Toru Ogawa

民族文化の深層へ「ファッション進化の芽を探せ!~東コレ取材日記⑤~」

小川徹

放送局プロデューサー

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デザイナーたちにとって自国の文化や伝統は、重要なインスピレーション源の一つ。今季のコレクションでも様々な試みが見られた。

日本人にとってわかりやすいのは、アジアのデザイナーのコレクションだ。3月14日のベトナムの「グェン・ツォン・トリ(Ngeyen Cong Tri)」のショーは、とてもパワフルで圧倒された。

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端々に出てくる民族的なモチーフ。今回のショーのシンボル、稲穂のマークのついたレザージャケットやTシャツはもちろんのこと、18世紀から続くといわれるベトナムの伝統衣装アオザイを思い起こさせるトップスなど、わかりやすいモチーフが続く。

後半になると、民族的な表現はさらに深化する。職人の高い技術によって作られた、紐の編み込み、花の装飾、シュロを思わせるフリンジ・・・。ラオス、タイ、カンボジアなどインドシナ半島の稲作文化に共通するエレメントが現れる。それらは、エキゾチックであるとともに、同じ稲作文化圏に暮らす日本人にとっても懐かしさを覚えるものだ。そうした要素を現代的に解釈し、ファッションの中に再統合しようとしていた。

まだ民族的な要素が過剰な部分もあるが、ステレオタイプなエスニック表現を超えた「アジアの表現」につながるものを感じたショーだった。

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>>NGUYEN CONG TRI 2016-17年秋冬コレクション

日本のデザイナーの中でも、日本文化のエッセンスをファッションの中に表現するために苦闘を続けているブランドがある。

日本人の美意識を見つめることで服を作り続けている「まとふ(matohu)」。この数シーズンは、かつての一目で日本的とわかる意匠は影を潜めている。「おぼろ」をテーマとした今回のコレクションは、さらにその傾向が顕著だった。ブランドの代表的なアイテム「長着」もあまり目立たない。

細部を見ると、今季も墨染のグレーのグラデーションや、月を思わせる大きなボタンなど、日本人の持つ「おぼろ」への意識を表現しようとしているのが見て取れる。

デザイナーの堀畑裕之は、現在目指しているのは、「和でも洋でもないもの」だと語る。「和を目で見える形で表現するのではなく、もっとコンセプトの部分を表現していきたい」のだという。

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わかりやすい「和」で勝負するのではなく、日本人の美意識そのものを新たなファッションに落とし込む。「まとふ」の最近のコレクションを見てきて、現在は、その大きな目標のための過渡期にあると感じた。

>>【映像】matohu 2016-17年秋冬コレクション

全く対照的なアプローチで、日本の文化を表現したのが、「リトゥンアフターワーズ(writtenafterwods)だ。鳥取出身のデザイナーの山縣良和が、同郷の水木しげるの生み出した妖怪をテーマにしたコレクション。日本人の持つ「八百万的の神」的な世界を表現したかったという山縣。一見お化け屋敷の中に入ってしまったと錯覚するおもちゃ箱のような演出に目が奪われがちだが、リアルクローズブランド「リトゥンバイ(writtenby)」との合同ショーだけに、一つ一つのアイテムを子細に見れば、服として緻密に計算されていることがわかる。

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山縣の名前を国際的に有名にした2013SSの「SEVEN GODS~clothes from chaos~」では、インドやバリ島を思わせる祝祭的な空間の中に、日本の消費カルチャーがハイブリッド接続された世界を感じたが、今回のショーでは、日本の民俗的な世界だけではなく、キリスト教などが伝わる以前、かつてどの文化にもあった、精霊と共に生きるアニミスティックな世界を感じた。

>>【映像】writtenafterwods 2016-17年秋冬コレクション

こうした、ファッションの中に現れる民族性について、ファッションウィーク期間中に国立新美術館で始まった「MIYAKE ISSEY展」の記者会見で、三宅一生が語った言葉が思い起こされる。

「一生さんのこれまでの仕事は日本の文化を継承してきたように見えるが・・・」という質問に対して、三宅は「私は日本文化を継承しようと思ったことはない。インドやアフリカ、チベットなど、どの文化にも共通するものを探ってきた。日本だけというより、国籍を外して考えることも大切だ。」と返したのである。

aisseymiyake-03-15-16R-20160315_001-thumb-660x440-527281.jpg三宅一生

ファッションの海外進出の際に、必要とされる「オリジナリティを生み出すこと」の重要性。その際、自分の生まれ育った伝統文化を参照するデザイナーたちも多い。

着物を素材にしたり、民芸を素材にしたり、あるいは妖怪を素材にしたり・・・・。伝統文化を、表層ではなく、深層まで掘り下げ、それをファッションとして表現する。それはとてつもなく気の遠くなる作業だ。しかし、その果てに、世界の人を魅了する新たな世界が開かれているのかもしれない。

【放送局プロデューサー小川徹の東コレ取材日記】
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