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近年、俄かにその名を聞く機会が増えたファッションブランド「コッキ(KHOKI)」。2019年にデビューし、2022年にはファッションアワード「TOKYO FASHION AWARD 2023」を受賞。翌年3月にブランド初のランウェイショーを開催すると、勢いは留まるところを知らず、世界的ファッションプライズ「LVMHプライズ2024」のセミファイナリストに選出された。本稿が国内メディアへの初のインタビュー対応となるなど、顔出しNGでクリエイション活動を行うアノニマスな雰囲気のほか、1人のデザイナーがデザインするのではなくチームのメンバーが持ち回りで各アイテムの意匠を担当するといったデザインフローも特徴的だ。コッキがデザイナーを設けずチームでデザインを続ける理由とは何か。そして、「本質的に新しい服はなかなか生まれない」と考える同ブランドが見出した唯一無二のオリジナリティとは?コッキデザインチームのアトリエに伺い、ブランドディレクター Koki氏に話を訊いた。
Koki
国内デザイナーズブランドで働きながら、2019年に仲間とプライベートプロジェクト「KHOKI」を立ち上げ。2022年にプロジェクトを「コッキデザイン事務所」として法人化し、ブランドディレクターを務めている。趣味はゲームとランニング。
KHOKI 2024年秋冬コレクションより
Image by: KHOKI
KHOKI 2024年秋冬コレクションより
Image by: KHOKI
「素性を明かさないことが原動力」服好きが集まって密かに始めたプロジェクト
ADVERTISING
ー2019年にブランドをスタート。ブランドの成り立ちについて聞かせてください。
当時別々のファッションブランドだったり企業で働いていた友人同士が、本業とは違ったよりパーソナルなクリエイションを発表したいという想いで所属していたコミュニティに内緒で集まって物作りを始めたというのがプロジェクトの起こりですね。当初はブランドですらなく、2019年秋冬シーズンに開催した展示会の名前が「コッキ」だったんです。商業的な目標なども一切なく、仲の良い友人や関係者だけを呼んで、ひっそりとやっていました。
ー本業をこなしつつ、空いた時間で服作りをするというのはかなり忙しそうです。
それぞれ忙しい会社に所属していたので、平日は夜遅くに仕事を終えてから終電で下北沢にあった当時の僕の家に集まり、3時くらいまでコッキをやって、始発で家に帰ってまた仕事に行く、みたいなルーティンを繰り返していました。今考えると相当タフでしたね(笑)。20代特有のパワーがあったんだと思います。
ーKokiさんをはじめ、立ち上げメンバーの経歴は?
メンバーの略歴については公表していませんが、国内デザイナーズブランドなどファッション業界に身を置いてきた人間で構成されていました。そこから段々とコッキのファッションに対するアプローチに共感してくれる人が集まって、今のデザインチームになっています。
ー2022年にはコッキデザイン事務所としてプロジェクトを法人化しました。
最初にお話しした通り、当初は商業的な目標は一切なく、プライベートの延長のような感覚でコレクションを発表していたんですが、プロジェクト自体の規模も大きくなってきたことで本格的にコッキを商業化させようと。一つの区切りとしてそれぞれが在籍していた会社を辞め、コッキデザイン事務所を立ち上げました。
ー同年9月には「TOKYO FASHION AWARD」を受賞。すごいスピード感ですね。
「自分たちならこれくらい当然」みたいな傲りは全くなく、ここまで早かったなという感覚もないですね。2019年から継続して発表してきた成果物に対して、ようやく結果がついてきたといった感覚が近いのかもしれません。
ーコッキは「中の人」であるデザインチームのプロフィールを公開していないアノニマスな雰囲気も特徴の1つですが、あえて隠している理由は?
特定の誰かの力だけではなく、チーム全員でコッキとしてモノづくりをしているので、イメージを固定化させたくないといった意味合いが強いです。これまでコッキとしてインタビューをお受けしてこなかったのも、誰か一人もしくは数人が代表して質問に答える形を避けたいといった意図がありました。
ーそういった想いがある中で、今回初めてインタビューに対応してくれました。その心は?
もちろんイメージを固定させたくないという気持ちは今も変わっていないのですが、ブランドという消費者に服を届ける立場で、何もかも不透明すぎるのも無責任ではないかなと。僕がチームの顔という意味では決してなく、あくまでチームの総意を伝えるスピーカーとしてインタビューをお受けしようと思いました。顔や名前を出していないのは信念と社会的責任の折衷案ということで。
ー自分の名前で服を発表することでやりがいを見出すデザイナーもいると思いますが、コッキの場合は真逆ですね。
逆に素性を明かさないことが原動力になっていると思いますね。元々コッキは友人同士で集まって、ワイワイ自由にモノづくりをしていたところが原点。僕個人としても、Kokiとして名前を売りたいとは全く思いません。コッキとしてクリエイションが評価してもらえたら、それで十分です。
デザイナーの価値は特別高くない、コッキが持ち回り制でデザインを手掛けるワケ
ーデザインは全てディレクターのKokiさんが担当している?
