TOMO KOIZUMI 20年春夏コレクション
Image by: FASHIONSNAP.COM

Mugita Shunichi

モードノオト2019.10.16

麥田俊一

ファッションジャーナリスト

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TOMO KOIZUMI 20年春夏コレクション
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果敢、精悍、強勁、獰猛、荘厳、崇高、優美、甘美、絢爛、玄妙、奇異、暗黒、詭計、憂愁、淫靡、飄逸、陶酔...否、まだある...そう、瞑想、過激、傲慢、放埒、野放図、清潔、純粋、静謐、清麗、爽快にして息を呑む官能美...兎にも角にも、美の極致、百花繚乱、麻薬、劇薬、催眠剤...と云った按配に...そのショーは、言葉に置き換えるなら、容易に羅列出来る。しかし、敢えて言葉で形容すればそれだけ、そのものの魅力が薄っぺらになることは、端より承知している。それでも、云わずにはいられない。服は全篇、品玉の如き贈り物。砂糖菓子のように甘く、花弁のように咲き乱れるオーガンジーのラッフルとシルクのリボンで覆い尽くされている。

TOMO KOIZUMI 20年春夏コレクション
TOMO KOIZUMI 20年春夏コレクション

「トモ コイズミ」のショーには、或る種の覚悟を感じる。確かに、決まり切ったパターンを踏襲すると云うマンネリズムは否めない。だが、そのような雑音を斬り捨てるだけの覚悟が透いて見える。刀の鞘で、刃を仕舞う口にあたる部分を鯉口(こいぐち)と云う。「鯉口を切る」と云う表現は、親指で鍔を押し上げ、「さあ、いつでも抜けるぞ」と威嚇する構えを云う。辻斬りの浪人の如く。挑発に乗らず、大団円までの物語を覚悟する、そんな感覚だろうか。ドレスメーカーを辻斬りの浪人などに喩えるのは、ちとグレハマだけれど、実際ショーを見ていると、日本的な情緒が漂う不思議な感覚を覚えたのだった。

それは森羅万象ことごとく霊化して、極彩色の、やるせなくも甘美な陶酔境へと我々を導いてくれる。これに比べれば、現実とは如何に索漠たる存在であることか。そこでは、決まって遅鈍な人間どもの顔、顔、顔がウロウロと歩き廻っているのだし、どれもこれも同じような形(なり)の服、服、服が並んでいるばかり。東京と云う人造砂漠のザラザラとした荒寥地帯の、この現実の灰色の上に、どうして夢幻の豊穣な透明色を塗らずに生きていられようか。

モードの表層をなぞり、流行に塗れた「ほどよさ」を粗製濫造したモノがやたらと眼に付く昨今、この「きわどさ」と云うこと、なかなかに貴重なものだと思う。服と云っても、総てがドレス。決して現実的な服ではない。一着の服そのものよりも、作り手の提言と覚悟を、私は只管に買いたいのだ。ファッションとか、パッションとか、エモーションとかではなく、只の衣料品を見たいのであれば、他を当たって欲しい。

デザイナーの小泉智貴は、1988年千葉県生まれ。幼少期より独学で縫製を学ぶ。千葉大学在学中に、スタイリスト北村道子のアシスタントに就き、同時に自身のブランド「トモ コイズミ」を立ち上げる。コスチュームデザインやカスタムメードのドレス製作を開始。独特の色彩感覚と個性的なスタイルが支持され、国内外の女優やアーチストを顧客に持つ。インスタグラムがきっかけで『LOVE』マガジン編集長兼スタイリストのケイティ・グランドの眼にとまり、急遽2019-20年秋冬のNYファッションウイークでのコレクション発表が決まる。ケイティと親交の深いマーク・ジェイコブスの支援もあり、マディソン街の「マーク ジェイコブス」の旗艦店にてショーデビューを飾る。東京でのショーは今回が初めて。一足先にNYで発表した作品を、東京では異なる演出で見せている。

TOMO KOIZUMI 20年春夏コレクション
TOMO KOIZUMI 20年春夏コレクション

全篇10ルックに満たないコレクション。丸い舞台を客席が取り巻く、こぢんまりとした円形劇場のような設営。舞台型演出と劇場式空間は「生」な感じがプンプンと臭っている。一着毎に音楽を変え、猥雑な色の異なるスポットライトが、薄暗闇を背景に、情感たっぷりに主人公を演じるモデルの姿を浮き彫りにしていく。前述したように、洋のドレスを見ているにも拘わらず、菊人形や猩猩(能の演目に登場する、真っ赤な能装束で飾った猩猩。酒に浮かれながら舞い謡う)のイメージが脳裏を掠めるのは、一部の服の形が、裃(江戸時代の武士の公服)とか、能や狂言の衣裳に似ているからだろうか。

女性を理解すると云うことは、彼女の魅力を解き明かすことでもある。入り口が複数ある部屋とか、二つ以上の結末を用意した小説のように、女性の内面は、実に多面的だ。そんな女性の様々な情感に言及しながら、作り手は、現実の瞬間をはみだす物語(コント)を編んだのである。コレクション全篇を通貫するラジカルで執拗な意志は生半ではない。色とか装飾とかの甘さに眩惑されがちだが、そこには、アナーキーが、明確な外殻を与えられてピリピリと、時代に対して物申すみたいな、或る種の突っ張った語り口が垣間見られるのだった。(文責/麥田俊一)

■TOMO KOIZUMI:2020年春夏コレクション全ルック
■ファッションウィークの最新情報:特設サイト

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