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劇団四季のヘアメイク ディズニーミュージカル「ライオンキング」を支える裏方の技術

 世界中で上演され続けるディズニーミュージカル「ライオンキング」。劇団四季(以下、四季)が手がける日本版は、今年で28年目を迎えるロングラン公演となっている。舞台には多くの裏方スタッフが関わり、作品の世界を彩っているが、中でも俳優の表情に欠かせない要素となるのがヘアー・メイクだ。四季では俳優自身がメイクを行うというスタイルを採用しており、その技術指導や舞台上でのヴィジュアル管理をヘアー・メイクチームが担っている。

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ディズニーミュージカル「ライオンキング」

撮影:上原タカシ ©Disney

アフリカの大地を舞台に、若いライオンのシンバの成長を描くミュージカル。俳優たちが操る独創的なパペットや壮大な音楽とダンスで動物の世界を表現し、舞台ならではの迫力と美しい演出で人気を集める。今年で日本公演28年目を迎え、これまでにのべ1450万人以上の観客動員数を誇る。

 同作でヘアー・メイクのヘッドチーフを務める髙橋喜美子氏へのインタビューを通して、舞台メイクの裏側や俳優との関わりについて聞いた。

◾️髙橋喜美子 美容専門学校を卒業後、2016年に入団。「ウィキッド」や「ジーザス・クライスト=スーパースター」で経験を積み、2019年より演目チーフに就任。「ライオンキング」を含め約10作品のヘアー・メイクを担当する。

⎯⎯四季に入団した理由を教えてください。

 メイクに興味があったので、美容専門学校に通っていました。当時はファッションモデルのヘアメイクを担当するアーティストを目指していましたが、あるとき学校行事の一環で四季の「キャッツ」を鑑賞する機会があって。舞台の終演後、特別にヘアメイクのセミナーを開講していただいたんです。そこで舞台メイクの現場を初めて目にしました。私はナチュラルなメイクよりもアーティスティックな作品づくりや特殊メイクを得意としていたので、これだ!となりましたね。

⎯⎯入団後はどのような仕事をされていましたか?

 初めて配属されたのは「ウィキッド」という作品でした。"本番付き"といって、劇場に駐在して本番で使用するかつらの管理やメンテナンスをしたり、舞台の上演中にメイク直しやかつらの早替えを手伝う役割です。この作品では15秒でかつらをチェンジしなければいけないシーンがあり、先輩の頭を借りて何度も練習したことを覚えています。

⎯⎯今はどんなポジションに?

 ヘッドチーフと呼ばれるポジションで、作品に登場するすべてのキャラクターのヘアー・メイクを確認、クオリティのチェックを行うほかに、新しく参加したキャストへのメイク指導もします。ヘアー・メイクに関わる予算管理や発注業務など事務作業の統括もタスクのひとつですね。

"人間が出てこない"「ライオンキング」のメイク

 ⎯⎯現在は「ライオンキング」も担当されています。人間の登場人物が存在しない同作品ならではのメイクの特徴はありますか? 

 まず「ライオンキング」は、アフリカの音楽や文化が色濃く表現されている演目なので、メイクに関してもその要素が強いです。そのうえで人間に見えないような工夫をしないといけません。とくに物語のキーとなるヒヒのキャラクター「ラフィキ」は、人肌を透けさせないよう、ペイントの塗り方が大事になってきます。

ラフィキ 撮影:山之上雅信 ©Disney

⎯⎯どんなアイテムを使っていますか?

