
Image by: FASHIONSNAP
東京の展覧会で出会った日仏の手仕事が、次は京都・京丹後へ。昨年、六本木で開催された「ラ ギャルリー デュ ディズヌフエム トーキョー(la Galerie du 19M Tokyo)」をきっかけに、主催の「シャネル(CHANEL)」とエディトリアル コミッティのメンバーとして企画に携わったキュレーターの徳田佳世さんが対話を重ね、アートや手仕事を軸とした集落構想「あしたの畑」へと広がりました。新たな工房や点在するアートサイトを巡り、職人たちの挑戦と手仕事の魅力に触れた一日をレポートします。
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展覧会後も続く、シャネルとの対話
「あしたの畑」を企画・運営するのは、徳田さんが代表を務めるNPO法人「TOMORROW」。感動することを最上位の価値に据え、芸術文化を通じて平和を目指す活動や次世代育成のため、2016年に設立されました。
ベネッセアートサイト直島キュレーターであった経歴を持つ徳田さんは、アーティストや職人と制作に携わった経験から、自然や地域の暮らしに根づく芸術活動の場を考えるようになりました。土地を探す中で2020年に京都・丹後町にある大成古墳群を訪れ、自然や歴史、食の豊かさを知り、日本海に面する地区 間人(たいざ)に"一目惚れ"。古くから大陸との交流があり、古墳や遺跡が残るほか、漁業や絹織物「丹後ちりめん」を主力産業としてきた港町に「あしたの畑」の集落を構えることに。


それから集落内に、制作、展示、滞在、食などの役割を担う拠点を少しずつ整えてきました。目指したのは、若い世代がアーティストや職人と日常的に接し、ともに制作する経験を得られる環境です。
徳田さんは昨年の「ラ ギャルリー デュ ディズヌフエム トーキョー」に、日仏のクリエイターを結ぶエディトリアル コミッティの一員として参加。同展内の「ビヨンド アワー ホライズンズ(Beyond Our Horizons)」では、日本とフランスの職人やアーティスト、シャネルが2021年パリに設立した複合施設「ル ディズヌフエム(le19M)」のメゾンダールによる協働作品が展示されました。
作品はその後パリにも巡回。展覧会後も続いた対話から、今回のプロジェクトが実現しました。
日仏の職人技を、丹後の自然光で鑑賞
京都駅からバスで、2時間半かけて間人へ。最初に訪れたのは、元丹後ちりめん工場を活用したアートギャラリー「SEI TAIZA」です。2024年にオープンしたこのギャラリースペースでは、今回「ラ ギャルリー デュ ディズヌフエム トーキョー」で展示された作品の一部を、シャネルから寄贈・貸与する形で展示しています。

「花衝立」は、京都で「かみ添」を営む唐紙職人の嘉戸浩さん、表装の「藤田雅装堂」の藤田幸生さん、版木の「金沢 木制作所」の金沢健幸さん、シャネル傘下で花細工のアトリエ「ルマリエ(Lemarié)」による協働作品。コサージュ用の金型の形を文様として唐紙の版木に彫り、雲母(きら)刷りにより、光の当たる角度で紋様が美しく浮かび上がる作品です。この場所では髙室畳工業所と「ルサージュ(Lesage)」による「ツイード畳」の間に腰掛け、自然光のもと作品を眺める鑑賞体験を提供しています。




そのほか、漫画家の五十嵐大介さんと、柔らかいフルー生地の仕立てを専門とするアトリエ「パロマ(Paloma)」による3部作なども展示。



元織物工場が、職人の挑戦と学びの場に
続いて訪れた「間人プレイス」は、今回新たにオープンした施設です。かつての絹織物工場を改築し、職人やクリエイターが滞在しながら制作・交流し、ワークショップを開くための工房として生まれ変わりました。

空間の一部には、藤森工務店による「網代張り」、織物工房「デザイン橡(とち)」とプリーツを専門とする「アトリエ ロニオン(Atelier Lognon)」の協働作品「Okinawa」、「ツイード畳」が受け継がれています。


工房の構想に関わった木桶職人の中川さんが重視するのは、身近にあるものを使うこと。木の節や曲がった部分、日常の風景も発想の源になると話します。建物の改修でも、傷んだ箇所を修繕しながら既存の素材を活用。織機を解体した鉄骨も残し、いずれ別の使い道を考えているそうです。



