
Image by: FASHIONSNAP

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ストイックさを美徳とする空気が、ファッション業界には少なからずある。その中で、「ポンティ(PONTI)」デザイナー 平田信絵は、少し違う道を歩む。急がず、無理せず、感覚に耳を澄ませるように服をつくる。今の平田は、かつてとは違う景色を見ている。時間に縛られず、納得するまで続けた製作の日々。予想もしなかったコロナ禍、そしてパンデミックと重なった出産。いくつもの経験を経て、「無理をしない服づくり」と「自分らしい環境」を手に入れた。それでも変わらぬ、いや、更新されるコレクションの完成度。緻密なテクニックと奇妙で可愛らしい色彩が混ざりあい、クラフトの視点が加わったシックなウィメンズウェアは、その魅力を現在も高めている。平田の姿勢は、服づくりを超えて、ファッション業界で働く人にも、そして業界の外で働くすべての人にも、静かに響くかもしれない。(文:AFFECTUS)
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PONTI 2025年秋冬コレクション
Image by: PONTI

PONTI 2025年秋冬コレクション
Image by: PONTI

PONTI 2025年秋冬コレクション
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文化服装学院卒業後、アパレル企業やコレクションブランド、フリーランスのデザイナーを経て、2014年秋冬シーズンにウィメンズブランド「ポンティ」/「デュ・ポンティ」を立ち上げる。ポンチ絵のようにスケッチのなかから生まれる日々のイメージやアイデアを形にしている。光と影、クラフトと都市、私たちを取り囲むものと空想上の辺境。相反するムードを組み合わせた衣服を手掛けている。
古本、古道具、七夕飾り...偶然が「かたち」になる
⎯⎯2025年秋冬コレクションの製作時は映画や音楽など、よく観たり、聴いたりしたものはありましたか?
気になる古本やオークションで偶然見つけたものを買って、自分が「ああ、こういうの好きだなあ」と感じたものをいつも身近に置いて、それを繰り返し見ていました。それで目にとまったものがあったら、「なぜ今これが気になるんだろう?」と、自分なりに調べます。例えば、どんな技法で作られているのかを調べて「私だったら、この技法をどう使うだろう?」とじっくり考えていました。

ポンティデザイナー 平田信絵
⎯⎯古本では印象に残っている一冊はありますか?
特定の一冊というよりも、毎シーズン見直しているような作家やモチーフがあります。たとえば、ジョージア・オキーフの作品集は何度も手に取っています。作品そのものが好きというのもありますが、彼女のワードローブの空気感とか、彼女が持つ「静かな強さ」みたいなムードにすごく惹かれるんです。それから古道具も好きです。私、そういう服とは一見関係ないものにもなぜか惹かれるんですよ(笑)。たとえば籠。木と金属が融合しているようなものにも妙に惹かれてしまうんです。手とか足とか、身体の一部をモチーフにしたものも好きで、自分でもそういうオブジェを持っていたりします。


⎯⎯2025年秋冬コレクションでは、花の形にくり抜かれた素材が目を引きました。
あれは実は、全く関係ないものから着想を得たんです。「アーミーネット」ってご存じですか? 最近あまり見かけないんですけど、カモフラージュの布で、波線のように規則的にカットされていて、物が見えたり隠れたりするような仕掛けになっているんです。用途は私もはっきりとはわからないんですが、その仕組みがすごく面白いなと前から気になっていました。
ただ、アーミーネットの規則性をそのまま服にしてしまうと、必要のない部分までカットされて、肌が過度に見えてしまうことにもなりかねない。大人の女性像も意識していたので、もっとしなやかな見せ方ができないかなと考えました。


PONTI 2025年秋冬コレクション
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⎯⎯そこからどんな手法を試していったんですか?
思い浮かんだのが、折り紙で作る七夕の飾りや天の川のような雰囲気です。好きな場所に好きなかたちを置いていく感覚で、前面にびっしりというより、「ここにだけ入れたい」と思うところに、そっと配置していきました。
着やすさもすごく意識しました。秋冬ですし、全部が透けて肌が見えてしまうのは避けたかったので、下には透け感のある別の生地をレイヤードしています。そうすることで、カットワークの陰影も楽しめますし、異素材のコントラストも生まれる。結果的に「一枚で完成する服」に仕上げることができました。
⎯⎯技法的には生地をレーザーでカットしているんですね。
最初は工場さんから「ウールは焦げるからやめたほうがいいですよ」と止められました。でも、実際にやってみたら、レーザーでカットしたときにできる、焦げた茶色いラインがむしろ味になると思い、そのままウールで進めることにしたんです。
⎯⎯他にも印象深いアイテムはありますか?
フリンジシャツですね。これは、糸のわたりを切るか切らないかでずっと悩んでいて。糸切れが少なくなるので、本当はわたりの下の部分を切りたかったのですが、それをしてしまうと求めていた市松っぽさが出なそうで......。最後の最後まで、「どうする?切る?切らない?」と悩みました。こんなふうに、作りながらアイデアが出てくることが多いです。

