森奥信孝社長
今年に入り、フル稼働が続く国内工場は多い。婦人服の岩手モリヤ(岩手県久慈市)でも先行して来春物まで生産の予約が埋まり、新規の依頼も商談する前に断るなど、これまで経験のない状況にある。中国のロックダウン(都市封鎖)の影響で一時的に日本生産に切り替えたい企業も後を絶たない。だが、「もし新規の取引先が好条件で生産依頼をしてきたとしても、既存取引先を差し置いて仕事を引き受けることはない」と森奥信孝社長は断言する。
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信頼関係を大切に
目先の利益のために、長年の強固な信頼関係を失うことはあり得ない。
工賃は単に高ければ良いというわけではない。医療用ガウンのように本業の婦人重衣料よりもかなり低い工賃だったとしても、生産性を上げられれば利益は出るものもある。逆に、現在の「生産性を上げられない服作りが当社の強み」とも言える。それは、手間がかかり、高付加価値を生み出す、今まで築き上げてきた技術力と言い換えられる。簡単に手放すべきものではない。
地方で人材を確保するのはどんどん難しくなっている。それでも当社では05年に外国人技能実習生の受け入れを辞めた。短期間で人材が入れ替わり、技術や経験が工場に蓄積されないのが最大の理由だ。当時は時代に逆らう手法とも言われたが、今となっては、地元で採用を続けてきたことが大きな財産になった。現在30歳前後の従業員が現場を支える戦力に成長してくれたことが証明している。
■本質を見直す時
だが、日本全体で見れば、技術者が減り続けている。今、国内縫製業が減り続け、過去20年で4分の1になってしまった。さらに大きな問題は、若い人が入社せず人材育成が進まないため、新たな技術者が誕生していないこと。
原因は他の産業と比べて賃金も低く労働環境も改善されず、若い人が魅力を感じないなど挙げたらきりがない。このままでは国内の技術者は高齢化が進み、10年後にはどうなってしまうのかとも悩む。この問題は日本のアパレル産業にとってとても大きな問題で、今、改めて国内生産での自給率を高め、物作りの本質を見直す時だと考える。
これからの国内縫製工場は①プロパー消化率向上②トータルコスト削減③生産性向上――を追求していくしかない。そのためにはアパレルとの信頼関係を深め、三位一体での物作りを進め、品質・納期・短サイクルの対応を磨くことが大事だ。生産性を高めるには人に頼る物作りから機械化・デジタル化への進化が欠かせない。
当社では、これまでも裁断までの自動化に設備投資してきた。大量生産・消費の時代が終わり、マイクロファクトリーが求められている。これからも、生産性の向上と未来を担う技術者の育成に力を入れる。
(繊研新聞本紙22年7月1日/大竹清臣)
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