屋外には、木桶の技法を用いた雨水タンクやプランター、コンポストを設置。制作過程で出る木くずも活用しながら、ゼロウェイストを目指し、資源を循環させる方法を試していくといいます。この工房でやりたいことの一つが、「丸太一本を使い切ること」。椅子やテーブルなどを制作し、残った部分や木くずの使い道まで考える。環境問題への答えを一律に求めるのではなく、それぞれの暮らしや仕事の中でできることを積み重ねていく。中川さんにとって、ここは木桶職人として環境への問いを実践する"実験の場"でもあるといいます。

木桶職人の中川周士
Image by: CHANEL
ここでは、そのものづくりの過程を、子どもを含む一般の参加者と共有するワークショップを構想しています。年齢や性別、専門性、経験の有無にかかわらず、誰もが学び、制作に関われる場を目指しています。
徳田佳世が考える、暮らしの中のアート
昼食のために訪れた「間人スタジオ」は、2021年に開設された活動拠点。築約110年の民家を、工芸作家たちと4年かけて修繕してきました。吹きガラスのシェードや、田んぼの土を混ぜた紙による襖など、建物の各所に手仕事を取り入れ、食や工芸のワークショップ、展覧会を定期的に開催しています。

「まさかシャネルさんとご一緒できるとは想像もしていなかった」。そう振り返る徳田さんですが、女性が創業したブランドであることや、ジェンダー平等を大切にする姿勢には、以前から共通の価値観を感じていたといいます。展覧会の準備から数えて、シャネルチームとの協働は3年目に。日本では、女性が立ち上げたNPOによる文化芸術活動はまだ多くないと感じる中、発信力のあるシャネルと活動できることに喜びを感じているといいます。
地中美術館、豊島美術館といった美術館づくりを経験してきた徳田さんが、今、集落に場をつくる背景には、土地の暮らしや文化への思いがあります。
「日本人が海外を旅するのは、その土地の暮らしや文化に興味があるからだと思います」
丹後の食材を、その場所の空気や光に合った料理として味わうように、アートも地域の文化とともに経験するものだと徳田さんは考えています。
「AIが『これが答えです』と示す時代に、アートや建築・工芸には『分からない』『なんだろう』『心が動く』という感覚に立ち戻らせてくれる力があると思います」
そういった感情を日常の中で湧き立たせ、繰り返し見に行く。活動を続けるなかで、そのための場を維持する仕組みも重視してきました。「以前関わった直島の美術館では鑑賞料の設定に当初批判もありましたが、スタッフの給与や光熱費を賄うことが、持続可能な運営につながる」といいます。
「経営のあり方、地域に根付いた文化のあり方を突き詰めた結果、『巨大建築でなくても美術館はできる』と考えたことが、『あしたの畑』を始めたきっかけです。それを次世代に継承していきたい、という思いです」
昼食後に訪れたのは、丹後町宮にある「宮ティーハウス」。建築家のアンナ・ヘリンガーさんと陶芸作家のマーティン・ラオホ、京都の左官職人、TOMORROWが協働して制作した半屋外のインスタレーションです。地域の土を突き固めた「版築」で壁を築き、屋根を支える木組みには、レオナルド・ダ・ヴィンチが考案したとされる、梁同士が互いに支え合うレシプロカル構造を採用しています。韓国の衣食住の伝統文化を研究する「オンジウム(ONJIUM)」とも連携し、お茶や菓子を楽しむ場としても展開していきます。


取材の最後に、徳田さんが案内してくれたのは、この地に根を下ろすきっかけとなった大成古墳群でした。かつて海を越えて人や文化が行き交った丹後。海と空が広がる景色を前にすると、作品を見ることも、ものを作ることも、食べることも、この土地の自然や暮らしとともにあるのだと感じます。工房やギャラリーを巡り、作り手の言葉に耳を傾けた一日は、手仕事の尊さと、そこに込められた職人の思いに触れる時間となりました。展覧会で生まれた交流は、シャネルとの継続的な対話を通じて、丹後の地で新たなものづくりの場へとつながっています。

TOMORROW代表 徳田佳世
Image by: CHANEL
最終更新日:
■あしたの畑 2026 REFLECTION|秋期公開
会期:2026年10月12日(月・祝)〜11月8日(日)
主催:NPO法人TOMORROW
特別支援:シャネル合同会社
詳細・予約:公式サイト
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