Image by: malamute 2019-20年秋冬コレクション

Mugita Shunichi

モードノオト2019.03.19

麥田俊一

ファッションジャーナリスト

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Image by: malamute 2019-20年秋冬コレクション

 前略、小高真理 様。さっきお会いしたばかりで、こんな手紙を差し上げるなんて、ちょっと気恥ずかしくもありますが、どうかお付き合い下さい。ショーが終わった後、一声掛けたくて楽屋に飛び込もうと息巻いていたのですが、覚束ない足元に(酒に脚を抄われ)気が急くばかり。肝心なスタートダッシュに遅れ、気が付けば、あなたは既に、あの醜悪な囲み取材の渦の中に吸い込まれていました。十重二十重の人波を遠巻きに眺めながら、此の人気は只者ではないと、少しく驚きました。しかし、先ずは、弁解せねばなりません。謝らねばなりません。達成感なのでしょうか、頬を緩めたあなたの顔が眼の前に迫り、想像を超えた出来栄えだったショーを見終わって気分が高揚していた私は、「まぁ酒臭い」と云うあなたの言葉に、考える間もなく右手が反応して、気が付けば、あなたの頭を平手で叩いていました。あまりの莫迦さ加減に辟易した私は、スクと踵を返し、あなたに背を向けて立ち去ってしまった。嗚呼、なんと云う為体。さっきは御免なさい。ブランドが一皮剥けた前回のショーより数段向上心に満ちた今回のショーを喝采する気持ちを、だから、せめて、此の手紙にしたためてみます。因みに、過日のおにぎりの遺恨ではなないです。これは二人だけの秘密ですね(笑)。

 あなたの血管に流れる伝統の血、此れはニット作家(表現は当たっていませんけれど)より開始したあなたの宿命的なものです。ニットが良いと云うのではなく、服地の風合いに個を見出す嗅覚と云うのでしょうか。前回、初めてショーをしたことで「マラミュート」の世界観を一気に拡げました。此れは、誰よりもあなたがいちばん実感していることでしょう。あれは昨年のことでした。あなたに逢った時、気分を害することなく私のお節介に耳を貸してくれましたね。あなたの内の曖昧な記憶、根深く刻まれた心象風景は創作の動機となり、様々な変奏で幾度も奏でられてきた主題は、写真家、森 栄喜さんとの共同作業でこれまで続けてきたビジュアル制作を通して確かに恰幅を加えてきました(二人の協業はデビュー二回目より現在まで続いている)。でも、このまま閉じられた環の中で表現していては、創作世界の展開が難しいと、私は以前より感じていました。だから、そのことを正直にあなたに伝えました。勿論、内容は素晴らかったのですが、何によりも、ショーと云うあなたにとって初めての表現手段に踏み込んだことが、私に途方もなく嬉しかった。これも酔いどれロートルの老婆心ですが、森さんと一緒に作ってきたビジュアルには、確かに面白い感性が投影されていました。時には、此れ程、あたりの喧騒から離れ、沈黙し、孤立している写真はない、などと感じたこともありました。温もりがある服なのに、何故かしら周囲から切り取られたように孤立している感覚もありました。作品として、私は好きだったのですけれど...まぁ過去の話は仕舞いましょう。既にあなたは、あなたのジレンマを自ら解き放ったのですから。

malamute 2019-20年秋冬コレクション
malamute 2019-20年秋冬コレクション

 今回のショーについての私の感想は、誰もが口にすることと似たり寄ったりでしょう。服の完成度は格段に増して、大人の女を感じさせ、時に爽快、また時に息を呑む官能的な横顔が見え隠れする成熟を予感させるものでした。情熱と云うよりは寧ろ知的な作業を通して、現実の直視ではなく彼方への夢想が生み出した服には、どこか原始的(プリミティブ)に見える荒々しさがありました。密かに私は、エレガンスよりも野性味に強く惹かれたのです。ただ、こうして口を極めて絶賛するのは控えておきます。売文稼業を活計の糧にしているのに、意気地がないことですが、平板な言葉を使えば使う程、今回のショーの魅力が薄べったくなる気がしているからです。だから、少しく抽象的な形容で濁してしまうのですが、きっとあなたなら私の云いたいことが解ってくれる筈です。

 一枚の絵画を思い浮かべています。それは、簡潔な構図でありながら、その内部には無数の変化が窺える絵です。しかし、タブローのデコラティブな効果の点では、たとえば、教会にあるような壮大な壁画の持つ「見せる」力に対して、今回の作品は「思わせる」力の方が強い。此の「思わせる」と云うこと、服に於いても大切なことだと思います。瞑想とか内省と云う言葉が相応しいのですかね。でも、少し大袈裟かな。日本の風土への愛情も感じさせながら、あなたが何を瞑想しつつあるのだろうと、私はそれを心の中に尋ねながら、人垣の向こうのあなたの横顔に眼をやっていたのですよ。

 招待状に「風景」とありました。よしんば具体的な説明があったとしても、あなたのことですから、過去の記憶と現在の意識が巧い具合に交錯して朧な心象風景となり、それらが創作世界の主題に昇華されているのでしょう。だから、私も詮索しないつもりです。風景を、それをひとたび、創作の題材として何かを抽出しようとすれば、現実そのものでは決して満足しない何かが必要なのでしょうしね。時には、それが作られた他人の物であっても、あなたは記憶を彷徨う旅人のようなものです。ある風景が気になるとします。旅人の眼は、その風景を見て、それを写生することは出来るかも知れない。けれど、その風景を所有することは、旅人の心を持っていない限り出来そうもない。つまり、心と眼とが一致した場合にのみ、ある風景は、その画家の内部に取り込まれ作品として定着される。風景の心象化とも、風景との同化とも云えるでしょう。旅人と云いましたが、此の場合は、作品の題材を求めて旅を続ける風景画家を云います。私は、あなたの創作活動を、自らの心と等しかるべき風景を飽くことなく探求する風景画家のメチエに重ねているのです。凄まじい霊感の嵐に吹きまくられているでしょうから、ともすればミューズの云いなりになって創作世界がギスギスすることもあるかも知れませんね。でも、あなたの内部世界はユニークです。服の作り手としての「譲れないモノ」があることも、私は承知しています。精神の独立と緊張を失わず、一歩一歩、より高い完成を目指して歩んで欲しいですね。匆々。(文責 麥田俊一)

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