アジアの気鋭デザイナーを選出、「10 Asian Designers To Watch 2025」が香港で開催 今知るべき注目ブランドは?
日本からは「コッキ」「タム」が受賞

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FASHION ASIA HONG KONGが主催するカンファレンス「ファッション・チャレンジ・フォーラム(Fashion Challenges Forum)」とファッションコンテスト「10 Asian Designers To Watch 2025」の受賞デザイナーによるエキシビションが、12月上旬に香港で開催された。
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フォーラムには、大手ファッション小売企業の幹部や著名ブランドのデザイナーをはじめ、アジア内外から影響力のあるファッション業界関係者がゲストとして集結。アジア圏におけるファッションの概況やファッションビジネスにおける戦略、デザイナー同士の対談などのトークを繰り広げた。また、10 Asian Designers To Watch 2025では、香港や中国、韓国、ベトナム、日本などアジア各国から10人の新進気鋭デザイナーが選出。日本からは「コッキ(KHOKI)」のKoki Abeと「タム(Tamme)」の玉田達也が受賞した。

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目次
FASHION ASIA HONG KONGは、香港特別行政区政府によるファッション業界振興策の一環として、2016年に始動。アジアにおける、ファッション貿易やビジネス開発のハブとしての香港の地位強化を目的としている。
ファッション・チャレンジ・フォーラムでは、2016年の初開催以来、毎回ファッション・クリエイティブ業界のあらゆる分野からリーダーや影響力のある人物を招致。国内外からの参加者に、ビジネス・デジタル領域の革新や、ファッション・ナラティブの重要性、新進気鋭デザイナーの台頭、変化の激しい小売市場、変容し続ける消費者行動など、ファッション業界が直面するさまざまな課題を多角的に議論・考察するとともに、国を越えた交流の機会を提供してきた。
世界で活躍するデザイナーらが登壇し対談、Fashion Challenges Forum


ファッション・チャレンジ・フォーラムの登壇者
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今年のファッション・チャレンジ・フォーラムは、12月5日にローズウッド香港のパビリオンホールで開催。イベントの冒頭では、11月26日に発生した香港北部・大埔(だいほ)の高層マンション群での大規模火災犠牲者を追悼し、会場に集まった参加者全員が黙祷を捧げる時間も設けられた。
フォーラムでは、「セッチュウ(SETCHU)」の桑田悟史や「ロク(rokh)」のロク・ファン(Rok Hwang)、「シュシュ/トング(SHUSHU/TONG)」リュウシュ・レイ(Liushu Lei)といったアジア出身ブランドのデザイナーをはじめ、アジア内外で活躍するファッション業界関係者 総勢22人が登壇。上海ファッションウィーク組織委員会事務局長兼SFDA(上海ファッションデザイナー協会)常務副会長のリュー・シャオレイ(Lv Xiaolei)や、中国のデザイナーズブランドプラットフォーム「レーベルフッド(LABELHOOD)」共同創設者のターシャ・リウ(Tasha Liu)、「ブシュロン(BOUCHERON)」元APACプレジデントのアンドレ・ホウ(Andre Hou)などを交えながら、多様なトピックについての対談を行った。







(左から)Rok Hwang、「タンク」CEO Caroline Issa
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トークのテーマは、「The Next Chapter of Chinese Design(中国デザインの次なる章)」や「Thailand: Asia’s Luxury Retail Powerhouse(タイ:アジアのラグジュアリー・リテール大国)」、「Crafting Tomorrow: The Power of Story(明日を創る:ストーリーの力)」、「Building Your Own Brand Blueprint(独自のブランド設計図の構築)」など、アジアのファッション業界の「今」にまつわる全9つで構成。なかでも注目を集めたのは、独自の道を切り拓くデザイナーたちが語った「ブランドの生存戦略」だ。

