FASHIONSNAPの新年恒例企画「トップに聞く」が今年もスタート。第1回は、アパレルメーカーの老舗大手オンワードホールディングス。「23区」や「アンフィーロ(UNFILO)」、オーダースーツ「KASHIYAMA」などを手掛ける同社は、2026年2月期上期(2025年3〜8月)は増収増益で着地したが、主販路である百貨店売り上げの落ち込みや、中国事業の不振など課題も残した。目まぐるしく変化するファッション業界において、2027年に創業100周年の節目を迎える老舗企業はどのように“前進”していくのか。保元道宣社長に話を聞いた。
ADVERTISING
保元道宣/オンワードホールディングス社長

(やすもと みちのぶ)1965年生まれ。1988年に東京大学法学部卒業後、通商産業省(現:経済産業省)入省。2006年5月にオンワード樫山(現:オンワードホールディングス)に入社。同社常務執行役員や取締役、オンワード樫山取締役専務執行役員などを経て、2015年3月にオンワードホールディングス代表取締役社長に就任。2022年3月からオンワード樫山の社長を兼務している。
Image by: FASHIONSNAP
■オンワードホールディングスとは
1927年、樫山純三氏が樫山商店として創業。1947年に樫山株式会社を設立。1960年、東京・大阪・名古屋各証券取引所第2部に上場し、1964年に同証券取引所第1部に上場指定替え。1988年、オンワード樫山に社名変更。2007年にはホールディングス制に移行し、オンワードホールディングスに商号変更。2022年に東京証券取引所の市場区分見直しにより市場一部からプライム市場に移行。2025年2月期の業績は売上高が前期比9.9%増の2083億円、営業利益が同9.8%減の101億円、純利益が同28.8%増の85億円。

目次
オーダースーツ「KASHIYAMA」、中堅都市出店で躍進
⎯⎯2025年を振り返り、どのような年でしたか?
2025年は、コロナ禍の真っ只中に発表した10年計画「オンワード・ビジョン2030」の前半5年間が終わる、折り返しの年でした。2021年から5年かけて、2030年あるいはそれ以降に向けた成長戦略としてやってきたことが、かなり確かな手応えとして感じられた一年だったと思います。
ヴィジョンでは「ファッション領域」「ウェルネス領域(非アパレル)」「コーポレートデザイン領域(法人向けビジネス)」の3つを大きな柱に設定しています。これら3つの領域全てにおいて、2030年度の目標達成に向けて「いけるぞ」という確かな実感がありました。
⎯⎯各領域で、具体的にどんな手応えがあったか教えてください。
ファッション領域では、大きく3つの点で手応えを感じています。1つ目はオーダーメイド事業「KASHIYAMA」、2つ目は「J.プレス(J.PRESS)」のアメリカ事業、3つ目が「23区」「アンフィーロ」といった基幹ブランド事業です。この3つがそれぞれ違うベクトルでありながら、しっかりとした成長曲線を描くことができたと思います。
まず1つ目のKASHIYAMAですが、これは「オンワード・ビジョン2030」を策定するよりも前の2016年秋に動き出した一大プロジェクトです。縫製、物流などのサプライチェーンを全てゼロから作り、KASHIYAMA向けにアレンジしました。最大の課題は事業のファン層をどうやって充実させていくかという点でしたが、2025年はいくつか新店舗を出店したところ、確かな感触がありました。
⎯⎯KASHIYAMAは2026年2月期上期で前年同期比27.2%増と大きく売上を伸ばしました。どのような場所への出店が奏功したのでしょうか?
これまでは銀座や新宿など、都心に店を構え、広域から集客するスタイルが多かったですが、2025年は、例えば千葉県流山市の流山おおたかの森S・Cや愛知県岡崎市のイオンモール岡崎など、人口20~30万人規模の商圏、いわゆる「中堅都市」にライフスタイル一体型の新業態「カシヤマ」*を出店しました。これが非常に好調で、オープン時には予約が1ヶ月先まで埋まりました。
*スーツのオーダーサービスのほか、カジュアル、アウトドアといった幅広いアイテムを取り扱う。