いえ、全くそんなことはないです。製作フローとしては、まずディレクターの僕が全体のアイテム数やカテゴリー割合など、ざっくりとしたコレクション構成を考えます。ここで用意するのは本当に大まかな方向性だけがイメージできるようなラフスケッチだけで、他のデザイナーさんが描くようなデザイン画は準備しません。考えた構成を基にチームでディスカッションしてメンバーの希望などをヒアリングしながら、僕が各メンバーに適切なアイテムを割り振り、それぞれが担当アイテムのデザインを手掛ける、といった流れですね。コッキのコレクションには、生産管理がデザインしているものもあれば、パタンナーが手掛けているものもある。もちろん僕が担当しているアイテムもあります。まさにチーム全員がデザイナーといった感じですね。
ーチームでデザインを手掛けることのメリットは?
何ですかね。難しい質問です。複数人がデザインしたアイテムが混在していることでコレクションに幅が生まれるといったことはあるかもしれないですけど。逆にデザインを1人で完結させない分、製作がスムーズに進まない時があるといったデメリットはすぐに思い浮かびますね(笑)。
ー明確にこれといったメリットがない中で、チームでデザインを続けている理由は?
多分コッキでは、デザイナーというポジションの価値を、特別高く考えていないんだと思います。生産やセールスなどと同じ、デザイナーもブランドを支える1つの役割。デザイナーを置くとどうしてもそこが主役として見られてしまうので、チーム全員でモノづくりをしているといった意味を込めて、持ち回り制でデザインしています。
あとは純粋に、チームメンバーみんなでモノづくりしている感覚がとても楽しいからです。コッキは、仲間同士で集まって和気藹々と服を作っていたのが原点ですから。今までチームでコレクションを作ることに対して損得勘定はしてこなかったですし、今後もあまり考えないと思います。
ーメンバーそれぞれに個性があり、担当者によって服のデザインに幅が生まれるといった話もありましたが、逆にデザインチームメンバーの共通点を教えてください。
モノづくりに対しての“姿勢”ですね。趣味やライフスタイル、服作りのモチベーションなどはバラバラかもしれませんが、自分が作る服にどこまでのクオリティを求めるのか、そのためにどれだけ妥協せずにクリエイションに向き合えるかといった気持ちの部分は揃っていると思います。ここさえ同じ方向を向いていれば、ほかは違っていてもいいのかなと。
ーチームワークはどうですか?
チームはいい雰囲気だと思います。共通の友人を交えてみんなで登山に行ったりもしますが、前提としてビジネスパートナーなので、仕事とプライベートの線引きはしっかりしているつもりです。
ちなみに、チームメンバーはバイクや釣り、登山などアウトドア系の趣味を持っている人間が多いです。僕だけインドア派なんですが(笑)。
ーKokiさんの趣味は?
ゲームですかね。ポケモンにハマっていて。昨日もちょうどファッション関係の仕事をしている友人と集まってポケモン対戦をしました。
あとはインドアとは少し違いますが、走ることも好きです。特にルールを設けているわけではないですが、20分くらい家の近くを走って帰宅して冷水を浴びるというルーティンを冬以外は週に1〜2回のペースでずっと続けていますね。
スター・ウォーズの本、70万円超えのハンガーラック...ECでメンバーゆかりの品を販売
ー公式オンラインストア「Eye」では、コッキのアイテムのほかにデザインチームメンバーの私物などを「アーカイヴプロダクト」として販売しているのがユニークです。
オンラインストアを立ち上げるにあたり、ただコッキのアイテムを買えるだけのECサイトにしてもつまらないなと思って。ECが溢れかえっている世の中で、自分たちが消費者に提供できる価値とは何かを考えました。メンバーの私物やゆかりのあるアイテムを販売することで、コッキのモノづくりへの姿勢やリアルな目線が伝わるブランドのポートフォリオのようなサイトになればいいなと。
ーこれまで出品してきたアイテムにはどんなものがありますか?
