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【対談】武蔵美「ワタルトミナガ」×多摩美「オニカ」〜美大で学べること・服飾専門学校で学べることを真剣に考えてみた〜

ムサビ卒デザイナーとタマビ卒デザイナーの対談

左)「ワタルトミナガ」デザイナー富永航 右)「オニカ」デザイナー黒沢秋乃

Image by: FASHIONSNAP

ムサビ卒デザイナーとタマビ卒デザイナーの対談

左)「ワタルトミナガ」デザイナー富永航 右)「オニカ」デザイナー黒沢秋乃

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【対談】武蔵美「ワタルトミナガ」×多摩美「オニカ」〜美大で学べること・服飾専門学校で学べることを真剣に考えてみた〜

ムサビ卒デザイナーとタマビ卒デザイナーの対談

左)「ワタルトミナガ」デザイナー富永航 右)「オニカ」デザイナー黒沢秋乃

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 ファッションデザイナーを志した時、日本国内にはいくつもの選択肢がある。服飾専門学校や「ここのがっこう」「me」などの私塾のほか、4年制大学である武蔵野美術大学や多摩美術大学などでもファッションを専門的に学ぶことができる。選択肢が多い分、ファッションデザイナーを志す者にとってはその違いや特色を見極めるのに頭を悩ませるのではないだろうか。

 「ワタル トミナガ(WATARU TOMINAGA)」のデザイナー富永航は武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科(通称:工デ)でテキスタイルを専攻。富永と同じく工デでテキスタイル学んだ後、多摩美術大学生産デザイン学科テキスタイル専攻に編入学した「オニカ(ONICA)」デザイナーの黒沢秋乃は、武蔵美の先輩後輩の関係でもあり、共に第31回イエール国際モードフェスティバルのファイナリストにも選出された実力者だ。いずれもフィンランドの大学で学位を取得するなど共通点も多い2人に「何故デザイナーを志した時に服飾専門学校ではなく美大への進学を決めたのか」という素朴な疑問をぶつけ、ざっくばらんに話してもらった。

富永航
武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科テキスタイル専攻在学中にフィンランドのヘルシンキ芸術デザイン大学に留学。卒業後、文化服装学院服飾研究科を経て2015年セントラル・セント・マーチンズBAファッションプリント科を卒業。 在学中にはジョン ガリアーノなどのアシスタントを経験した。「第31回イエール国際モードフェスティバル」においてファッションデザイナー部門のグランプリを獲得。「プチ・バトー」や「マリメッコ」とのカプセルコレクションを発表するなど国内外で活躍している。
公式インスタグラム

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黒沢秋乃
武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科テキスタイル専攻から多摩美術大学生産デザイン学科テキスタイル専攻に編入。卒業後、フィンランドのアアルト大学大学院でファッションデザイン科を修了。在学中に第31回イエール国際モードフェスティでバルファイナリストに選出された。帰国後、ニット企画会社で経験を積んだ後、2020年にニットウェアレーベル「オニカ」を立ち上げた。
公式インスタグラム

2人の出会い

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黒沢秋乃

大学在学中はお互いのこと認識してなかったよね?

してない!

でも、多摩美のテキスタイル※に編入した先輩がいるという噂はあったよ。

いつ編入したんだっけ?

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富永航

※多摩美術大学生産デザイン科テキスタイルデザイン専攻

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黒沢秋乃

3年生に進学するタイミングかな。

すごい勇気だよね(笑)。

僕は編入する勇気はなかったけど、交換留学で3年生の後期から4年生の前期までをフィンランドで過ごしていて。

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富永航

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黒沢秋乃

私は、航くんが交換留学した数年後にフィンランドに留学したんだけど、現地で「航って知ってる?」って色んな人に聞かれたよ(笑)。

フィンランドの学校でファッションを勉強している男の子がそんなにいなかったんだろうね。

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富永航

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黒沢秋乃

初めて会ったのはイエール※。

同じくファイナリストに選出されていた向祐平くんや、そのアシスタントに「クードス(kudos)」を始める前の工藤司くんとかもいて。楽しかった。

※第31回イエール国際モード&写真フェスティバル。黒沢と富永は共にファイナリストに選出されている。

いつからデザイナーになりたかった?

僕は物心がついた時からずっと服の絵を描いたりしていて。

だから「デザイナーになるぞ」と強い意思を持ったきっかけがあるわけじゃないんだよね。

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富永航

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黒沢秋乃

私も小学生の頃から漠然と「デザイナーになりたいな」と思ってた。

最初は服飾専門学校も進学先として考えていたんだけど、親に「大学には行って欲しい」と言われたのもあって。

服だけじゃなくて、アートやデザインにも興味があったから、結果的に色んなことが噛み合って美大を選んだ感じ。

美大に進学したワケ


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黒沢秋乃

航くんはどうして「ファッションデザイナーになりたいな」と思った時に美大を選んだの?

服という枠組みに限らずに色々なことをやりたいと思ったからかな。

建築も日本画も油絵も全部好きだったから。

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富永航

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黒沢秋乃

中でも「テキスタイル」を選んだのは?

