ファッションに関する仕事というと、ショップの販売員など各ブランドで働くスタッフをイメージする人が多いと思いますが、世の中には様々なファッションに関わる仕事が存在します。そんな中から、イラストとストーリーでファッションの魅力を伝えることができる「漫画家」にインタビューをする企画をスタート。漫画家から見たファッションや「好きを仕事にすること」についてお話をうかがいます。
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第3回は、週刊少年マガジン新人漫画賞で特選を受賞しデビューし、2017年から連載していた初連載作『ランウェイで笑って』が2021年7月に最終話を迎えた猪ノ谷言葉さんにお話を伺いました。
4年間の週刊連載を終えて
Q.完結されてから、心境や生活の変化はいかがですか?
最終話を描いている時はとにかく締め切りに間に合わせることに必死だったので、今やっと実感が沸いてきました。完結したことで更にファンの方の声や反応がよく見えるようになり、描いて良かったなと感じますね。今は休みを満喫して、また動きだそうかなと考えているところです。
Q.週刊少年マガジンでは異例のファッション漫画でしたが、周囲や読者からの反応は?
連載の告知が週刊少年マガジンに掲載された時、「ファッション漫画を連載するって…週刊少年マガジン大丈夫か?」「また変なの始めるのか」という声もありました(笑)。でも一話目が載った時はすごく反応が良くて、同時期に連載されていた作家さんたちからも「面白かったよ」と声を頂けたのでとても嬉しかったです。
Q.ファッション好きはもちろん、「ファッションには興味がなかったけど面白かった」という口コミも多くありました。
「ファッションに興味がなくても楽しめる作品」というのはずっと目指すところにありましたね。これはあくまでイメージなんですが、ファッションを好きな人の中には、普段あまり漫画を読まないという方も多い気がするんです。ファッションに興味がない人でも面白いと思える作品になってようやくファッション好きな人にも届くんじゃないかと思って。
Q.取材のためにファッションショーを観に行かれたそうですが、いかがでしたか?
自分と同じ人間とは思えないスタイルの方が歩いていて「すっげー!」って(笑)。 ショー自体も、僕が想像していたよりもずっと“エンターテインメント”なんだと感じました。モデル、ライティング、音楽、ランウェイの歩き方…ショーを構成する全てで世界観を表現しているのを見て、やっぱり服作りの中には“創作活動”が含まれていて、そこに決まりはなくてもっと自由にやっていいんだということを改めて実感しました。職業漫画を描くと「実際はそんなことない」「ちゃんと取材しているのか」というような声は多かれ少なかれ上がってくるものなんですが、それはその人がその場所で得た知識であって、その職業の全てではないんですよね。自由に描いたとして「ありえない」ということはほとんどないと再確認できたのは良かったですね。リアリティを追求するよりも、取材をしたことに対して嘘をつかず、作品の中のキャラクターたちが表現したいショーを描くために真摯に創作することが、現実世界のファッションブランドが行っている“創作”に通ずるのかもしれないなと思いました。
「鉛筆だけで暇を潰せるぞ!」と思って
Q.漫画を描き始めたきっかけは?
僕は高校も「自転車で通える距離のところにしよう」くらいのモチベーションだったので、全然受験勉強をする気がなかったんです。だからテスト中すごく暇で、「落書きができたらこの暇な時間を潰せるんじゃないか?鉛筆だけで暇を潰せるぞ!」と思って、絵を描き始めました(笑)。そこから、当時好きだった漫画の真似をし始めたのが漫画を描き始めたきっかけですね。
Q.実際漫画家になるとは思ってらっしゃらなかったですよね。何かきっかけはあったんでしょうか。
全く関心のない仕事をすることを割り切れる人と、そうでない人がいると思うんですけど、僕は一般的なアルバイトをしていた時すごく辛くて…。「自分の好きなことじゃないと仕事にできない!」という我儘な理由で漫画業界を選びました(笑)
Q.夢を叶えるためにどんなことをされましたか?
