Fashion ストーリー

イッセイ ミヤケ×Noism×田根剛 "動きとクリエーション"から導く「ラ・バヤデールー幻の国」制作の裏側

ISSEY MIYAKE 宮前義之、Noism 金森穣、DGT 田根剛
ISSEY MIYAKE 宮前義之、Noism 金森穣、DGT 田根剛
Image by: FASHIONSNAP

 身体の動きの探求は、あらゆるクリエーターにとって永遠のテーマだ。全身を使って表現する舞踊家や、衣服の機能とデザインを両立させるデザイナー、そして心地よい空間を作る建築家もその1人と言えるだろう。劇場空間は、それらのクリエーションが結集する場所。進化し続ける舞踊団「ノイズム(Noism)」の最新作 劇的舞踊「ラ・バヤデールー幻の国」のメイキングを辿りながら、衣裳を手がけたデザイナー宮前義之が率いる「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」や空間を手がけた建築家 田根剛の仕事を紐解き、「動きとクリエーション」の関係をレポートする。

■舞踊とイッセイ ミヤケの深い関係

 「イッセイ ミヤケ」と舞踊には、深い関係がある。創業デザイナーの三宅一生はかつて、鬼才ウィリアム・フォーサイスによるフランクフルト・バレエ団の舞台「The Loss of Small Detail(失われた委曲・1991年初演)」のために、ニット素材を使った衣裳を製作した。これが「プリーツ プリーズ イッセイ ミヤケ(PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE)」の始まりだ。創意に富む多彩なプリーツ素材の可能性は無限大で、改良を重ねながら約25年が経った今では世界中の人々の生活に溶け込んでいる。

 「服は人が着て初めて完成する」という考えと服作りの探究心は、三宅一生から二代目デザイナーの滝沢直己、三代目の藤原大、そして現デザイナーの宮前義之に受け継がれてきた。そして「イッセイ ミヤケ」を率いて5年目を迎える宮前もまた、プリーツの可能性に挑みながら、日本を代表する舞踊団のために新しい衣裳制作に取り組んでいる。

noism_im_ft_009.jpg衣裳制作中の宮前義之 撮影:遠藤龍

■主義を持たない「Noism(ノイズム)」

 主義を持たない「No ism」を語源とする「ノイズム」は日本初の劇場専属舞踊団で、20世紀を代表する振付家モーリス・ベジャールに師事した金森穣が2004年に設立し、りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館を拠点に活動している。舞台芸術を通じて様々なクリエイターらと作品を作り上げてきたが、2014年初演の舞台「ASU~不可視への献身」で初めて「イッセイ ミヤケ」に衣裳を依頼した。

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『Training Piece』 撮影:篠山紀信

 特徴的なのは、その第一部として公演された「Training Piece」。金森穣が"東洋のバレエ"の考え方から開発している、床との関係性において張りのある身体を養うための「Noismメソッド」と、クラシックバレエを基礎とした「Noismバレエ」に基いて日々行っているトレーニングを作品化した舞台で、宮前はミニマルなデザインの衣裳をベースに色のみで表現を加えた。しかしトップダンサーの井関佐和子がまとった色は、白と黒のみ。「圧倒的な身体表現と存在感に色はいらない」と、敢えて色をつけなかったというエピソードからも、身体と衣服、そして舞踊と衣裳の深い関係性が伺える。

noism_asu_01_02.jpg『Training Piece』 撮影:篠山紀信



■劇場は芸術の最たる場所だ

 「ノイズム」の全メンバーが出演する最新作は、舞踊家と俳優によって舞台を作り上げる劇的舞踊シリーズ3作目「ラ・バヤデールー幻の国」。原作は古典バレエの作品「ラ・バヤデール」で、インドのカースト制度や信仰が題材になっている。金森は「西洋から見た東洋のオリエンタリズムが描かれていて、そこにはよくある男女の悲哀の物語を超えた、政治性や社会性が存在していると感じた」ことから作品に選んだという。単にリメイクするのではなく、ノイズム版ではカースト制度を民族の対立に置き換えるなど、現代社会と符合した作品に仕上げている。

issey-noism-02-20160514_015.jpgNoism芸術監督の金森穣(左)と副芸術監督で舞踊家の井関佐和子(右)