「服も好きで、絵も好きだ」と考えた時に布に加工できる方が後々選択肢が広がるのかな、と。

例えば油絵だと、平面かつ硬い素材の上に描くくらいしか多分無いと思うんだけど、僕は素材をいじる方に興味があったというか。

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富永航

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黒沢秋乃

クリエイションとして素材をいじっていたほうが満たされるのかな。

そうかもしれない。

絵を描くだけだと僕は飽きちゃいそうだけど好きではあるから。

色々なことを広い範囲でやれたらいいなと思って美大の選択肢が出てきたかな。

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富永航

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黒沢秋乃

それでいて美大の中で一番服に近いもんね。

繊維や布をべースにファインアートを制作することもできるし、服として表現することもできる。

黒沢さんは親御さんに「大学に行って欲しい」とお願いされたってさっき言っていたけど、きっと大学を卒業してから専門学校に入り直す方法もあったよね。

どうして、すぐに美大に進学しようと思えたの?

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富永航

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黒沢秋乃

もちろん服も好きだったけど元々ファッションデザインよりも「ものづくり」に興味があったんだと思う。

広く、ものづくりという範疇の中で自分ができそうなことがファッションだと思えたというか。結果的に私にとって「ものづくり」とはファッションだった。

元より美大に行きたかったのかもね。

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富永航

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黒沢秋乃

そうかもしれない。

「クリエイションをしたい欲求があった」と言うとかっこいいけど、得意なことが他にないし、それしか続けられることがなかったの方が近いかな。

私、体育とか全然駄目だったし(笑)。

大学進学って「自分はどれが一番得意なんだろう」と将来を1度真剣に考えてみる最初の時期だよね。

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富永航

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黒沢秋乃

そうだね。

せっかく4年間大学に通うなら興味があることに没頭したいと思ったかな。

面白い人も集まっていそうだし、視野も広がりそうだな、と。

僕も自分ができることの範疇で、好きなことをやり続けられたらいいな、という感じだった。

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富永航

武蔵美の空デと工デの違い

武蔵美の工デ以外にどこか受験した?

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富永航

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黒沢秋乃

それこそ第一志望は多摩美のテキスタイル専攻だった。

当時、美大でファッションを学べると言ったら他に武蔵美の空デ※があったと思うけど、航くんはそこは受験しなかったの?

※武蔵野美術大学空間演出デザイン学科の略称。ファッションデザインコースやインテリアデザインコースなどがある。

しなかったね。

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富永航

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黒沢秋乃

どうして?

空デは実際に服を作るというよりかは「ファッションとはなんだろう?」を考えることに特化した学科だと思ったからかな。

僕は服が好きだったけど、そっちじゃないなって思って。もう少し「布を使った作品を作る」ということに興味があった。

工デは「なんならオリジナルで素材から作りましょう」という学科だったから、より求めていることに近かったんだよね。

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富永航

3年生で多摩美に編入した「オニカ」黒沢のお話

それにしてもよく3年生で多摩美に編入しようと思ったね。

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富永航

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黒沢秋乃

私は美大に入学はしたけど、アーティストになりたいとは思っていなくて。ファッションデザインを仕事にして生きていきたいと思っていたんだよね。

どういうこと?

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富永航

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黒沢秋乃

私が在学していた時の工デは、ファイバーアートを専門としている先生が教鞭をとっていたから、私が描いていた将来像に紐付けられるようなものづくりとは少し離れていた。

なるほど。

たしかにテキスタイルを用いたブランド運営を学ぼうとすると、武蔵美の工デではミスマッチが起こりそう。

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富永航

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黒沢秋乃

そうそう。

多摩美の生産デザイン学科は、織り、染色、編みとテキスタイルにまつわるそれぞれの専門に特化した教授がいたから、色んな角度でテキスタイルや服作りについて学べるかなと思ったんだよね。

超主観的:武蔵美に向いている人・多摩美に向いている人

武蔵美の工デは抽象的なテーマを与えられることが多かった気がする。

例えば「被膜」をテーマに作品を作りましょうとか。

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富永航

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黒沢秋乃

自分が選んだテキスタイルや技法を使って、ファインアートとしての「作品」を作るイメージだよね。

そうそう。

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富永航

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黒沢秋乃

航くんには合ってそう。

アーティスティックな部分と衣服としての表現を両立させるのが上手いな、と「ワタルトミナガ」を見ていても思うし。

そうだね。考えることは好きだった。

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富永航

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黒沢秋乃

航くんみたいに作品を制作することが好きだったり、「アートとして表現を追求したい」と思っている人には、武蔵美の工デは合っていたと思う。

編入してみてやっぱり多摩美と武蔵美は違った?

