韓国のAIテックスタートアップ、KLleon。最先端の深層学習モデル生成技術を活用し、インタラクティブ・デジタルヒューマン「Klone(クローン)」を筆頭に、映像の自動吹替ソリューション「Klling(クリング)」などのプロダクトを保有している企業だ。なかでもKloneなどのデジタルヒューマン技術で日本展開を加速させており、今年5月に東京ビックサイトで開催された「第6回AI・人工知能EXPO【春季】」にも出展した。
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同社が保有するデジタルヒューマン技術とはどのようなものなのか。KLleonの陣承赫(ジン・スンヒョク)代表に話を聞いた。
KLleonのデジタルヒューマン技術
KLleonでは主にデジタルヒューマン・AI・コンテンツ制作サービスのKloneと、自動吹替サービスのKllingを提供している。
Kloneとは、同社が生成するデジタルヒューマンの総称である。クローンサービスが提供するリソースを活用してデジタルヒューマンコンテンツを制作することから、顔写真1枚でカスタムされたクローンを生成し、希望する形のコンテンツを作成することもできる。
そして、Kllingは登場人物の声はもちろん、吹替によって変わる口の動き方まで具現可能となっている。深層学習技術を利用し、登場人物の音声と口の形を学習するため様々な視聴覚コンテンツの吹替を速やかに処理できる。
「これらのプロダクトの特徴を全て活用し、クライアントのブランドイメージを代表するデジタルヒューマンを生成するサービスも提供しています。イメージと合致する外見・体・声をそろえたデジタルヒューマンの生成だけに留まることなく、それを活用したコンテンツの制作・配布もサポートしています。こちらはKLleon日本法人と日本事業部門が最も重点的に取り組んでいる分野でもあるんです」
現在、モバイルアプリ形態のショッピングモールや、オフライン店舗に展開されているキオスク端末など、B2Cサービスの技術的高度化は多岐にわたり、急速に進んでいる。だが、「全てのサービス利用者がそれら変化に適応し、違和感なくアクセスできるのか」という疑問に関する考察は、あまり行われていないとジン代表は話す。
KLleonは、デジタルヒューマンを利用し、顧客とコミュニケーションをとるキオスクシステムの開発から、肖像権やスケジュールなど法的・物理的制約から自由な「仮想の人間」を作ろうとする各産業群の需要まで、クライアントの様々な要請に応じているという。もともとSNSプラットフォームの一環として開発されたコア・テクノロジーだったが、現在は新しいB2B市場のニーズに応え、新市場を開拓できるよう進化させているのだ。
「我々は(サービスの)利用者が最も慣れている方法であれば、サービスを受け入れてもらえると判断しました。Kloneによって作られるデジタルヒューマンとコンテンツを通じて、全ての利用者に合理的でありながらも真剣(sincere)なサービスを提供できるように努めています」
また、韓国の経済紙である毎日経済新聞系列の放送局『MBN』は、KLleonのコア・テクノロジーである「ディープヒューマン」を用いて、韓国内のマスコミとしては初めて「バーチャルレポーター・クローン」を導入した。導入後も「バーチャルレポーター・クローン」らによるニュースの報道や情報伝達が行われているという。
また、今年3月に行われた韓国大統領選の『MBN』開票実況番組にも同社の「デジタルヒューマン」が登場した。元の動画にクローン技術を適用した候補らの顔をくっつけるといった形で、各候補をデジタルヒューマン化したのだ。
韓国の開票実況番組は最新情報を伝えるだけではなく、エンターテインメント番組としての性格が共存している。そのことに着目し、普段の候補らからは見つけにくいユーモラスかつ親しみやすい感情表現の再現を試みたという。
「放送局のようなレガシーメディアとの協力はもちろん、YouTubeコンテンツのようなニューメディア方面でも、各企業との間で協業が行われています。弊社と韓国の金融企業集団・新韓金融グループは、今年6月、男性俳優と女性アイドルのクローンをそれぞれ生成し、2本の動画を制作するプロジェクトを進行しました。各動画は、8月31日現在でそれぞれ140万回、120万回の視聴数を記録しています。当プロジェクトの遂行により、ただ我々の技術を紹介するだけではなく、デジタルヒューマンによって展開されるストーリーテリングやコンテンツ制作をサポートできることも証明できたと考えています」
AI・人工知能EXPOでのポジティブな評価
今年5月に日本国内で行われたAI・人工知能EXPOに出展した同社だが、実は2021年の秋にも韓国館との共同参加の形で同EXPOに出展していた。2回に渡る出展の経験をもとに、日本向けのサービスを提案し、企画の具体化を試みたという。
