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西新宿の街のような“誰にでも開かれた場”としての服⎯⎯「コトハヨコザワ」が体現する、ファッションのポジティブな力

Image by: FASHIONSNAP(Ippei Saito)

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 「ファッションはインクルーシブ(包括的)かエクスクルーシブ(排他的)か」⎯⎯ファッション業界に身を置いて働いていると、そんな問いが頭をもたげてくることが度々ある。衣服は本来、誰にとっても身近な存在であるはずだ。一方で、“権威”とされ強い影響力をもつハイファッションは、その成り立ちからとても特権的で選民思想的な美学を前提としていることに、いち庶民としてどうしても馴染めなさや居心地の悪さを感じてしまう部分もある。

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 しかし、今回「コトハヨコザワ(kotohayokozawa)」の2026年秋冬コレクションのランウェイショーの会場に足を踏み入れたとき、そこに広がっていたのは、多種多様な人々が思い思いの目的や服装で時間を過ごす、雑多でおおらかで開放的な、“誰にでも開かれた場”としてのファッションの世界だった。

 ショーの舞台となったのは、東京ファッションウィークの公式会場である渋谷ヒカリエのホールA。そんな見慣れた場所に、驚くほどの別世界が広がっていた。鮮やかなグリーンのライトに、自動車の走行音とチルなムードの音楽。イエローの反射ポールと金属の柵で作られたランウェイ、フードトラックやLUUP、観葉植物、白い三角コーンなどが並ぶ空間は、どこか異国の旅先のような情緒を醸し出していた。

 そんな世界観の中で披露されたコトハヨコザワの2026年秋冬コレクションのタイトルは、「IN THIS TEMPORARY CITY」。会場で配られたコレクションノートには、その空間の正体が、デザイナー 横澤琴葉の拠点でもある「西新宿」であることが綴られていた。

西新宿に住み始めて4年が経つ。最寄りのコンビニは、どの時間に行っても海外からの旅行者で賑わっている。時差ぼけで持て余した深夜の時間帯でも、度数の高い缶チューハイや、フレーバーの多すぎるおにぎりやカップラーメンがぎっしりと並び、彼らを惹きつける。

家の横にはLUUPのポートがずらりと連なり、朝はあんなにあったのに、夕方には街に繰り出す人々の争奪戦でほとんど姿を消し、ポートだけががらんと静かにそこにある。

3月の上旬、この場所は東京マラソンのスタート会場にもなる。当日は世界各国から集まったランナーたちの声で目が覚める。
蛍光カラーのランニングウェアを身にまとった人々が、都庁から東京駅を目指し走り抜けていく。毎年その光景で、春の訪れに気づく。

普段はそれぞれの場所で、それぞれの生活がある。でも今この瞬間だけは、この街に集まっている。
この街では、どんな自分でもいられる。人が行き交う、この街とこの生活よ、どうかこのままで。

「IN THIS TEMPORARY CITY」コレクションノートより

 西新宿の街を昼夜問わず行き交う、多くの外国人観光客や、留学生、地方からの出張者、世界各国から集うランナーたち。そんな多種多様な人々の姿で賑わう東京の街の風景やありようと、横澤自身が日々のタスクに追われがちな日常から離れ、異国の旅先を訪れた際に感じる開放感を重ね合わせ、コレクションに落とし込んだ。

 コレクション全体を強く印象づけていたのは、明るくカラフルな色彩と、多様なテクスチャーが幾重にもレイヤードされたスタイルだ。ランナーがまとうコンプレッションウェアを思わせるネオンカラーのトップスやレギンス、旅行者の機能的でエフォートレスな装い、スイムウェアやビーチタオルにヒール付きビーチサンダル⎯⎯。そこには、西新宿の街を行き交う人々や旅先でのワードローブを一緒くたにかき集め、自由に組み合わせたようなルックが並ぶ。

