【前編】名門セントマーチンズ学生が語る本音 『入学した経緯、授業、学費は?』

Image by: Fashionsnap.com

 ロンドン中心部のキングスクロス駅から歩いて5分の場所にあるセントラル・セント・マーチンズ。多くのファッションスクールランキングで1位に輝き、これまでに数多くの名だたるデザイナーを輩出してきた名門校です。世界中からファッションデザイナーを夢見る学生が集まり昼夜制作に励んでいるこの場所で今回、日本人の学生が日々どんなことを考えて異国の地で生活を送り、ファッションに向き合っているのかを探るべく卒業生を含む5名による座談会を開催。その様子を前・後編の2回に分けてお届けします。前編では「学校」をテーマに、セントマでの学び、授業や求められるスキルから気になる学生の懐事情について本音で語ってもらいました。

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参加者:

中澤 氷名子(2年ファッション・プリント科)
具志堅 幸太(3年ファッション・ニット科)
谷本 和美(3年ファッション・プリント科)
児玉 耀(1年ファッション・ニット科)
富永 航(ファッション・プリント科 卒業)

 


今日はお集まりいただきありがとうございます。よろしくお願いします。

早速ですがまず、それぞれ簡単な自己紹介とセントラル・セント・マーチンズ(以下、セントマ)に入学するに至った理由を教えて下さい。



中澤:私は日本の専門学校で建築を勉強していました。実際に自分で作品を建てることはしないため、自分の手で作り出せるものって何かなと考えていたらファッションに行き着いて。日本の学校も見てみたのですが、あまり魅力を感じなかったのでどうせなら海外で勉強してみたいなと思うようになりました。インテリアでテキスタイルを学んでいたこともあってそれをファッションに応用していきたいと思い、以前から知っていたセントマのファンデーションコース(本入学のための1年間の準備コース)に応募しました。

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中澤 氷名子


具志堅:僕は高校生の時にバンタンが開催していたファッションデザインの講義に通ってそこでファッションって面白いな、と関心を持ちました。日本のデザイン学校も見に行ったのですが、自分の中で「何か違うな」と思って。僕は元々アントワープ王立芸術アカデミーに行きたかったのですが、そこに行くためには提出する作品が必要で当時出せるものがなかったのでセントマのファンデーションに行きました。それからアントワープに行こうと思ったんですけど、その年のアントワープのショーを見てあまりしっくりこなくて。逆にセントマのプリントとニットがすごく良かったので、セントマのファッションニット科に進学しました。

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具志堅 幸太


富永:僕は日本で美大を卒業しているんですけどその時はテキスタイル科に在籍してました。そこにはアートとデザインの両方があって、アートの一部としてファッションに向き合いたいと思うようになりました。学校を選んだ理由はずっとセントマが好きで、ショーもフォローしていたので。セントマのファッション科の中にはプリント・ニット・メンズ・ウィメンズ・マーケティングの5つのコースがあるのですが、一番制約が少なくてアーティスティックなことができるプリントに進みました。セントマのBA(学士課程)を今年卒業して今はロンドンのチェルシー・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインのファインアートでMA(修士課程)に在籍してます。



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富永 航


児玉:BAの1年生です。僕は日本の4年制大学を卒業してからロンドンに来ました。中学生の頃からファッションには興味があったのですが、親からは「大学は出なさい」と言われていたので進学しました。ファッションの制作が出来そうな文化系の大学に入ったのですが面白くなくて。入学してすぐ辞めたいと思っていたのですが、大学にファッションサークルがあり、学業とやりくりをして余った時間を全て課外活動に注ぎました。1年先輩で仲の良かった東京ニューエイジのショーにも出た「ケイスケ ヨシダ」 の吉田圭佑君が通ってたことが縁で「リトゥンアフターワーズ(writtenafterwards)」の山縣良和さんが主宰する「ここのがっこう」に大学在学中通っていました。そこで山縣さんが出たセントマや坂部三樹郎さんが出たアントワープのことを知り、それまであまり感じたことなかった「面白い」とか「かっこいい」ファッションを知って、モヤモヤしてた気持ちが開けたというか。その後日本の大学を卒業して自分でポートフォリオを作ってセントマに応募し今に至ります。(ここで制作作業のため退席)



