
Image by: ©Launchmetrics Spotlight

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ファッションにエレガンスへの回帰が現れつつある。それは6月にミラノやパリで開催された、2026年春夏シーズンのメンズ・ファッションウィークでも見られた兆候だった。スーツやネクタイを取り入れたスタイル、黒を中心にしたシックなカラーリング、上質で心地よさそうな素材。奇をてらわずシンプルに、上質感と落ち着きをたっぷりと。そんなファッションが我々の前に登場した。
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もちろん、ジーンズを中心とするカジュアルスタイルは健在。だが、フェード感のあるデニムはスマートなシルエットで作られ、着古した加工の服にも品格の漂うデザインが多い。スウェットでもドレスでも、古い服でも新しい服でも、エレガントに見せることが時代のスタイルとなるなら、いま改めて注目したいデザイナーがいる。ジョルジオ・アルマーニ(Giorgio Armani)だ。
1975年に設立されたブランド「ジョルジオ アルマーニ」は、2025年で創業から50年目を迎える。ブランド設立が41歳と遅咲きだったデザイナーは、一代で売上高4000億円に達する“帝国”を築いた。まさに「モードの帝王」の称号にふさわしいビジネス規模だ。
アルマーニはファッション史に燦然と輝くデザイナーだが、川久保玲やジョン・ガリアーノ(John Galliano)のように前衛的かつ大胆なフォルムで、革新をもたらしたデザイナーではない。それまで常識とされてきたテーラードの構造と素材を捉え直すことで、新しいジャケットを作り上げ、人々のファッション体験を一変させた。1970年代から1980年代にかけて、女性の社会進出が本格的に始まった時代、アルマーニのスーツは女性たちから熱烈な支持を得て、彼女たちのキャリアをサポートした。
スマートフォンのような世界を変えるプロダクトが生まれる瞬間があるように、アルマーニはジャケット一着で世界を変えた。メンズウェアから発想された服は、性別を超えて社会の価値観をも覆したのだ。
シックな美しさが浮上の兆しを見せている現在、アルマーニのコレクションには注目したい3つの要素がある。それをいまから紹介していきたい。(文:AFFECTUS)
1.エレガンスの本質を示す、凛々しいスタンドカラー
視線が集まる顔に近い襟は、ファッションにおいて重要なパーツだ。服装史を見てみると、襟に関する様々な記録が残されている。特に16世紀から17世紀にかけてのヨーロッパは首まわりがゴージャスに表現され、当時の貴族や上流階級の間で「ラフ(ruff)」と呼ばれる襞襟(ひだえり)が流行した。生地を折り重ね、蛇腹状に作り上げた円形の襟は首まわりを過剰なまでに飾り立て、威厳を示した。
現代ファッションにおいて、襟と聞いて思い浮かべるアイテムの一つがシャツ。現在のように襟が折り返す形になったのは19世紀と言われているが、折り襟以前に流行した襟の一つがグラッドストンカラーという立ち襟だった。1854年頃に登場したこのスタンドカラーの高さは、最盛期には顎にかかるほど極端なものに。イギリスの当時の首相 ウィリアム・ユワート・グラッドストン(William Ewart Gladstone)に由来したこのデザインは、黒いネクタイと合わせて着用することが当時の常識だった。
アルマーニで注目したいデザインも襟で、スタンドカラーだ。彼のコレクションには、スタンドカラーが必ずと言っていいほど登場する。グラッドストンカラーと同様に、アルマーニのスタンドカラーにはフォーマルな香りが匂う。

GIORGIO ARMANI 2025年秋冬
Image by: ©Launchmetrics Spotlight
ジョルジオ アルマーニの2025年秋冬コレクションでは、ファーストルックからスタンドカラーが登場した。ジャケットの下に着たスタンドカラーのインナーのフロントはファスナー開きで、スポーティフォーマルな仕上がりだ。

GIORGIO ARMANI 2025年秋冬
Image by: ©Launchmetrics Spotlight
上のジャケットは一見するとスタンドカラーに見えるが切り込みがあり、ノッチドラペルを立ち上がらせたようなデザイン。首元を優しく引き締める。

GIORGIO ARMANI 2025年秋冬
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GIORGIO ARMANI 2025年秋冬
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ボタンを一つだけ留めて着用したスタンドカラージャケットは、ネックラインを大きく引き下げてVネックに見せて、裾に向かって流れるシルエットを強調。また、冬のマストアイテムであるコートにもアルマーニはスタンドカラーを取り入れ、マットな質感の素材と立ち上がった襟がモデルの佇まいを一層力強いものにした。

GIORGIO ARMANI 2025年秋冬
Image by: ©Launchmetrics Spotlight

GIORGIO ARMANI 2025年秋冬
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スタンドカラーシャツはアルマーニお馴染みのアイテムだ。台襟の高さも絶妙なバランスで、アルマーニの服作りは「新しさを作る」というよりも「美しさを作る」作業に感じられてくる。2025年春夏ウィメンズコレクションでは、スタンドカラーシャツを主役に据えたルックも登場していた。

