サルバム 2021年春夏コレクションムービーより。デザイナー藤田哲平の語りと共に新作コレクションを映している。
サルバム 2021年春夏コレクションムービーより。デザイナー藤田哲平の語りと共に新作コレクションを映している。

Fashionフォーカス

パリメンズ一考:「語り(ナラティブ)」が伝えること / 果たしたこと

サルバム 2021年春夏コレクションムービーより。デザイナー藤田哲平の語りと共に新作コレクションを映している。
サルバム 2021年春夏コレクションムービーより。デザイナー藤田哲平の語りと共に新作コレクションを映している。

 オンラインを舞台に、2021年春夏パリメンズファッションウィークが開催された。この間、1月のパリを頭の片隅に思い浮かべながら、自室でひっそりと、15インチのディスプレイと向かい合ってきた。結果、オンライン発表にまつわるいくつかの発見があった。

(文:山口達也)

1つ目の発見:ルールもセオリーもない多様なファッションフィルムを70本近く観てみると、映像の「表現」が、ブランドのビジョンやデザイナーの思考、物作りの背景を伝える手段として開かれていて、ますます探究されていく領域なのだという予想が、確信に変わった。しかも、制作面においても限られた条件下だったと思われるものの、それぞれの創造性をしっかりと垣間見ることもできた。これは、なかなか刺激的な発見だった。

 とはいえ、いくつかの映像で、永遠の時間を過ごしているように感じたのは睡魔だけが原因ではなかったと、この数日間のうちにパリメンズを観た人たちと話して腑に落ちることもあった。

 ファッションフィルムに限った事ではないが、主に招待客を対象にする従来のショーとは違って、インターネットの世界で「観客」が拡張されたフリーアクセスなコンテンツは、なかば強制的に観せることは難しいと、よく耳にする。月極で契約しているNetflixや、自発的に足を運んだ映画館という箱で観るならまだしも、(時差もあるし......)観る側の"能動的"な状態をキープするのは至難の技かもしれない。が、そういったことを踏まえたとしても、これはメゾンやブランドによる「プレゼンテーション」だ。

 

2つ目の発見:こたびのデジタルファッションウィークに参加したデザイナーは、それぞれどんな「観客(=鑑賞者)」を想定していたのか。あるいは、するべきだったのか。バイヤー? ジャーナリスト? カスタマー? あるいはそれ以外? パンデミックの影響を受けた余儀ない選択だったとはいえ、観る人の好奇心を満足させたり、求められている情報の質と量の条件をクリアしたりできず、タイムテーブルを追いかける「観客」を置き去りにした映像があったという指摘はごもっともだった。表現には、観客が必要である。この一見シンプルな前提が、今後、オンラインで発表されるコレクションを観るときに忘れてはならない、2つ目の発見だった。誰だって、発信するなら右にフリックされたくない。

 そんな疑問符も抱いていたデジタルファッションウィークの折り返し日、「キコ・コスタディノフ(Kiko Kostadinov)」の映像が公開される時間を迎えた。事前に申請し、閲覧のために必要なパスワードがメールで届くというフローがあり、いささかクローズドな環境。一回性を保つためか一度再生するとリプレイができない仕組みで、映像を「いつでも何度も観られる」状態にする他の発表とは趣が違う。

 そもそも、映像をディレクションしたのが仄暗さの中に美しい光をえがくスペインの写真家、Robi Rodriguez(ロビ・ロドリゲス)と聞いていたから、個人的に楽しみにしていたのは白状するしかない(いわば僕は、超能動的だった)。二部構成の冒頭、多彩な6名のモデルが順々にカメラのレンズに向かい、詩的で肉薄とした「語り」を始めてすぐ、映像の世界に没入しているのがわかった。この時、少なくとも僕の好奇心はくすぐられ、ディスプレイにしがみついていた。

 彼らはロビが書き下ろしたという7つのマントラを口にする。「消費者主義は正直だ/そして、すべての良いものにはバーコードがあることを教えてくれる」、「やはり/完全にまともな社会では/狂気だけが唯一の自由」(一部抜粋)。そんな社会構造を射抜きながら、消費主義や個人主義にまつわる挑発的なメッセージを脳内でリフレインしていると、映像は第二部であるランウェイパートに移行する。イギリスにあるゴシックリバイバル様式のストロベリーヒルハウスの廊下で、中世のドレッシングのディテールと、スポーティな素材やカラーパレットが掛け合わさったようなルックが現れる。その、バリエーション豊かで「自由」なデザインに対峙していると、15インチのディスプレイの奥側に、デザイナーが抱える現状や先行きへの不安と緊張感、そして、このブランドが独自の道を進んでいくという力強い声明にも似た一筋の光明を感じとった気がした。ルック写真だけでは、モデルたちと目があって語り掛けられなければ、こんな想像力は働かなかったに違いない。

