MIKIO SAKABE 2020年春夏コレクション
Image by: FASHIONSNAP.COM(Koji Hirano)

Mugita Shunichi

モードノオト2019.10.18

麥田俊一

ファッションジャーナリスト

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MIKIO SAKABE 2020年春夏コレクション
Image by: FASHIONSNAP.COM(Koji Hirano)
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高田馬場駅より徒歩で数分。国電の線路沿い。取り残された二階建てのゲームセンター。今時、50円玉一枚ではアイス(氷菓子)も買えない。でもここ、一枚の硬貨で暫しゲームに興じることが出来る。駅近とはいえ、繁華街の喧騒にも縁のない、場末な匂い芬々。昭和の哀感、室内に澱んだ空気。今時珍しい、アニメのフィギュアのような女の子たちの、開場待ちの列を横目に、会場となるゲーセンに入場した。急いで呑み干した缶の緑茶ハイ。もう一本買っておくべきだった。東京での坂部三樹郎のショーは久方振り。クリエーティブ・ディレクターとして参画した新ブランド「ギディーアップ」のデビューショー(2019年春夏コレクション)をパリで発表して以来だ。「ミキオサカベ」と、シュエ・ジェンファンが手掛ける「ジェニーファックス」の合同ショーも久方振りだ。会場を選んだのは、どうやらジェンファンの方らし。ピコピコと電子音が唸りを上げる無数のゲーム機が並ぶ空間。二人が手掛ける「ミキオサカベ」が先陣を切った。

MIKIO SAKABE 20年春夏コレクション
MIKIO SAKABE 20年春夏コレクション

坂部自らが監修するフットウエアの展開に照準を定めた着眼が、今回のコレクションの根底にある。売れる手応えが、坂部の自信に繋がっている。靴をメーンに据えたブランディングに新境地を得たようだ。ブランド10周年を過ぎた頃より、コスプレやサブカル信仰などの、所謂、東京発信のベクトルを意識的に外しながら、ハイコンテクストなプレタポルテの領域で勝負しようとする坂部の新たな試みが、漸くカタチになり始めた。少しく時間が掛かったけれどね。

「ファッションは、人と社会の関係のなかに生まれる生命のようなもの」と、以前、坂部は語っていた。「ファッションは、人の個性を奪うものになってはいけない」とも。なかなかに彼らしい提言だったから、今でもその言葉は記憶している。フットウエアのブランド名は、商標問題などで二転三転したが、現在は「grounds」に落ち着いている。単数形の「ground」は「地表」の意だが、複数形の「grounds」になると「根拠」「証拠」「本質」などの意になる。「人間と重力(地球)の関係に変化をもたらすこと」「人間と重力(地球)の接点であるアウトソールと地面を中心とした人間作り」がコンセプト。

Jennyfax 20年春夏コレクション
Jennyfax 20年春夏コレクション

フロアに居並ぶゲーム機は、半透明のビニールで覆われていた。因みに、「ジェニーファックス」のショーでは、ビニールが取り去られ、元通りのゲーセンに戻された。新作を着たモデルが歩き出す。眼の前を、幾人ものモデルが通り過ぎる。その列の中に、新たなモデルが加わる。回転寿司の、歯抜けになったコンベヤーに新たな皿を足すように、モデルたちのループはなかなか途切れない。サブリミナル効果ではないが、面白い演出も奏功した。昭和の匂い漂う古臭いゲーム機を覆った半透明のビニールの印象は、服のテクニカルな生地(高密度で織った半透明の極薄ナイロン)に重なる。純朴な小花柄、スポーツライクな蛍光色など、坂部らしい色柄も健在だが、透けるような服地は、第二の皮膚を思わせる近未来的な雰囲気を醸し出す。下着やアウトドアの要素を味付けとするが、シューズの個性を損なわない程度に、服の形は極めてシンプル。ファスナーの開け閉めで、形が変わる細部の設計が、シンプルな服に面白いアクセントを付けている。こう云うファッションの在り方をもっと加速させて貰いたい。

オカルト(超自然的)や狂気のカウンターとしての「可愛い」とか、ネガティブをポジティブに転換するファンタジーとかの、ジェンファンのダークサイド的心象風景は、ここ数シーズン、少しく影を潜めている。その代わりに、可愛らしくもあり、エロチックでもあり、飛び切りのガーリーでもある、そんな女性像が最近の「ジェニーファックス」には垣間見られる。但し、それは一筋縄では語ることの出来ない、様々な少女の日常。何処にでもいる、成長著しい少女のエグい日常を諧謔の俎上に横たえ、ジェンファン流儀の「普通」に置き換えている。前々回、前回同様、今回も、あの人気スタイリスト、ロッタ・ヴォルコヴァがスタイリングを手掛けている。フォーマル、シック、エレガンスな服に始まり、ブルマー、下着、フリルやラッフルの渦、緞帳の襞のようなドレープ、カーテンのようなケープ、背中の小窓を飾るレースのカーテン、ずり落ちたスカート、食べ滓で汚れたモデルの口元...首や腕に巻き付けたギプス包帯も可愛い飾り。未熟と成熟、正常と狂気の混沌に炙り出される可愛い服は、飄逸(ノンシャラン)であり、奇異(ファンタスティック)であり、玄妙(ミスティック)であり、も一つおまけに詭計(トリック)もある。

最近のジェンファンの手法を思うに、対象に密着し、没入するのではなく、それと敢えて距離を隔て、双眼鏡を片手に、細部を観察しては綿密に描写していくようなアプローチ、とでも云おうか。如何にも詳細かつ鮮明な描写ぶりながら、肉眼ならぬレンズを通した世界は、所謂、美しい覗きカラクリの如し。だが、それを作りもの、頭から捻り出した空想虚構の産物として軽んずるとしたら、これほどの愚劣はまたとないので、レンズを通すことで、初めて見えてくるものもあれば、カラクリによってしか描けぬ世界の香りと云うものもある。加えて云うならば、怪奇幻想をも好むが、それは決して泥絵の具を塗り立てたような、おどろおどろしいものではなく、頓に最近は、一貫して淡い郷愁の漂った、スッキリした仕上げのものとなっている。一見、極彩色に彩られているようでも、幻燈機より映し出された映し絵のような、何処か透明感が漲っているのだ。(文責/麥田俊一)

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