 舞台芸術は発祥した中世の時代からあらゆる芸術の結集によって発展してきたことから、金森は「劇場は芸術の最たる場所」だと捉える。今回の新作についても「幻の国」を可視化するために一流のクリエイターらを結集。翻案と脚本は平田オリザ、空間はこれまでも数々のノイズム作品を手がけてきた田根剛、そして衣裳は「イッセイ ミヤケ」の宮前義之が2度目の起用となった。

■「幻のドレス」のつくり方

 「見る人に対してイマジネーションを掻き立てるものを作ることは、デザイナーにとってチャンス」と捉える宮前だが、2作目となる衣裳制作については「これまでと異なる挑戦だった」と振り返る。金森から与えられたのは、台本と色のキーワードのみ。作品の舞台となるマランシュに共存する5つの民族からイメージされた色を、宮前は風や石や火といった自然界で最も原始的な物質に置き換え、デザインに落とし込んでいったという。素材は全てオリジナルで、日頃から宮前がチームと共に探求してるテクニックに改良が重ねられた。

 風のように舞う踊り子のカリオン族がまとうのは青のドレス。ドレープが美しい高密度のポリエステル素材はヨットの帆のように風をはらみ「(相手役が近づいてくる)空気感を誰よりも早く自分の皮膚に伝えてくれる」(踊り子ミランを演じる井関佐和子)という。

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 地方の軍閥である馬賊は火のイメージで、朱色の濃淡と紙を原料とした素材のフリンジが、大胆な動きによって炎のように躍動感を与える。

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 陸軍の騎兵隊を務めるメンガイ族は、プリーツを応用した3Dスチームストレッチ素材に銀糸を織り込むことで石のようなテクスチャーを表現した。見た目とは裏腹に柔軟性に富んでいるのが特徴だ。

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 皇帝を中心としたマランシュ族は、天に昇る太陽のイメージから3Dスチームストレッチで立体的な造形を創り出し、高貴な衣裳に仕上げている。固い芯は使用していないため、歩くたびに揺れて豊かな表情を見せる。

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 そしてヤンパオからの居留民たちは、人工皮革のウルトラスエードといった最先端の素材を用いた。丸洗いできる素材だということも利点だろう。

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 「見せ場」は亡霊が舞うシーンだ。人が記憶をたどる時、存在感は思い出せてもその姿はぼんやりとしか浮かばない時があるが、そんな形があるようでない「幻のドレス」を作り上げた。構成している布は全て正方形で、動くことによってパーツの輪郭が消え、身体の存在が浮かび上がるように仕立てられている。直線的なパターンを用いながら身体と一体化させる妙は、「一枚の布」というコンセプトが根底にある「イッセイ ミヤケ」ならではと言える。

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■制約か芸術か、その答えは

 サンプル制作から仮縫い、フィッティングといった工程で何度となく修正が加えられるプロセスはオートクチュール的とも言えるが、宮前にとっては普段のコレクション制作と変わらないという。しかし「鍛えられた身体はそれだけで美しいので、衣裳は制約となる。それを超えることができるのか、どんな意味を持つことができるのかは、新たな挑戦だった」と振り返る。

 これに対して金森は「形やデザインといった表層的なものだけではなく、素材から開発して表現しているからこそ圧倒的な力をもった服になる。それを着てパフォーマンスすることは、舞踊家にとっても挑戦」だと話す。身体が衣裳の一部になってしまうことは簡単だが、本質的に共存するには「その服を身に着けた時に身体をどう持って行くべきか」。過去の主義や技法をリスタディし再構築してきた「ノイズム」にとって、毎日の厳しい練習はその答えを出すためでもあるのだ。

noism_im_ft_004.jpg衣裳のフィッティング 撮影:遠藤龍

■崩壊のラストシーンは描かれるのか

 「建築は重力に逆らえないが舞台は解放された状態を作ることもできる。だからアイデア次第で劇場空間のクリエーションは無限」と捉える田根剛が手がけた空間は、通常の舞台と異なっている。能の橋掛かりのようにサイドまでステージが広がっている「裸の舞台」が特徴。そして物語のキーワードである「幻」と「現実」をつなぐ"記憶の装置"として、舞台の中心に慰霊碑を据える。民族の対立によって引き裂かれながら、過去と現在と未来がつながっていくような空間作りは見ものだ。

issey-noism-02-20160514_011.jpg舞台の空間デザインを担当した建築家の田根剛(左)