「カシヤマ イオンモール岡崎店」店舗写真
Image by: オンワードパーソナルスタイル
新業態「カシヤマ」の客層は働き盛りの30代、40代がメインで、女性比率は3割ほど。これまでKASHIYAMAは50代以上や、就活スーツを求める学生などの層は相対的に多かったのですが、30〜40代のお客様は少なかったんです。この層をどうやって取り込むか試行錯誤していましたが、今回中堅都市の郊外型のショッピングセンターなどに出店したことで、そこにしっかりアプローチできることが分かりました。2025年の特に後半戦で、KASHIYAMAには確かな可能性を感じましたね。
⎯⎯予約が1ヶ月先まで埋まるというのは盛況ですね。生産は追いつきますか?
工場は5年先くらいまでの需要増に対応できるものを作り上げているので問題ありません。また、今後はパートナー工場と協力して国内生産に着手する予定です。我々が「オーダーの民主化」と呼んでいる8万円以下の価格帯の商品は引き続き中国・大連の工場での生産がメインになりますが、8万円以上の、中には100万円するようなプレミアム商品については、2026年度中に日本の国内工場で、納期約1週間というのは変えずに生産できるようになります。これにより、百貨店、路面店、ショッピングセンターと、あらゆるチャネルに打ち出せる基盤が整うことになります。KASHIYAMAは2027年2月期には売上高100億円突破が見えており、2030年度までには300億円規模の基幹事業に育て上げる計画です。
⎯⎯オーダースーツは他社でもサービスを手掛けていますが、他にはないKASHIYAMAの強みとは?
KASHIYAMAでは生地の裁断から全てお客様に合わせて行いますから、着心地が全く違ってくると思います。しかもそれがオーダーから1週間で手元に届く。この2つを両立しているのがKASHIYAMAの強みでしょうね。
⎯⎯昨今、リモートワークの定着やオフィスカジュアルの浸透などで「スーツ離れ」が叫ばれています。
スーツをあまり着なくなったという背景は確かにありますが、フォーマルシーンや就職活動など、スーツが絶対に必要になる場面は年に何度かあります。毎日着るものではなくなったからこそ、「着数は多く持たないけれど、せっかく持つなら良いものを、長持ちして自分にフィットするものを」という需要は確かにあるのだと感じています。
我々は生産基盤からサプライチェーンまで全てを自社で押さえていますから、お客様の要望に応じて様々な対応が可能ですし、長年スーツの接客業をやってきたので販売面も自信があります。市場が狭まっているとしても、こうした需要をしっかりと掴んでいけるのではないかと思っています。

KASHIYAMA ヴィジュアル
Image by: オンワードホールディングス
⎯⎯今後のKASHIYAMAの戦略は?
出店を増やし、顧客とのタッチポイントをさらに増やすことに注力します。人口20~30万人規模の商圏は未開拓の場所がたくさんあるので、まだまだできることはありそうです。また、女性のオーダースーツも成長の余地があると思います。現在KASHIYAMAではお客様の3割が女性で、学生さんでは5割にのぼることもあります。女性の方が男性よりも体形に多様性があるので、よりカスタマイズの需要がある。ここに商機があると考えています。
23区は若年層へのアプローチ強化、26年は青山に路面店オープン
⎯⎯2つ目の手応えは、赤字が続いていた「J.プレス」のアメリカ事業です。2026年2月期上期決算で発表された通期予想では、営業損失が前年の3億7900万円から6000万円となり、赤字幅が縮小していますね。
J.プレスはアメリカで創業してから120年以上で、オンワードグループがM&Aをしてから2026年で40年になります。グループの中で最も古いブランドの一つです。ただ、M&A後は日本マーケットを中心に成長してきたため、アメリカにルーツを持つことが少し薄れ、日本のファッションブランドのようになってしまっていた側面がありました。
そこで、2025年4月にアメリカ人デザイナー ジャック・カールソン(Jack Carlson)氏をクリエイティブディレクター兼プレジデントとして招き、現在はメイドインUSAにこだわりながらもう一度アメリカのブランドとして再生させようとしています。9月にはニューヨーク・ファッション・ウィークの公式スケジュールとして、初のショーを開催しました。カールソン氏の就任からまだ半年強ではありますが、売り上げは月次ベースで前年の倍のペースで、オンラインを中心に伸びています。2030年度までには、アメリカでの売り上げを現在の10倍である1億ドル(約150億円)規模まで引き上げたいですね。アメリカの店舗数も、現在の3店舗から20店舗ほどまで増やす計画を着々と進めており、「J.プレスをリボーンさせたい」という長年の思いが、ようやく実現できそうです。

