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【連載:美をつくる人】化学だけでは解決できないビューティの世界に魅了 資生堂 東條洋介の場合

Image by: 資生堂

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 普段あまりスポットのあたることのない、化粧品開発の裏側で奮闘する研究員にフォーカスするインタビュー連載。第10回は、資生堂 チーフイノベーションオフィサーの東條洋介氏。2002年の入社後、研究者としてサイエンスの道を歩み、現在は、執行役、チーフオフィサー、チーフイノベーションオフィサー、グローバルテクノロジーオフィサーとしてR&D戦略をけん引。そんなキャリアの背景には、「化学だけでは答えが出ない」美容の領域への尽きない探求心があった。内気な少年時代から、組織の「谷」を越えようとする現在、そして「人類の進化」を見据える未来まで。彼の言葉から、資生堂が目指すイノベーションの核心に迫る。

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◾️東條洋介:2002年に資生堂入社し、資生堂リサーチセンター マテリアルサイエンス研究センターの研究員としてクロマトグラフィー開発に従事。在職中に九州大学大学院薬学研究院の社会人研究生、オーストリア・ウィーン大学分析化学研究員の客員研究員も務め、2022年にR&D戦略部長に就任、2023年からエグゼクティブオフィサーとチーフテクノロジーオフィサーを兼任。2026年1月から執行役、チーフオフィサー、チーフイノベーションオフィサー、グローバルテクノロジーオフィサーを務め、R&Dを生活者やブランド事業と繋ぐための改革を推進している。

入社から研究一筋 化学だけでは解決できない美容の世界に魅了

⎯⎯ まず、東條さんのビジネスキャリアについてお伺いしたいと思います。

 2002年に資生堂に新卒で入社してから、今に至るまでずっと資生堂で働いています。最初に配属されたのは、化粧品の研究チームではなく、化粧品の成分などを調べる装置を作るクロマトグラフィー開発事業部でした。その後は皮膚科学研究や薬剤開発研究にも携わり、当時開発した成分は今も製品に活かされています。2002年から2014年ごろまではとにかく研究一筋でしたね。その後、R&D戦略の仕事をするようになりました。

新入社員時代の東條さん

⎯⎯ そもそも、資生堂に入社しようと思ったのはなぜでしょうか?

 私は元々化学を専攻していたのですが、化学出身の人は化学系の材料メーカーや製薬メーカーに就職することが多いです。しかし、私が就職先を考えていた時、美容の領域は化学の知識だけでは答えが出ない、奥深いものなのではないかと感じたのです。

 化学の世界で、ある程度確立された領域では、わかりやすい技術はすぐ価格競争になりがち。そうした点に疑問を感じていました。それよりも、美容という人の心に訴える仕事に面白さとミステリアスな魅力を強く感じました。この思いは入社試験でも語りましたし、今でも変わらず持ち続けています。

実験に取り組む東條さん(左)

⎯⎯ 当時、化粧品はまだ「女性のもの」というイメージが強かったかと思います。

 その点はあまり考えていなかったですね。研究職は性別に関係なく取り組めますし、就活中に資生堂の職場見学をした時も、男性の研究員はたくさんいましたので。化粧品研究が女性メインというイメージはありませんでした。純粋に、化学技術では解決しきれないフロンティアがあることに心を惹かれ、そこに突き進みました。

内気だった学生時代 理科が好きで読書に没頭

⎯⎯ さらに遡ってお伺いしたいのですが、幼少期はどんなお子さんでしたか?

 人と話すのが苦手でした。

⎯⎯ 今、お話ししている印象とはかなり異なりますね。

 現在の私からは想像しにくいかもしれませんが、幼少期は絵を習うインドアな子どもでした。両親の影響で音楽への興味もあったものの、中学時代は「男子はスポーツ部」という風潮もあって、バスケットボール部で3年間を過ごしました。

 高校で男子校に進学し、自分のやりたかった音楽に打ち込める環境になり、吹奏楽部に入部してクラリネットを担当しました。

クラリネットを演奏する高校時代の東條さん

 しかし、幼少期から理科だけは一貫して好きでした。これも両親の影響で、自宅には理科や科学に関する書籍がたくさんあり、それらを熱心に読み耽っていました。とにかく学生時代は内気でしたね。