(左から)桑田悟史、Sara Sozzani Maino、Divia Harilela
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「Crafting Tomorrow: The Power of Story」に登壇したセッチュウの桑田悟史は、ストーリーテリングの核心は「作為のなさ」にあると言及。「ストーリーを作ろうとすると偽物になってしまう。それはクリエイションから自然に湧き出るべきもの」と語る同氏は、自身が私的な情熱をもつ「釣り」をブランドの文脈に持ち込む。ラグジュアリーとは結びつきにくい「魚の匂い」さえも、自身のリアルな体験として香水に昇華させるなど、実体験に基づいた物語が顧客との深い繋がりに寄与することを示した。
また、工場の技術向上と品質維持を目的とした「キャリーオーバー(継続品番)」の重視や、無駄を削ぎ落とす「責任あるものづくり」の姿勢についても言及。ミラノを拠点に“Made in Italy”の職人技と向き合う彼ならではの、誠実なビジネスの在り方を提示した。

(左から)Liushu Lei、Kay Kwok、Tracey Cheng
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「Building Your Own Brand Blueprint」のセッションでは、対照的なビジネスモデルを持つ2人のデザイナーが、ブランドの純度を保つための異なるアプローチを語り合った。「シュシュ/トング」のリュウシュ・レイは、卸売主導の保守的な市場に左右されないため、単独(直営)店舗の重要性を強調。バイヤーが「売れない」と断じたカラーを自社店舗でヒットさせた実例を挙げながら、ブランドのクリエイティビティを守るための独自チャネルの必要性を語った。
対照的に、「KWK バイ カイ・クオーク(KWK by Kay Kwok)」デザイナーのカイ・クオーク(Kay Kwok)は、商業的な妥協を避けるため、既存の小売サイクルからあえて距離を置き、カスタムデザインやデジタル技術に特化する道を選んだと言及。ビヨンセ(Beyonce)からの衣装依頼に対し、デジタルブランドとしてのアイデンティティを貫き、現地へ赴く代わりに3Dデジタルフィギュアでの採寸を提案したという逸話を披露し、会場の関心を集めた。
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10 Asian Designers To Watch 2025の受賞者は?

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「10 Asian Designers To Watch」は、アジアで最も優れた10人の気鋭ファッションデザイナーを世界的な審査員たちが厳選し紹介するコンテスト&キュレーション展示。過去には、セッチュウの桑田悟史や「タナカダイスケ(tanakadaisuke)」の田中大資、「オーラリー(AURALEE)」の岩井良太、「ピリングス(pillings)」の村上亮太、「ユェチ・チ(YUEQI QI)」のユェチ・チ(Yueqi Qi)などが受賞している。
今年度の審査員は、OTBグループ ストラテジック・アドバイザーのアントネッラ・ヴィエロ(Antonella Viero)や、「DAZED KOREA」パブリッシャー兼編集長のギオム・リー(Guiom Lee)、「セルフリッジズ(Selfridges)」 バイイング&ブランド担当エグゼクティブ・ディレクターのジャド・クレイン(Judd Crane)、日本ファッション・ウィーク推進機構(JFWO)ディレクターの今城薫、ファッションデザイナーのフィリップ・リム(Phillip Lim)、レーベルフッド共同創設者のターシャ・リウ(Tasha Liu)など12人が務めた。




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9回目となる今回は、12月5日から7日までの3日間、香港のセントラル・ハーバーフロント(Central Harbourfront)で行われた「Clockenflap Music & Arts Festival」の会場内で、受賞デザイナーによるエキシビションを開催。世界各国のアーティストがステージでライブパフォーマンスを行う活気溢れる空間の中で、各ブランドの代表的なルックを披露した。





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今年度は、「アクト・ヌメロウーノ(ACT N°1)」のルカ・リン(Luca Lin/中国)、コッキのKoki Abe、「キット ワン スタジオ(KIT WAN STUDIOS)」のキット・ワン(Kit Wan/香港)、「ルー・ダン(LỰU ĐẠN)」のフン・ラ(Hung La/ベトナム)、「オスカー オウヤン(Oscar Ouyang)」のオスカー・オウヤン(Oscar Ouyang/中国)、「ペナルティメイト(Penultimate)」のシャン・ガオ(Xiang Gao/中国)、「スウェイイング/ニット(swaying/knit)」のシャシャ・ウォン(ShaSha Wong/中国)、タムの玉田達也、「ヤング アン サン(young n sang)」のホン・ヨンシン(Youngshin Hong)&イ・サンリム(Sanglim Lee/韓国)、「ジョン ズーシン(Zhong Zixin)」のジョン・ズーシン(Zhong Zixin/中国)の10組が受賞。12月6日には各ブランドのデザイナーたちが展示会場に在廊し、国内外のメディアや来場者との交流も行われた。