GIORGIO ARMANI 2025年春夏 ウィメンズ
Image by: ©Launchmetrics Spotlight
ネクタイを巻いた姿がフォーマルな印象を与えるように、首まわりを飾ることは社会的地位や職業を象徴することがある。つまり、襟元をどう見せるかでエレガンスにも、カジュアルにもなりうるということだ。
ファッションデザインは大胆さと複雑さに紐づけられることが多い。しかし、アルマーニの手法は違う。服と服を着る人のイメージを、シンプルかつささやかに変えていく。その理性的なアプローチで作られた一着には美しさがある。エレガンスとは主張するものではなく、香らせるもの。アルマーニのスタンドカラーは、エレガンスの本質を学ぶ手がかりとなる。
2.様々な文化をリスペクトし、モダンに落とし込む柔軟性
古代から中世にかけての、アジアとヨーロッパを結ぶ重要な交易路として知られるシルクロード。中国を起点にした複数の道筋を通じて、絹や香辛料、陶磁器といった品々が盛んに行き交った結果、仏教美術や製紙技術といった芸術や技術が東西に伝播し、各地で独自の発展を遂げる礎となった。異文化交流が人々の暮らしを豊かにした歴史は、シルクロードが単なる交易路ではなく、文化と文化が交わり新たな価値を生み出す架け橋だったことを物語っている。
「ジョルジオ アルマーニ」はミラノを拠点にするイタリアブランドだが、コレクションを見ていると様々な文化の要素が織り込まれており、その多文化的な魅力から「シルクロード」という言葉が思い浮かぶ。その代表例が、インドネシア発祥のイカット柄が登場する2022年春夏メンズコレクションだ。

GIORGIO ARMANI 2022年春夏
Image by: Courtesy of GIORGIO ARMANI

GIORGIO ARMANI 2022年春夏
Image by: Courtesy of GIORGIO ARMANI
「イカット(ikat)」はインドネシア語で「縛る」「結ぶ」などを意味し、インドネシアの絣(かすり)織物を指す。絣織物は糸で生地を括って染色することで、幾何学柄模様を生み出す技法が特徴的だ。
インドネシアの地域性を反映したイカット柄の生地は、軽やかで涼しげ。そのため、暑い夏に身につけたくなる。アルマーニは東南アジア伝統の織物を現代のリゾートウェアに昇華し、イカット柄の新たな可能性を提案した。

GIORGIO ARMANI 2024年秋冬
Image by: ©Launchmetrics Spotlight

GIORGIO ARMANI 2024年秋冬
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また、2024年秋冬コレクションにあるようにアルマーニは植物柄を多用しており、これらは江戸時代の屏風絵に描かれた、流れるような枝や花の非対称な配置、アジア各地の伝統工芸に見られる動きのあるデザインに通じるものを感じさせる。
2024年秋冬コレクションには、文化の多様性を思わせるエレガンスが漂う。明るい色を用いても、落ち着いたトーンが全面に押し出され、メリハリの効いた色使いとは一線を画している。

GIORGIO ARMANI 2024年秋冬
Image by: ©Launchmetrics Spotlight

GIORGIO ARMANI 2024年秋冬
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素材の質感にも注目したい。コート、ジャケット、パンツに使われた生地の表面は、楊柳(ようりゅう)生地に似た模様が浮き出ている。黒いノーカラーコートの素材に至っては、楊柳というよりも川の流れや地層を想起させた。自然のダイナミズムが描写されたかのようで、黒一色で描かれた水墨にも似た迫力だ。
アルマーニの服には一つのカルチャーに限定できない個性がある。どこかの国のスタイルのようで、どの国のスタイルともわずかに異なる。様々な価値観をスーツやパンツといった現代のアイテムに乗せ、シンプルな形で日常的に着やすい服にデザインしたことが、アルマーニが世界中の人々から愛されてきた理由ではないだろうか。
一つの価値観に縛られることはない。常識にとらわれることもない。しかし、その際は色を落ち着かせ、シルエットを落ち着かせ、スタイルを落ち着かせる。 カルチャーを主張しすぎれば、対立が起きてしまう。柄、色、形。異なる背景から生まれた服でも、互いの良さを大切にして融合すれば、そこに新たな美しさが生まれる。
文化は、当事者だけでなく、見る者にも新たなインスピレーションを与える力を持つ。大切なのは文化をどれだけ尊重し、新しい形で紡ぎ出していくかだ。アルマーニのデザインには、その繊細な感覚が息づいている。
3. 服の内側に宿る、エレガンスを完成させる最後のピース
ファッションの歴史はシルエットの歴史とも言える。クリスチャン・ディオール(Christian Dior)のニュールック、イヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)のトラペーズライン、ピエール・カルダン(Pierre Cardin)のコスモコール・ルックなど、特徴的なカッティングの服には特徴的な名前がつけられてきた。
21世紀になってもシルエットが注目される傾向は見られ、スキニーシルエットとビッグシルエットは、現在も「ファッションの歴史がシルエットの歴史」であることを物語る事例と言えるだろう。
ファッションは体を主張するデザインが主流で、アルマーニと同時代に活動してきたジャンポール・ゴルチエ(Jean Paul Gaultier)は、コルセットやコーンブラといったデザインで肉体を誇張する形を発表してきた。一方アルマーニは、服装史に反旗を翻すかのごとく、身体のラインを過剰に表現しない。そんなアルマーニの思想は、彼にとって思い出深いニューヨークでも再現された。
2024年10月、ニューヨークで「ジョルジオ アルマーニ」2025年春夏コレクションのショーが開催された。メインライン「ジョルジオ アルマーニ」のショーを、ミラノ以外で開催したのはこのシーズンが初めてだった。
ミラノファッションウィークの公式カレンダーから外れた日程と場所でショーを開催した理由は、マディソンアベニューに立地する新複合ビルのオープンに合わせるため。アルマーニにとってニューヨークは忘れ難い場所。彼が1970年代後半に初めて見たニューヨークは、大きな刺激と興奮をもたらした。
飛躍のきっかけとなった街へのオマージュとも言える同コレクションでは、アルマーニエレガンスの原点が披露された。

