放送局プロデューサー 小川徹

メインスポンサーがメルセデスベンツからアマゾンに代わって初めてのファッションウィークが始まった。メイン会場の渋谷ヒカリエと表参道ヒルズの前には、高級車のベンツではなく、光のインスタレーションが彩った。
最初のショーは、韓国人のデザイナー李燦雨による「アクオド バイ チャヌ(ACUOD by CHANU)」。自身の原点というヒップホップカルチャーと、最も得意とするシャツをテーマにして、躍動感のあるショーを行った。テーマは「シャツに同化する。」シャツと同化したアウターやアクセサリーなどが展開された。歴史の長い完成されたアイテムのシャツの美しさを改めて表現したという。
李燦雨は、日本のデザイナーたちに憧れてデザイナーを志し、東京コレクションで発表するのが夢だったという。新生ファッションウィークには、こうした海外の人たちの日本のファッションに対する憧れが残っているうちに、新たな才能を生み出すことも、その役割の一つとなるだろう。
>> ACUOD by CHANU 2017年春夏コレクション
初日に、新たな息吹を最も感じたのは、表参道ヒルズで開催された初日恒例のオープニングレセプションだった。挨拶が続く"昭和"な感じのイベントに代わって、挨拶は最小限に抑えられ、DJやダンスユニットのパフォーマンスなど、感覚に訴える演出が加わった。
参加者には、これまで以上にインフルエンサーのモデルやブロガーなどが目立った。アマゾンジャパンの資料では、今回招待したインフルエンサーは50人以上。フォロワー数によって100万単位から万の単位までランク化され、IT企業らしい。
レセプションのオープニングを飾ったのが、ビジュアルデザインスタジオWOWによるプロジェクションマッピング。中心になった近藤樹ディレクターは、「今回のファッションウィークのキービジュアルになっているホワイトボックスを生かし、そこから何かが生まれることを予感させることを目指した。進化ではなく創造を目指すというファッションウィークのコンセプトを体現した」という。
アマゾンのそうした姿勢を象徴するのが、今回から始まるAmazon Fashion"0_1"(21日と22日に開催、22日は一般公開)だという。01とは、何もないところからデザインを生み出す作業を意味し、このイベントを通じて若手デザイナーを積極的に支援していくという。
今回の対象者は、先シーズンの当連載でもパリオートクチュールコレクション進出への意気込みを語ってくれた中里唯馬。6月のパリでのショーが評価され、今回の支援につながった。
彼を選んだ理由について、アマゾンジャパンのバイスプレジデントのジェームス・ピーターズファッション事業部門長は、デザイナーとして国際的に評価される一歩を歩み始めた点、そして、デザインにテクノロジーを積極的に取り入れていることの二つを挙げた。このイベントを通じて、才能あるデザイナーの成果を日本人に改めて紹介したいのだともいう。
アマゾンのデザイナー支援について、日本ファションウィーク推進機構(JFW)の関係者は、「ファッションウィークとしては、これまでも若手デザイナーの支援を重視してきたが、よりイノベーティブなデザイナーが求められるのではないか」と予測する。
ピータース氏に、テック企業がサポートすることの意味について問うと、「ファッションにとってテクノロジーは重要だ。テクノロジーによって、消費者はすでに大きく変わっている。どこにいても自分の好きな服が買えるようになったのだ。」と語ったが、今後どのような展開を考えているのかは明らかにしていない。
まったく別のジャンルだが、アマゾンは私がいる映像の世界では、注目すべき試みを行っている。アマゾンの映像制作会社アマゾンスタジオでは、世界中のクリエーターが、アマゾンウェブサービス(AWS)というクラウド上でコラボしながら、映像作品を作り上げていくプラットフォームを作り上げている。そこには、一般ユーザが脚本や映像を投稿する機能もある。テクノロジーがクリエーションのありかたを変えようとしている。
私が取材を始めてから、東京のファッションウィークのメインスポンサーは、経産省、メルセデスベンツ、アマゾンへと変わった。今後もしかしたら、ファションウィークで発表された服がECですぐに買えるようになったり、オンラインビデオ上でショーの映像が見られるようになるかもしれない。
しかし、それだけでなく、新たなファッションに関する01が生まれる場所になってほしい。オープニングレセプションでは、これからどんなファッションウィークになるのか、ワクワクしているという声を、何人かから聞いた。変化はすぐに現れないかもしれないが継続してウオッチしていきたい。