 

 少なくとも僕は、このパリメンズ期間中に何度も人の声に耳を傾け、それを理解しようとしたり、疑問が湧いたり、思索した時間と経験が、今も印象に残っている。「人の声」がフックになっていたのだ。映像の冒頭でBlack Lives Matter運動、ひいてはレイシズムに屈しないマニフェストを読み上げていた「ボッター(BOTTER)」。デザイナーの肉声が響くフィッティングシーンから始まる「パロモスペイン(PALOMO SPAIN)」は、旧来的なセクシュアリティを超越する、独特なエレガンスがどのように生み出されるかを活写しているようだった。共感というより、彼らのクリエイティビティを知覚する手がかりを得たのだ。

つまるところ、ビジュアルも編集も魅力的で、独自のストーリーがあったこれらの映像には、ある種の「ナラティブ」、あるいは「語り」があった。手法そのものは新しくない。が、一介の「観客」として、ブランドやコレクションのことを「よりよく知り」、(仮に衣装のように見えても)どこかで親密さを感じることができた。たとえ服の点数がわずかで、服地が動く"ウォーキング"の時間が少なくとも、人の声を媒介して「より伝えよう」とする作り手側の目的意識をひしひしと感じとることができたのだ。これは、不幸の連鎖がいまだに続くなか、今回の発表方法を選んだデザイナーたちが今、何を考えているかを知りたいと願う僕にとって、実に幸運なことだった。

 インスタグラムや公式サイトを横断しながら24時間かけて「伝えるための」様々なデジタル配信を行った「ロエベ(LOEWE)」のジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)は、肉声でアトリエの真髄とクラフトマンシップを讃えるコレクションのハイライトを語り、その包括的なアプローチは参加メゾンの中でも傑出したものがあった。「ベルルッティ(Berluti)」はコラボレーターとの対話を通してコレクションのムードを正確に表現し、「ディオール(DIOR)」もまた、キム・ジョーンズにとって欠かせないクリエイティブパートナーの声をすくい上げながらクリエーションプロセスを明らかにしていた。

 アトリエの近くだという東京のランドスケープを映像の舞台にした「サルバム(sulvam)」は、自身の出自であるパターンメイキングが、デザインの中核であり続けていることを明瞭に伝えていた。例えるなら、良質なドキュメンタリーフィルムのようであり、今すぐにでも実際の服をみて、触れてみたいと思わせるひと時だった。

 クリエイションのバックグラウンドを示し、自身のアーカイブに改めて目を向ける動きが顕著に表れてきている今、それぞれが、ブランド独自の手法やスタイルを反芻しているように思える。2020年の上半期に地球上で起こっているあらゆること、過剰な生産や消費社会への反省、声高に訴求されるファッション業界のスローダウン、ロックダウン中の内省的な時間といったことが、デザイナーのマインドセットを変化させているのだったら、あらゆる面での誠実な対話は、これからのファッションに必要なのではないか?

 

3つ目の発見:もし、アトリエの外側の人々――フロントローに座る面々からブランドのファンまで――に語りかけ、コミュニケーションをはかる機会が必要とされるなら、ファッションコンテンツのプレゼンテーションにおいては、個人の視点での「語り(ナラティブ)」というアイデアが有効な手段になっていくと思う。将来的には、この「語り」が言語以外のものに変わるかもしれないが、僕は今のところ、一枚のステイトメントTシャツよりも、確かな声を聞きたいと思った。

 

余談だが――
長らくSHOWStudioのファンなので、ファッションと映像のコンビネーションをもっとたくさんのケースを通して観てみたいと思った。これまで以上に人の知見を巻き込み、新進のテクノロジーを内包しながら進化を遂げる予感もする。

「語り」を聴くなら――
多くの映像に英語字幕がついていることもポイントかもしれない。言語の壁は、以前よりも低くなっているし、精度はふるわなくてもYoutubeの自動翻訳によって大意は汲み取ることができる。僕も、試してみよう。

文・山口達也 Tatsuya Yamaguchi
ライター/エディター。大学在学時より東京を拠点に国内外のファッションデザイナーやクリエイター、アーティスト、ファッションウィークなどを取材・執筆。近年は『i-D Japan』『Them』『AXIS』など様々なメディアに寄稿。

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