ナイキの厚底革命から8年 再編進むランニング市場、トレランとロードランが交差

東京マラソンエキスポ2026のサロモン、ザ・ノース・フェイスのブース
Image by: FASHIONSNAP

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ランニングシューズのマーケットが、過去8年で激変している。2017年、従来の常識だった薄底シューズに代えて、「ナイキ(NIKE)」が厚底カーボンプレート入りシューズを発売し、数年かけて世界の主要マラソンや駅伝を席巻。しかし、競合各社も機能や素材研究を重ねた結果、市場全体が高性能化し、ブランドごとの技術の差は見えづらくなった。今や高い機能性はどのブランドも当たり前。一般ランナーにとっては、「どんな走り方やランカルチャーを提案するブランドか」という側面が、以前より意味を持つようになってきた。そこに呼応するのが、「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」「サロモン(SALOMON)」の動きだ。
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売上高1000億円超え、さらなる成長へシューズ強化



ロードラン向けの「ベクティブ フォワード」。ミントカラーは東京マラソンに合わせた特別色
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ザ・ノース・フェイスとサロモンは、ランニング領域では未舗装の山道を走るトレイルラン(トレラン)を主戦場としてきたブランド。しかし、マラソンに代表されるロードランへの本格参入を掲げて、2月末に国内最大規模のランニング見本市「東京マラソンエキスポ2026」に初出展した。ロードランは国内だけでも約758万人の参加人口を抱える巨大市場*。他方、トレラン市場は近年急速に成長しているとは言え、国内参加人口は30万人前後と言われ、その差は歴然だ。2ブランドとも、ロードにトレイルのカルチャーを持ち込むことで差別化を図る。同時に、間口の広いロードランを入り口に強みとするトレランや山岳アクティビティに客を誘い、ブランドとしてさらなる成長を目指す。
*笹川スポーツ財団の2024年調査から
ゴールドウインが手掛けるザ・ノース・フェイスは、2月に発売したシリアスランナー向けロードランシューズ「ベクティブ フォワード」(2万7500円)を東京マラソンエキスポで打ち出した。同ブランドは売り上げの約8割をアパレルが占め、シューズは相対的に手薄な領域。しかし、ブランドの中長期成長戦略としてシューズへの期待は大きい。
ゴールドウインのザ・ノース・フェイス売上高は2025年3月期で1015億円となり、1978年に輸入販売を開始して以来、初めて1000億円を突破した。ただし、同社が持つザ・ノース・フェイスの商標権は日韓市場に限られる。地理的な制約の中でさらなる成長を描くには、新たな成長ドライバーが欠かせない。そこで白羽の矢を立てた分野の1つが、手薄だったシューズカテゴリーだ。ゴールドウインは、2024年3月期に約60億円だったザ・ノース・フェイスのシューズ売上高を、2029年3月期までに約100億円へ拡大し、ブランド全体として約1280億円を目指すと昨年発表している。
シューズ強化のため、ザ・ノース・フェイスのMDチームはフレンチアルプスのふもと町、アヌシーにあるシューズ企画会社と協働を始めた。ザ・ノース・フェイスのグローバルブランドホルダーである米VFコーポレーションを通してではなく、ゴールドウインが直接連携する体制を築いている。さらに社内にはシューズ開発経験豊富なデザイナーを中途採用で迎え、開発体制を強化。2025年春には、長年の知見があり、契約アスリートも多いトレランシューズで「ベクティブ 3.0」と呼ぶ3モデルを発売。そして今春、満を持してロードランカテゴリーへ踏み出した。
技術革新が一巡したロードランの市場において、トレイルでつちかったDNAやカルチャーをどう生かし、差別化につなげるのか。その一例が、2022年からザ・ノース・フェイスが協賛している湘南国際マラソンでの取り組みだ。大会としてゴミの削減を掲げ、多くのトレランレースがそうであるように、給水ポイントでの紙コップやペットボトルの提供を廃止。ランナーにマイカップやマイボトルを持参してもらうようにした。その結果、以前は使い捨てていたコップ約50万個、ペットボトル約3万1500本を削減。運営方法を参考にしたいという声が各地のマラソン大会から届いているという。集客できるマラソン大会とできない大会の二極化が進む中、同大会はザ・ノース・フェイスの運営姿勢も要因の1つとなり、人気レースとなっている。
ゴールドウインはシューズ強化のためソフト面のテコ入れも進めている。ザ・ノース・フェイス直営店の大型化を進めると共に、大型店には壁一面にシューズが並ぶコーナーを導入。販売員のシューフィッター資格取得も後押しする。また、ザ・ノース・フェイスとして、今春夏にシューズ単独店の出店予定があることも昨年明かしている。
“自己表現としてのランニング”潮流にも呼応