GIORGIO ARMANI 2025年春夏 ウィメンズ
Image by: ©Launchmetrics Spotlight
アルマーニの服は身体をことさらに大きく強く見せることがない。シルエットには流動性があり、ボリューミーなパンツは歩行のたびに揺れる布地の様子が優雅だ。

GIORGIO ARMANI 2025年春夏 ウィメンズ
Image by: ©Launchmetrics Spotlight

GIORGIO ARMANI 2025年春夏 ウィメンズ
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アルマーニが世の中に知れ渡るきっかけとなった逸品といえば、メンズのテーラードジャケット。芯地や肩パッドなど、それまでジャケットに必要とされていた副資材を取り払い、柔らかく上質な生地で身体のラインを拾わないナチュラルシルエットを作り上げた。
広い衿幅に作られた、重厚なピークトラペルのダブルジャケットでも、アルマーニは硬さを取り除いた。肩先を少しドロップさせて柔らかさを作ったほか、シルエットに強弱はなく、フラットで直線的。「男性の体を包み込む筒に、ラペルと袖がついただけ」。極端な表現をすれば、そんなメンズジャケットだ。

GIORGIO ARMANI 2025年春夏 ウィメンズ
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チェック柄で仕立てたウィメンズのワイドパンツも、なめらかで美しい。タックなどで布地のボリュームを出すテクニックは用いず、分量のみで形をコントロールしている。シルエットの幅広さに対して、股上はやや浅めで上品に見せる隠し味になっている。

GIORGIO ARMANI 2025年春夏 ウィメンズ
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アルマーニのコレクションを見ていくと、着る人に寄り添っていることがわかる。着用者がいかに心地よく、幸せを感じられるか。そのためにはこれまで常識とされてきたものでも、不必要と判断すれば、ためらわず排除する。大切なのは服作りのルールを守ることではなく、着る人の心地よさを守ること。
この優しい眼差しこそが、エレガンスを生み出す最大の秘訣ではないか。ボタンを取り付ける時は、好きな人を思い浮かべて取り付ける。いつだったかそんな言葉を聞いたが、自分以外の誰かを思う優しさが行動を美しくし、佇まいを美しくする。アルマーニは芯地や肩パッドをジャケットの内側から取り払った。だが、それでもエレガンスは失われなかった。むしろ、服の内側に宿るマインドこそが、エレガンスを完成させる最後のピースだったのだ。
4.伝説的デザイナー ジョルジオ・アルマーニ、引退へのカウントダウン
「注目したい理由は、3つではなかったのか?」
そんな声が聞こえてきそうだが、現在アルマーニに注目したい理由として、やはり最後に触れておきたいものがある。それは後継者問題だ。
1934年生まれのアルマーニは、2025年で91歳を迎える。昨秋には、アルマーニ自身が自らの引き際を明言し、今後2~3年以内にデザイナーを引退する見通しを語った。その際、後継デザイナーについての言及はなかった。
これは完全な予測になるが、カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)の後任に、ブランド内からヴィルジニー・ヴィアール(Virginie Viard)を昇格させた「シャネル(CHANEL)」と同様に、内部からの昇格になるのではないか。
現在から数年で、アルマーニグループ全体のビジネスが急速に冷え込むことが起きない限り、コレクションを刷新する必要がない。むしろ現在の状態をキープしつつ新しさを取り入れていくことが一番かもしれない。それならば、外部のデザイナーをディレクターとして招へいするよりも、内部で経験を積んだデザイナーを後継に指名するのがベターではないだろうか。
そしてその後、数年様子を見て継続するか、外部からデザイナーを招へいしてディレクターに据えるかを判断する。「シャネル」がマチュー・ブレイジー(Matthieu Blazy)を新ディレクターに指名したように。
現在、ファッションの潮流がエレガンスに向かっている。今後を見据える意味で、ジョルジオ・アルマーニのデザインには参照すべきものが多い。引退までのカウントダウンが始まっている今、モードの帝王が発表するクリエイションに注目しよう。
最終更新日:
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