングカテゴリー全体を押し上げていきたいです。





「アシックスウォーキング」のウィメンズコレクション
Image by: FASHIONSNAP(Masaki Kiyokawa)
三浦:今は若い世代の方も、機能性や履きやすさへの意識が高まっています。今後は世代で区切るのではなく、世代を超えて選ばれるブランドへと発展していければと思います。
鈴木:ウェルビーイングが重視される現代において、「歩く」という行為は自分と向き合う大切な時間として、より多くの方々に注目されていくはずです。その時間を支える存在として、これからも「履いて歩いてみたい」と思っていただけるものづくりを続けていきたいですね。

Image by: FASHIONSNAP(Masaki Kiyokawa)
最終更新日:
PAST ARTICLES
【インタビュー・対談】の過去記事
RANKING TOP 10
アクセスランキング













