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舞台にゆらめく“名もなき彼女”の虚像 ヴィヴィアーノはカテゴライズ文化を華麗にキャンセルする

Image by: Runway:FASHIONSNAP(Koji Hirano)、Backstage:FASHIONSNAP(Ippei Saito)

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 ヴィヴィアーノ・スーが手掛ける「ヴィヴィアーノ(VIVIANO)」は前シーズン、それまでのブランドのカラフルで装飾的なイメージを覆し、モノクロームのルックで構成したコレクションを提示した。それは「カラフル」や「ロマンティック」といった固定の言葉で語られてきたブランド像を一度フラットに戻すための、ストイックな試みでもあった。約10年をかけて形作られていった“ヴィヴィアーノらしさ”を解体するプロセスは、今季も続く。

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 2026年秋冬コレクションのテーマは「Portrait of Her, Unnamed」で、“まだ何者でもない彼女”に焦点を当てた。出発点となったのは、物事を枠にはめることで理解しようとする風潮への違和感だった。現代社会において人は、性別や年齢、国籍、職業といった要素によってラベリングされ、半ば事務的に「何者であるか」を割り振られていく。だからこそ今回のコレクションでは、あえて定義される以前の曖昧な状態にある“彼女”に光を当てたという。

 今回“彼女”が姿を現した舞台は、新大久保駅からほど近い淀橋教会。飲食店やマーケットがひしめきあうコリアンタウンのカオスの中に突如現れるこの重厚な空間は、真紅のライトと緞帳によって、ヴィヴィアーノが魅せる異世界へと変換されていた。一面が赤に染まり、来場者が身にまとう服の色さえ判別できなくなるその空間では、周囲にいる誰かを即座に見分けることが困難になる。ショーの開始を待つあいだに、性別や年齢、装いといった手がかりは次第に意味を失い、他者を“何者か”と判断するための基準そのものが無効化されていった。

 前シーズンにおいてブランドは、“ヴィヴィアーノらしさ”をいったん手放し、いわば白紙の状態へと立ち返った。そうした流れを踏まえると、今回提示された“彼女”とは、固定化されたイメージから解き放たれ、揺らぎを抱えながらも新たな在り方を探ろうとする現在のブランドの姿そのものだったと理解できる。

 ファーストルックは、レースをあしらったホワイトのパフスリーブシャツにブラックのタイトスカートという、極めてミニマルなスタイリング。前回に続くモノクロームのルックでの幕開けは、固定化されてきたブランドのイメージから距離を取ろうとする明確な意思表示と解釈できる。ルックに奇妙なエッセンスを加えた「キジマ タカユキ(KIJIMA TAKAYUKI)」とのコラボレーションによる“ボブヘア”型ヘッドウェアは、思考を惑わせる世間の声という名のノイズを遮断するヘルメットのようにも見えた。

 続くルックでは、ブランドがコンセプトとして掲げてきた“秩序とカオス”の関係性がより自由に展開されていく。ヴィヴィアーノ“らしさ”が垣間見えるヴィヴィッドピンクやチュールを大胆に用いたロマンティックなアイテムが現れたかと思えば、ナイロンのショートジャケットやレザーのセットアップといった異なる印象のアイテムが差し込まれる。さらに、ゴールドのスパンコールをあしらったオールドハリウッド的なグラマラスさを想起させるマーメイドドレスや、毛足の長いファーコートなど質感の異なるピースが断続的に提示され、その都度“彼女”のイメージは留まることなく更新されていく。

 こうした揺らぎは、シルエットや身体の見せ方にも及んでいる。身体のラインを強調するタイトなスタイルから、チュールやファーによって大きく拡張されるフォルム、さらにはナイロンやレザーで包み込むようなルックまで、提示される身体像は一貫した輪郭を持たない。

 そうした揺らぎのなか、ブランドのDNAであるカラフルなチュールや大ぶりのラッフルは、これまでとは異なる表情で姿を現す。パニエに重ねられ柔らかに揺れるチュールや、艶やかなブラックカラーでゴシック調に胸元を彩るラッフルのように、それらはかつての“ヴィヴィアーノらしさ”をそのまま繰り返すものではない。それは過去の自己を参照しながらもそこにとどまることを拒む態度であり、ブランドが自らのイメージを更新し続けるための能動的な編集のプロセスでもあった。

 ラストを飾ったのは、流れるようなドレープが印象的なピンクのサテンドレス。「あえて最後に、誰もが思い描く“ヴィヴィアーノらしさ”を提示した」と振り返るデザイナーの言葉から推測するに、このルックはブランドイメージを他者に委ねず自ら更新していく意思の表れだったのではないだろうか。眩いヴィヴィットピンクに染まるその姿は、まるでヴィヴィアーノの新たな始まりを静かに告げるかのようだった。

 ブランドは2025年春夏シーズンからメンズラインを立ち上げ、ウィメンズと2軸での展開を進めている。さらにロサンゼルスのPRエージェンシーとの契約を機に、海外アーティストやセレブリティによる着用も増加し、その存在は国やジャンルを横断しながら広がりを見せている。性別や国籍、役割といった枠組みを越えていくこの動きは、今回のコレクションが提示した「定義される以前の状態」というテーマとも呼応している。

 未完成のまま更新され続け、定義されることを拒みながら、“らしさ”と“らしくなさ”のあいだを揺れ動いていく存在。舞台に現れてはかたちを変えていく“彼女”の姿は、イメージを手放し、解体し、再び組み替えながら進み続ける現在のブランドのあり方と重なっていた。

全ルックを見る

VIVIANO 2026年秋冬コレクション

2026 AUTUMN WINTERファッションショー

最終更新日:

FASHIONSNAP 編集記者

菅原まい

Mai Sugawara

2002年、東京都生まれ。青山学院大学総合文化政策学部卒業後、2025年に新卒でレコオーランドに入社。中学生の頃から編集者を志し、大学生時代は複数の編集部でインターンとして経験を積む。特技は空手。趣味は世界中の美味しそうなお店をGoogleマップに保存すること。圧倒的猫派で、狸サイズの茶トラと茶白を飼っている。

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