J.プレス ヴィジュアル
Image by: オンワードホールディングス
⎯⎯現在のアメリカのマーケットついてはどのように見ていますか?
全体的に見れば堅調ですね。とはいえ、エリアによっても傾向は違うようで、ブランドのターゲット層によっても明暗が分かれるところかなと。
J.プレスは、富裕層に向けた提案を強化していきます。元々イェール大学があるコネチカット州ニューヘイブンという街で生まれたブランドで、アイビーリーグと呼ばれる東海岸の名門大学で学んだ人たちに好まれる傾向が強いので、そうしたコミュニティに向けて打ち出しを強めていくつもりです。マス向けに広く展開するというよりは客単価を上げていくイメージですね。
⎯⎯3つ目の手応えは23区とアンフィーロですね。
まず23区は、1993年にデビューして今年で33年になります。国内の百貨店を中心に店舗を構えて成長し、2026年2月期上期も増収で着地しました。しかし、なにぶん歴史あるブランドなので、今後は次世代にもリーチし、ファン層を拡大していかなければなりません。コストパフォーマンスや素材の良さで既存のお客様から高い評価をいただいている一方、若年層からの知名度が低いのが現在の課題です。
そこで、次世代とのタッチポイントを作るため、2026年3月、青山に路面の旗艦店をオープンする準備を進めています。オンラインだけではなかなか伝わりにくい部分があるので、百貨店以外の新たな接点を作ることで、今よりもっとたくさんの人にブランドの魅力を知ってほしいですね。
⎯⎯今後23区は「脱・百貨店ブランド」を掲げていく?
百貨店とそれ以外、両方やっていくイメージですね。世代によって百貨店で買い物をするか否かが分かれてしまっているので、現在のお客様を大事にしながら、百貨店に行かない世代に向けてもアプローチしていく必要があるなと。路面店だけでなくショッピングセンターへの出店も進めていく方針です。
⎯⎯百貨店とそれ以外で、ターゲット層に応じてMDを変える可能性もありますか?
ゼロではないですね。今でも多少販路に応じて別注品があったりしますが、そういったもののウエイトが増えてくるかもしれません。でもあまりやりすぎるとブランドの色が分からなくなってしまうので、慎重に判断していきたいと思います。
⎯⎯アンフィーロは、2026年2月期上期で売上高が前年同期比46.8%増と大きく成長しました。
夏が非常に長くなっているという気候の変化に対応できているのが大きいと思います。23区のような歴史の長いブランドは、どうしても四季をベースにしたMDになりますが、アンフィーロは合成繊維が中心で、夏商材を明確に得意としていることが大幅増収につながったのではないかなと。2025年度の見通しでアンフィーロの売上高は100億円規模ですが、ゆくゆくは23区と同程度の300億円規模まで成長させたいと考えています。ただ、今はブランド複合業態「ONWARD CROSSET select」の一角として展開している店舗がほとんどで、アンフィーロの世界観をしっかり伝えきれていない。そこで2026年度は、アンフィーロの単独店出店を計画しています。

アンフィーロ ヴィジュアル
Image by: オンワードホールディングス
⎯⎯出店エリアはどのあたりを考えていますか?
闇雲に出店する訳にもいかないので、まずは広域からお客様が集まりやすい場所が候補になってくると思います。インバウンドの方も含めて集客しやすい東京や大阪の都心部になるでしょう。
百貨店販路の売り上げ不振、今後の戦略は
⎯⎯ここまで手応えの部分を中心に聞いてきましたが、逆に全社的な課題を聞かせてください。
一番大きなところで言うと、「オンワード・ビジョン2030」を策定した5年前と比べて円安が一気に進みました。それに加え、人件費や原材料費、輸送費なども上がっています。つまり、モノを作るコストと、販売するためのコストの両方が上昇しているんです。売り上げはヴィジョンの想定を上回るペースで進捗していますが、こうしたコストアップによって相殺され、目標の8%に対して営業利益率が5%前後で横ばいのまま伸び悩んでいます。ここをどうやって伸ばしていくかというのが明確な課題であり、頭を悩ませている部分です。
⎯⎯2026年2月期上期では、百貨店販路の売り上げが前年同期比2.6%減と落ち込みました。
百貨店だけでなくショッピングセンターも同様ですが、30年、40年以上前に作られた施設の老朽化が進み、クローズせざるを得ないところが増えています。運営の採算が合わなくなってきていることから、商業施設は今後増えることはなく、むしろ減っていくでしょう。
そうなると、限られた商業施設スペースをいかに有効活用するかという問題が浮上してきます。一つのアンサーは、オーダースーツ。この業態は商品を陳列する必要がないので、少ないスペースで商品やサービスを提供できます。通常の販売形態では広い売り場面積が必要だったのが、オーダースーツにすることで売り場面積は半分でも採算が取れるようになるかもしれない。こういった提案ができれば、デベロッパーさんにとっても我々にとってもメリットがあるのでビジネスチャンスは増えるでしょうね。