谷本:私も児玉君と同じく東京の大学に行って2年間ジャーナリズムを勉強していました。そこで学外の活動で出会った美大生の人を通じて「ここのがっこう」に通いました。今日児玉くんとは初対面なのですが、まるで自分の話を聞いているようで(笑)。分野は特に決めていなかったのですが前から海外で勉強することには興味はありました。ファッションを勉強しようと決めて、中でもセントマは以前から知っていた学校だったので色々調べて応募しました。

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谷本 和美



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セントマの教育とは?


学校について。良いところと悪いところを教えて下さい。




中澤:悪いところ。特に何も教えてくれないところかな(笑)。

谷本:でも先生とか全力でサポートしてくれる
よね。

具志堅:何も教えてくれないってことは、逆に言うと自分でどうにか形にしないといけない。僕が何もしていなかったら先生も何もしてくれない。でもやっただけのことをチューターやテクニシャンにぶつけたら同じ勢いで返してくれる。そのやりとりは楽しい。

富永:テクニシャンていう人たちがすごく助けてくれる。技術的なことはその人たちが全てサポートしてくれる。


谷本:自分たちのガーメントを実際に縫ってくれたりもするから、そこまで技術がない学生でも学校でやっていけるよね。

※チューター:専任のアドバイザー、約30人の生徒に1人の割合でつく。
※テクニシャン:技術者。技術を教えてくれたり、実際に縫製をしてくれるなど制作作業をサポートしてくれる。




縫製やパターンなどの実技を教えてくれるような授業はありますか?講義系の授業は?


谷本:ちょっとだけある。学科によって違うと思うけど。


具志堅:ニットはほぼゼロ。
ニットを編むのは専用のテクニシャンがいて、その人に1年生の時から何でも聞いていて「こうゆうのやりたいんだけど」って教えてもらう感じかな。



谷本:いわゆる大学のレクチャーみたいな授業もあるにはあって、1〜2年制の時はレポートを提出するコースもあるけど、基本的にファッションの授業っていうのはない。


具志堅:ニットもない。週に2回、デザインの先生とチュートリアルするだけ。
レクチャー式の授業は英語が難しかったから全然行かなかった(笑)。
成績は良いに越したことはことはないけど、先生によっても評価が違うからそこばかり気にしてもね。共通して言えることは、完成品もそうだけどその作品ができるまでのプロセスが重要視されて成績に反映されるってことかな。


※チュートリアル:チューターに進捗状況を報告し、アドバイスを得たり作品の方向性を決めていくミーティング。

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ロンドンを選んだ理由


ロンドンで勉強しようと思ったのはなぜですか?デザイナーも都市によって違うと感じる?


具志堅:若さとクリエイティビティを感じたからかな。

富永:そうだね。若いデザイナーを政府やブリティッシュ・カウンシルみたいな機関がプッシュしてくれる。日本にはあまりない動きかも。

具志堅:パリは電車で一時間くらい。地理的には近いけどファッションの捉え方がすごく違う。ロンドンでファッションというと「自由」。何着てもいい。パリでファッションと言うと一概には言えないけど、ファーのコート着て革のバッグ持って、朝出勤前にカフェでエスプレッソ飲んで、っていうハイソサエティの嗜むものっていう感じがまだする。ロンドンは、お金がなくても楽しんでいる感じ。ユース・カルチャーやストリートとも密接なのも関係しているからかな。

富永:デザイナーに関して言うと、パリはメゾンブランドが多いから、若い人はやりにくいと思う。パリでやっている若手だと「ジャックムス(JACQUEMUS)」くらい?


