【インタビュー】激動のファッション界 2人のキーマンが示す服屋に必要なこと

左から栗野宏文、小木基史

 観光客や買い物客で賑わう原宿駅から竹下通り、そしてとんちゃん通りを抜けた先に、趣のある建物が佇んでいる。25年前の1992年に建てられたとは思えないほどモダンな印象の館は、スペインの建築家リカルド・ボフィルによる設計。ここが、今年の秋に生まれ変わるというユナイテッドアローズ原宿本店だ。新しい店づくりを率いる2人のキーパーソンに話を聞くと、これは単なるリニューアルではなく、服屋の未来を担うプロジェクトのようにも感じさせる。ディレクターの小木基史とクリエーティブアドバイザーの栗野宏文、共通するキーワードは「ONE」。


uamens-20170522.jpg

「UNITEDARROWSONE」をコンセプトに生まれ変わる原宿本店メンズ館

小木 基史 - Motofumi Kogi -
UNITED ARROWS 原宿本店 Director 兼 UNITED ARROWS & SONS Director
1976年生まれ。1997年、ユナイテッドアローズ入社。販売の仕事を経てプレス担当になる。2006年に「リカー、ウーマン&ティアーズ(Liquor, woman&tears)」をオープンし、2010年には新コンセプトブランド「ユナイテッドアローズ アンド サンズ(UNITED ARROWS & SONS)」を立ち上げディレクターに就任。バイヤーとしても世界中を回る一方で、海外スナップでそのスタイルが世界中から注目を集める。愛称は"POGGY"。

栗野 宏文 - Hirofumi Kurino -
UNITED ARROWS Creative Adviser ユナイテッドアローズ クリエイティブディレクション担当 上級顧問
1953年生まれ。70年代後半からファッション小売業界に関わる。1989年、ユナイテッドアローズ創業に常務取締役として参画。バイヤーやブランドディレクターを担うと同時に、社会潮流を読みディレクションを発信する全社のクリエイティブディレクターを務める。政治経済・音楽・映画・アートから国内外情勢を投影した時代のソーシャルストリームを捉える、マーケッターやファッションジャーナリストとしても活動。

ファッション業界でいま何が起こってる?

ーユナイテッドアローズの原宿本店を生まれ変わらせるということで、業界の現状などを含めて、プロジェクトを率いるお2人にさまざまなお話を伺っていきたいと思います。国内外で影響力を持つ栗野さんと、現代のファッションシーンにおいて欠かせない存在の小木さん、それぞれスタイルも世代も異なりますね。

栗野 宏文(以下、栗野):僕は53年生まれですが、小木さんは?

小木 基史(以下、小木):76年生まれです。

栗野:そうしたら、だいたい2まわり違いますね。

―今日はそれぞれの立場や視点から話して頂けたらと思います。まずはファッション業界が今、どうなっているのか?ということから。

栗野:それを話しだすと3時間はかかりますよ(笑)。

ーでは少し絞ります(笑)。様々な側面から「転換期」や「変革の時」だと言われていますが、実際に変化は感じていますか?

栗野:大きな変化の時にあると思いますね。例えばシーズンレスとかジェンダーレスとか、季節や男女、年齢も関係なくなっている。もっと次の段階になると、流行っているか流行っていないか、ブランドが有名か有名じゃないかなども関係ないという。わかりやすく言えばイラストの世界の「ヘタウマ」ですよ。ひと昔前は綺麗なラインで描かれた美しいものが認められていたけど、下手でも味があればいいとか、価値観が変わっているし多様になっているんですね。無名の人が急に人気になっちゃったり、ファッションの世界も同じことが言えるんじゃないかと。

ーより個人の価値観に寄っているということでしょうか。そういった変化はいつから?