 海外で特注している油性のペイント顔料がメインです。ムラの出にくさや発色の良さが他のアイテムとは変え難いポイントですね。これを全顔と首まで塗ります。衣裳とつながりを持たせる役割もありますが、これも人肌が見えないようにする工夫です。

指定されている使用アイテムの一部

⎯⎯メイクブラシも特殊だと聞きました。

 実はメイクブラシではなく、画材店で購入した絵画用の筆を使用しています。細かいラインを描くにはこちらのほうが使いやすいんですよね。それに、メイクブラシは人間を綺麗に引き立たせるには優秀ですが、この現場は例外。ペイント顔料が本来の色を発するためには絵画用がうってつけなんです。俳優にもおすすめの筆を紹介していますよ。

繊細なメイクアップが求められるため、数種類の太さの筆が必要。

⎯⎯舞台上は照明や特殊効果に加えて俳優の汗など、メイクの敵が多いですよね。

 もとから汗水に強い化粧品を使用するということと、キープ力の高いパウダーやフィックスミストで、できる限り仕上がりを固定するといった対処で挑みます。公演の本番中は、舞台袖に2名ほどヘアー・メイクチームが駐在していて、袖から俳優たちの顔をじっと見ています。メイクがヨレていたり薄れている部分を発見し、転換や幕間のちょっとした隙に、俳優自身でメイクを直してもらうよう伝えていますね。

俳優が自分でメイクをするワケ

⎯⎯まず、登場するキャラクターのヘアー・メイクはどのようにデザインされ、俳優の顔に落とし込まれるのでしょうか?

 「ライオンキング」はディズニーが製作し、ブロードウェイで初演した演目です。日本で上演するときも決められたメイクデザインやメイクの仕方に則しています。ですから、使用するアイテムやイメージ資料なども本国から共有があります。新しく作品に携わるときはいつも、自分の顔で試すところから始めますね。

モチーフとなる動物の写真や、メイクデザインなど。ひとつのキャラクターに対して、本国のデザインチームから多くの資料が共有される。「自然界にシンメトリーはないと言われているので、俳優のメイクも"左右非対称"のデザインが取り入れられているんです」

⎯⎯俳優は自分でメイクをするんですよね。

 そうなんです。役に入り込むために、俳優自身がメイクをするという考え方があります。芝居だけでなく、メイクをする過程も役作りの一部なんです。決められたメイクアップを俳優陣がしっかり施せるよう、指導するのも私たちの仕事です。

⎯⎯メイクの指導はどのように行うのですか。

 舞台稽古の合間や、新キャストが加入したタイミングで技術講習を行います。まず私たちが俳優の半顔に実践して、筆の使い方やメイクのポイントを伝え、実践してもらう流れです。俳優たちはメイクのプロではないので、何度も指導を行い、クオリティを上げてもらいます。

ラフィキ役・金原美喜さんコメント

Image by: 劇団四季

「ヘアー・メイク担当からは、ラフィキがヒヒという動物であることを踏まえ、ヒヒの顔立ちを意識してメイクをするようレクチャーを受けました。色をのせる角度や面積などデザインは細かく決められていて、毛並みの質感もメイクで表現しています。とくに目の周りの黄色いペイントは左右非対称になっているので、習得には苦労しました。
 金原美喜からラフィキという役に変わっていくメイクの時間は自分にとってすごく大切です。ラフィキのメイクには1時間半から2時間かかっていましたが、開演前には発声練習などの時間も確保したいので、徐々にスピードを上げて、今では1時間程度で収まるようになりました。
 このメイクをするようになって繊細な線を描くことに慣れたので、日常的なメイクでも役に立っている印象ですね。ただ、舞台で濃いメイクをするぶん、普段はなるべく肌に刺激を与えないよう、薄化粧を心がけています」

同じ演目でも、メイクは少しずつ変わっていく

⎯⎯「ライオンキング」は今年で28年目のロングラン公演ですが、メイクは開幕当初と同じですか?