もちろん絵の練習は沢山しましたが、それ以上にとにかく漫画を沢山読みました。僕が出会ってきた中で僕より漫画を読んでいる人は数えるくらいしか出会ったことがないくらいに。週刊少年マガジンで連載を目指しているという人でも、読んでいない人ってかなり多いんです。けど僕は、自分が携わっている業界に顧客・消費者として触れ続けるというのはすごく大切だと思うんですよね。漫画家を目指している人たちの中で、あんまりうまく行ってないなと感じる人はやっぱり漫画に触れている時間が少ないように感じます。もちろん漫画を愛する気持ちは本当だと思うんですが、時間ができた時に「漫画を読む」っていうチョイスをする人は結構少ない。僕の周りの成功している漫画家さんはとにかく漫画を読んでいます。
Q.作中の長谷川 心はモデル、デザイナー、パタンナーと、形を変えながらも「好きなこと」に触れ続けていますよね。
「好きなこと」に触れ続けることと同じくらい大切なのが「好きなものと嫌いなものを言語化すること」だと思います。売れている漫画家さんで、作品のプレゼンが下手な人っていないんですよね。もちろんその作品を面白いと思うかどうかは好みによるんですが、例え世間的にあまり評価されていない作品だったとしても、「自分はこの作品のこういうところが、こうだから、好きなんだ!」ということをちゃんと説明できる。「なんとなく」ではなく、なぜ好きか、なぜ嫌いなのかという問いに対する答えが自分の中にあるかどうかというのはすごく大切なことだと思います。「自分の好き」を理解することで嫌いなものを好きにする方法も見えてきますから。
Q.好きなことを仕事にして辛かったことは?それをどのようにして乗り越えられましたか?
連載中に辛いなと感じた時は、ファンの方の声だけが支えでした。ファンレターを読んで涙ぐむこともあって…『ランウェイで笑って』を好きだと言ってくれる人のために描こう、と思いましたね。精神的にも肉体的にも追い詰められている時って、もちろん自分の未熟さを目の当たりにしての挫折もあるんですけど、いつの間にか目標が大きくなりすぎてしまって、現状の自分とのギャップに苦しむことも多いんです。そういう時って、遠くを見過ぎて本当は一番大切にしなきゃいけない身近なものを見逃してしまっているんですよね。身近なものに目を向けることで地に脚が着いてくることもありますから、そういう意味でもやっぱり地道に「続ける」ということが大切だと思います。
Q.今後挑戦したいことや夢は?
とにかく良い漫画を描きたいですね。ファッション漫画というジャンルが少ないのは、物語を面白くするために越えないといけない壁が多いからだと思うんです。そんなファッションという難しいテーマを描き切って、もう怖いものはないので…(笑)。今後はもうどんな作品でも「やれる!」という自信がつきました。どんどんチャレンジして「面白い」と思える漫画を描きたいなと思っています。
猪ノ谷 言葉 いのや・ことば
2016年に「星に願いを」で第95回週刊少年マガジン新人漫画賞で特選を受賞し、デビュー。デビュー作である「ランウェイで笑って」のシリーズ累計発行部数は400万部を突破し、2021年7月に完結。2020年にはアニメ化もされている。
『ランウェイで笑って』(講談社コミックス)
身長は、158cmから伸びなかった…。
藤戸千雪の夢は「パリ・コレ」モデル。
モデルとして致命的な低身長ゆえに、周囲は「諦めろ」と言うが、千雪は折れない。
そんなとき、千雪はクラスの貧乏男子・都村育人の諦めきれない夢「ファッションデザイナー」を「無理でしょ」と切ってしまい…!?
「叶わない」宣告をされても、それでも一途に夢を追って走る2人の物語。
https://kc.kodansha.co.jp/title?code=1000029726
TEXT:鷲野恭子(ヴエロ)
PHOTO:坂野 則幸
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