「ACT N°1」のルカ・リン
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タム デザイナーの玉田は、今回の受賞と展示への参加について「実際に現地で展示会場に来て、アジアのファッション業界を盛り上げようしている場であることを感じた。その中で、タムを選んでもらえたことがとても嬉しい」とコメント。今後、海外展開の拡大を目指すためのリサーチも兼ねて香港を訪れたといい、「今回このイベントに参加して、他の受賞デザイナーの方々との交流や作品を通して、日本とは違う空気感を感じることができてよかった。今後は国内のベースを固めるのはもちろんだが、世界に向けて発信できるような実力を付けたいと改めて感じた」と意気込みを語った。
受賞者からピックアップ、アジアの注目3ブランド
「10 Asian Designers To Watch」展の会場に集った受賞者たちの中から、FASHIONSNAP編集記者が特に気になった3ブランドのデザイナーをキャッチ。個性豊かなバックグラウンドやコンセプトが反映されたアジアの気鋭ブランドの魅力を、デザイナーのコメントともにお届けする。
ファッションを”声を上げるためのプラットフォーム”に「ACT N°1」




2025年秋冬コレクション
Image by: ACT N°1
デザイナーのルカ・リンは、1993年イタリア生まれ。マックスマーラ(Max Mara)・グループでパタンナーやデザインプロジェクトのコンサルタントとして経験を積んだ後、2016年にアクト・ヌメロウーノを設立。自身の多文化なバックグラウンドを背景に、多様性と包括性を象徴するクリエイションを展開している。
ブランドを代表する「ラッフルジャケット」には児童婚への抗議が込められるなど、ファッションを“ジェンダー平等”や”ステレオタイプとの戦い”といった社会問題に声を上げるためのプラットフォームとして活用。服づくりを通して声なきマイノリティの代弁者として活動し、変化の促進を目指している。また、イタリア製デッドストック生地の使用などサステナブルな生産体制も高く評価されている。「ヴァレンティノ(VALENTINO)」の支援や、数々のセレブリティへの衣装提供などを経て、2025年には「インターナショナル・ウールマーク・プライズ」のファイナリストに選出された。

ルカ・リン
私は、ファッションとは「声なき人々の声を届けるための、非常に力強いプラットフォーム」だと考えています。世界中の困難な状況や、普段なかなかスポットライトが当たらない人々の物語を伝えることは、私の仕事においてとても重要な要素です。世の中は、いつも楽しいことや簡単なことばかりではありません。あまり知られていない事実を、より多くの人に知ってもらうきっかけを作りたい。そのために、時にはマイノリティの方々と実際にコラボレーションをしながら、その想いを形にしています。
これからも一貫して、マイノリティの人々の声を届ける活動を続けていきたいです。単に「ACT N°1」というブランド名を広めることよりも、私たちが取り組んでいるプロジェクトの背後にあるメッセージやストーリーとその意義を、より多くの人に理解してもらうことが、私の将来の目標です。
実は、まだ日本には行ったことがないのですが、とてもエネルギーに満ちあふれた場所だという印象を持っています。現時点でまだ日本での展開はありませんが、今後何らかのプロジェクトやイベントに参加できる機会があれば、ぜひ実現したいですね。
Instagram:@act_n1
中国×アメリカの文化を織り交ぜたウェアラブルアート「Penultimate」




