
日本企業として初の冠スポンサーとなった楽天は、東京のファッション・ウィークにどう関与するのだろうか。楽天の三木谷浩史会長兼社長の発言や新構想「楽天ファッション」のビジネスモデルを読み解くと、東京のデザイナーズブランドに最適なECプラットファームを提供すると考えられる。今回の冠スポンサー契約は8月上旬に結ばれたが、企業トップが短期間でこうした構想を発表するのは初めてで、以前の冠スポンサーだった外資のメルセデス・ベンツ、アマゾンにはなかったスタンスだ。
三木谷氏は「(世界のコレクション・ウィークにおける)東京のプレゼンスを上げる。デザイナーのビジネスをサポートし、ユーザーにはエキサイティングな体験を提供したい」と話している。欧米、アジアを巻き込んだファッション・ウィークの競合が激しくなる中で、三木谷氏は、ECを軸とした先進的なプラットフォームを構築するのかも知れない。ECを絡めたファッション・ウィークの運営は、2019年秋冬シーズンまで冠スポンサーを務めてきたアマゾンも行ってきた。アマゾンとの違いや楽天の優位性を訴求するためにも、参加デザイナーとの関係性や情報発信にも注力するのだろう。ファッション・ウィーク初日は、三木谷氏が顔を出したショーもあった。


和装を力技でモダンに昇華する「ヨシキモノ(YOSHIKIMONO)」と、東京の日常や風景、繊細なモチーフをコレクションに落とし込む「ティート トウキョウ(tiit tokyo)」は、対照的で興味深い内容だった。約3年ぶりにショーを行ったYOSHIKIは、今回も和装というストレートな要素をミニ丈のフラワー柄ドレスや深紅の力強い着物で表現。自身がピアノで演奏する姿を帯に投影するなど、ファンの購買意欲を刺激するアイテムもあった。非常に分かりやすい表現とアイテム構成は、ECでの可能性を感じさせる。着付けの必要がないドレス類を充実させたことで、3年前と違う反応もありそうだ。


一方の「ティート トウキョウ(tiit tokyo)」は、東京という成熟した都市空間から着想し、スモーキーなカラーと素材で巧みにコレクションを構成している。雨の風景や窓に溜まる滴などをトランスペアレントなフリルドレスやパジャマ風のセットアップで表現。ジャケットやスカートといった限定しない曖昧なコレクションで、一部ではスポーティーなモチーフも盛り込んだ。繊細で優しいブランドイメージは一貫しており、ファッション・ウィークでのキャリアもある。前述した「ヨシキモノ」とは対照的なコレクションだが、楽天という有力IT企業の目にはどう映ったのか。個人的には緊張感を持って両ブランドを観ていたが、楽天の見定めは如何に。
【市川重人の東コレポスト】
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