東京マラソンエキスポで試し履きを行った「エスラボ ファンタズム3」
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アメアスポーツジャパンが運営するサロモンも、ロードランへの本格参入に合わせて東京マラソンエキスポに初出展した。ブランドとしてロードランシューズは2016年から揃えていたが、開発に2年を費やしたというトップアスリート向けレーシングシューズ「エスラボ ファンタズム3」(3万5200円)を今年1月に発売。これを機に攻勢を強めている。
同モデルは、トレランシューズのソール開発などの知見を応用しつつ、F1カーのボディやタイヤホイール研究を手掛けるスイス企業と共同開発。注目すべきは、サロモンの原点であるスキーをはじめとしたウィンタースポーツシーンでつちかった経験をもとに、ランニングシューズではまだ本格的に研究が進んでいないとされる「空力性能(空気抵抗)」に着目した点だ。そこから、足首まで覆うゲイター一体型の特徴的なデザインが生まれた。
サロモンは先立って2024年から、「グラベルランニング(Gravel Running)」という名称で、ロードとトレイルを自由に行き来するランニングスタイルを提唱している。2025年には国内14ヶ所でグラベルランニングのグループランイベントを実施。タイムや距離をシビアに競うのではなく、仲間と楽しむというグラベルランニングの価値観は、コロナ禍以降世界中で広がった“自己表現としてのランニング”の潮流に連動する。グラベルランニングで耕してきたファンランナーに加え、ここからはシリアスランナーにもアプローチし、ロードラン領域でブランドの幅を広げる。
アメアスポーツの2025年12月期決算によれば、サロモンのグローバルでの年間売上高は20億ドル(約3140億円)を突破し、2024年12月期時点で、サロモンのシューズ売り上げは10億ドル(約1570億円)を超えていたとも報じられている。かつて本格的なトレランシューズだったサロモンの「XT-6」が、今やファッションアイコンとして定着したことを踏まえれば、エスラボ ファンタズム3をはじめとしたロードランのパフォーマンスシューズの開発強化が、将来的にファッション領域にも好影響をもたらす可能性はある。
ナイキは「ACG」刷新で「ロードからトレイルへ」



ナイキがACGの刷新に合わせて発表したヴィジュアル
Image by: NIKE
ザ・ノース・フェイスとサロモンの動きは「トレイルからロードへ」だが、「ロードからトレイルへ」という逆の流れも顕著になっている。厚底革命でロードラン市場を変えたナイキは今春、アウトドアカテゴリーである「ACG(オール・コンディションズ・ギア)」の刷新を打ち出し、アウトドア領域への改めてのコミットメント強化を掲げる。国内ではトレイルランナーの甲斐大貴、高村貴子とのアスリート契約を発表した。「アシックス(ASICS)」もトレランカテゴリーでの製品のイノベーションを進めている。フランス・シャモニーを拠点とする世界最高峰のトレランレース「UTMB」で、2025年に優勝した英国人ランナーのトム・エヴァンスが、アシックスの契約選手だったことは象徴的だ。
このように、ロードランとトレイルランの境界はあいまいになっており、ブランドも参加するランナーも両市場をクロスオーバーする動きが今後ますます進む。その中で新しいランカルチャーが生まれ、それがさらに次の参加層を呼び込む。ランニング市場は再定義のフェーズに入っている。
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