
Image by: FASHIONSNAP

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”完全に新しいデザイン”はもはや存在しないとさえ言われる現代のファッションシーン。既存のトレンドやスタイルが消費・再生産されるサイクルの中で、「従来の服づくりの手法を踏襲しても意味がない」「僕らの世代は”もう一つ先”に進めなければ」と、真摯な情熱と探究心で独自のクリエイションを模索するのが、デザイナー 池田友彦が手掛けるブランド「ベメルクング(bemerkung)」だ。
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「コム デ ギャルソン オム プリュス(COMME des GARÇONS HOMME PLUS)」で約8年間パタンナーとして経験を積み、2025年秋冬シーズンにデビュー。3シーズン目にして早くもランウェイショー形式での発表を選択した2026年秋冬コレクションのテーマは、「Beyond Reframing」。そこで池田が示したのは、パタンナーならではの視点と手作業から生み出された実験的デザインが喚起する、「服」そのものの根源的な面白さと楽しさだった。

「皆と同じようなことをやって意味があるのか?」との考えから、従来の服作りの手法を踏襲せず、「衣服のパターンの構造、機能性を再解釈して作業的にデザインしていく」をテーマに服作りを行う池田。ファーストコレクションでは、大量生産品のTシャツを解体・再構築するというアプローチを、セカンドコレクションでは”「シャツ」がシャツとして成立する理由”をパターンの視点から解析・分解・再構成し、古着や既製品のシャツを用いて、ワークウェアの実用性とテーラリングの構造美のバランスを模索したコレクションを展開した。
そんなベメルクングの記念すべきファーストショーの舞台となったのは、高い天井と白い壁や床に囲まれた空間が印象的な、東京・代官山の「ZAspace」。ショー会場としては少々手狭にも思える空間に詰めかけた観客たちの期待感と熱気に包まれる中、アップテンポで力強いビートが響くBGMとともに、ショーがスタートした。

2026年秋冬コレクションの製作の起点となったのは、「視点の転換」。テーラードジャケットやスラックス、シャツといったフォーマルでクラシックなアイテムをベースに、縦線を横線に、前身頃を後身頃に、裏を表にと構造を反転させたり、通常とは異なる位置にウエストを付け、穴を開けて足を通せるようにしたアシンメトリーなパンツなど、衣服の基本的なデザインの枠組みを実験的に変化させることで、新たな面白さや可能性を模索したコレクションを披露した。


さらに、フォーマルなスーツをフーディーやスウェットパンツ、Tシャツ、デニムといったストリート文脈のアイテムとドッキングさせたり、黒やグレーが基調のアイテムにイエローやオレンジ、グリーンなどの原色や、PVC素材のクリアカラーを取り入れることで、異なるテイストや要素を融合した。
また、前シーズンでのシャツへのアプローチと同様に、今回は「ジャケット」がジャケットとして成立する要素やバランスを探求。「人々は腰ポケットや袖のパーツを『ジャケット』と記憶しているのではないか」という仮定から、ジャケットの腰ポケットをヒップに付けたスウェットパンツや、フロントに付けたフーディー、前裾からテーラードジャケットの裾を覗かせた裏毛のジップアップフーディー、前身頃の肩部分からインサイドアウトのジャケット袖が垂れ下がったTシャツなどが生まれたという。


そして、今季のベメルクングのコレクションに遊び心をもって散りばめられているのは、「パタンナーの視点」だ。例えば、アクリル定規がぐにゃりと変形したようなデザインの「コウタ オクダ(KOTA OKUDA)」とのコラボレーションジュエリーは、パタンナーが製図の際に用いる必需品の一つである「方眼定規」がモチーフになっている。
シャツやカットソーの胸元やフロントには、「CF(センターフロント/前中心)」「bias(バイアス)」の文字や、布地の向きを表す「地の目」といったパターンを引く際に用いられる記号がプリントされ、シャツには生地の耳(端)に織り込まれた原産国や素材名をそのままデザインとして落とし込み、ジャケットやベストの毛芯はあえて剥き出しになっている。いずれも、パタンナーをはじめとした作り手側が日常的に目にしているものだが、完成した状態の服を買って着ることが常の一般的な受け手にとっては、あまり見慣れないものだ。


