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ファッションとスポーツのコラボから生まれる「おもしろさと楽しさ」

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旧国立時代から、サッカーをはじめオリンピックなどさまざまなスポーツの舞台となってきた国立競技場。天野氏(川崎フロンターレ)、佐野氏(ビームスクリエイティブ)のお二人にとっても、かけがえのない数々の思い出が詰まった「聖地」だ。そんな聖地で、日本のサッカー界、ファッション業界から数多くの魅力的かつ斬新な企画やコラボを発信・実現してきた両氏によるスペシャル対談が実現。ファッション&スポーツの可能性と熱い想いを語っていただいた。

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天野春果さん/株式会社川崎フロンターレ タウンコミュニケーション部 部長(写真:右)
東京都出身。アメリカ・ワシントン州立大学でスポーツマネジメントを学ぶ。在学中にはアトランタ五輪にボランティアとして参加。帰国後、1997年に富士通川崎フットボール(現:川崎フロンターレ)に入社。2001年日韓ワールドカップの運営に出向したのち、川崎フロンターレに復帰。斬新なアイディアでコラボイベントを数多く生み出し、川崎フロンターレを人気クラブに育てた立役者。『Jリーグ最強の企画屋』としても知られる。2020東京オリンピック・パラリンピックにおいても大会組織委員として活躍。

川崎フロンターレ公式サイト:https://www.frontale.co.jp/

佐野明政さん/株式会社ビームス クリエイティブ ビジネスプロデュース部 プロデューサー(写真:左)
愛知県名古屋市出身。2000年BEAMSに入社。ショップスタッフを経験したのち、アウトレット事業、ライフスタイル業態であるビーミングライフストアの立ち上げを手掛ける。2016年よりBEAMS JAPANのプロジェクトリーダーを務め、立ち上げから現在まで、「日本の魅力的なモノ・コト・ヒト」を国内外に発信する数々の企画を主導。2022年からは、『BEAMS SPORTS』も担当。持ち前のユニークな企画力・発信力・コラボ力を活かし、ファッション×スポーツの可能性を追求。大のサッカーファンで、1998年以降のワールドカップ大会は、すべて現地で観戦している。

BEAMS SPORTS 公式サイト:https://www.beams.co.jp/special/beamssports/

互いに「BEAMSファン×サッカーファン」であることが出会いのきっかけに

佐野明政さん(以下、敬称略):天野さんとの出会いって、僕がBEAMSの店舗に勤務していた2003年なんですよね。スーツを購入してくれて、そのとき名刺をいただいたんですが、うわあ、僕が大好きなサッカーの仕事をしている方なんだ、と大感激して。

天野春果さん(以下、敬称略):僕はBEAMSが大好きで、よく店にも行っていたんですよ。当時接客してくれたのが、二子玉川店の店舗スタッフだった佐野さんだったんだけど、すごく物腰がやわらかいし話しやすくて。今もまったく変わらないですよね。

佐野:試合を見に来てよ、って言ってくださったこと、よく覚えています。大好きなサッカー関係の方と知り合いになれたから、何か一緒にできないかな、と思ったんですが、店舗勤務だと、なかなかカタチにする手だても機会もなくて。

天野:僕もそう。大好きなBEAMSと何かやりたいな、とは思っていたんですよね。今でこそ川崎フロンターレは人気クラブになりましたが、当時は知名度もなかったですしね。

佐野:それからはサッカーの試合を観に行くなど、なんとなくつきあいは続いていたんだけど、しばらく会わない時期もありました。仕事で初めてからんだのが、2018年なんですよね。

天野:お互い銭湯関連の企画をやっていて。だったら一緒にやろう、っていうことになって。

2021年に行ったTokyo Tokyo FESTIVALスペシャル13「TOKYO SENTO Festival 2020」の暖簾をかかげて

ファッション×スポーツコラボで広がる間口

佐野:BEAMSはスポーツ業界とのコラボもこれまでやってきたけれど、もっとスポーツとファッションの可能性を広げたいという想いで、2020年に「BEAMS SPORTS」を立ち上げました。2022年4月からは僕が責任者を務めることになったので、ファッションとの掛け合わせでスポーツカルチャーをプロデュースしていくプロジェクトとしてこれまで以上にどんどん新しいことができたらな、と思っているところなんです。