「共創」の組織体制で資生堂の強みを最大限に活かす

⎯⎯ 東條さんの過去について伺ってきましたが、ここからは資生堂の現在から未来について。2030年に向けたR&D戦略では、縦割りだった組織体制を、基礎研究をベースに協働する形に変えるという点が印象的でした。

 これまでは、研究所の中で基礎研究・情報開発・製品開発がそれぞれ独立して動いていました。部署間に距離がありブランドホルダーとの関係も弱まってしまい、典型的な縦割り構造となっていました。

 現在は、基礎研究を基盤として、そこからカテゴリー開発、そしてブランド価値の創造へとつながる「三位一体体制」を構築。これにより、資生堂の強みである基礎研究が生み出す成果を、最大限に価値化することを目指しています。

R&D戦略における新体制のイメージ

⎯⎯ この体制はいつ頃から始まったのでしょうか?

 完成したのは2025年ですね。2024年に、組織全体ではなく、まずはプロジェクト単位で試験的に導入したところ、成功事例が出てきました。例えば、純粋レチノールを安定的に配合できる独自技術「資生堂 レチノール トリプルロック テクノロジー」の新たな価値を創出できたことは、まさにこの新体制のもとで生まれた成果の一つです。

 現在、組織全体として基礎研究が製品開発、カテゴリー、ブランド戦略と有機的に連携する体制を確立しています。これは従来の縦割り構造から「共創」への抜本的な転換を意味します。研究所内においては知識の共創が促進され、基礎研究から得られた画期的な知見は、ブランド価値開発担当者に生活者視点での新たなインサイトをもたらします。その一方で、生活者のニーズからは、基礎研究の応用可能性に対する新たな着想が生まれるという、双方向の循環が機能しています。

“谷を越え”、基礎研究と消費者価値をひとつの線に

⎯⎯ なぜ今、その体制が求められるようになったのでしょうか?

 この背景には、グローバル化の進展が大きく影響しています。まだ規模が小さかった20年ほど前は、研究活動は国内で完結していました。組織全体が“顔の見える”関係であったため、自然な連携が図られていたのです。

 しかし現在では、グローバル化が著しく進み、組織規模も拡大しました。人員も倍以上に増加しているのではないでしょうか。これにより、従来の縦割り構造では機能不全が顕著となり、各部署間の“谷を越える”こと、すなわち部門間の有機的な連携が不可欠となったのです。

⎯⎯ “谷を越える”という表現が新鮮です。どういった意味が込められているのでしょうか?

 基礎研究は深掘りすればするほど、専門性が高まり、その“谷”は深くなります。周囲からはその内容が理解されにくくなる。その結果、せっかくの基礎研究の成果が「新発売」や「新技術」といったキャッチーな言葉だけで消費されてしまうことも少なくありません。本当はその裏に、例えば「免疫で予防できる」といった研究成果の裏付けがあるにも関わらず、それがブランドの大きな訴求点として十分に活かされない。この隔たりこそが、私たちが越えるべき“谷”だと捉えています。

⎯⎯ “谷を越える”ための「共創」体制における具体策は?

 “谷を越える”ための施策として、今年度からグローバルで「ディスカバー サイエンス/テクノロジー ミーティング」という場を設け、基礎研究、プロダクト開発、ブランドという3部門が密に連携を図っています。これは、基礎研究の持つ強み、それを製品へと具現化するプロダクト開発の強み、それを生活者のニーズに合致させる視点、これら全てを踏まえてブランド側に逆提案を行うという仕組みです。

 横浜・みなとみらいにあるグローバルイノベーションセンターで創造した基礎研究の成果を、海外のブランドでも直接活用できるよう橋渡しをしています。このように“谷を越える”ことで、研究の持つ真の強みが、最終的に生活者の価値へとつながることを目指しています。

資生堂グローバルイノベーションセンター(Shiseido Beauty Park)

⎯⎯ 海外の研究拠点との連携も進んでいますか?

