Mugita Shunichi

モードノオト2017.10.17

麥田俊一

90年代から世界のコレクションを取材しているジャーナリスト

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 数年前、忌々しきリーマン稼業から足を洗った。爾後降り掛かってきたおぞましいほど不快な出来事に振り回されぬよう我自分を奮い起たせていたつもりでいたが、心は荒(すさ)んでいくばかりで、まさに世間の縁(へり)からこぼれ落ちようとしていたのだった。そんな飲み方をしても自分にはなんの害もないようにその頃は思えた。実際には微妙な影響を心身に与え続けていたのだが、聞きたくないものには耳を塞ぎ、見たくないものには眼をつぶると云う芸当を、往時の私がいとも容易くこなしていたのは、ひとえに飲酒のお蔭であった。云ってみれば、風に向かって小便をしちまったようなもので、それがいま、手前の顔に跳ね返ってきたまでのことである。「呑んだくれ日記、始まりましたね」と、昨日、ある高名なバイヤーの方より声を掛けて頂いた。親しみを込めた言葉に、こちらの気もアガる。瘋癲やアル中なぞ云うレッテルは、ときに痛ましい、ひとを小馬鹿にした、誤解を招きがちなもので、そもそもは、他人から勝手に貼り付けられたものだが、そのうちに本人が自衛のために自称するようになり、結局は、一種の誇りを以てする自我認識のようなものとして、随時便宜的に受け容れるようにもなっていた。進んでこの渾名を口にしさえすれば、手前勝手にほきだす言葉の持つ毒気が消えると願っているのだから、端より自分の都合ばかり考えている、所詮は浅薄な痴れ者なのである。私、莫迦さ加減を自ら披瀝するのが持ちネタでして...。

 「アキコアオキ(AKIKOAOKI)」のショー会場で「リョウタムラカミ(RYOTAMURAKAMI)」の村上亮太に出会した。昨日のショーに言及して「サンローランの物真似だったね」と、私は云ってしまった。冒頭のサファリルックや後半のリボンドレスを指して、私は半畳を云ったつもりだったのだが、本人は少しく心外だった様子。云ってしまった後で、その場をどう繕おうかと躍起になってしどろもどろに言い訳をする私。ほんわか気分にざらついた後味が効いたこれまでの作風から一転して、グッと綺麗に擦り寄ろうとする変化、挑発を真摯に肯定する意味でほきだした言葉が宙ぶらりんになったまま、止せばいいのに「貧寒から金満へのイメージチェンジ」と、阿呆の上塗りめいた痴れ言を吐いてしまい、またぞろ相手の良識を思い切り逆撫でしてしまったのである。

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 ショーはピンヒールが意表外に相応しい服に溢れていた。決まりきったパターンを踏襲すると云うマンネリを抜け出そうとする村上の姿勢を買いたかっただけだ。本人の眼前で良く云うのもなんだなぁと、若干の照れもあったのだが、これでは、伝わるものも伝わらぬ。村上の、自虐ネタを捨て去り、諧謔を弄することを選ばんとする変化が頼もしい。「母が昔描いた絵をニットに使っただけで(壷を持った裸婦像)、今回は自分独りで作りました」と村上。母堂(村上千明)とのユニークなデザイナーデュオの関係を解消して再スタートを切った。この場合は、手際の良し悪しは扨措くとしても、趣向や境地に何かを加え、何かを脱ぎ捨てして、ひとつところにとどまるまいとする新進の旺盛な意欲を認めたい。こうして思うに、スッパリと打っ棄ったものに未練なぞ残すことなくグッと突き進んでみては如何だろうか。

>>RYOTAMURAKAMI 2018春夏コレクション

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 今回の「アキコアオキ」は悩殺爆弾だった。緊張と弛緩、野性と洗練、粋と頑迷、都会と田舎、反抗と包容力...。こうした相反する特質を矛盾なく持ち得た服は、ショーのための服、装飾と技巧に走り過ぎた憾みはあるものの、そんな詭弁に負けぬ気合いに満ちていた。身体や服の形を整えるための下着に着想してはいるが、人工的なプロポーションのための補整ではなく、寧ろ拘束から身体を解放するイメージ、服と身体の間の微妙な隙間を敢えて意識させるためのアイテム、として借用しているから、描出される形はどれも解体され、歪に変容している。作り手の真意は判らないが、服にジワッと女が滲み出ているように思う。一貫性、規格外、不調和...。服からは意表を突く言葉が次々と転(まろ)び出てくる。青木明子の筆致は、ときにドライであり、ときには遠慮なくおセンチにもなる。しかし、こう云ったとて、この作り手の逞しい筆致は一向に揺るぐことはないのだ。こちらが読むほどに、そんな文学好き特有の青臭さ、野暮、半可臭さが恥ずかしくなるような、息もつかせぬ面白さに引きずられてしまう。巧いのだ。とにかく、逞しいのだ。(文責/麥田俊一)

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>>AKIKOAOKI 2018春夏コレクション

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