今回の対談テーマは、「ファッションとスポーツのコラボによる可能性」なんですが、ファッション業界側の僕からすると、対談相手は天野さんしかいない、と思ったんですよ。古くからの知り合いだけど、ファッションとスポーツのコラボについて、天野さんからもっと話を聞くことで、ヒントがたくさんあるだろうなあ、と。

天野:佐野さんは、数年前からJリーグの名古屋グランパスとのコラボもやっていますよね。

佐野:名古屋グランパスとのコラボユニフォームなども作って、名古屋を盛り上げる大人気のイベントになりました。名古屋グランパスとのコラボをやってみて実感したのは、スポーツとファッションが融合すると、どちらの層も取り込めるということなんです。間口が広がると、どんどん新たな可能性も生まれてゆく。

その根底には、ゆるぎないスポーツの魅力があると思うんです。スポーツって世代を超えて人をつなぐし、熱狂させてくれるし、幸せにもできる。

天野:まさにそこなんですよ。スポーツだけだと間口が広がらない。たとえばひとつのサッカーチームだけだと、その範囲だけで完結してしまい、人を呼ぶにも知名度を高めるにも限界があるんです。だからコラボなどで間口を広げることってすごく大事なんです。

BEAMSはもともと業種やジャンルを超えたコラボをたくさんやっていて、ファッショナブルなだけじゃなくてユニークな発想が豊富。僕はそこが大好きなんです。コラボTもたくさん持っているんですよ。

佐野:ありがとうございます。嬉しいなあ。そういえば、フロンターレのユニフォームもユニークなコラボを展開していますよね。

佐野さんが持参した天野さんの著書。「Jリーグ最強の企画屋」である天野さんが発信する言葉に影響を受けているという

クラブチームのユニフォームを、サポーター以外にも着てもらうには

天野:クラブのユニフォームって、サポーターだけが購入するものっていうイメージがありますよね。でもそれだと数が限られてしまう。だから何かプラスαの要素を入れてサポーター以外の人にもファッションとしてクラブのユニフォームをアピールして、購入層を広げたいと思いました。それが、2011年に発表したユニフォームなんです。川崎市出身の岡本太郎氏が生前にデザインした「挑」という字をユニフォームに入れたところ、かなり話題になって。

2016年には、宇宙兄弟とJAXAとトリプルコラボした「宇宙強大」をテーマにしたユニフォームを発表しました。この反響はすごかったですよ。サポーター以外の方にもたくさんご購入いただきましたし、今でもオークションサイトで4万円ぐらいで出ています。

佐野:ファッションから入ることで、サッカーにも興味を持つ方もいますしね。

天野:そう。間口が広がることのメリットって、そういうことでもあるんですよ。BEAMSがこれまでやってきたことと、フロンターレがカタチにしたかったことにはものすごく共通点があります。チャレンジと先進的なモノの見方、というのかな。

佐野:やりたいなあ、という気持ちだけではなく行動に移すこともすごく大事ですよね。

左)岡本太郎氏が生前にデザインした「挑」という字をフロント部分に入れ込んだユニフォーム。右)宇宙兄弟の主人公の髪型をモチーフにしたデザイン、作者の小山宙哉氏がゼロから考えデザインした。

Jリーグの意外な盲点。「クラブチームには‶カラー″が必要」

天野:Jリーグには、今58クラブ(2022年度)ありますが、それぞれのクラブに対して「どのような特徴があるクラブ?」と聞かれたときにパッと答えられる、いわゆる「カラー」があるクラブが多いかというとそうでもない。カラーがあるクラブだなと僕が思うのは浦和レッズ。声援やスタジアムで魅せるコレオグラフィーなど「サポーターが熱狂的」という特徴を僕以外でもたぶん浦和レッズに対しては多くの人がイメージすると思う。こうやって街やサポーターがクラブカラーを先導することも大事なんだけど、サポーターとともにどういう特徴をもったクラブカラーを育んでいくかクラブが方向性と主体性をもって押し進めることが大事だと僕は思ってます。だから川崎フロンターレは、クラブ側からどんどんいろんなことを発信して、間口を広げ、地元川崎に愛されるクラブにしたいと思ったんです。

佐野:フロンターレのカラーって何でしょう?