Image by: FASHIONSNAP
⎯⎯今後は、百貨店に出店している単一ブランドの店舗を別業態に変更したり、複合業態に変えたりする可能性もあると。
そうですね。オーダースーツもそうですし、全国で200店舗出店しているブランド複合店(オンワード・クローゼットセレクト)も選択肢の一つです。複合店であれば、月によってメインで打ち出すブランドを変えるなど、お店を少しずつ変身させることができます。単一ブランドだと、どうしても月によって閑散期ができてしまい、スペースを無駄にしてしまうリスクがありますから。ブランド複合店は、デベロッパーさんからも効率が良いと評価いただいています。商業施設が減っていく時代に、こうした取り組みはもっと増えていくでしょうね。
⎯⎯2024年10月に連結子会社化した「ウィゴー(WEGO)」について。2026年2月期上期は「マーケティング精度の向上やEC事業の好調等により大幅増収に貢献」し、売上高は163億円で着地しました。子会社化してから具体的に変わったことを教えてください。
幹部レベル、現場レベルで人材交流を進めており、お互いに気づきが生まれています。ウィゴー側からすれば、オンワードの財務的な管理やデジタルの活用法などは「目から鱗」ということもあるようです。逆にオンワード側からすれば、小売業であるウィゴーのスピード感や若いお客様との接し方は、百貨店中心でビジネスをしてきた我々にとって非常に勉強になります。こうした人材交流による社員一人ひとりのパワーアップが、今のところ変化として非常に大きいと感じています。
⎯⎯人材交流により、相乗効果が生まれているんですね。
無駄を省くことや、商品の品質を良くするといった分野では、オンワードの知見が活かせます。ただし、その分時間がかかり、スピードが遅くなるという側面もある。ウィゴーと手を取り合って、このバランスを取っていくことで、非常に良い方向に向かうのではないかと考えています。
ウィゴーの今後の目標は海外展開です。メインターゲットが中高生なので、国内は少子化の影響を真っ先に受けます。当然、海外に出ていかなければなりません。ティーンカルチャーにはあまり国境がないので、グローバル戦略を進める上で、オンワードの海外事業のノウハウが活きてくると考えています。まずはアジアを攻める方針で、台湾や中国を中心に準備を始めています。2026年度中にはそれぞれに直営店を開き、現地の有力なECモールにも出店する予定です。
⎯⎯既に上海ではポップアップも開催してきました。
我々が思っている以上に、ウィゴーは海外で知名度と人気があります。日本のサイトで購入したり、来日時に店舗で購入したりと、すでにお客様がついています。服だけでなく、バッグや雑貨類、特にコラボ商品などの限定品も人気です。本格的に海外進出しても、しっかり結果に繋げられるだろうと手応えを感じています。

ウィゴーのバーシティジャケット
Image by: オンワードホールディングス
⎯⎯OMOサービス「クリック&トライ」が2026年2月期上期の売上で前年同期比12.8%増と好調です。
クリック&トライは、店舗運営の最適化に非常に貢献しています。もともとその店舗に配分されていなかった商品をお客様自身が取り寄せることで、機会損失を防ぐことができるわけですから。クリック&トライ経由の売上比率を毎年着実に積み上げていくことで、他社にはできない効率的な店舗運営を実現できると思っています。
これに続くデジタル&オムニチャネル戦略の次のステップは、EC事業をもう一段階レベルアップさせることです。そのためのアクションの一つはAIの活用。AIを使えば、「ささげ(撮影・採寸・原稿作成)」の作業をスピーディーに、かつローコストでできるようになります。マーケティング面では、レコメンデーションの質を向上させ、よりお客様にフィットした商品を提案することにも使えるかもしれません。当社ではまだAIを使って売り上げや利益を増やすという段階には至っていませんが、次の5〜10年でECの売上比率を現在の30%から40%、さらには50%へと押し上げていくために、どのように活用できるのかを試行錯誤していくことになるでしょう。

