来日したメラニー・ジョージャコプロス
Image by: FASHIONSNAP
「タサキ(TASAKI)」とメラニー・ジョージャコプロス(Melanie Georgacopoulos)によるコラボレーションライン「M/G TASAKI(エムジー タサキ)」が今年、発売開始10周年を迎えた。モダンかつ斬新なジュエリーでパールの概念を打ち破り続けてきたメラニーが、この10年間の歩みを振り返る。
【メラニー・ジョージャコプロス】
ギリシャ人とフランス人の両親を持ち、ロンドンを拠点に活躍するジュエリーデザイナー。エジンバラ・カレッジ・オブ・アートで彫刻を学び2004年に主席で卒業。2007年ロイヤル・カレッジ・オブ・アートでジュエリーの修士号を取得。2010年に自身の名を冠したブランドを立ち上げる。2013年からM/G TASAKIのヘッド・デザイナーに就任。
―ブランドのコンセプトをあらためて教えてください。
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メラニー:「M/G TASAKI」は2013年に誕生しました。私の美意識とデザイン、そしてタサキの卓越したクラフトマンシップを融合させたブランドです。私たちはジュエリーにファッション性を加えることによって、若いオーディエンスをターゲットにしたいと考えました。「年配の方のもの」という従来のパールのイメージを変えていきたかったんです。
―この10年間で人々のパールに対する先入観は変化したと感じますか?
メラニー:完全に変わってきたと思います。最近はファッションショーでもパールが使われるようになりました。プラスチック製のものが多いですが、「シモーン・ロシャ(Simone Rocha)」や「クリストファー ケイン(Christopher Kane)」、「アレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)」、「アーデム(ERDEM)」でも服の装飾に取り入れられています。
メラニー:さらに、俳優やスポーツ選手など男性が身につけるようになり、パールが「かっこいい」と思われるようになってきましたね。「フォーマルな服にパールを合わせる」という常識を覆し、ストリート感のあるデイウェアにも合わせることが欧米でも普通になってきています。
そしてパールが広く認知されるようになった理由の一つは、今ダイヤモンドが確執的に捉えられがちだからです。タサキが扱うダイヤモンドはクリーンなダイヤモンドですが、「ブラッド・ダイヤモンド(紛争地域で武器調達の資金源として不法取引されるダイヤモンドのこと)」など様々な問題があるので多くの人が買い控えているんです。フォーマルオケージョンやブライダルなどでもダイヤモンド以外のものが求められる傾向があり、ピュアな意味を持つパールが選ばれるようになったのではないでしょうか。
―タサキとのコラボレーションにはどのような面白さがありますか?
メラニー:様々な意味でエキサイティングでした。パールの発祥の地である日本に来ることができて、文化を融合させることができました。デザイナーとしては、大企業とお仕事することも素晴らしい体験です。プロダクションチームを刺激できるような新しいアイデアを提案できるように毎シーズン心がけています。
―「M/G TASAKI」をデザインする上で意識していることは?
メラニー:「パールを買うため」というより、デザイン性で買ってもらいたいという思いがあります。「M/G TASAKI」には2通りのお客様がいます。まず、ご年配でクラシックなパールのジュエリーをすでにお持ちの方。そういう方は何か新しくて少し変わったデザインを求めていらっしゃいます。そして一方は若いお客様で、興味深いデザインを探している方。後者がヨーロッパの顧客層に多いのですが、パリの百貨店「ボン・マルシェ(Le Bon Marché)」で買い物していて「あら、素敵」と手に取ったものがたまたまパールの入っているデザインだったという感じです。
―デザインアプローチについて教えてください。
メラニー:私は彫刻を学んだということもあって、まず素材に着目します。通常はジェムストーンの価値を起点にするのですが、私は逆なんですね。基本的には「自分だったら身につけたいか」を考えてデザインします。それも40代の女性としてではなく、20代の時の自分や50歳になった自分がどういうものを身につけたいかも考えます。ジュエリーはタイムレスであるべきだとも思っています。
―これまでのコレクションで一番実現するのに苦労したデザインは?
メラニー:たくさんありますが、まず「スライスド(SLICED)」です。パールをスライスし、その断面をていねいに磨きあげたシリーズですが、やはり日本のパールジュエラーに「真珠を半分に切りたい」とはなかなか提案しにくいものがありました。プロダクションチームに嫌われていないといいのですけども……(笑)
メラニー:そして「トリプルパール(TRIPLE PEARL)」は、ホワイト、ラベンダー、ブルーの3色の淡水真珠を重ねたシリーズです。中を繰り抜いて2珠目を入れ、2珠目もまたくり抜いて……という工程がとても難しく、タサキ以外のジュエラーでは実現できなかったと思います。大事なのは良いアイデアだけではなく、コストパフォーマンスよく生産できる提案なのです。特に若い女性にも買っていただきたいので、あまり高価なものでは実現できません。
―4月に発表された新作を作る上で特にこだわった点は?
メラニー:デザインに関しては、既存のラインに新しいものを加えてほしいと頼まれる場合と、新しいコンセプトを依頼される場合があります。「アルルカン(ARLEQUIN)」は既存のシリーズで、過去の作品とうまく調和できるように、かつ新鮮味を与えられるように意識しました。美しい流れを表現するゴールドの使い方がポイントです。
メラニー:新しいコンセプトは2種類ありますが、「今まで見たことないもの、どこにも存在しないもの」を目指しました。「リフレクテッド(REFLECTED)」は、パールとゴールドがお互いを反射させているデザインです。従来のパールジュエリーだと、パールがセンターで他のものは引き立たせ役というデザインが多いですが、この場合はどちらがメインかも分からない面白さがあります。
メラニー:3つ目のコレクションは「バロックドロップス(BAROQUE DROPS)」。これはバロックパールを使っています。このパールに小さなスタッズをつけていて、テクスチャーが楽しめるようになっています。普通のパールより少し色がグレーがかっているので、この独特のカラートーンも醍醐味ですね。
―これからも「M/G TASAKI」を手掛ける上で大切にしたいことは?
メラニー:最近はパールの商品が増えているので、斬新なデザインの提案がより難しくなってきます。ただ基本的にデザインする時は、人々を驚かせるために作っているのではなく、自分自身を驚かせるために作っているんです。そこはいつまでも本質として変わらないと思います。
パールは自然から生まれるものなので、気候の変動なども今後影響してくるんじゃないかと思います。政治的、経済的なことも含め、時代とともにデザインも影響されるので、それが自分でも楽しみですね。
(すべて税込)
(聞き手:辻 富由子)
「M/G TASAKI」:公式サイト
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