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富永航

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黒沢秋乃

私が編入した多摩美の生産デザイン学科テキスタイルデザイン専攻はもう少しだけ専門的な学びに特化していたかな。

自分にあった技法を突き詰め、学んでいった上で自己表現をする、という方が正しいかも。

例えば「今日は"着色抜染"というプリント方法に適した柄をデザインし、擦染めをしたシャツを作ります」という授業があったり……。

課題ごとに決められたテキスタイルの技法を用いて、その上で自己表現するために「衣服」というアウトプットを使うという感じかな。

Image by: 黒沢の卒業制作

超主観的:専門学校に向いている人・美大に向いている人

僕は、武蔵美を卒業した後に文化服装学院に進学したんだけど。

今の話だと多摩美のテキスタイル専攻はかなり服飾専門学校に近いのかな。

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富永航

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黒沢秋乃

多分、作ってるものとかやり方は似通っている気がするけど、評価するポイントが違うのかも。

たしかに。

美大の先生は美的なところや、デザインの文脈、構図、コンセプトを見るよね。

僕が文化※に行って感じたのは、服飾専門学校はもう少し技術的。

縫製が綺麗か、量産はできるのか、という実際のマーケットの中で成立するかを見てくれる感じはしたかな。

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富永航

※文化服装学院の略称

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黒沢秋乃

美大では「どういうコンセプトなのか、その結果何を考えてその色合いやデザインになったのか」ということを考える方法を教えてくれる。

逆に、技術を教える授業はほぼないから、そういう所では専門学校に勝てないっちゃ勝てない。

そうそう。

文化のいい所は、みんな製作技術がある点だと思う。

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富永航

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黒沢秋乃

美大は考え方を尊重し育てる。技術的なものを身に着けたいなら服飾専門学校の方が適しているよね。

専門だろうと美大だろうと、どの学校にも当然良いところがあって、それをうまく選べればいい。

間違いなく言えるのは、自分が得意なことを伸ばした方が良いということなのかな。

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富永航

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黒沢秋乃

大学4年生を卒業する23歳くらいで全てを完璧にできるようになるのは難しいしね。

自分の得意なところを伸ばす環境が最も整っているところはどこだろう、という考え方は私もおすすめしたい。

あとは僕の場合でいうと、その学校の卒業生見て進学先を決めたかも。

自分が「ああいう風になりたいな」と思える人が卒業した学校を選んだ。

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富永航

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黒沢秋乃

こうやって話してみると私たちは「ファッション以外にも興味がある」というのは多分共通しているよね。

ファッションという大きな枠の中にわかりやすく存在している「ブランド」に興味があるわけじゃなくて、知識や技術を使って自分に合ったものを作ろうとしている感じ。

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富永航

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黒沢秋乃

やっぱり根底にあるのは「ものづくりをしたい」ということなのかな。

それが必ずしも服である必要はなかったけど、最終的に服に辿り着いた。

僕もそうかも。

服やスタイリングによって作られる空間に興味があって、雰囲気や世界観とかの全体を表現するのが好き。

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富永航

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黒沢秋乃

多分、そういう感覚を養うのには美大は良いと思う。

様々な分野の美術に興味を持っている人が集まっているから視野を広く持てるだろうし。

明確に「ファッションデザイナーになりたい」「パタンナーになりたい」と思っている人は専門学校に行ったほうが良いよね。

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富永航

美大での学びはデザイナーとしてのクリエイションとしてどう生かされているのかを考えてみた

美大で学んだからこそデザイナーとしてものづくりをする時に「ファッションだから」という前置詞があんまりないな、と自分で思う。

僕の場合でいうと布だけを展示したり、陶器を作ってみたり……。

ファッションブランドっぽいあり方から逸れていてもいいのかなって思いながら今もやってる。

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富永航

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黒沢秋乃

自由に考えることができている気はするよね。

「様々な方向から自分のものづくりについて考える」というのは大学で学んだことだと思う。

特に武蔵美の工デだと、金属やジュエリー、陶器を作っている子達とも仲良くなるしね〜。

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富永航

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黒沢秋乃

たしかに!

だから私もいま、陶器でボタンを作っているのかもしれない(笑)。

Image by: オニカの陶釦付きのニット

身近に"それ"を作っていた子がいたから、想像がしやすいよね。

様々なものを混ぜて、自分の世界観を作り上げていきたいと思った時に、それぞれ得意なものが違う人たちと友だちになれたのはすごく良かったと思う。

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富永航

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黒沢秋乃

武蔵美の工デでは、1年生・2年生と自分の専攻以外のことを基礎として勉強したよね。

銅版とか、陶器とか、インテリアデザインとか。

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富永航

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黒沢秋乃

そうそう。

そういう風に専門外のことを最初に学んで、少しだけでも知っている、経験しているということは、自信にも繋がるな、と。

ファッションだけに専念して本気でやっていると、その道では評価されるけど、僕は色々なものが混ざりあった表現の方が好きだから。

そういった意味で、僕は美大を最初の進学先に選んで色々なことをやって良かったな、と思っている。

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富永航

(聞き手:古堅明日香)

最終更新日:

FASHIONSNAP 編集記者

古堅明日香

Asuka Furukata

神奈川県出身。日本大学芸術学部文芸学科を卒業後、広告代理店を経て、レコオーランドに入社。国内若手ブランドに注力する。アート、カルチャーを主軸にファッションとの横断を試み、ミュージシャンやクリエイター、俳優、芸人などの取材も積極的に行う。好きなお酒:キルホーマン、白札、赤星/好きな文化:渋谷系/好きな週末:プレミアリーグ、ジャパンラグビー。

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