2026年春夏コレクション
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ペナルティメイトを手掛けるシャン・ガオは、中国・温州出身。ニューヨークのパーソンズ美術大学で修士号を取得後、ラフ・シモンズ(Raf Simons)が率いる「カルバン クライン 205W39NYC(Calvin Klein 205W39NYC)」で2年間経験を積み、2018年にニューヨークでペナルティメイトを始動。自身のルーツである中国とアメリカでの生活の双方から着想を得た、1970年代の「ウェアラブル・アート(着る芸術)」運動を彷彿とさせるコレクションを展開している。多様な素材を組み合わせたアッサンブラージュ(寄せ集め)技法と、独創的な物語性のあるクリエイションが特徴。2025年には、LVMHプライズのセミファイナリストに選出された。
なお、日本では、原宿のセレクトショップ「グレイト(GR8)」と神戸の「ムクタ(Mukta)」の2店舗で取り扱っている。

シャン・ガオ
ブランドを立ち上げたとき、私は「東洋的な要素を、いかに現代のファッション・システムやデザイン言語の中で、より鮮明に表現できるか」を深く掘り下げたいと考えました。そこで、初期の中国人移民がアメリカに渡った時代の芸術運動などに着目し、クラフト感や物語性の豊かな衣服を作り始めたんです。
2020年に上海へ拠点を移してからは、また少し視点が変わりました。中国の変化は凄まじいので、近年は古典的なモチーフだけでなく、現代の中国らしい”クレイジーなおもちゃの大量生産”のようなカルチャーもデザインに取り入れています。歴史的なものと現代的なものが混ざり合っているのが、私のスタイルですね。
今後も、今のペースを崩さずにブランドを続けていきたいと思っています。私の服は生産数も限られていますし、非常に独特な感性を持つ方々に向けたものなので、決して大衆向けではありません。今は、アイデアを練り、素材を探し、新しい表現方法を模索するプロセスそのものをとても楽しんでいます。クリエイティビティと、それを形にするビジネスのバランスが、自分の中でとても良い状態にあると感じているんです。
Instagram:@_penultimate._
彫刻とアール・デコをファッションに融合した美学を体現「Zhong Zixin」




2026年春夏コレクション
Image by: Zhong Zixin
ジョン・ズーシンは、衣服を起点に家具やインテリアなどのホームプロダクトまで展開するライフスタイル・ファッションブランドとして、2020年に上海で設立。デザイナーのジョン・ズーシンは、広州美術学院で彫刻を学んだ後、2018年にセントラル・セント・マーチンズ(Central Saint Martins)大学院のウィメンズウェアデザイン専攻を修了し、同年にロンドン・ファッションウィークに参加して注目を集めた。
ファインアートとファッションデザインという二つのバッググラウンドをもつ同氏のデザインは、芸術性とウェアラブルさのバランスが強み。レディ・トゥ・ウェアには、彫刻のような立体的な造形と女性らしいシルエットを再解釈した、独自の美学が反映されている。実家が家具事業を営んでいることから、家具やホームデコレーションからも多くの着想を得ており、現代的なアール・デコ(Art Deco)の要素をファッションに落とし込んでいる。現在はパリのショールームを拠点に活動し、日本国内では未展開。

ジョン・ズーシン
幼い頃はアーティストになりたいと思っていたので、私はファッションを学ぶ前、長年ファインアートを専攻していました。でも、自分自身で服を着ることや、服に自ら手を加えてリメイクすることに魅力を感じ、ファッションの世界に惹き込まれたんです。ロンドンへ渡ってからは、アートとファッションを融合させたいと考えるようになりました。
私は、服は単に「仕事から帰って脱ぎ捨てて、洗うだけのもの」であってほしくないんです。脱いで部屋に掛けてあるときでも、まるで一つのアートピースとして存在し続けるような、そんな服を作りたいと思っています。
今はデザインに集中して自分のブランドを探求すると同時に、ある企業のデザインディレクターも務めています。将来的には、ブランドの存在感を高めていきたいですし、私のデザインした服がもっと「レッドカーペット」などの華やかな舞台で見られるようになることが目標ですね。
Instagram:@zhong_zixin_
最終更新日:
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