2026年秋冬コレクション
Image by: ©Launchmetrics Spotlight

2026年秋冬コレクション
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歴史の重層的な美しさが支配する街、フィレンツェ。その象徴である「美術館」のような静止した空間ではなく、人々の日常が交錯する「駅」の喧騒こそが、今回の舞台のインスピレーション源だった。イタリア・フィレンツェで開催された第109回「ピッティ・イマージネ・ウオモ(Pitti Immagine Uomo)」のゲストデザイナーとして招聘されたのは、パリを拠点に活動するイスラエル出身のデザイナー、ヘド・メイナー(Hed Mayner)。2019年には「LVMH Young Fashion Designers Prize(LVMHプライズ)」の「カール・ラガーフェルド賞」を受賞し、現代メンズウェアのシルエットを更新し続けてきた彼が、「ヘド メイナー(HED MAYNER)」2026年秋冬コレクションで見せたのは、ブランドの進化を決定づける「定義(Definition)」への挑戦だった。
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「フィレンツェのような歴史ある都市では、『見て、触れないで』という美術館のような感覚に陥ることがある。しかし私は駅という場所で、日常の環境や空間のテクスチャーとつながりたかった」。ショーを前にそう語ったメイナーの言葉通り、ランウェイに現れたのは、高尚な芸術作品として遠ざけられた服ではなく、着用者の身体と密接に関わり、その動作(ジェスチャー)を誘発するような衣服群だった。
2026年秋冬コレクションの核となるのは、メイナーが「間違い(Wrongness)」と呼び、同時に「完璧」であると断言する意図的な違和感だ。象徴的なジャケットは、肩が前方にせり出し、袖は肘から先で外側へとカーブを描く。重心は後ろへと跳ねるように移動し、ウエストは極端なまでに細くシェイプされており、それは単なるオーバーサイズや再構築ではない。服が着用者の肩を前へと導き、背中を丸めさせることで、特定の「姿勢」や「態度」を身体に刻み込むというアプローチだ。ダブルブレストのウールギャバジンコートにおいても、その哲学は貫かれている。前方へすぼまる肩と丸みを帯びた背中、それらをベルトできゅっと締め上げることで生まれる緊張感。そこには、メイナーが語る「力強さとエネルギー」が宿り、着る者の身体に新たな生命を吹き込む。

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「クラシックな要素を慣れ親しんだ場所からずらし、並行世界のような現実をつくる」。このデザイン哲学は、私たちが知っているはずの「原型(アーキタイプ)」を変容させる。トレンチコートの肩は丸く落ち、スウェットシャツはねじれ、シャツの襟は切り落とされる。プリーツ入りのウルトラスエードのスモックや、ふっくらとしたフェイクファーのコート、そして光沢のあるメタリックなレギンス。使用される生地自体はウールやフランネルといったクラシックなものが中心だが、そこに「ひねり」を加えることで、見慣れたはずの素材が新しい表情を見せ始める。足元を支える「リーボック(Reebok)」のアーカイヴブーツ「NPC Insigna」は、熱処理によって歪み、引き伸ばされ、その有機的なフォルムがコレクションの特異性を決定づけていた。

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そして、同コレクションにおいて特筆すべきは、メイナーのクリエイションが「曖昧さ」から「明確さ」へと舵を切った点にある。 かつての彼は、身体を覆い隠すようなアップスケールなシルエットで、アイデンティティやジェンダーをぼかすアプローチを得意としていた。しかし今回は「形を絞り込み、明確にしていくプロセス」を経ることで、彫刻的でありながらも、より輪郭のはっきりしたシルエットを構築。それはユニセックスのアプローチにも表れており、今回登場した女性モデルたちは、男性と同様の力強いプロポーションで提示された。性別を隠すのではなく、性別を超えた「別のタイプの身体」を衣服によって現出させる。その試みは、テーラリングという規律の中で、誰が「普通」を引きずるのか、そして誰が「違って見える自由」を持つのかという、根源的な問いを投げかける。
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