FUMITO GANRYU、UNDERCOVER、kolor、BOTTER、TAAKK
FUMITO GANRYU、UNDERCOVER、kolor、BOTTER、TAAKK

Fashionフォーカス

パリメンズ一考:ファッションデザイナーはデジタルの場をどう活かしていたか?

FUMITO GANRYU、UNDERCOVER、kolor、BOTTER、TAAKK
FUMITO GANRYU、UNDERCOVER、kolor、BOTTER、TAAKK

 今のところ僕は、ファッションフィルムが、従来のようなファッションショーの代替にはならないだろう、と感じている。ほんの一因でしかないが、ディスプレイの光を処理する運動と、肉眼で目の前をモデルが通過する経験は、まったく性質が異なっている。国内外の多くの人が予想していた通りだ。もちろん、ネガティブな意図はまったくない。

(文:山口達也)

 それよりも、ごく個人的に驚いたのは、iPhoneをアクティブにしている時間を通知するスクリーンタイムが、それまでの数倍の数値を示したことだ。自粛期間中はなおさらだが、現実の世界よりも、デジタルの世界を見ている時間が多かったという単純で無自覚だった事実に、ちょっと恐ろしくもなった。

 

デジタルとアナログの新しい解釈

 「21世紀の服」を標榜する「フミトガンリュウ(FUMITO GANRYU)」は、さまざまな入れ子構造を用いたアーティスティックなファッションフィルムを発表した。アトリエ周辺と思われる東京都内のランドスケープと、スタイリング、モデル、撮影までを手掛けたイギリス在住のトム・ギネスが自身の日常のワンシーンを活写したような映像がミックスし、タイトルは「フリーアクセス」。今、実に解釈のしがいのあるフレーズだ。

 自然界の音のサンプリングを音楽化したBGMのもと、デジタル(例えば、SNS、映像表現やリモートコミュニケーション)と、アナログ(象徴としてのブラウン管テレビやフィジカルな撮影)が、それぞれの性格の違いを明らかにしながら前例のない融合を遂げようとしている現代を、いささかおどろおどろしく表現しているように思えた。インドアのルームウェアとして求めたい、快適で、柔らかく、上質な素材(ジャージー)と、アウトドアに最適なスポーツやストリートの少々アクティブなエッセンスが調和した「ルック1」は、行動にいくぶん制約のある今の僕たちが感情的に求めている服なのかもしれない。

 生活を一変させたフィジカルディスタンシングの経験からも、専門的なテクノロジーの発展からも、デジタルとアナログ、オンラインとオフラインのシームレスな関係は、これまで以上に拡張され、ますます新しい解釈を求められていくことになるだろうと思う。

 

ミニチュアのトリック

 そうした中、クリエイティブなファッションデザイナーたちは"デジタル"をどう活かしていたのか? ケーススタディが欲しいと思ってすぐ、「ハトラ(HATRA)」がパンデミックの渦中に始動させた、AR、VRアプリを用いたバーチャル展示会が頭をよぎった(視覚情報としての精度の高さに本当に驚いた)が、「I also wanted to take a beat from the past」とコレクションノートに記した「ウォルター・ヴァン・ベイレンドンク(Walter Van Beirendonck)」の発表にも、見逃せない手がかりがあった。

 コレクションをまとっていたのは、日本を拠点に活動するイーライ・エッフェンベルガー(ウォルターの教え子でもある)と、アントワープのトロワ・クオーツ・スタジオとの共同作業で作られたという球体関節人形にもみえる22体のミニチュア。ウォルターがこの発表方法の着想を得たのは、1940年代のフランスのクチュリエたちの作品だった。

 第二次世界大戦直後、観客の前で盛大なショーを行う手段もなく、同時に、生地不足の解決策として誕生したのが、ミニチュアサイズでデザインを発表するというアイデアだった(例えば、1945年のテアトル・ドゥ・ラ・モード。「ディオール(DIOR)」のオートクチュールコレクションの映像も参照を)。では、そうしたアイデアの一片をデジタル時代に持ってくるなら? 例えば、黒背景にミニチュアをセットし、クローズアップなどのカメラワークでデザインの特徴や意図するところを明らかにする。これは回答のひとつだ。

 画面いっぱいに表示されたミニチュアが、あたかもリアルな人間のサイズに錯覚してしまうのは映像や写真のトリックでもある。寸法の氾濫だ。それでも、「ヒト」ではないという意味ではフェイクで、寸法は数分のイチなのに、ウォルターの名前付きのルックに人間よりも人間らしい、ちょっと不気味な質感がかおっているように感じたのは不思議な体験だった。

 

理想を具現化する

 もっと軽妙で、心躍るケースもある! パリ・ファッションウィークに初参加となった「キッドスーパー(KIDSUPER)」は、王道ともいえるキャットウォークを人形劇のスケールで作り上げた。フロントロウには、あのジャーナリストからあのエディター、(SNS上のファンによれば)BTSのメンバーまでが着席。直感的に想像できるランウェイショーの形式を逆手にとり、多彩なモデルやルックの登場順が描くストーリー性、コレクションの全体像や服のディテールを見ることができるというフィジカルなショーの特異点をすくい上げているのが面白い。おそらく、パリメンズへの公式参加を夢見ていたデザイナーが理想を具現化したかのようなランウェイになっていた。

 

 70本の映像をスローバックして再確認できたことは、それぞれのバジェットの規模に関わらず、創造力やアイデア、そしてそれらを実現化する技術(もしくは、コラボレーター)が鍵になっていたことだ。

