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表現とアイデア~「金魚電話ボックス」事件~

表現とアイデア~「金魚電話ボックス」事件~

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mag by fashionlaw.tokyo

著作権はあくまで「表現」を保護するもので、「アイデア」は著作権では保護されません。
実はここはとても分かりづらく、「表現か? はたまたアイデアか?」は著作権の永遠のテーマといっても過言ではありません。
昨年、最高裁判決が出された「金魚電話ボックス事件」もその一つ。アーティスト側が勝訴したことで話題となりました。
著作権の難しさと面白さが詰まったケースだと思いますので、ご紹介したいと思います。
※文中の判決内容は、筆者が平易に言い換えたものです。

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事案はこうです。
アーティストXさんは、Y商店街らの作品Bが、Xさん制作の作品Aをパクったとして、作品Bの制作禁止や廃棄、損害賠償を求めました。
(作品Bの制作者の変遷は割愛します。)

作品A・Bとも、公衆電話ボックス(を模したもの)に水を入れて多数の金魚を泳がせ、フックから外れた受話器を水中に浮かせ受話器から気泡が出た点が似ています。
他方、ボックスの屋根や電話機の色・形、棚などは異なるようです。

メインの争点は2つ。

①作品Aは著作権法の保護を受ける著作物にあたるか?
②あたるとして、作品Bは作品Aの著作権を侵害しているか?

まず前提知識をおさらいしましょう。
著作権とは自分が創作した著作物の利用を認めたり禁止できる権利をいいます。
著作物とは「思想・感情を創作的に表現したもので文芸・学術・美術・音楽の範囲のもの」。
つまり「創作的」ではないありふれた表現や、「表現」じゃないもの、たとえば思想・アイデアなどは著作権では保護されません。

なお著作権はコピーする権利(複製権)、アレンジする権利(翻案権)などの権利が束になったものです。

さて、著作物に当たるとして、どういう場合に著作権侵害になるのでしょうか?
著作権侵害かのざっくりポイントはこの2つといわれています。

(1)元ネタを参考にしているか?(依拠性)
(2)元ネタと問題の作品が似ているか?(類似性)

(2)の似てるかどうかの判断ですが、基本的には「その作品から元ネタの本質的特徴を直接感じ取れるか?」が基準になってるといわれています。
(1)の依拠性も必要。「たまたま似ていても元ネタを参考にしていなければ著作権侵害にならない」と言うとびっくりされることも多い要件です。

では裁判例を見ていきましょう。
興味深いことに、第1審と控訴審で判断が変わっています。
判断の分岐点は、水中に浮いた受話器から気泡が出る表現だったようです。

まず第1審を見ていきましょう。

「作品Aは確かに電話ボックスていう日常的な物の内部で金魚が泳ぐていう発想は斬新で独創的だけどさ、それってアイデアだよね。
金魚を電話ボックスで泳がせるアイデアを実現するには水中に空気を入れなくちゃだけど、ボックス内のもので空気を出そうとすれば、もともと穴があいてる受話器から発生させるのが自然じゃね? つまりさ、アイデアを実現する方法は限られてるわけで創作性はないよね。」

この理論は「マージャー理論」などとも呼ばれます。

「でもさ、作品Aのボックスの色・形、公衆電話機の種類・色・配置とかはXさんの思想とか感情が表現されてるから創作性あるよね! だから作品Aは著作物でしょ。
作品Aと作品Bとも棚の上に電話機が設置されてるけど、それって日本では普通だし電話ボックスを使うってアイデアには当然の表現だよね。
受話器が水中に浮かんでるのは共通してるけど、これ以外は作品AとBは違うよね。そうすると作品BからAを直接感じ取ることはできないでしょ。
作品Bは著作権侵害してないよ!」

なかなか面白い判断で色々思うところもありますが、第1審は作品Aが著作物と認めたものの、作品Bの著作権侵害は否定しました。

さて、控訴審はこれを覆します。曰く

「作品Aが本物の電話ボックスと違うのは、a.いっぱい水が入っている、b. 4面アクリルガラス、c.赤金魚が50~150匹泳いでいる、d.受話器が外されて水中に浮かび気泡が出ている点だよね。
aは、ボックスを水槽にするアイデアの表現の幅は水の量くらいだから創作性ないよね。
b。作品Aには蝶番が付いてないけど、利用者って蝶番とか気にしなくない? 創作性ないでしょ。
cは、確かに金魚の色・数でいろんな表現ができるけど、ボックスの大きさとの対比では50~150匹は、まあありふれた数といえなくもないよね。ここにXさんの個性が表れてるてというのは無理があるんじゃない? 創作性ないよね。
dはさ、受話器が水中に浮いて固定されてるの自体が非日常的だし、受話器から気泡が出ているなんて本来あり得ないでしょ。この表現は電話をかけて通話してる状態をイメージしていて鑑賞者に強い印象を与えるよね。ここにはXさんの個性が発揮されてるでしょ。
これに対して、Yらは受話器から気泡が出るって表現が電話ボックスを水槽にして金魚を泳がせるアイデアから必然的に出るって反論するけど、金魚のための空気ならエアストーン置くとかが普通じゃない?
受話器は音声を通すもんで空気を通すもんじゃないし、気泡が出るっていうのは意思の伝達の暗喩で、ありふれた表現じゃないよね。」

そう言って作品Aを著作物と認めました

控訴審の判断は続きます。次に、著作権侵害について。

「作品AとBは、電話ボックス様の水槽に水が入って赤金魚が50~150匹泳いでて、受話器が水中に浮いて固定され気泡が出てる点が同じだけど、ここは創作的な部分だよね。
実は作品Bは当初は蝶番が付いてたんだけど、目立たないし誰も気にしないから、判断には影響なし。
他方、作品AとBは、電話機の機種・色、屋根の色、棚の形、水の量とか違うけど、どれもありふれた表現か鑑賞者が注意を向けない部分。
そうすると、作品BはAの創作的部分をコピーしてるといえるよね。
仮に電話機の種類・色、屋根の色に創作性あるとしても、作品BからAの本質的特徴を感じ取れるよね。」

上のように判断して、著作権侵害を認めました。

そして今回の最高裁。
商店街側の上告を退け、アーティストXさんの勝訴が確定しました。

第1審と控訴審判決・最高裁の調書(決定)に加え、経緯や背景事情なども「ならまち通信社」さんのこちらのページに掲載されています。

アイデアと表現の切り分けは理解しにくいところの一つです。
今回はアート作品ですが、色々な分野で、アイデアか? 表現か?は問題になりやすい難テーマの一つ。
今回の事件をきっかけにさらに議論が深まるといいなと願っています。

Photo by yang miao on Unsplash

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