 そうですね。例えば、アメリカの研究所は「ナーズ(NARS)」や「ドクター デニス グロス スキンケア(Dr. Dennis Gross Skincare)」などを担当していますが、彼らとも基礎研究から深く議論を重ねています。

 こうした連携により、非常に大きなシナジーが生まれることがわかりました。例えば、皮膚科医のデニス・グロス博士が立ち上げたドクター デニス グロス スキンケアでは、皮膚科医からの視点で、次のイノベーションにつながる新たなアイデアが次々と出てきます。グローバルイノベーションセンターは、その名の通り、グローバルなR&Dの中核拠点として、今後さらなる役割を果たすと確信しています。

皮膚科医との連携でメディカル&ダーマ領域の立て直しへ

⎯⎯ 技術力は最高峰のものがある一方で、「メディカル&ダーマ領域」では少し遅れを取っていたのでは、という見方もあります。

 メディカル&ダーマ領域の特性として、生活者、皮膚科医、そして資生堂の三者が共に満足を得る「三方よし」の理念を具現化することが重要だと考えています。

 しかし、ある時期から資生堂が生活者視点に過度に傾倒してしまったのかもしれません。結果として、皮膚科医との関係性が希薄になってしまいました。皮膚科医の方々との対話が不足していたことから、この「三方よし」のバランスは、過去5~6年にわたり、やや均衡を欠いていたと認識しています。

⎯⎯ このメディカル&ダーマ領域には、美容医療も含まれるのでしょうか?

 はい、含まれます。「メディカル」がいわゆる美容医療を指し、「ダーマ」は敏感肌向けというニュアンスですね。美容医療は欧米や中国で特に浸透していますが、地域によってその優先順位やアプローチ方法は異なります。私たちは、それぞれの地域で先生方と協力し、「三方よし」の関係を築いていきたいと考えています。

 具体的には、アメリカでドクター デニス グロス スキンケアを展開し、中国では美容医療研究機関とのコラボレーションによる新ブランド「RQ PYOLOGY」を試験的に導入。そして日本では、敏感肌向けブランド「d プログラム」を中心に、“谷を越えて”研究開発に取り組んでいます。今後は、皮膚科医の方々と連携を深め、「敏感肌サイエンス」をさらに強化していく方針です。

ドクター デニス グロス スキンケア

RQ PYOLOGY

夢は美容で叶える人類の進化 子ども向けスキンケアも視野に

⎯⎯最後に、将来の夢を教えてください。

 資生堂として、2030 中期経営戦略のスローガン「一瞬も 一生も 美しく」と重なりますが、「一生」という長いスパンで、科学技術を通じて社会に貢献していきたいと考えています。今はエイジングケアに注目が集まりがちですが、例えば子ども向けのスキンケアなど、まだまだ開拓できる分野はたくさんあるはずです。

⎯⎯ 東條さんの夢はなんですか?

 個人としての夢は、ビューティの分野で人類の進化を叶えたいですね。人間は技術の力によって、環境の変化に適応したり、なりたい姿へと自らを変化したりできる、非常に面白い生き物だと思っています。

⎯⎯ 特に進化させたい分野はありますか?

 健康寿命です。ただ寿命を延ばすだけではなく、より健康で生き生きと過ごせる期間を長くしたい。健康寿命を全うできるようになりたいと考えているので、「一瞬も 一生も 美しく」のスローガンは、私個人としても非常に共感し、嬉しいメッセージだと感じています。

 肌・身体・心は密接につながっています。体調が悪ければ肌に現れるし、心が疲れていても肌に出る。その逆も然りです。このつながりからアプローチすることで、健康寿命に貢献できることがあるのではないかと思うと、大きなやりがいを感じます。

(聞き手:福崎明子、上玉利茉佑)

FASHIONSNAP 編集記者

上玉利茉佑

Mayu Kamitamari

鹿児島県生まれ。東京外国語大学言語文化学部スペイン語専攻卒業。同大学院でラテンアメリカ文学について学び、修士課程修了後、2024年にレコオーランドに入社。国産から外資、韓国コスメまで幅広くビューティ分野を担当する。学生時代はスペイン舞踊部でフラメンコを踊る傍ら、アメリカ・ヴァージニア州とスペイン・バルセロナへの留学経験を通して、極度の甘いもの好きになる。趣味は海外ドラマとアイドル鑑賞で、「ギルモア・ガールズ」と「フレンズ」は50回以上視聴。

最終更新日:

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