【インタビュー】ハニカムの12年間で鈴木哲也元代表兼編集長は何を見たか

鈴木哲也氏 Photo by: FASHIONSNAP

 編集者という看板は、もう下ろしてもいいのかなと思っている―――ウェブマガジン「ハニカム(honeyee.com)」の代表兼編集長を退いた鈴木哲也氏はこう明かした。その背景には、経営体制やウェブ業界を巡る目まぐるしい変化があったという。ハニカム創設時から去るまでの12年間を、鈴木氏が初めて振り返る。

■ハニカム(honeyee.com)
インターネット成長期の2005年に藤原ヒロシをはじめ、「ビズビム(visvim)」の中村ヒロキや「ソフ(SOPH.)」の清永浩文ら裏原宿ブームの立役者となったメンバーが発起人となり立ち上げたウェブメディア。鈴木哲也氏は創立時から編集長を務め、2011年以降は代表取締役社長を兼任。今年4月末に同職を退任した。後任として、新代表にコロニーインタラクティブCEOの田上知之氏、新編集長にファッション&カルチャーマガジン「アイスクリーム(EYESCREAM)」元副編集長の武井幸久氏が就任した。

なぜハニカムを去ったのか?

―ハニカムの代表と編集長を4月末に退任。どのような思いで決断されたのでしょうか?

 僕はもともと出版社で雑誌を作っていたのですが、我慢できないことがあって辞めました。なので、ハニカムでは自分のやりたいことをやるということを意識していました。ですが、それがいつしか矛盾や葛藤を感じるようになってしまって。ウェブメディアを取り巻く環境がここ2〜3年で大きく変わりましたよね。デバイスもパソコンからスマートフォンに主流が移り、SNSが大きな影響力を持つようになりました。ファッションシーン自体も海外と国内では大きなギャップが生まれ、何をやるにもコマーシャルであることが求められる。この状況で自分が目指してきたコンテンツ作りができるのか、このまま続ける意味があるだろうかと、昨年夏ごろから考え始めていました。

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―業界のコアな人に支持されているという印象でした。

 数年前までは、ブランドや企業がメディアをクオリティーで評価して買ってくれるという状況がありました。もちろん、僕らはそうした評価に応えるだけのプロダクションやアイデアを生んで、それで喜んでもらえたわけです。けれど現在は、僕の考え方に賛同してくれる人が業界内に多少いても、それだけでは会社を維持することができなくなりました。

―社内で意見が割れることもあったのでしょうか。

 経営陣の中ではありましたね。その辺の生々しさは、どこの企業にもあることでしょう。

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―アラタナによる買収も影響しているのでしょうか。

 経営ポリシーが変わって大きな成功が義務付けられたので、会社の在り方が「社員が食っていければいい」というような単純なものではなくなりましたからね。それと同時に、極端に言えばインスタグラマーがライバルという局面も出てきて、そこでの戦い方を考えると、自分のスタイルを貫くことが正しいとも思えなくなってしまいました。

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―インフルエンサーの需要は、数年間でぐっと伸びましたね。

 ある程度は予測していました。アマチュアが持つ身軽さというか、いい意味での無責任さというものが求められているというのは明らかだったので。一方でキュレーションメディアの台頭もありますね。つまり、個人的な出来事として情報を発信するか、大量の情報をマスに向けて常に送り続けるか、という両極になってしまい、その中間でプロ意識にこだわって編集されたメディアを運営するなんて言うのは、実にまどろっこしい。こんなことなら、僕もインスタグラマーになったほうが方いいんじゃないかって思いさえする(笑)。編集部という単位でやれることの良さもたくさんあるけれど、それが足を引っ張る場面も出てきたということです。

―メンズメディアの運営は難しいとも言われていますが、その点はどう思いますか?

 今のメンズメディアで、カテゴリーを横断しながらメンズファッションの世界的なトレンドを捉えていこうとしているところは、実はあまりない。あるようでないようなセグメントによる読者ターゲットの打ち出しなんてやめて、徹底して各方面のトレンドをフォローすると割り切れば、コンテンツのネタはかなり豊富な時代だと思います。例えば「ルイ・ヴィトン×シュプリーム現象を読み解く」って企画だけで、2〜3カ月は持ちそうじゃないですか(笑)。それで、シュプリーム側への取材もできたら最高なんですけど、ルイ・ヴィトン以上に難しいでしょうね。そういうことを含めて、ファッション情報が大きな意味での"ゴシップ"になっちゃったというのはあるでしょう。

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―ゼロからオリジナルコンテンツを作っているメディアは少ないですね。

 記事というのは自分たちの足で探して作るものだと思っていたけど、もはやそういう時代でもないというのも、一面では事実。いっそのことまとめサイトにしちゃえばいいんじゃないかと半分冗談で言っていた時期もあったんですが、ハニカムは多くの優秀なスタッフの手を借りてコンテンツを作ってきたわけで、その信頼を無にするような方向へ舵を切ることはできませんでした。むしろ、これまでやりたいことをやり続けてこられたのだから、僕は幸せでしたね。

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