日本との教育の違いは?


日本と海外でのファッション教育の違いで気づいたところは?

富永:うーん。日本はファッションに真面目過ぎるのかな。ファッションって真面目なところからは生まれない。それに教育できるものでもなくて、本人が察知しないといけないものだから、技術から始めようとすると難しいのかな。そこが日本の面白さや強みになっている気はするのだけど。



谷本:どっちが良いとか悪いとかじゃなくて、それぞれ違っていて良いと思う。


富永:そうだね。僕がロンドンに来た時はまだ若くて自分のやりたいことが強かったから。日本の学校で技術を身に付けて面白いものが見つかれば、それはそれで良いと思う。

日本はとりあえずパターンから始めて、デザイナーも服が作れることが前提だからみんな最初は技術者になっちゃう。こっちは特別な技術がなくても面白いものを作っていたら、とりあえず周りがサポートしてくれる。「この人の絵が面白い」、「サンプルが面白い」ってなると先生とか集中的にヘルプをくれるよね。



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谷本:アイデアとやりたいことが伝われば形になっていく。あと人から好かれれば。


具志堅:不公平かもしれないけど、ある意味そこも才能だよね。

谷本:日本だと0から10まで自分でやらないといけない。技術にしてもみんな同じ程度の質を目指すことが求められるよね。



具志堅:今の話で思い出したんだけど、高校3年生の時に文化服装で「楽しく書こうファッションデザイン画」っていう高校生向けの2日間のコースを受講して、3〜4時間かけて8頭身ボディを1体描いた記憶がある(笑)。先生が黒板に描いたものをみんなが1画1画フォローする形式の授業だったんだけど、ちょっと無理だなって。セントマ来て初めてアート系の授業を取った時に、絵の具とか紙が目の前にあって「好きなように描いちゃって」って言われて。それが違いを表しているなのかな、って思いましたけどね。

谷本:「自由に描いて」って言われた時に「どうしよう」ってフラストレーションを感じる人は手取り足取り教えてくれる日本の学校の方が合ってるかもしれない。



中澤:そのやり方の方が合っているっていう人もいるだろうしね。

富永:そう考えると自分のことをよくわかっていて選ばないといけないよね。

谷本:でも難しくない?若い時点で自分を客観視するって。

具志堅:僕は小中高と日本の学校に通っていたけど、みんなで同じ方向向かなきゃいけない、みたいなのがなんとなく「合わないな」って思ってた。中高は進学校だったから特に違和感を感じてたな。だからこっちのやり方に慣れてきたっていうこともあるけど、僕には合ってる。

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年々上がる授業料


学費とかは?


谷本:高いですよ〜(笑)。年々授業料が上がる。今年入ってくる子たちが年間300万円を超えるくらい。


具志堅:加えてレートも今高いから僕らが入った年と比べてかなり上がっている。当時1ポンドが125円くらい。今はだいたい190円だからこれから進学ってなると難しいね。


中澤:私が来た時でさえ140円くらい。授業に加えて毎月の生活費がかかるから相当。

具志堅:家族に出してもらっている人がほとんどだけど、奨学金でやりくりしている人もいる。


谷本:奨学金は結構探したけど、日本国内の奨学金もそうだし、海外のものもあまりなくて。


中澤:インターナショナルの留学生にはあまりない。それよりも地元イギリスの学生へのサポートにいっちゃうから。

具志堅:ヨーロッパの学生はみんな学生ローンを組んでるよね。彼らの学費は180万円くらい。ヨーロッパの学生とは学費が全然違う。


谷本:私達も入った頃はそのくらいの学費だった。昔は生活に少し余裕があったけど、今は正直厳しい。

中澤:ロンドンは物価が高いから気をつけないとあっという間になくなっちゃう。家賃も狭いのに高いし。


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>>【後編に続く】海外で感じる言葉の壁、卒業後の将来、日本のファッションについて

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