⎯⎯ポンティには、 子どものオモチャを見ているようなノスタルジーと、大人の女性のシックな装いが一つになっていると感じます。
対極にあるようなものをあえて重ねてみるのは、自然とやっているかもしれません。懐かしいけど古びていない、過去の記憶をどこかに漂わせつつ、素材で新しさを出してみたり。作っているときは、「こういう女性が着たら素敵だろうな」とイメージを思い浮かべながら進めることが多いです。2025年秋冬シーズンは友人や通りすがりの人など、特定の誰かではない身の回りの人をイメージして製作しました。
⎯⎯平田さんが素敵だと感じる女性の共通点は?
ジョージア・オキーフみたいに、静かだけど、強さがにじみ出ているような女性は好きですね。自分の気持ちに正直に、集中して何かに取り組んでいる人はいいなと思います。
神は細部に宿る、「頑張ってる感」を出さないポンティのモノづくり
⎯⎯コレクションのアイデアはどのように生まれてきますか?
すごく月並みなんですが、街を歩いていてふと目に入った景色だったり、すれ違った人の服の色だったり、そういった何気ない瞬間から生まれることが多いように思います。あとは、たまたま気になって行ってみた美術館だったり、先ほどお話した古道具の本だったり、自分が興味のあるものからも断片的にインプットしていて、それがどこかでつながってくる感覚があるんです。
これも自分ではあまり意識していなかったんですが、ときどきぼーっとしているとき、頭のどこかで自然と考えを整理したり、「次は何をつくろうかな」と無意識にまとめていることがあるみたいで。そういう時間が、静かにアイデアを育ててくれているのかもしれません。
⎯⎯最近は「ライフワークバランス」が重視されるようになり、一人思案する時間も増えたかもしれませんね。
私自身の話をすれば、コロナ前までは「とにかく仕事を詰めて、終わったらやっと自分の時間」という人間でした。でも、コロナ禍とちょうど出産の時期が重なって、そこからはなかなか身軽に動けなくなってしまって。今は、仕事とプライベートが緩やかに混ざり合っている感覚があります。私も含めて、スタッフには子育て中の人が多くて、それぞれ限られた時間の中でベストな答えを探しています。時間の制約があるゆえに、集中して、でも無理せず続けていくスタイルに変わってきました。
とはいえ、毎日順調に進むわけではなくて……。考えてもなかなか形にならない日もあるし、逆にふっとアイデアが湧いて、思いがけず前に進む日もあって。その繰り返しですね。本当に、悩みながら進めています。

⎯⎯悩みは、どんなふうに解決しますか?
スタッフと話しながら進めることで解決されることがあります。雑談みたいにラフな会話のなかで、スケッチがなくても自然とアイデアが膨らんでいくことがあるんです。そういう日は、不思議なくらい一気に話が進んで、「今日はすごく進んだなあ」っていう感覚が残る。あれはとても気持ちがいいですね。時間をかけて生まれるものももちろんあるけれど、それだけじゃない。瞬間的に広がるアイデアとか、そのときの空気感や感情、そういうものが大切なんじゃないかと、最近はよく思います。
⎯⎯ポンティの服はリラックス感がありながら、縫製や素材にすごく緻密さがあります。そのバランス感覚は、昔から自然に持っていたものなんでしょうか?
試行錯誤する中で身についたものですね。気合いを入れすぎると、服にもその緊張感が移ってしまって、少し息苦しく感じることもある。だから、見せたい部分はしっかり作りつつ、全部が「頑張ってる」ようにはならないように。そういう意味で、抜け感はすごく大事にしています。

⎯⎯「頑張ってる感」を出さないために意識していることは?
細部にこだわりを持つことですね。表面のデザインよりも、私はどちらかというと細部に宿る工夫が好きで。たとえば、袖を折ったときにだけ見える切り替えとか、裏地のさりげない配色とか。着ていくうちに「あ、ここにはこんなデザインがあるんだ」と少し心が躍るような、小さな発見がある服。そういう部分に、着た人だけの喜びがあるんじゃないかなと思い、意識を置いています。
デザイナー平田が服を通じて本当に届けたいもの
⎯⎯ポンティは「テーマを決めずに感覚でつくる」というスタイルで製作を行っています。
昔はテーマを決めてつくっていました。その方が、お客様にも伝わりやすいですし、今でも「今回のテーマは?」とよく聞かれます。でも、私の場合はテーマがあると、そこに引っ張られすぎてしまうというか、自由に考えられなくなって、自分の中の選択肢がどんどん狭まってしまう感覚があって。
それに気づいたのは、ふと「自分の“好きなもの”って、そんなに変わっていないな」と思ったときでした。だったら、その感覚に素直に従ってものづくりをしていく方が、私には合っているんじゃないかと感じて、そこからテーマを決めないようになりました。自然と、無理に言葉でくくることを手放すようになったというか、今は流れるように感覚に任せてつくるスタイルに落ち着いています。