 注目なのはラストシーン。原作のバレエ「ラ・バヤデール」では最後、信仰のシンボルである寺院が崩壊し、登場人物が滅亡する。しかし過去にこの作品は、政治的な抑圧で崩壊のシーンが取り除かれ、また20世紀になってロシアを亡命したバレリーナの舞台で再び復活したという稀有な経緯を辿ってきた。「現実か幻か。我々人間は不確かなものに振り回されていると感じることがある。本質とは何かを、今を生きる者に問いかける作品になれば」と意気込む金森は、崩壊のラストシーンをどう解釈し、何を起こすのか。

 トップダンサーで副芸術監督の井関佐和子が「舞台とは奇跡の瞬間」だと表現するように、舞踊・衣裳・空間といったあらゆるプロフェッショナルの結晶がひとつになる場所でしか味わえない、奇跡のような体験が待っているかもしれない。

issey-noism-02-20160514_028.jpgNoismが拠点としているりゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館の劇場

宮前 義之 Yoshiyuki Miyamae
1976年生まれ。文化服装学院アパレルデザイン科を卒業。2001年、三宅デザイン事務所入社。2011年、ISSEY MIYAKE デザイナーに就任。2014年、毎日ファッション大賞・大賞を受賞。http://www.isseymiyake.com/


金森 穣 Jo Kanamori
演出振付家、舞踊家。りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館舞踊部門芸術監督、Noism芸術監督。17歳で単身渡欧、モーリス・ベジャール等に師事。NDT2在籍中に20歳で演出振付家デビュー。10年間欧州の舞踊団で舞踊家・演出振付家として活躍後帰国。2004年4月、日本初の劇場専属舞踊団Noismを立ち上げる。14年より新潟市文化創造アドバイザーに就任。平成19年度芸術選奨文部科学大臣賞、平成20年度新潟日報文化賞ほか受賞歴多数。http://www.jokanamori.com/


田根 剛 Tsuyoshi Tane
1979年東京生まれ。建築家。2006年、ダン・ドレル(イタリア)、リナ・ゴットメ(レバノン)と共にDGT.(DORELL.GHOTMEH.TANE / ARCHITECTS)をパリに設立。 現在「エストニア国立博物館」(2016年完成予定)をはじめ、フランス、スイス、レバノン、日本でプロジェクトが進行中。2012年に新国立競技場基本構想国際デザイン競技で「古墳スタジアム」がファイナリストに選ばれ国際的な注目を集めた。フランス文化庁新進建築家賞(2008)、ミラノ・デザイン・アワード2部門受賞(2014)AFEX大賞 (2016)、フランス建築アカデミー新人賞 (2016) など受賞多数。現在、コロンビア大学GSAPP、ESVMD(スイス)講師。http://www.dgtarchitects.com/

■劇的舞踊vol.3「ラ・バヤデールー幻の国」

【新潟公演】 2016年6月17日(金)〜19日(日) りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 〈劇場〉
【神奈川公演】 2016年7月1日(金)〜3日(日) KAAT神奈川芸術劇場 〈ホール〉
【兵庫公演】 2016年7月8日(金)〜9日(土) 兵庫県立芸術文化センター 〈阪急中ホール〉
【愛知公演】 2016年7月16日(土) 愛知県芸術劇場 〈大ホール〉
【静岡公演】 2016年7年23日(土)〜24日(日) 静岡芸術劇場
【鳥取公演】 2016年9年24日(土)米子市文化ホール

 チケット情報他、詳細:公式サイト

■Noism
りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館を拠点に活動する日本初の劇場専属舞踊団。
演出振付家・舞踊家の金森穣がりゅーとぴあ舞踊部門芸術監督に就任したことにより、2004年4月設立。正式メンバーで構成されるプロフェッショナルカンパニーNoism1(ノイズムワン)と研修生が所属するNoism2(ノイズムツー)の2つのカンパニーからなり、日本国内をはじめ海外8か国11都市でも公演を行っている。'09年にはモスクワ・チェーホフ国際演劇祭との共同制作、'11年にはサイトウ・キネン・フェスティバル松本制作のオペラ&バレエにカンパニーとして参加する等、その活動は多岐に渡り、新潟から世界を見据えたカンパニー活動と、舞踊家たちの圧倒的な身体によって生み出される作品は、国内外で高い評価を得ている。設立から10年以上を経た今なお国内唯一の公共劇場専属舞踊団として、21世紀日本の劇場文化発展の一翼を担うべく、常にクリエイティブな活動を続けている。第8回朝日舞台芸術賞舞踊賞受賞。http://noism.jp/

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