Jenny Fax 2019SS
Jenny Fax 2019SS
Image by: FASHIONSNAP.COM

Mugita Shunichi

モードノオト2018.10.20

麥田俊一

ファッションジャーナリスト

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Jenny Fax 2019SS
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ときに甘美な薔薇は、その棘までもが何処か愛らしく思えてしまうものだ。たとい棘にうっかり触れてしまっても、いちいち刺に目角を立てるよりも、血が滲んだ指先をうっとり眺めてしまいがちな、私はそんな少しく頭のタガが外れた子供だった。「Jenny Fax」のショーを終えて地元に帰り、興奮覚めやらぬままグラスを重ねていたら、ドン臭い幼少期の、幼いながら陶然となっていた不思議な感覚を思い返していた。

いかにも陽気で明るい感じがある。それは無理やり作られたものであったとしても、またそうした雰囲気の底を流れる無言の絶望感と云ったものを、たとい感じたとしても(今回はいつもに比して、作り手は負のベクトルを意識していなかったのかも知れないが)それでも、脆さと表裏一体にある「春」の勢い盛んな息吹と云うのは、その場に最も相応しい言葉であったろう。1980年代のパワーショルダ、90年代のコンセプチュアルな造形など、今回も作り手が偏愛するカタチを続ける弱みもあるが、それを凌駕する恰幅の良さ、押し出しの強さを感じさせるショーだった。家族団欒の図を焼き付けた一葉の色褪せた印画紙をモチーフとした前回の私的な作品群のスケールを発展させ、今回の創作の源泉が、映画かTVドラマか、或いは古い友人たちの挿話によるものかは定かではないが、いずれにせよ作り手の心象風景に根差した物語を土台に特異な世界を描出している。

奔放なカタチに盛り込んだ幼さの残る青春群像にありがちな、照れ臭いようなキマリの悪さも(後述するが)悪趣味を逆手にとったパロディーが効いているから、見ているこちらも思わずニヤリとさせられ、気後れせずに作り手の手招きする奇抜な世界に心安くドップリと浸っていられるのだ。斯様な冒険を敢えてした作り手の度胸と云うものは(甚だ失礼だが)女だてらに天晴(あっぱ)れと申すべく、また、その自信のほどが窺えるのであって、私がここに提燈を持つまでもなく、これまでの諸作の横紙破りな流儀、文体、語り口の自虐的なまでのユーモア加減と云い(正直に)まぁご立派と云うしかない。

Jenny Fax 2019年春夏コレクション

クラウン(道化)の衣裳を思わせる、大きな十字架を抱くパジャマでショーは開始した。巨大なカタチは最早、服の有り様を超えて存在するように思わせるほどだ。ギャザーで強調した風船のように膨れた袖、パッドの代わりに骨を内蔵した水平に伸びるロボットアームのような肩の形、重力に逆らうことが出来ずに垂れ下がるに任せた筒袖...。80年代のビッグシルエットを縦横無尽に換骨奪胎して生まれたカタチには、ロマンチックでノスタルジーな服が描く甘さに満ちた現実の世界の、この甘さは飽く迄も噓ものなのだぞと云う意地悪い提言が実は隠されているんさと、そんな深読みをしたくもなる。水彩画のような透明感のある色彩、道化の大きな水玉や太い縞模様、アメリカンキルトを思わせる牧歌的なパッチワーク柄などの素朴でありふれたモチーフも、それがしかし、見た目の普通と云う皮を剥いで現われる中身の普通が凄いのである。と云ってもまだ、何も云ったことにはならないが、しかし、そのチラリと露出した普通を見てドキッとするのは何故だろうか。括(くび)れる前の女の子の、ぷっくりと盛り上がったお腹の肉を、敢えて露わに見せてしまう服の設計、真っ白なレースのパンティーを装飾としたお茶目な色気など、何処にでもいる成長著しい女の子のエグい日常をパロディーの俎上に横たえて、作り手流儀の普通に転換している。えいやっとパンティーを上下に伸ばしてレオタード代わりにドレスの上に重ねた姿や、レッグウォーマーのようにハイヒールに被せたハイソックスなどを見ていたら、往時の歌姫、オリビア・ニュートン・ジョンのミュージックビデオ『フィジカル』を不覚にも思い出した。折しも巷間のギャルたちが、大切なところがやっとこさ隠れる小さな布切れ(ビキニ)を貼り付けキャピキャピと弾けていた1981年にあっても、既に齢(よわい)六十歳を超えたかの歌姫は、レオタード姿で激しく歌い踊っていたのであった。この年の差、そしてあの姿、それなりにエロくもあったなぁと、しみじみと感慨深く思い返してしまった。盛り上がった肩は兎も角、今回のショーには、オリビアみたく健康的な肉体美こそないが(上述したようなギャップより生じる)野暮ったさを存分に味方に付けていた。そう云えば『ジョリーン』のカバーも使われていたっけか。(文責/麥田俊一)

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麥田俊一

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