天野:おもしろい、楽しい、温かさ、チャレンジング。これが僕が考えるフロンターレのカラーです。ヒントになった発想は、まさに佐野さんがやってきたことでもあるんです。ファッションなのに、ぜんぜん関係ない銭湯とからむとかね。あえて遠いところと絡んでそれを実現するってすごくおもしろいじゃないですか。

佐野:Jリーグのクラブって天野さんもおっしゃっていたように、現在58もあって、しかも40都道府県に本拠地があるんですね。川崎フロンターレも名古屋グランパスもそうですが、サッカーって地域密着型のスポーツなんです。BEAMSは名古屋グランパスなどとコラボした「大名古屋展」をやっていて、今年が3回目なんですが、こうしたコラボが全国に広がっていくと面白いなあと思うんですよ。カラーが見えづらいクラブもこうしたコラボによってカラーが明確になっていくかもしれない。スポーツの伸びしろってすごく大きいし、それによって経済効果も生まれる。日本のスポーツってまだまだ伸びしろがたくさんありますよ(笑)

天野:学生時代、アメリカにいて感じたのは、スポーツがすごく身近な存在で、地元に根付いている楽しさがある。でも日本の場合、まだまだ間口が狭い。アメリカにできて、日本でできないことはないんだから、可能性やこれからできることって無限にあると思います。

佐野:そう。で、やるからにはとことんやる。諦めない。それって天野さんもそうですよね。

天野:僕らはそこが似ていますよね。とにかく動く。足を運ぶ。たとえそれがうまくいかなくても何か得るものはありますから。

悔しさをバネに。妥協しない。とにかく行動する

佐野:天野さんの企画力や実行力ってすばらしくて、僕はもう師匠のように尊敬しているんですが、これまでうまくいかなかったことってありますか?

天野:山ほどありありますよ!なかでも忘れられないのが、2002年日韓ワールドカップ組織委員会に出向していたときの苦い思い出です。僕はこの大会の優勝国・ブラジル代表のチーム対応を担当していたんですが、決勝戦の3日前、リバウド選手とロベルト・カルロス選手から、フリーキックの練習用ボードを用意してほしいとリクエストされたんです。ブラジル代表はこの時三ツ沢球技場で練習していたから、同じ神奈川県内のフロンターレの練習場からフリーキックボードを持ってくることは、やろうと思えたばできたのに、当時僕は多忙を極めていて、携帯は7つも持たされているし、睡眠時間は連日2時間しか取れないしでクタクタだったんです。実際、ボードがなくても人が立ったりすれば練習はできるわけだし、持っていく労力を惜しみ妥協して「ボードは用意できない」と言ってしまった。

で、翌日練習場に行ったら、なぜかボードがある。僕と一緒にブラジルチームを担当していた別のスタッフが調達したんです。彼は当時FC東京に所属していたスタッフだったから、彼が調達したフリーキック用ボードにはFC東京の名前がバッチリ入っていた。それを使って練習するリバウド選手とロベルト・カルロス選手の写真が日本のメディアだけでなく全世界にバンバン発信されたんですよ。彼はこれによって、両選手からの信頼も得たし、FC東京のアピールもできた。彼だって僕と同じくらい忙しかったのに。ボードを用意することで生まれる未来を創造できず怠けた自分への失望感や悔しさ、敗北感は今も忘れることができません。それ以降、思いついたことはぜったいにやろう、動こう、と心に決めました。

自分への戒めとして今でもリバウド選手からもらったサイン入りレガースを額縁に入れて家に飾っていると語る

佐野:僕は失敗とは少し違うかもしれないけれど、一時期BEAMS社員としてものすごく暇な時期があったんです。仕事がしたいのに、ほとんど仕事がなくて、僕は会社にとって役に立たない人間なのかとすごくつらくて。でもそれを機にとにかく動こう、頑張ろう、と思うようになりました。二度とあんな想いはしたくないから、とにかく走り続ける。それが僕の原動力ですね。