Image by: オンワードホールディングス
⎯⎯現時点ではどれくらいAIの導入が進んでいますか?
まだ本当に断片的で、社員のリサーチ時間を短縮するといった程度です。AIの導入は当社だけで完結できる話ではないので、AIに強い企業と手を組んで一緒にやっていくことになると思います。AIの世界は変化が激しく「去年最新だったものが今年にはもう古い」なんてことになりかねません。会社の命運を左右する大きな可能性を秘めていると思うので、引き続き注視していきます。
海外事業は脱・中国マーケットへ
⎯⎯全社的な話になりますが、2026年2月期上期決算の海外事業では、アジア地域の売上高が前年同期比10.8%減。特に中国が苦戦したと聞いています。
2025年10月に久しぶりに上海へ行きましたが、やはり中国国内の消費はかなり落ち込んでいるようですね。これは特定のブランドというより全体的な傾向で、百貨店、ショッピングセンター問わず物販はかなり苦戦しているようです。さらに日本以上にEC、特にライブコマースへのシフトが進んでおり、店頭販売は右肩下がりです。オンワードのブランドも多分に漏れず、苦しい状況が続いています。
⎯⎯そうした状況で、今後の海外事業の方針は?
あまり中国だけにフォーカスしすぎず、ASEANも含めたアジア全体を一つの大きなマーケットとして捉える考え方に切り替えたいと思っています。中長期で見れば、ASEANは若い人が多く、人口も伸びている。それに対して中国は高齢化が始まり、人口減少も視野に入ってきています。ウィゴーのように若い世代がターゲットのブランドであれば、なおさらASEAN市場は重要です。もちろん中国市場から撤退するわけではありませんが、中国、台湾、ASEANと、バランスよく事業を展開していきたい。その時々で状況の良い国にウエイトを置くといった柔軟性が必要だと考えています。
一方で、生産に関しては、中国は圧倒的な基盤があるので強いです。販売は厳しいですが、生産拠点としては依然として非常に重要と位置付けています。
⎯⎯中国をメインとしつつ、生産のASEANシフトも進めますか?
将来的には多様化を検討しています。ASEAN最大拠点のベトナムもそうですし、ゆくゆくはインドネシアでの生産も視野に入れています。ただ、物流面などクリアすべき問題も多くて。現時点では、素材やインフラが揃っている中国や日本国内で作るのが最も現実的ですが、長期的には生産拠点の分散を推し進めることを考えています。

⎯⎯日本政府観光局の推計によると、2025年の訪日外国人数は過去最高となる4000万人超えとなる見通しです。インバウンド(訪日外国人客)取り込みについての施策があれば教えてください。
インバウンドが買い物する場所は、銀座や表参道、心斎橋、アウトレットなど、今後も大きく変わることはないと思います。観光地が変わることはあっても、お買い物の動線は大体決まっているんです。その上に、存在感のある店舗をしっかりと作り続けること、そしてブランドの世界観や商品、サービスをきちんと提供し続けることが、基本中の基本であり、最も重要だと考えています。
⎯⎯とはいえ、11月には中国政府が日本への渡航自粛を呼びかけるなど、インバウンド売り上げの見通しも不透明になっています。
幸い、我々はインバウンドへの依存度が高いビジネスモデルではありません。また、今は中国からだけでなく、インバウンドも多様化しています。我々にできるのは、良い場所に良い店を構え、ブランドを知っていただくこと。これを地に足つけてしっかりと進めていきます。
「のんびりしていたら先はない」先代・馬場社長から受け継ぐオンワードのDNA
⎯⎯インフレが進む中、価格に対する考え方を聞かせてください。
為替などの影響で生産コストは上がっていますが、それを闇雲に価格に転嫁してしまうと、現在のマーケットではお客様に受け入れていただけません。特に、去年の価格が分かる定番品では、明らかに値段が上がったとなると消費マインドを冷ましてしまう可能性があるので、経営面での企業努力を続けながら慎重に判断していきます。一方でシーズン商品については、付加価値をつけながらコストアップを織り込んだ価格設定にする方針で、ならしてみると年間で数パーセント上昇するイメージになると思います。

