アーティストのファッションが一躍トレンドになったり、音楽ジャンルによってファンのファッションスタイルが似通っていたり、切っても切り離せない関係にある音楽とファッション。たとえば、湘南乃風のグッズがきっかけでロックフェスではタオルを振り回す文化が生まれたのを知っていますか? そんな風に、社会現象になったり、時にファッションアイテムとしても用いられるアーティストグッズの裏側には、企画担当者の弛まぬ努力があります。そんな制作の裏側を探るべく、ケツメイシや湘南乃風、平井 大、今話題の新しい学校のリーダーズなどのアーティストが所属するテレビ朝日ミュージックに取材を敢行。「カルチャーの創造」をテーマにアーティストのグッズ制作を行うMD(マーチャンダイジング)部とコンテンツ開発部の担当者に、制作の裏話から、新たな挑戦として日本に誘致したビートボックスの世界大会「GBB」の取り組み、今後のMDにおける課題と求める人材について話を聞きました。
◾️テレビ朝日ミュージックとは?
テレビ朝日ミュージックは、放送局系音楽出版社として1970年に設立。「エンタメを通して独自価値を創造し、世の中に提供すること」をミッションに掲げ、根底にある「創造的破壊」の信念のもと、創業時から手掛ける音楽出版社としてのビジネスに加え、アーティストマネージメント事業、イベント事業、マーチャンダイズ事業、ファンクラブ事業など、エンタメにまつわる多種多様なビジネスを展開しています。
目次
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グッズ制作を担うMD部に潜入!担当者に聞く裏話
同社のMD部では、アーティスト1組に対して担当者が1人付き、アーティストと相談しながら企画を進めています。担当者が自らのアイデアをもとにデザインすることもあれば、テーマと商材を設けてデザインコンペに出すこともあるんだとか。一度のコンペでデザイナーから上がってくるデザイン数は100点ほど。その内容を精査し、アーティストの意見を吸い上げた上で、商品化へと動き出します。今回FASHIONSNAPではMD部でグッズ企画、制作を手掛ける片岡さんと小林さんに、気になる制作の裏側について話を聞きました。
Image by: FASHIONSNAP
アパレルブランドで約15年、グラフィックデザイナーとして従事していたという片岡さん。前職との大きな違いは「企画から制作、生産管理、商品の撮影、最後にライブ会場でお客様に販売するまで、すべての業務に携われること」。1アーティストに対して担当者は1人だけなので、アーティストと密なコミュニケーションを取りながら、ファンに寄り添った商品企画をできるのが醍醐味なんだそうです。また同社のマーチャンダイジング事業全体を指揮する小林さんは、「クオリティの担保と新しい提案」を常に大切にしているのだそう。ファンのニーズに寄り添った商材はもちろん、需要に合わせるだけではなく常にデザインを進化させるために斬新なアイデアを取り入れることは忘れません。製造業者やデザイナーとの連携を大切に、時間をかけてものづくりを行っています。
グッズ制作の裏側
ここからは、片岡さんと小林さんがこれまでに担当したアーティストの湘南乃風、ケツメイシ、新しい学校のリーダーズの3組のグッズを制作の背景とともに紹介します。
湘南乃風
湘南乃風は、ライブでタオルを振り回す文化を生み出したことでも知られる存在。片岡さんが小林さんと共にデザインを手掛けたタオルを紹介してもらいました。
片岡さん
湘南乃風のタオルは、振り回せるよう、通常のアーティストグッズに用いられる規格よりも20cmほど長く作っています。このように、普段からアーティストの特色やファンの楽しみ方に合わせたものづくりを行っています。
ケツメイシ
ケツメイシのグッズは、タオルやTシャツ、キャップなどのベーシックなグッズを中心に展開していて、売り上げは同社所属アーティストの中でダントツ一位なんだとか。日常使いしやすいデザインが多くの層にハマり、人気を集めているんだそうです。
ケツメイシのライブでは、毎回ユニークなペンライトを販売。左のペンライトは、指を動かせるボタンや、メンバーの声で「いいね!」の音声を出せるスイッチなど、仕掛けが満載。
Image by: FASHIONSNAP
片岡さん
基本的には、ロゴをはっきりと打ち出してイベント当日を思いっきり楽しんでもらえるようなデザインと、普段使いしやすいよう、デザインを控えめにシンプルにしたものの2パターンをベースに展開しています。
新しい学校のリーダーズ
新しい学校のリーダーズでは、ハイソックスやジャージー、名札など、メンバー4人のアイコニックなスタイルを踏襲したグッズが多数展開されています。
Image by: FASHIONSNAP
小林さん
新しい学校のリーダーズのグッズは、メンバープロデュースのもと「どんなテーマでどんなことをファンの皆さんへ届けたいか」をイメージしながら作っています。
目指すのは“カルチャーの創造” ビートボックスの世界大会に新規参入したワケ
アーティストグッズの制作を通して、新しいカルチャーの創造を目指すテレビ朝日ミュージック。同社は新たな取り組みとして、昨年、ビートボックスの世界大会「グランド・ビートボックス・バトル(Grand Beatbox Battle、以下GBB)」を日本に誘致しました。今年11月には2度目の日本での開催を控えていますが、GBB開催の背景にあるのも、同じく「カルチャーの創造」というキーワードです。
■GBBとは?