栗野:ユナイテッドアローズだと2006年に小木さんが「リカー、ウーマン&ティアーズ(Liquor,woman&tears)」を立ち上げて、その頃から男性の新しいスタイルをどんどん取り入れていたよね。11年前から小木さんが提案してきたような「ファッションの自由さ」の発展型が、今の時代とも言えるんじゃないかな。

ージャケットにキャップやベースボールシャツを合わせたり、小木さん自身のスタイルも自由さを体現しているようです。

小木:アメリカのトラッドとストリートのミックスの流れを日本に伝えたいというところから始まったのが「リカー、ウーマン&ティアーズ」だったんですよ。僕自身は正統派のスーツスタイルも好きで、めちゃくちゃ格好いいと思うんですよ。ユナイテッドアローズが培ってきたスーツを面白い形で若い人たちにもっと提案したいという思いがありました。僕だったらこういうふうに着たい、これを合わせたい、と少しだけ反抗してきたんです。それが少しずつ受け入れられる時代になってきたのかもしれないですね。

栗野:例えば80年代後半から90年代のバッファローやヒップホップのスタイルは、実は男女あまり関係なかったんじゃないかな。特に90年代以降のストリートスタイルやスポーツウエアって、男女の違いがあまりないでしょう。日本の男の子の暮らし方やアティテュードが、とっくにジェンダーフリーとか自由の方向に向いていたという気もするんですよ。

unitedarrowsone-interview-20170531_053.jpg

栗野:小木さんは今、原宿本店のメンズ館や「ユナイテッドアローズ&サンズ(UNITED ARROWS & SONS)」を仕切っているけど、小木さんに憧れて入って働いている者も多くて。彼らはとんがった格好も安心して楽しんでいる感じがするんだよね。お客さんもそう。

小木:そういう時代の流れを代表する存在の一つが、イタリアの会社「*ニューガーズグループ」じゃないかと思っているんです。イタリアは、良い物作りができる土壌はあるけど、そこに足りなかったのは面白いアイデアやカリスマ性を持っている人だったりする。それで、マルセロ・ブロン(Marcelo Burlon)がグループに入って、ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)を連れてきて「オフ-ホワイト(OFF-WHITE)」を立ち上げた。「フッド・バイ・エアー(Hood By Air)」「パーム・エンジェルス(Palm Angels)」「ヘロン・プレストン(HERON PRESTON)」といったブランドもそこから発信されています。

ーファッションに限らないコミュニティを持った人が手掛けるブランドばかりですね。

小木:そういう人たちが今の流れを作っているんじゃないかなと。ヴァージルは本業のDJをする感覚で色々なものをミックスして面白いものを作っているし、マルセロのショーはパーティーのような感覚がある。90年代にも「アンダーカバー(UNDERCOVER)」の高橋盾さんや、「ナンバーナイン(Number(N)ine)」を手掛けていた宮下貴裕さんとか、ストリート発のブランドがランウェイに出ていきました、その時も「こういう流れってどうなの?」という人がいましたね。でも、彼らはファッション史に足跡を残すようなデザイナーになっていますから。

*ニューガーズグループ(New Guards Group)・・・ミラノを拠点とし、コンテンポラリーファッションとストリートウエアを中心とした複数のブランドのデザインから生産、卸までを手掛ける会社。2015年にスタートし、「マルセロ・ブロン カウンティ・オブ・ミラン(Marcelo Burlon County of Milan)」や「オフ-ホワイト」「パーム・エンジェルス」「ベン タバニティ アンレーベル プロジェクト(Ben Taverniti™ Unravel Project)」「ヘロン・プレストン」を手掛けている。

ー新しいスタイルを作る人が、時代を作っている。

小木:そうですね。あとは、お金で買えないものに惹かれるんじゃないかと思います。例えば入手困難なものや、アイデアだったり。「ルイ・ヴィトン」のキム・ジョーンズ(Kim Jones)もそうですが、元々ストリートカルチャーに影響を受けたデザイナーが大企業に入ってクリエーションを発信していたり。いまはストリートの人がそういったアイデアを持っている印象ですが、その流れを僕はいいと思う反面、このままでいいのかなと考えることもあります。

unitedarrowsone-interview-20170531_016.jpg

「なんでも早くなり過ぎている」

ーファッション業界で現実的に向き合うべき課題は何だと考えますか?