「弊社が韓国で主なクライアントとして想定している、報道・教育・マスコミ・エンターテインメント産業群との接触はすでにあったため、元々の出展目的は達成したとみています。これに加え、韓国では比較的未展開の状態であったファッション・アパレル分野での協業が日本で行われています。このEXPOを通して、直接そのような方々とコミュニケーションをとることができたのです」
ブースに来場した人やバイヤーの反応についても、「技術力と費用的合理性において、ポジティブなフィードバックがあった」とのこと。業界の競合社に比べ、劣らない水準のコア・テクノロジーを所有している点と、そのテクノロジーを実際のサービスに具現化するにあたって、時間的・金銭的予算の面でリーズナブルな提案ができる点を評価されたという。
「ただ、デジタルヒューマンという概念自体は日本はもちろん、世界でもつい最近芽生えた状態であるでしょう。よって、EXPOでは我々の技術含め、 商業的な面でデジタルヒューマンがどういった潜在力・可能性を持つかに関する質問が数多く寄せられました。結局、KLleonが事業を展開しているすべての地域で、ユースケースを積み重ねていくことが大事であると感じましたね」
日本市場での新たな可能性
KLleonが考える「仮想の人間」という概念は、「非人間」に対して人々が覚える違和感が薄くなっていることから、日本の人々と企業両方とも十分受け入れられる状態にあるという。「実写に近いデジタルヒューマンと、彼らによるビジネスモデルの創出に関しては、少なくとも日本国内では、いまだ好奇心の段階に留まっていると思われます。日本の主な企業集団がそれらを代表するバーチャルヒューマンを実験的に運用したり、北欧の家具量販メーカーがバーチャルインフルエンサーを日本向けのCMに活用したりすることが、現在の最大の成果であるとみられます。そこで、KLleonが具体的なデジタルヒューマン活用アイデアとリーズナブルな予算を提示することで、事実上足踏み状態にあった日本の実写デジタルヒューマン市場で、新たな可能性を見つけることができると判断しました」現在、KLleonの日本事業部門はクライアントを代表するカスタムクローンの制作と、そこでのコンテンツを創出するにあたり、クライアントをサポートする役割を重点的に遂行している。この過程で、最近ファッション・繊維・アパレル業界との協業の取り組みを積極的に行っているのだ。今後リリースを予定しているコンテンツを多言語化することで、海外への進出を試みる国内企業のニーズにも応えている。「去年展示会でコンタクトした日本のファッション・繊維会社との協力で、クローンによるファッション・アドバイザーコンテンツを作成し、それをB2B展示会にて公開しました。単発的な導入ではなく、様々なファッション業界の企業と意志疎通し、上記事例のような独自コンテンツの制作からコンテンツ多言語化による新規販路の開拓まで、クライアントの要請に応えるため励んでいます。さらに、今年の10月にはテレビ東京の番組で我々の技術で具現化した、実在する人物のデジタルヒューマンが公開される予定です。これによりデジタルヒューマンの国内マスコミ進出に向けた、一つのマイルストーンになれることを期待しています」
仮想の人間の活躍は必然
デジタルヒューマンの盛り上がりは近年、加速傾向にある。世界の最新金融情報を扱うBloombergは、2021年に2400億円程度であったバーチャルインフルエンサー市場が2025年には6倍以上成長し、1.4兆円規模に達すると予想している。これは実在する人間インフルエンサー市場の規模(1.3兆円)を上回る数値だ。このような盛り上がりを受けて、同社ではデジタルヒューマンのような仮想の人間の活躍も、もはや必然であると考えている。「見せる・見られる・見せられることに関して、仮想と現実の境界は以前からも曖昧になっていました。外見を修正することは別に仮想の人間だけが行うことではありません。実在する人間もフォトショップやアプリを利用して、不特定多数に見られる、自身の外見を修正します。自分の消費水準や生きてきた背景などを修正して、現実には実在しないモノや人を、まるで現実のように見せるネットのインフルエンサーも存在します。すでに人々は、自分が意識してない瞬間にも、仮想化されたアイデンティティーと接触しているのです」
「自分が納得できる物語とバックグラウンド、すなわちペルソナが確立している場合、それを持った主体が実在する人間か、それとも仮想の存在かは、もう関係なくなりつつあるでしょう。『仮想の時代』が到来すると、我々は予想しています」
最後にKLleonの今後の構想について聞くと、「様々な角度から写った顔面の具現とより正確に口の動き方を再現するため、2023上半期までのR&Dロードマップを設けている」と話してくれた。
「現状は仮想の人間を具現するため、体型においては実在する人間モデルを採用し、各社の技術で創った仮想の顔面を、モデルの顔面に合成させる過程を施すことが一般的になっています。これに対しKLleonは、長期的にクライアントが必要とする体型・体の動作までも我々のコア・テクノロジーで表現できるよう2023年下半期公開を目標に開発を進めています」
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