「文化の地産地消」を目指す長野市のアフターズは地域に根差した事業の多角化を進める。デザイン、スポーツ、音楽イベントなど各事業は、本業のリアル店舗でのファン作りにも密接に関連している。地方都市には珍しくオリジナルブランドを主軸とした〝新たな個店のかたち〟にチャレンジする。
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■従来型モデルに疑問
多角的な事業やオリジナルブランドへの強い思いは、同社の宮津亮代表が独立前に地場のセレクトショップで経験してきたことがベースになっている。そこでは、20歳から15年間働き、メンズ、レディス、子供服などの分野に関わり、バイイングや店舗運営・管理も担ってきた。裏原系ストリートブランドに勢いがあった時代だった。宮津氏は、地域一番店では一般的だった「有名ブランドありきのビジネス手法に当時から疑問を感じていた」と振り返る。その後、EC全盛となり、誰もがどこででも、何でも買えるようになり、ブランドとの共倒れの危機意識が強まったという。
ブランドは有名になればなるほど自社ECを強化するため、リアル店舗はショールーム化してしまい、仕入れたブランドを店舗で販売する従来型のビジネスに限界が見え始めてきていた。「地元で服作りをして発信していかないと未来はない」との思いから部下を誘って独立・起業に至った。
16年にJR長野駅前から少し離れた郊外立地に「アフターズストア」下氷鉋店を開業した。ガソリンスタンド跡をリノベーションした店舗は約83平方メートル。売り場の約半分はコーヒースタンドが占める。15台分と駐車場も広く、長野インターから車で10分の幹線道路沿いのため自動車での来店に適している。
■オリジナルが大半
品揃えはメンズ、レディス、キッズとファミリーでも楽しめる商品構成。かつてはセレクト8割、オリジナル2割だったが、現在、比率は逆転している。この半年でも、独立前から付き合いの長かったブランドをはじめ、10ブランドほど仕入れをやめたため、オリジナルブランド「アフターズ」が大半を占める。オリジナルはストリートカルチャーをベースにしたカジュアルウェア。カットソーを主力に、デニムやシャツ、アウター、帽子、サングラスまでトータルで提案する。特にカットソーアイテムの縫製やグラフィックのプリントなどは長野県内の工場で生産している。「もっと地場で物作りをしたい」との思いから、今後、県内の草木染めの職人との取り組みも始める予定。将来的には自社店舗の上層階のアトリエで縫製する構想もある。
オリジナルブランドのデザインは宮津代表とスタッフ2人とのチームで作製する。英文字のロゴデザインは店舗の看板、サインにもなり、カットソーにプリントされるアイコンでもある。それ以外にもオリジナルマーク「スカイライン」を作成。同マークは長野県の風景をイメージした街・雪山・空の3層をデザイン。アウターやキャップにさりげなくワンポイント刺繍されている。またロングセラーのミリタリージャケットの迷彩柄は生地からグラフィックもオリジナルだ。
有力な繊維産地が地場にあれば服作りの背景が大きな強みになるかもしれないが、単に良い物を作っただけでは売れない時代。だからこそ、素材へのこだわりや細かいディテールなどのうんちく以外でも、消費の心に刺さる(伝わる)部分はあるはず。「将来的には地元の顧客がローカル発のデザインを着用することで自信を持ってもらえ、ブランドを長く愛してもらえるようになる」のが理想と宮津代表。最近では地元のプロバスケットボールの選手が着用してくれるなど、少しずつ認知度が高まってきているという。
■コミュニティー作りへ
多角化した事業も宮津氏が独立前から培ってきたものの延長線上にある。全てが地方の個店にとって大切なコミュニティー作りの一環だった。DJイベントは20年前から携わってきた。セレクトショップとクラブミュージックの親和性が高く、店頭スタッフがDJとして人気だった。ただ、当時は長野で〝東京〟(流行の表層を追いかけていた)をやっていただけなので、地元の本気DJらとはうまくいかなかったとのこと。今は地元ラッパーのライブを開催したり、アーティストを紹介したり、地域に根差した活動をしている。
スポーツ事業ではフットサルチームを作り、宮津代表も参加し定期的に練習したりしている。イベントを開催する際、フライヤーを自分たちで作製するなどクリエイトすることに魅力を感じていたので、デザイン事業が全てをつなぐ役割を担っている。
17年にはオリジナルを主力にした長野駅前店もオープン。デザイン事務所も併設している。様々な分野の地元企業からのオファーが増え、デザイン事業は多忙を極めている。
アフターズストア下氷鉋店に併設しているコーヒースタンドは、地域の活動に触れてもらう入り口の一つ。今年からはコーヒーを飲みに来てもらうだけでなく、自家焙煎(ばいせん)した豆も販売する。今後、独自事業としての出店も視野に入れている。これからも全ての事業と連動させながらオリジナルのアフターズでのファン作りに力を注ぐ。「ローカルをインデペンデント」するためにも各事業を成長させたその先として、デザイン、ショップ、カフェ、生産機能を統一した店舗の構築を将来ビジョンに描く。
(繊研新聞本紙21年2月4日付)
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