天野:コロナ禍もそうだけど、仕事って順風満帆にいかないことのほうが多いし、予期せぬトラブルもたくさんある。でもそこが勝負ですよね。僕は「失敗」という言葉は使いたくないんですよ。だって「失敗」って「失う」「敗れる」って書くでしょう。そんな風に思ったらもう立ち直れないですよ(笑)。失敗ではなく「うまくいかなかった」と捉えれば「それじゃうまくいく方法って何なんだろう」ってポジティブに捉えて次の行動を起こせる。大事なのはうまくいかなかったことをそのまま放置しないこと。必ず次につなげたい。

佐野:現場にいつも触れることも大事ですよね。リーダー的な立場になると、すべてのプロジェクトの現場に関わることはできないけれど、できるだけ現場には出る。これも僕の信条ですね。指示するだけの立場に回ると、僕は終わりだなって思ってます。

天野:謙虚な気持で現場で仕事をするってすごく大事ですよね。あと、情熱。僕は、アメリカから帰国して、Jクラブでの仕事がしたくて就活していたんですが、どこにも受からない。その頃、初代Jリーグチェアマンの川淵三郎さんの講演を聞く機会があって、講演後ずうずうしくも「僕はJクラブで仕事をしたいんですが、どこにも拾ってもらえません。どうしたらいいでしょう」って質問したんです。そうしたら、川淵さんはどこの誰かもわからないような僕の目をまっすぐ見て、「それは、君の情熱が足りないからだよ」と言ってくれて。目からうろこが落ちるような気がしましたね。

佐野:うわあ、それもすごい話ですよね。情熱。そこですよね。

天野:情熱と体感って大事ですよね。大人になると、忖度とかいろいろあって、行動に移さない人が増えるけれど、それほどもったいないことはないですよ。見識、ネットワークが増した大人だからこそできることってたくさんあるのに。

来年のJリーグ30周年に向けて

佐野:Jリーグは来年設立30周年を迎えますが、天野さんとぜひ一緒に何かできればいいな、と。スポーツ×ファッションで盛り上げるヒントって何だと思いますか。

天野:仕掛ける側が本気になることだと思います。それから遊び心も大切じゃないかな。一見、くだらないなあ、と思うような企画でも馬鹿みたいに一生懸命やる(笑)。やる側も楽しむことですね。

一方で、メディアのことも常に意識するようにしています。スポーツ側の立場だと、スポーツ新聞に取り上げられればいいや、と思いがちですが、そうじゃない。この企画ならどのメディアが取り上げてくれるか。そうしたグラフをつねに頭の中に描きながらすすめていますね。

川﨑フロンターレは、フロンターレ=フロ=風呂つながりで、風呂や水に関するイベントをやったりしています。風呂から派生してサウナ文化が根付くフィンランド(大使館)とコラボしたり、スーパー銭湯アイドル「純烈」さんにハーフタイムショーをやっていただいたり。今年の秋に実施するイベントには箱根駅伝に出場した駿河台大学の選手の皆さんに協力してもらおうと企んでいるんですよ。駿河台大のユニフォームがフロンターレのカラーと一緒という理由だけで(笑)。一見、ものすごくくだらないんだけど、スポーツや競技の枠を超えて何かをやることで、いろいろなメディアに取り上げてもらえる機会が増えるし、たくさんの人に興味を持ってもらえます。それが、サッカーへの興味の入り口になれば、企画する側としてものすごく嬉しいし。

佐野:地域の方々を巻き込むことで、地域の活性化にもつながりますしね。スポーツって勝ち負けがあるから人の心に残る。だからハマるとおもしろい。Jリーグ30周年を迎えるにあたって、どんどん盛り上げていきたいですね。

天野:欧米のサッカーを見ているとよくわかりますが、地域にプロスポーツが根付くと、永劫的にそれが続きます。そこからファッションをはじめいろいろなアイテムや楽しさも生まれていく。クラブは永劫的な存在ですが、いちクラブスタッフが関われる期間はせいぜい30年くらい。僕はフロンターレに携わって26年なのでこのクラブで残された時間は多くない。限られた時間にもっといろいろな企画を実現し、自分が考える理想のクラブに近づきたいですね。

佐野:僕らは心からサッカーが好きですからね。Jリーグを盛り上げることはもちろんですが、2050年までにはもう一度ワールドカップを日本で開催して優勝する。そのための下地作りにも尽力したいですね。

文:伊藤郁世
撮影:Takuma Funaba

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