普通は見ることができない服の内側の構造や素材、服が作られる過程、パタンナーをはじめとした作り手の存在やその仕事の痕跡といったものが、遊び心ととともに服へと落とし込まれた今回のコレクションは、受け手に洋服の作り手や製作過程へと意識を向けさせる効果があるという意味でも、「視点の転換」を促していると言えるのではないだろうか。
もっとも、インサイドアウト(裏返し)やドッキング、服の内部や製作過程をデザインとして見せる手法は、例えば池田の古巣であるコム デ ギャルソンや「メゾン マルタン マルジェラ(Maison Martin Margiela)」をはじめ、既に多くのブランドが過去に提案してきたものでもある。

それに対して池田は、「コレクションを見て『〇〇っぽい』と思う人もいるかもしれないが、それは僕自身も狙ってやっている部分でもある。だからこそ、ジャケットのインサイドアウトもただその1つだけで完結するのではなく、例えば縫製途中で止めてそのままにしたり、別のアイテムや素材とドッキングしたり、色を取り入れてみたりと、複数の要素を組み合わせて表現することを目指した。そうすることで、既にあるものを”もう一つ前”に進めたいという思いがあった」と語る。その言葉を聞くと、今回のコレクションのタイトルがただの「Reframing(視点の転換)」ではなく、「Beyond Reframing(視点の転換の先へ)」とされていることの意味が腑に落ちる。
今回のショーで提示された服が、真に既存の服や手法の”その先”に辿り着いているかどうかについては、評価が分かれるかもしれない。しかし少なくとも、既にあるものを明確に理解した上で、「衣服のパターンの構造、機能性を再解釈して作業的にデザインしていく」という独自の手法と視点から”その先”を探求した結果生まれたデザインであり、それがフレッシュでチャーミングな、今の時代の中で魅力的なシルエットやスタイルとして成立していることは事実だろう。


ファッションブランドが多くの人の支持を集めるには、「ストーリー」が重要だと言われることがある。それは、服やコレクションに個人的あるいは社会的なストーリーや感情、メッセージなどが載せられていることで、人々はより共感し、愛着を持ちやすいからだ。
一方ベメルクングの服は、「衣服のパターンの構造、機能性を再解釈して作業的にデザインしていく」をテーマに作られていることからもわかるように、そこに共感できるような”物語”や”感情”は載せられていない。ショー後の取材でも、「ショー形式での発表を選んだのは、展示が2回続いたので違うことをやりたかったから」「今回はショーだから特別ということはなく、いつも通り真摯にクオリティの高いものを作ることを意識した」と話す、池田の冷静な言葉と姿が印象に残った。
このように、同氏が作る服には意図的な物語性や感情は載せられていないのだが、今回のショーを見て筆者がまず感じたのは、「あの服はどんな構造になっているんだろう」「あのルックは何をどうスタイリングしているんだろう」「あの服はどうやって着ているんだろう」という、服そのものに対する純粋な疑問や好奇心と、そこから生まれる高揚感だった。

それはおそらく、パタンナーとして長年「服」とその構造に真摯に向き合い続けてきた池田のあくなき探究心と、そこから生まれた「服」自体の面白さや複雑性、強度に由来するものなのだろう。そしてその純粋な熱量が起点となって、見る人や着る人の心に、服そのものやそれを着るという行為の「楽しさ」や「高揚感」といったエモーションを呼び起こすのではないだろうか。
これまでの3シーズンで、自身が持つ服づくりのアプローチや技術とアイデアの引き出しを、毎回違う形でコレクションにアウトプットしてきた池田。そんな同氏に今回の”実験”の成果や手応えについて訊ねたところ、こんな言葉が返ってきた。
今回は”視点の転換”というテーマを探求したことで、シーズンではなくブランド自体の核やコンセプトにもなりうるような大事なものを見つけることができたし、「まだ新しいことができそうだ」という感覚を得ることができた。
べメルクングはまだ独自の道を歩き出したばかりだからこそ、未だヴェールに包まれたままの、まだ見ぬアイデアや手法、「視点の転換の”その先”」にあるものに、今後も期待が高まる。

「べメルクング」デザイナーの池田友彦
最終更新日:
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