 185センチのモデルが目の前を歩いていくショーではない。が、デジタルをとりまく現代の環境や1940年代という過去からも紐解ける、広義の「スケール感の転換や解体」は、とても興味深いアプローチだった。こうした視点は、さまざまなリソースやバジェットをどうコントロールし活用していくかという、おそらく現在形でさまざまなブランドが直面している課題の解決にも一役買うかもしれない。

 

物語る3D

 オンラインでの実践的な例もある。最たる例は、3Dのルックブックを展開した「アンダーカバー(UNDERCOVER)」だ。ビューアーを自ら操作して、モデルを回転させたり、動かしたり、ピンチアウト(ズーム)することができ、「360度ビュー」に、ある種の奥行きが追加されている。ルック全体はもとより、グラフィックからアクセサリーまでの細部を高解像度で見ることができ、一体ずつ異なるモデルのポーズや表情がコレクションのトーンを冗舌に物語ってもいる。限界のある人間の視力と、デジタルの解像度は、どんな化学反応を起こし、ポジティブに繋がりあうことができるのか? そんな疑問も得ることができた。

 「ボッター(BOTTER)」が映像発表とは別に公式ホームページ内にローンチした「クロークルーム」は、アバターに、まだ見ぬ2021年春夏コレクションの服を使って着せ替えるオンラインスペースだ。服地の質感や揺れ感はそれなりにリアリティがあって、少ない操作でシンプルに情報を楽しんでルックを確認できるというのはブランドのファンにとってもきっと価値がある。

ボッターのクロークルーム(公式サイトより)

 パソコンやスマートフォンでみるファッションに慣れてしまったし、今後のアップデートから目が離せないが、服が物体である以上、五感や着心地といった要素を内包するリアルな質感や記憶も大事にしたいと反芻させられたのも今回のパリメンズだった。そういう意味では、「JW アンダーソン(JW ANDERSON)」が、ルックブックやメッセージカード、押し花などを同封したフィジカルなプレスキットを世界中に発送した一方で、肉声で語るオンラインコンテンツを配信したのはもっとも先鋭的なアイデアだったのだ。

 次回のパリメンズファッションウィークがどのように開催されるかは定かではないし、これまで通りに"戻る"というブランド主体の選択もある。が、こうした「服をみる体験」の更新は、単に、ファッションをみせる方法が拡がっていく予兆だと捉えるとずっと楽しく意義深い時間を過ごすことができる。ただし、この現象がパンデミックという緊急事態の渦中からデザイナーやクリエイターの創造力によって生み出されたことも忘れてはならない。

 

***

 最後に、忘れがたい発表をいくつか記しておきたいと思う。

 最高のサウンドと小気味よいテンポを刻む構成で、一着一着の細部まで確認することができた「カラー(kolor)」の映像は、視聴者に対して誠実で、もっともクリエイティブなプレゼンテーションのひとつだ。リアルなファッションショーでは体感できないダイナミズムがあったことに感銘すら覚えた。エルメス、あるいはエチュードにおける、旧来的なウォーキングとはいくぶん異なった「フィジカルな歩く姿」を主体に、ワンカット調の巧みなカット割り(画角の変化)で魅せる映像プロットも素晴らしかった。「ビデオでは服がよくみえないのでは?」とぼやくのであれば、これらの映像を一度再生してみるのも良いかもしれない。

 抜群のユーモアを起点にする「ダブレット(doublet)」は「言葉いらず」で最高だったし、「メゾン ミハラヤスヒロ(Maison MIHARA YASUHIRO)」のランウェイでは精度を増したデザインアプローチを再確認し、楽しいストーリー仕立ての人形劇には痛烈な皮肉も宿っているように思えた。「ルドヴィック デ サン サーナン(Ludovic de Saint Sernin)」が継続してきた自身のビジョンをシネマティックに描いたユートピア的な作品などには、新時代を予見させるカンフル剤のような真新しさはなくとも、それぞれの美学や哲学と向き合う意思、そしてブランドが歩むであろうシナリオの一編がみえた。この感想を抱いたのは、きっと僕だけではないと思う。

 この原稿を書く直前、「Tokyo Fashion Prize」のサポートのもと、今年1月にパリで2021年春夏コレクションを発表した「ターク(TAAKK)」から、一通の封筒が届いていた。デザイナー森川拓野の直筆の文面には、生地作りがデザインの根幹にあることや、今季は特殊な織機との出会いから開発された繊細なグラデーションを描く素材がキーとなっていること、そして、「世の中が大きく変化する中、ブランドとしての思いを感じていただきたく」と記したうえで、ショートフィルムを制作したのだと綴られていた。

 同封されているQRコードをスマートフォンで読み込むと、真っ黒の画面に、カタカタと音を立てながら「DEAREST」とタイポライター風に文字が打ち込まれ......続いて、僕の名前があらわれた。どうやら、個々人専用の動画とURLが作成され冒頭の部分だけがパーソナライズされている。映像が続く。「時々思うんです/元気?」。

 コレクションのタイトルは、「UNPOSTED」。恋人か友人と離れ離れのままでいる女性がその心境を語りながら、飄々と、時に眉間にシワを寄せながら日常を過ごす若い男の姿がタークのコレクションとともに描かれていた。「手紙」というコンセプトに忠実な冒頭のささやかなサプライズは、「個人」を「能動的」にさせる最高の仕掛けでもある。開封して読むことのない手紙など、ほとんどないのだ。

※このタークの動画はパーソナライズ仕様ではない通常バージョン

文・山口達也 Tatsuya Yamaguchi
ライター/エディター。大学在学時より東京を拠点に国内外のファッションデザイナーやクリエイター、アーティスト、ファッションウィークなどを取材・執筆。近年は『i-D Japan』『Them』『AXIS』など様々なメディアに寄稿。

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