Image by: FASHIONSNAP
⎯⎯2025年度は250人以上がグループに入社しました。新入社員に期待することは?
長年この業界にいると、どうしても「こうあるべきだ」というセオリーや価値観が固まってきてしまいます。しかし、時代は変化しており、上の世代からすると少し違和感を覚えるようなことでも、若い世代にとっては当たり前だったりします。そういった、我々が持つ「このブランドらしくない」「ファッション業界らしくない」といった古い常識を、思い切って打破してほしいですね。次世代のお客様にアプローチするためには、新しい価値観が必要なので。
⎯⎯新たな才能をどのように育成していきますか?
ウィゴーのような新しい事業であれば、若い社員も自分の感性を発揮しやすいでしょう。逆に歴史あるブランドだと過去の成功体験が蓄積されているため、なかなか組織を変えるのは難しいと思います。ですから、まずは新しい事業領域で活躍してもらい、結果を出して自信をつけてもらう。成果を出した後に、既存の事業の改革に着手、といった流れが良いのではないかと考えています。
M&Aも人材育成のための重要なカギになります。例えば先日グループ入りを発表したネイル関連のコスメ・デ・ボーテは、社員30人ほどの会社ですが、そういった環境に出向して経験を積むというキャリアパスもあります。M&Aした会社ならば、ある程度整った環境でスピーディーに経験を積むことができますから。

コスメ・デ・ボーテ ヴィジュアル
Image by: オンワードホールディングス
⎯⎯今後、どのような領域でのM&Aを計画していますか?
M&Aを考えているのは、コスメ・デ・ボーテもそうですが、我々がノウハウを持っていない非ファッション領域ですね。最近では、BtoBではありますが空間デザイン領域のM&Aを視野に入れています。ユニフォームやノベルティグッズを扱うコーポレートデザイン事業では、法人のクライアントを2000社ほど抱えていますが、こうしたクライアントの中には働く空間を改善したいと考えている企業さんも相当数いると思っています。ユニフォームを売りながら、「合わせて空間デザインもどうですか」と提案できたら非常に効率的だなと。現在コーポレートデザイン事業の売り上げは200億円規模ですが、2030年度までに倍増させる計画です。
⎯⎯2026年のファッション業界をどう展望しますか?
ここ数年で季節感が大きく変わったことが、引き続き業界全体として大きなテーマになるでしょう。我々は「四季から二季へ」という言い方をしていますが、春と秋が非常に短くなり、夏と冬の存在感が大きくなっています。この二季がメインのカレンダーに合わせたマーチャンダイジングをどう組み立てていくかが重要です。以前は春と秋が稼ぎ時でしたが、今は非常に読みにくい。この時期をいかに売り上げを落とさずに乗り切るかが、しばらくは業界全体の課題として続くと思います。
⎯⎯2025年8月には、オンワードを売上でアパレル業界首位の座に押し上げた中興の祖で、元代表取締役社長の馬場彰氏が亡くなりました。
当社は1927年に樫山純三さんが創業し、2027年に創業100周年を迎えます。馬場さんは当時38歳という若さで社長に就任され、常に挑戦的なことを続けてきました。社名である「オンワード」は「前進する」という意味です。その名の通り、挑戦し続けることが我々のDNAなのです。しかし、今の停滞した時代では、新しい挑戦が実を結ぶ確率が下がっており、どうしても守りに入りがちになります。どの会社にも「出る杭は打たれる」といった風潮がなくはない。当社も例外ではないかもしれません。
今回、馬場さんが亡くなられたこのタイミングで、そして100周年という節目を迎えるにあたり、創業者や馬場さんの精神を改めて学び、その「挑戦する気持ち」をもう一度社内に燃え立たせることが大事だと考えています。「100年続いたから安心だ」とのんびりしていたら、200年目は絶対にありませんし、10年先だってどうなるか分からない。世の中の変化は激しいですから。馬場さんたちが紡いできた「挑戦する、前進する」という意思を、社内に改めて伝えていく良い機会にしたいと思っています。

Image by: FASHIONSNAP
最終更新日:
ADVERTISING
PAST ARTICLES
【トップに聞く】の過去記事
RELATED ARTICLE
関連記事
RANKING TOP 10
アクセスランキング

アシックス本社が神戸市三宮駅前に移転、時期は2028年1月を予定

ジーンズ専門店の転換期? ライトオンの店舗縮小に見る業界の行方