色々ありますが、例えば昔コッキチームで遊んでいたボードゲームや僕の実家で使っていなかったアンティークの扉とか。
ー使っていない扉・・・(笑)。そんなものまで出品しているんですね。
実用性があるかどうかは別として、チームメンバーゆかりの品を値段をつけて販売することにはすごく意義があると考えています。作った服を買ってもらう以外の形でブランドとお客さんとの間にコミュニケーションの場を用意して、コッキをより近く感じてもらえたら嬉しいなと。数あるブランドの1つではなく、唯一無二のものとして認識してもらえたら嬉しいです。
KHOKI公式オンラインストア「EYE」より
ー見ると、展示会で使用していたハンガーラックが70万円超えで売れていますね。
意外と皆さん色々なものを買ってくれますね。カメラやロバの置物、メンバーの1人が昔買ったスター・ウォーズの本など、ファッションとは関係のないものも売れるので面白いです。
KHOKI公式オンラインストア「EYE」より
ー価格についてはどのように決めているんですか?
あまり深く考えてはいないですが、本当は売りたくないアイテムは高く設定しています(笑)。「アーカイヴプロダクト」でビジネスをしようとは一切考えていないので、本当に自由に値付けしていますね。
本質的に新しい服はなかなか生まれない コッキが見出した「誰にも真似できない」オリジナリティ
ー2023年秋冬シーズンには、東コレで初のランウェイショーを開催。今後の発表形式について教えてください。
今後どうやって発表するかというところはあまり考えていないですね。チームの方針として「ショーがやりたいね」となったら実施するかもしれませんが、今のところ未定です。
ただ、他のブランドのショーを見ると刺激を受ける部分は確かにあります。2024年秋冬シーズンはご招待いただいていくつかショーを拝見しましたが、タイトなスケジュールの中でしっかりしたものを作り上げていて凄いな、とリスペクトすると同時に、自分たちも何か表現したいという気持ちがふつふつと湧いてきました。
KHOKI 2024年秋冬コレクションより
Image by: KHOKI
KHOKI 2024年秋冬コレクションより
Image by: KHOKI
ーコッキはファッションプライズ「LVMHプライズ」のセミファイナリスト20組に選出されました。
セミファイナリストまで残していただいたのは有り難いですが、今の気持ちは完全にニュートラルですね。目の前の服作りに忙殺されていることもあり、プライズの結果に考えを巡らせる余裕がないというのが正直なところです。
ーブランドとしての現在の課題は?
全てですね。課題がないポイントは一つもないと思います。先ほどオンラインストア「EYE」について話したように、いかにしてお客さんにブランドの価値を感じてもらうかというプロモーションの部分もそうですし、どうやって販路を広げていくかというセールスの部分もそう。これらを全て引っくるめて服のデザインだと思っているので、今後更に突き詰めて改善していきたいなと考えています。
ープロダクト部分の課題はどのように考えていますか?
コッキではデザイナーズブランドの特徴を色濃く映したアイテムのほかに、世界各地の職人さんのクラフトマンシップを活かしたアイテムをブランド当初から継続して展開しているんですが、後者のアイテムのクオリティをどのブランドも追いつけないくらいのレベルまで引き上げたいと考えています。モードで革新的な服というのは2000年代前半までに先輩ブランドがやり尽くしてしまって、いわゆる本質的に新しい服というのはなかなか生まれづらいのかなと思っていて。ワンシーズンごとに新しいテーマを設けてコレクションの雰囲気をガラッと変えるという手法はある意味「アンチサステナブル」なのではないかという想いもあり、最近では職人さんたちの技術をいかにモダンかつファッショナブルに昇華できるかという部分に面白さを感じているんです。一度仕事をご一緒させていただいたら取り組みを継続することに意味があると考えているので、今お取り組みがある職人さんとは今後も末長くお付き合いしていきたいですね。
アメリカの伝統工芸「アメリカンキルト」を用いたアウター
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ー2024年秋冬コレクションで登場した刺繍を全面に施したパンツはクオリティと遊び心を両立していて、非常に魅力的でした。
インドの職人さんにお願いして手刺繍で仕上げていただいたアイテムですね。チームメンバーそれぞれの好きなモチーフをごちゃ混ぜにして散りばめています。有難いことに展示会でも多くの方にご好評をいただきましたが、まだまだ満足はしていないです。トラディショナルなものをそのまま服にするのではなく、生地の使い方などを工夫することで見た人が新鮮な気持ちになれる服を本当に高いレベルで作れたら、誰にも真似できない。群雄割拠のファッション業界の中でも吹き飛ばされないオリジナリティを確立できると思っています。
ーアジアを中心に海外アカウントも増えていると聞いています。ブランドの今後の展望を聞かせてください。
具体的な数字としてお話できることはないのですが、個人的に今のビジネス拡大のやり方は間違えていないと思っていて。2024年から「Seiya Nakamura 2.24」に海外セールスをお願いするようにしたことでグローバル展開もやりやすくなったと思いますし、事業拡大に伴いチームメンバーを増員することも考えています。このペースを維持しながらチームとして突き進んでいきたいですね。
(聞き手:村田太一)
■KHOKI
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