ANGEL CHEN 2019SS COLLECTION
Image by: Bilal

Fashion

急成長する上海ファッション、プラットフォームが要に

ANGEL CHEN 2019SS COLLECTION
Image by: Bilal

(Text:Yoshiko Kurata)

— ADの後に記事が続きます —

 上海ファッションウィークが盛り上がっているらしい、という噂だけが飛び交っていたここ数年、2019年春夏シーズンに向けた今回は、確実に肌で感じられるほどの熱と注目度の高さを感じさせた。

 上海ファッションウィークのメイン会場で行われるショーとは別に、毎シーズン会場を変えて若手ブランドのショーを開催しているプラットフォーム「LABELHOOD」がある。セレクトショップ「陳梁」の共同オーナー Tasha Liuが2016年に創立したこのプロジェクトは、会場、音響、照明、プロデュース、ヘアメイクなどすべてのブランドに共通するショー費用を負担している。

 前回はメイン会場(新天地)に近い三階建てのビルで行ったが、デザイナーからの会場のサイズ感に対しての意見を反映し、今回は上海ビエンナーレの会場でもある発電所跡地に作られた美術館「Power Station of Art」の3棟で、ショーとプレゼンテーションを開催した。

 日本でも名前を聞くようになった「サーロイン(SIRLOIN)」、「シュシュトング(SHUSHU/TONG)」、「エンジェル チェン(ANGEL CHEN)」などのブランドも、このプラットフォームを礎に成長を遂げてきた。彼らの活動はもとより、多くの人を巻き込み形成される周囲環境から、"プラットフォーム"たるべき姿を感じさせるのは何故だろうか?

ANGEL CHEN

■交わる人々

 一回限り、限られたそのたった数十分の出来事、相応しいとされる人のみ入れる空間、それらエクスクルーシブな条件で行われるファッションショーは、1回のみ公演されるのが一般的となっている。しかしLABELHOODでは、"プロフェッショナル"と"パブリック"という2回公演が常識。前者は文字通りバイヤーやプレス向け(今回は一目で見てもメディアの数が増えた)、後者は抽選で当たった一般客の枠(約30〜40人程)だ。

 ファッションに限ったことではなく、いまやシリコンバレーの右に並ぶ中国IT市場を筆頭に世代交代が進んでいると言われるが、特にLABLHOODの会場では10〜20代が熱心に集まる雰囲気が、従来の上海ファッションウィークに新しい息吹をもたらしている。

■海外に向けた潤滑油としての役割

 LABELHOOD然り上海ファッションウィークに海外からの注目が集まっている理由の一つに、海外戦略がある。デザイナーのプロフィールを見れば、セントラル・セント・マーチンズ、パーソンズ美術大学、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)など大半が海外留学後すぐにブランドを立ち上げている。もちろんこの背景には今も続いている一人っ子政策が直接的に影響しているが、彼らのプロフィールはパリ、ロンドンでの展示会を行うきっかけ、下の世代に世界への間口を広げるきっかけを作っている。それに紐づくように国内では海外大学への進学塾まで複数設立され始めているようだ。

 ここまでの戦略は、一旦日本でも従来通ってきた筋道として珍しくないかもしれないが、もう一つ、メディアのバックアップが鍵になっている。例えば、GQ Chinaはロンドンメンズファッションウィークでスポンサー枠を持っており、毎年中国のメンズブランドをピックアップしてオンスケジュールでショーを開催している。2018年秋冬シーズンからは、ニューヨークファッションウィーク期間中に巨大オンラインショップT mall主宰の「NYFW: Men's Tmall China Day」が開催されており、2019年春夏は「エンジェル チェン」がショーを行った。毎年若手を連れ出すことで、現地でのバイヤー・メディアなどとの接点が深まり、広がっていく。

 そもそも現地にはVOGUEやBusiness of Fashionなどワールドワイドな媒体が揃っているため、ブランドの注目度が高まれば高まるほど、メディアの重要性も引き立つ相乗効果が生まれている。

■強まるアイデンティティ

 3日間にわたり、約20ブランドがショーやプレゼンテーションを開催した中、現地で特に注目度の高い3ブランド「シュシュトング」、「サーロイン」、「エンジェル チェン」を紹介する。

 今回上海ファッションウィーク側から声がかかり、初めてメイン会場でショーを行った「シュシュトング」。Liushu LeiとYutong Jiangisが、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッション大学院在学中の2014年に共同で立ち上げたウィメンズブランドだ。ブランドのシグニチャーである立体的なアシンメトリーデザイン、少女心を表すリボンやチュールなどを再構築することで、ブランドアイデンティティを強めた。「家でショートパンツ姿でくつろぐ女性像を意識した」とデザイナーの言葉にある通り、パンプキンパンツやショートワンピースなどのアイテムが目立つ。休暇で度々来日する程、日本のファッションやカルチャーから強く影響を受けている彼らは、上海ファッションウィーク内で唯一「カワイイ」というポジションを獲得している。

 「サーロイン」は、宇佐美真央とAlve Lagercrantzによるユニセックスブランド。それぞれメゾンでの経験を積んだ後、上海を拠点に毎回LABELHOODでユニークな演出のショーを行い注目を集めている。前回は、ショーの観客がiPhoneを片手にランウェイを観る様子を逆手に、携帯をかざさないとショーの全貌が掴めないデジタルな演出だったが、今回はその真逆で禁欲主義的なショーに仕上げた。照明が無く、BGMもない。3人の人間が「get money」と呟き続ける中を、観客は自身の携帯のライトでショーを鑑賞するという、アナログな方向に振り切った。現代の過剰さや、デジタルな生活に疲れた現代人が求める「ウェルネス」へのアイロニカルなユーモアを感じさせる。ブランドが得意とするアンダーウェアをはじめ、中国のバイク用防寒着のような形状のレインコート、また日本の注染の技術を活用した。

 LABELHOODのトリを飾ったのは「エンジェル チェン」。現地ではカルト的な人気で、ショー後に撮影会が行われるほどデザイナーがアイコンとなっている。前回は、現地のダンスバトル番組とコラボレーションしたパフォーマンス形式のインスタレーションで発表。今回は特設ステージを設けたランウェイ形式で、ショーが始まると同時にステージが開き、龍のモチーフが描かれたネオンが会場を照らした。外部から見た"中国"のイメージが、グラフィックや色彩感覚、素材感でストリートウェアに落とし込まれている。

 また、コンバースとブランドのコラボレーション、飲食業からのスポンサーなど様々な分野と常にコミュニケーション・協業することで、ビジネスの側面と共にブランドのポジションを壊すことなくプロモーションにも繋げている。

 現在の上海ファッションウィークの熱気は「数年前の東京と似ている」とも言われる。しかし彼らの急成長は、東京とは違い仕組みから徹底的に組み立てる能力にあるようだ。街の新陳代謝が変わる瞬間には、必ずその地(ストリート)と人々の変化も付き物である。今の上海に宿る躍動感が、国内外の人々、ブランドを巻き込む力として駆動し、プラットフォームの価値付けになっていると言える。

Yoshiko Kurata
ファッションジャーナリスト/コーディネーター
1991年生まれの魚座。ロンドン留学を経て、Quotation magazine、i-D JAPAN、SSENSEなどで国内外のファッションデザイナー、フォトグラファー、アーティストなど幅広い分野についての記事を執筆。
tumblr

最新の関連記事

Realtime

現在の人気記事

    次の記事を探す

    Ranking Top 10

    アクセスランキング