 「これしか持ってこなかったから合わせるしかない」という旅先での状況を反映したという少しちぐはぐなスタイリングや、異なる色や素材が袖口や裾などから覗く楽しさに、思わず心が照らされる。一見秋冬らしからぬ陽気なカラーパレットや薄手の素材づかいも、「明るい色を身につけることで気持ちが上がったりと、色が味方になってくれる。寒い冬を乗り越えるために、あえて春夏の気分で色を取り入れており、カットソーを軸にしたラインナップも、それがブランドらしいデザインや表現に繋がると考えている」というブランドのポジティブな姿勢の表れだと、横澤は語る。

 今季のコレクションは西新宿の街と人々にフォーカスを当てているが、横澤が街や人、服に向ける眼差しは以前から一貫している。2021年発行の「文學界」に寄せたエッセイの中で、横澤はこのように綴っている。

世の中に溢れる綺麗なものや美しいとされているものには私は興味がない。もっと生々しくて、諦めの中にも一縷の希望が存在しているような、「今この社会の中で」自分なりの位置や距離の取り方を模索しているような、そんなものが好きだ。

横澤琴葉、「眼差しと愛おしさ」、『文學界』2021年8月号、文藝春秋より

 彼女が街中での“フィールドワーク”で目を向けるのは、決して「ファッショナブルな人」ではない。そういったことが「もうどうでも良くなってしまった」ようにも見える、日々の生活や目の前のことにただ懸命な人々の姿と装いに否応なく滲み出てしまう、“その人らしさ”。そこに現れる弱さや必死さも含めた生々しい人間味に、横澤は最も心揺さぶられ、愛おしさを感じるのだという。

 ブランドにとって4年ぶりとなった今回のランウェイでは、最新作だけでなく、直近数シーズンのアーカイヴもミックスして構成された。それらが違和感なく一つの“風景”として成立していたのは、まさに彼女が時代やトレンドに左右されない一貫した眼差しや思想を持ち、クリエイションを積み重ねてきた証と言えるだろう。

 本格的にユニセックス展開をスタートした今季は、その包容力がさらに拡張された。「サイズや気分が合えば何を着てもいい」という横澤の思いは、スタイリングの随所に反映されている。メンズモデルがタイトなトップスを重ね着するなど、アイテムに性別の垣根はない。ウエストに溜まるように重ねられたキャミソールや、何色もレイヤードされた色、秋冬のスイムウェアやビーチサンダル、アナログな万歩計まで、どんな色や柄、アイテムも自由に好きなように着ていいのだというファッションの可能性とその喜びが、遊び心たっぷりに示されていた。

 そして、「“誰にでも開かれた場”としてのファッション」という言葉は今シーズンに限らず、これまでのコトハヨコザワの服づくりに通底するキーワードとも言える。ポリエステル製のプリーツ素材やカットソー、デニムなどを中心に構成される同ブランドの服は、毎シーズンプレイフルなカラーやデザインとイージーケアな素材、ストレスフリーな着心地を前提としている。だから、どんな体調や気候にも、仕事や育児で余裕のない日常にも、あるいは旅先という非日常においても、着る人に寄り添ってくれる。

 戦争や経済の停滞など、世界には現在進行形で困難が溢れ、私たち一人ひとりの日常にも大小さまざまな問題や葛藤がある。それでも、多様な背景をもつ人々が行き交う街の開放的なエネルギーや、異国の旅先がもたらす楽しさとリラックスした気持ち⎯⎯そんなマインドやムードをいつでも誰にでも開かれたものとしてまとうことができるコトハヨコザワの服には、権威とは違う在り方で作用する、ファッションのポジティブな力が体現されている。4年ぶりに開催された今回のショーは、その事実をこれ以上なく豊かに観客に伝えるものとなっていたのではないだろうか。

kotohayokozawa 26年秋冬

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kotohayokozawa 2026年秋冬コレクション

2026 AUTUMN WINTERファッションショー

FASHIONSNAP 編集記者

佐々木エリカ

Erika Sasaki

埼玉県出身。早稲田大学国際教養学部卒業後、国内大手アパレルメーカー、ケリング傘下ブランドのMDなどを経験した後、2023年にレコオーランドに入社。現在はウィメンズファッションをメインに担当。ファッションやカルチャーへの熱量と同様にジェンダーや社会問題にまつわるトピックにも関心があるため、その接点を見出し、思考や議論のきっかけとなるような発信をしていけたらと願っている。

最終更新日:

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