栗野:プロパー販売期間が短すぎて、セールが多すぎること。あとは、何でもかんでも早いことを良しとすること。"see now buy now(=見てすぐ買える)"がすごく話題になったけど、正直僕はどうでもいいと思っています。「見てすぐ欲しい」という気持ちは誰でも持つだろうけど、消費者側がそういう気持ちになるのと、提供する側がそういう気持ちで物を作るのって、意味が違う。今日見たものが明日売り場で買えますよと言われて、最初は驚くかもしれないけど、それを毎年やっていたら飽きるのも早いと思いますよ。

ー生産も消費も、どんどん早くなっている節があります。

栗野:業界全体の強迫観念というか、早くしないとまずいんじゃないか、という感覚はありますよね。だから時間の短縮だけではないことを、ユナイテッドアローズではやっていきたいと思います。じわっと良さが残るものとか、自分にとって価値があると思うものに、時間ってかなり重要なんじゃないかな。

小木:少し先を考えているブランドの中には、ファッションショーをやらない、ファッションカレンダーにものりたくない、というところも増えてきているように思いますね。

関連:ヴェトモンのデザイナーが「飽きちゃった」発言に込めた"ショーを行わない"という選択肢

栗野:セールをやらない、広告を打たない、「クロムハーツ(CHROME HEARTS)」のようなブランドの強さが理想かもしれない。

小木:セールの多さについては僕も危機感を持っていますね。例えば、イタリアの品質が高いファクトリーに目をつけて伸ばしてきたのも日本人だし、そこを苦しめているのも日本人なのかなと。アイデアをファクトリーにぶつけて面白い物作りができるようになったけど、それをちゃんと売る期間が短かすぎたり。

ー消費者のファッションに対するマインドについては、どう捉えていますか?

栗野:ソーシャルメディアの発達の影響はすごくあるなと思いますが、例えばセルフィーが好きなセルフィーピープル。彼らを否定はしないけど、おそらく服を見せたいというより認められたい欲求が強い。おしゃれ好きも承認欲求の極地みたいなものだけど、どちらかというと自分がよければいいという感覚だと思うんですよ。小木さんも僕もバカみたいに服が好きだけど、人に認められるために着ていないから。アイデンティティとしてのおしゃれを大事にしたい人はいるけど、そういう人こそ目立っていないのかなと思いますね。例えばイタリアの合同展ピッティ・ウオモの会場の真ん中はスナップ写真に撮られたい人が集まっていて「ピーコック(孔雀)」と呼ばれてるんですが、本当に服好きのおしゃれな人はそこを通らないようにしています。なんだか逆になっちゃってるんですよ。

小木:東京やニューヨークは半年ごとに色々なことが変わって、エキサイティングで面白いかもしれない。でも特にヨーロッパの人に多いなと思うのは「あなたの人生でみたときに今それをやることがクールなの?」という視点なんですよね。考え方が人生単位というか。ファストファッションのように、安くてすぐに流行を楽しみたいという欲求はこれからも変わらないと思います。でも、日本でも大震災があってみなが死を意識した後、少し変わったのかなと感じました。若い人たちにも、自分の人生にとって意味のある、本当に良い物を欲しいと考える人が増えているとは思いますね。

栗野:メディアが「ファッションは冷めている」と言い過ぎなところもあるんじゃないですか。相変わらず服が大好きで自分のライフスタイルになっている人が減ったわけではなくて、店にもよく買いにきてくれていますよ。東日本大震災の後、服はそれまで以上に売れたんです。昨年の熊本地震の時も。ファッションって、みなが考えている以上に果たしている役割は大きいんだと、改めて感じさせられましたから。

次のページは>>服屋の未来を賭けたプロジェクト「UNITEDARROWSONE」とは?