⎯⎯ポンティを始めたとき、どんなブランドにしようと考えていましたか?
正直、最初は先のことなんて、ぜんぜん考えていませんでした。「なんかこれ、作ってみたいな」「ちょっと興味があるな」という純粋な動機で、とにかく自分が好きなものを、自分のペースで、少しずつ作っていけたらと、そんな気持ちで始めたんです。カットソーを中心にやっていこうとスタートしましたが、気づけば今ではワンピースやジャケット、ワーク系のアイテムなどいろいろと展開するようになっていて。「無理はしない、できる範囲で少しずつ広げていこう」というスタンスを大切にここまで続けてきました。
⎯⎯ブランドを始めた時は1人だったと聞いています。
当時は展示会をやるところまでしか考えていなくて、終わったあとのことをあまり深く考えていなかったんです。「展示会って、終了したら集計とかオーダーとかあるんだ」と、そのときにようやく気づくくらいでした(笑)。それで、今も一緒に働いてくれているスタッフに、「ちょっとだけ手伝ってくれる?」と声をかけたんです。そのスタッフも当時は、1歳くらいのお子さんがいて忙しい時期だったんですけど、快く引き受けてくれて。でも「ちょっとだけ」のつもりがなんだかんだで今までずっと続いていて……「話が違う!」と思ってるかもしれません(笑)。それくらい最初は深く構えず、楽しみながらやっていました。

⎯⎯最初の展示会の反響はどうでしたか?
思っていたよりもオーダーがついて、「これはちゃんとつくらなきゃ」と背筋が伸びました。お店のバイヤーさんも何人か来てくださったんですが、その中に「スポーティさとモード感のミックス」をコンセプトにしているお店のバイヤーさんがいたんですが、ポンティのルックとそのテーマがすごく相性良かったみたいで、複数名で熱心に見てくださったんです。
当時は、どんなお店なのかもよくわからないままお話ししていたんですが、「空気感が好き」と言ってくださったことがとても嬉しくて、印象に残っています。
⎯⎯平田さんが考える「ポンティらしさ」とは?
自分ではなかなか客観的に見られていない部分もあるんですが、「色づかい」や「素材の選び方」に、ポンティらしさがあるのかなと思っています。どこかポップな雰囲気、それはブランド初期から一貫しているかもしれません。それに加え、ここ数年は「手仕事」から生まれる温度感みたいなものに強く惹かれるようになっていて、その感覚も今のポンティには少しずつ備わってきている気がします。

⎯⎯テクノロジーやサービスがどんどん進化して、暮らしがますます便利になっていく昨今、ファッションの役割はどんなことだと感じていますか?
大きなことは言えないんですが、私にとって服は、気持ちをそっと動かす「小さなスイッチ」のようなものだと思っています。暮らしが便利になることはもちろん大切ですが、それだけでは「豊かさ」は生まれないんじゃないかなと。たとえば、ある服を着たときにちょっと気分が高まったり、自分の中に静かにスイッチが入るような感覚。それってすごく感情的なものだし、服がもたらす力だと思います。
⎯⎯平田さんにとって「豊かさ」とは?
人によっては「お金があることかな」って言うかもしれませんが、私にとっての豊かさは「安心感」かもしれません。
⎯⎯安心感というのは、たとえば心地いい人と過ごす時間のような?
そうですね。それに加えて、「穏やかな時間」もすごく大きいです。気持ちが落ち着いていられるような、静かな時間。そういう日常の中に、ふっと豊かさを感じる瞬間があるんじゃないかと思います。まだうまく言葉にできないんですけど、そういうものがきっと、「豊かさ」なんじゃないかな。
⎯⎯物質的な豊かさではなく?
そうですね。デザイナーの私がこんなこと言うのも不思議かもしれませんが、私が服を通じて届けたいのは、そういう「気持ちが落ち着く感覚」なのかもしれません。
2016年より新井茂晃が「ファッションを読む」をコンセプトにスタート。ウェブサイト「アフェクトゥス(AFFECTUS)」を中心に、モードファッションをテーマにした文章を発表する。複数のメディアでデザイナーへのインタビューや記事を執筆し、ファッションブランドのコンテンツ、カナダ・モントリオールのオンラインセレクトストア「エッセンス(SSENSE)」の日本語コンテンツなど、様々なコピーライティングも行う。“affectus”とはラテン語で「感情」を意味する。
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