 メイクのデザインは都度アップデートされます。アメリカやイギリス、スペインなど多くの国と地域で上演されている演目なので、ある程度どの国でも同じメイクになるよう情報が共有されます。そして2年に一度、本国のデザインチームが日本の公演を視察する機会があるので、そこでメイクのアップデートが行われることもありますね。なので、1度観劇されたことがある方でも、もう1度来ていただけると、また違った印象を楽しんでもらえるかもしれません。

⎯⎯俳優によって顔立ちは違いますよね。

 決められたメイクの中で、どのようにその俳優に似合わせるかも大切です。俳優陣にも、まずは自分の顔を理解してもらうところから始めています。自分の顔立ちって意外と自分では把握していないもので。頬骨の位置や頬の肉づきなど、顔のつくりを正しく知ることで、似合うメイクが完成するんです。

⎯⎯それは日常的なメイクにも役立ちそうです。

 役に立つと思います。骨格を理解すればシェーディングを入れる位置が明確になるし、パーツの配置を理解すればポイントメイクが映えます。日によってメイクの出来に差が出てしまうことも減るんじゃないでしょうか。

舞台メイクは難しい、それでも楽しい!

⎯⎯舞台メイクの難しさはどこにありますか?

 演目によって求められるものが全く違うことですね。何よりルールに沿ってメイクをするだけでは作品の世界になじめない、ということを忘れてはいけません。私は2年前にヘッドチーフとして担当した「ジーザス・クライスト=スーパースター」という作品でそれを痛感しました。演目では、入浴もままならず、砂埃の中を何日も歩いているような生活を送る人々の話でしたから、整っていてはいけないんです。初めはそれまで勉強してきたことを活用して、綺麗に作ろうとしてしまいましたが、そうではないと気づいて。物語と時代背景を理解する重要性を学びました。

⎯⎯髙橋さんが10年以上のキャリアを築いてこれた原動力は?

 自分が関わったキャラクターがお客さまの目に届く瞬間の、なんとも言えない達成感ですかね。舞台は人が生で演じているもので、なおかつ時代とともに進化していくので、例えば「ライオンキング」をとっても、28年の歴史の中でも1つとして全く同じ公演はないと思っています。今後は作品のブラッシュアップに貢献しつつ、オリジナルでヘアー・メイクのデザインを考案するような機会にも携われたらいいなと考えているのですが、そういった目標が絶えないことも、仕事の原動力かもしれません。

⎯⎯舞台メイクに憧れを持っている人へアドバイスはありますか?

 技術はもちろんですが、とにかく想像力。たくさんのアイデアが出る引き出しを多く持って欲しいですね。ルールが決められているメイクでも、臨機応変な対応力や、提案する力はとても役に立つはずです。

⎯⎯最後に、ヘアー・メイクのヘッドチーフとして、「ライオンキング」の見どころを教えてください。

 メイク、衣裳、パペットなどすべての要素が細部まで作り込まれた作品です。ヘアー・メイクとしては人間が出てこない演目ならではのこだわりや面白さがありますし、俳優によってどのようにメイクアップをフィットさせているのか、決められた中でどう個性を生かしているか、ぜひ前のほうで!ご覧いただけたら嬉しいです(笑)。初めての方はもちろん、観たことがある方にもぜひ改めてお越しいただきたいですね。

撮影:上原タカシ ©Disney

photography :Shohei Numao | direction:Riko Miyake(FASHIONSNAP)

FASHIONSNAP 編集記者

木村耀

Hikaru Kimura

学生時代に外資系ファッションメディアでアシスタントを務めたのち、大学卒業後、ファッション誌で編集として従事。2025年12月からレコオーランド「FASHIONSNAP」でビューティエディターとして幅広い分野を取材・執筆。プライベートでは坂本裕二や今泉力哉などの脚本家が描く日本語表現が好きで、彼らの作品を何度も見返すオタク気質。趣味は作詞作曲。公私問わず言葉を綴っている。

最終更新日:

◾️ディズニーミュージカル『ライオンキング』
期間:ロングラン上演中(12月31日公演まで発売中)
所在地:江東区有明2丁目1-29 有明四季劇場
問合せ:劇団四季ナビダイヤル 0570-008-110(10:00-17:00)

◾️公式サイト

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