Image by: Miyu Takaki

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私が黒髪をやめた話
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ある日、私は黒髪をやめ、金髪にした。
理由はたくさんあった。凡人だと思われることが嫌だった。気が弱い女のように見られることが嫌だった。少しでも若く見られたかった。
黒髪をやめたことで、自分を守る為の鎧を身につけたような気持ちになった。
高貴さの象徴ともされるブロンドヘアー。
不良・反抗などのイメージを持たれていたヘアブリーチ。
アニメキャラを彷彿ともさせるカラフルなヘアカラー。
さまざまな選択肢がある中で、私が出会ったあえて“黒髪をやめた人たち”の話。
4人目は、ハンコを使って作品制作をしているアーティスト、スーパーハンコアート安東さん、47歳。
スーパーハンコアート安東さん/47歳/アーティスト
この連載で初めて男性に話を聞いた。
スーパーハンコアート安東さん(以下:安東さん)はハンコを押すことによって絵を描いたり、作品制作を行っている。と、言葉で説明するよりも是非一度インスタグラムで彼の作品をみてほしい。
https://www.instagram.com/superhankoart/
15年ほど前に安東さんの展示を見て作品のファンになり、年に数回はお茶をしたり遊んだりする仲になっている。
会う時はフードコートへ行ったり、公園へ行って散歩をしたりしながらお互いの近況報告や最近あった面白いこと、最近気になることなど、他愛のない会話をすることがほとんど。
けれどそんな仲だからこそ、あえて真面目な話も聞いてみたいと思った。
改まって“話を聞かせてほしい”と連絡をするのは初めてだったし、久しぶりの企画撮影で少し緊張もしていた。
安東さんは私の友人の中でもとびきり面白くて興味深い。
何か迷っていることがある時、「安東さんならなんて言うだろう?」とよく考える。
思い切って連絡をすると、すぐに快い返事をくれた。
撮影場所の希望を聞くと、「オフィス街っぽいところがいい」と返ってきた。
お互いの自宅から集まりやすい駅のホームで待ち合わせをした。
いつものように散歩をしながら写真を撮った。
いつものようにお昼ご飯を食べてから、気持ちを切り替えるよう近くのカフェに入った。

少し改まった空気の中、まず始めに、どうして黒髪をやめたのかと聞くと、すぐに「毎日を楽しくしたくて」と答えた。
毎日を楽しくして、そして楽しい世界にする為にブリーチをした。
例えばアニメの世界は現実よりもずっと自由で、登場するキャラクターたちは髪色がカラフルだ。
現実世界でも老若男女関係なくカラフルな髪色の人たちがもっと増えて、本来なら非現実的だと思われるようなことが本当になったらもっと面白い世界になるのに、と思ったそうだ。
「赤い髪の高校球児とか、青い髪のシェフとかいたら、毎日はきっと今より楽しい」と話してくれた。
私は私自身になにか大きな出来事や事件が起こると、まるで自分が映画やアニメの主人公になったかのような気持ちになる。
もちろん自分の人生なのだから主人公はいつだって自分であるはずなのに、ついそのことを忘れて周りの目ばかりを気にしてしまう。
皆それぞれ自分が主人公なのだという意識を持つことが出来れば、少しは息苦しさが無くなるかもしれない。

彼が黒髪をやめたのは今から5~6年前。ブリーチをして、最初はピンク髪にした。
ただの金髪よりも派手にしたかったし、ピンク色が好きだというシンプルな理由だった。
また、その当時はコロナ禍で世の中が暗くどんよりとしていたから、髪色だけでも華やかにしたかったというのも理由の1つだ。
周りの人からの反応を聞くと、「思っていたよりも何も変わらなかった」、とのこと。
アーティストやクリエイティブ職の友人たちからは好評で、けれどそんな反応は彼らとの関係性的にも想像通りだった。
確かに黒髪じゃなくなった彼と私が初めて対面した時、自分がどんな反応をしたか覚えていない。それぐらい彼に自然と馴染んでいたような気がする。
その当時、彼はコンカフェでキャストとして働いており、お客さんへも髪色を変えることは内緒にしていた。
しかし、突然のピンク髪にも関わらずお客さんたちはそれほど驚きもせず、売り上げが大幅に上がるといったこともなかった。
思っていたような反応は貰えず拍子抜けしてしまったと同時に、ピンク髪がこんなにも自然に受け入れられるんだ、と気付いたという。
「40歳を超えた男なのに」、といった遠慮と後ろめたさが入り混じったような心配はする必要がなかった。

自分の中での変化というと、実際に毎日が楽しくなった。
気持ちも明るくなったし、ピンク髪や金髪に合わせて洋服を選ぶとなんだかお洒落に見える。
「本当に、みんなもブリーチしたらいいのになぁ」と呟いた。
彼にはマイルールがあり、それは“髪型を毎日変えること”。
昨日の自分とは同じ髪型にならないように分け目を変えたり、前髪を上げたり、整髪料を変えたり、帽子を被ったりしているそう。
みんなが同じ洋服を連日着ないのと同様に、洋服を選ぶような感覚で髪の毛にも毎日変化を持たせて楽しんでいる。
いつまでブリーチ髪にしているのか聞くと、「決めてない」と即答だった。
彼はいつも軽やかに生きていて、それがとても羨ましい。
カップの残りを飲み干して、駅へと向かった。
街にはイルミネーションが光り輝いていて、仕事を終え帰路につく人たちや、立ち止まって写真を撮る多くの人たちで賑わっている。
こうしてきらびやかな夜の東京を歩いていると、確かに自分がアニメやドラマの主人公になったかのように感じてくる。なんだか街の雑音さえもBGMのように思えてくる。
たとえありふれた毎日だったとしても、自分の人生の主人公は自分だということをいつでも忘れないでいたいな、と思いながら歩いた。

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