GBBは、Swissbeatbox主催、スイスではじまったビートボックスの世界大会。ポーランドでの開催を経て、昨年、東京でアジア初となる大会を開催。今年で15回目の開催となり、11月1日から3日まで、東京・豊洲PITで開催されます。国内外問わず、さまざまな地域からビートボックスのファンが集まるイベントで、チケットは発売後すぐに即完したんだとか。
ビートボックスといえば、日本ではビートボックスクルーのサルカニ(SARUKANI)やロフ(Rofu)などの人気プレイヤーがいて、音楽のメインカルチャーに今まさになろうとしているジャンル。GBBを日本に誘致した、同社の取締役兼コンテンツ開発部長の出藏さんに話を聞くと、コロナ禍にYouTubeやTikTokを通して自身のパフォーマンスを発信する人が増えたことが、最初にビートボックスに目を付けたきっかけなんだとか。「2021年にダンスとビートボックスを掛け合わせた音楽番組のイベントを開催したのですが、その時は世界チャンピオンのビートボクサーをオーストラリアから招待したものの、日本にビートボックスカルチャーがそこまで根付いていないのかな?と感じました」と出蔵さん。
しかし、その後コロナ禍で「個人が楽しめる音楽ジャンル」としてビートボックスの需要の高まりを肌で感じたと言います。「2019年に国内のビートボックスイベントに足を運んだら、会場いっぱいにお客さんが入っていて、客層は10代から20代の若者が中心だったんです。その光景を見て『新しいカルチャーが生まれる可能性がある』と感じたことから、ビートボックス事業の拡大に本腰を入れ、ビートボックス界最高峰のGBBを誘致するに至りました」(出蔵さん)。
出藏さん曰く、国内でのビートボックスカルチャーの普及における課題は「日本から次世代のスターを生むこと」。「GBBの公式YouTubeチャンネルの国別視聴者数を見ると、約50%を日本が占めているので、マーケットがあることは確実ですが、海外含め、次世代のビートボクサーが活躍できる環境が少ないという現状があります。そこで、世界大会を日本で開催することで、より挑戦しやすいジャンルとして新人が生まれてくるのではないかと考えています」と期待をのぞかせます。
また、ただ世界大会を日本で開催するだけではなく、日本独自の取り組みとしてGBBの出場権を賭けた日本大会「ビートシティジャパン」の開催や、今年はどんなレベルのビートボクサーでも参加できるイベントの開催を予定しているんだそうです。
鍵となるのはファッションとの結びつき MDに求める人材像
出藏さんは、GBBという大会そのものだけではなく、ビートボックスというジャンルの知名度を押し上げるためには、ファッションとの結びつきが鍵になると言います。「マイナーなカルチャーをメジャーに押し上げるには、ファッションと結びつけると浸透しやすいというセオリーがあります。今、ビートボックスは、ビートボクサー含め、観客のファッションスタイルがバラバラで定まっていないので、今後は音楽ジャンルの確立と合わせてビートボックスらしいファッションをゼロから生み出すことを目標に掲げています」(出蔵さん)。
同社は、ビートボックスを、ヒップホップやロックのように音楽の垣根を越えてファッションやライフスタイルに溶け込めるようなジャンルにしていくことを目指し、今年も大会の準備を進めています。出藏さんは、その課題解決のためには、新たな人材の採用が重要になってくると言います。既存の枠にとらわれないアイディアを持つ人がMDに加わり、グッズ制作に携わってほしいという思いを明かしました。
「『ビートボックス』というジャンルに新たな要素を取り入れ、ファッションスタイルの方向性を国内外で提示していくことをゴールに掲げ、ゆくゆくはファッションブランドの創造も視野に入れていることから、ファッション業界で経験を積んだ人、これまでエンタメ業界を経験してこなかった人や、アーティストグッズ制作の経験がない人にもぜひ挑戦してほしい」(出蔵さん)。湘南乃風がロックフェスにおける文化を形成したのと同じように、新たなカルチャーの創造を目指す同社。未知数の可能性を秘める創造への挑戦を続けます。
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